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世界的ヒット『Minecraft』の歩み
ボクらの心を 8 ビットずつ奪っていった低予算サンドボックスゲームのこれまでを振り返ってみよう。
本作は大手スタジオ製作でもなく、超美麗 3D グラフィックを特徴とするわけでもなく、大規模マーケティングではなく口コミでヒットとなったタイトルだ。制作したのはスカンジナビア半島の小さなデベロッパーで、リリース当時は大ヒットを期待できなかったプラットフォームで発売された。しかしそれでも数百万本のダウンロードを記録し、ついには LEGO セットやぬいぐるみのようなグッズの広がりまで見せている…。
そう聞いたら、多くの人は『 Angry Birds』を思い浮かべるかもしれない。けれどほんの数年でゲーム業界の姿を変えてしまったタイトルは、『Angry Birds』以外にもあるのだ。
そう、ここで話題にしているのは『Minecraft』。スウェーデンのスタジオ Mojang 社が生み出し、わずか 3 年ほどでインディータイトルから超大作フランチャイズに成長したあのタイトルだ。2009 年にバグだらけだったアルファ版が登場して以来、本作のダウンロード回数は PC だけでも 1130 万を数える本作。定価 20 ユーロ(およそ 2600 円)で計算してみれば、クリエイターの Markus “Notch” Persson 氏がどれほどのリッチマンになったかも想像しやすいかもしれない。
ゲームの魅力は、時に数単語程度でまとめられる。たとえば『アサシンクリード』は時間を超える、邪悪な敵を斬り伏せる、『SimCity』なら完全な空き地から自分だけの都市を作る、『Paper Glider』なら、うん、紙飛行機、とか。
でも『Minecraft』は間違いなく、「遊ばないとわからない」タイプのゲームに属するだろう。採掘系インディータイトル『Infiniminer』をプレイした Persson 氏(訳注:Notch の苗字だ)が生み出した夢を具現化した本作は、世界のすべてがブロックで作られている。あなたは資源を求めて木を切り倒し、大地を掘っていく。本作は一人でモクモクと遊ぶことも、マルチプレイヤーサーバーに接続してチームで作業を進めることもできるが、いずれにしても集めた資源の使い道は想像力次第。色のついた箱でしかないように見える資源は実は何にでも姿を変えるのだ。
最初は、家を作ってみようか、という気持ちだけかもしれない。そして次にもっと大きなものを作りたいと思うようになる。もっと高い建物、あるいは上空からしか見ることのできない超巨大ドット絵。そして気づけば、あなたは(あるいはあなたのチームは)、都市の完全再現、あるいは大好きなゲームや映画、本などの世界を再現することを目指してプレイしているのだ。
実際、『Minecraft』ファンは『Game Of Thrones』の King’s Landing(都市名)から『ロード・オブ・ザ・リング』の Minas Tirith(都市名)、『BattleStar Galactica』の宇宙空母まで再現しているし、もちろんマンハッタンの街並みだってコツコツブロックを積み上げて再現済みだ。
ファンの熱意は建造物の再現だけに留まらない。ゲーム内に「基礎的な処理が実際にできるコンピューター」を作ったファンもいたし、ゲーム内で超巨大な「PONG(ポン)」を作って 2 人で遊べるようにした人まで出てきたのだ。
これで本作の「ウリ」が見えてきただろうか?世界最大のバーチャル LEGO セット、という表現もしっくりくるかもしれない。ただしブロックの数は親がクリスマスに買ってくれるまで待たなくても無限にあるし、空中にブロックを配置するなど物理法則も無視できるけれど。
それからこの LEGO は、冒険中に命を狙ってくるので要注意だ。「Survivor」モードでは、避難スペースを確保した上で世界作りにいそしまなければいけない。夜が来ると、あなたを狙うモンスターが現れるからだ。クリーパーやスケルトン、ゾンビやドラゴンに殺されないように穴を掘り、家を建てなければならないのだ。
人々が何年も『Minecraft』を遊び続けるのはこの無制限さによるところが大きいだろう。開発元の Mojang 社も、そういったゲーマーの支持を得て急速に成長、今や 23 名を超えるスタジオとなっている。
『Angry Birds』が iPhone でのヒット後、画面付きのあらゆるデバイスで遊べるようになったように、『Minecraft』もダウンロード専用 PC タイトルのカルトヒットという立ち位置からメインストリームの家庭用ゲーム機のスマッシュヒットとなり、さらに拡大を続けている。Mojang 社は(まだ PC 版がベータを終える前だった)2011 年、Android および iPhone 向けに『Pocket Edition』をリリース、外出先でも世界作りを進められるようにした。
そしてその一年後には Xbox 360 版をリリース、Xbox Live Arcade の記録を塗り替えるヒットを飛ばした。現在までに 700 万回以上ダウンロードされているというからオドロキだ。現在にいたってはたった 25 ポンド(約 3700 円)で購入できる Raspberry Pi コンピュータですら『Minecraft』が遊べるほどだ。
さて、『Minecraft』はマルチプラットフォーム化以外の面でも Rovio 社と似た方向性を取っている点がある。グッズ展開だ。テレビ番組からボードゲーム、オモチャ、アパレルといった無数のグッズに加え、テーマパークまで展開する『Angry Birds』はまるで小さなディズニーに変貌を遂げつつある。
そして『Minecraft』もそれほど出遅れているわけではない。Mojang 社のストアに行けば、T シャツやキーホルダー、クリーパー(サボテンのモンスター)のぬいぐるみ、さらには柔かい素材でできた 8 ビットテイストの剣まで買うことができるのだから。この他、Lego 社は Mojang 社をたたえて公式に Minecraft Lego セットを発売している。
しかしダウンロード数やグッズを見なくても、ファンの反応を見れば『Minecraft』の成功は一目瞭然かもしれない。今年で第三回を迎える公式コンベンション Minecon(フロリダ州オーランドで開催)が存在することも凄いが、本作を扱ったポッドキャスト、ファンサイト、動画チャンネルの数はとにかく圧倒的だ。本作のコミュニティから有名人が誕生するほどなのだから凄まじい。Web には一生かけても見きれないほどの『Minecraft』動画が上がっているのに、一部のクリエイターはそれでも突出してくるのだ。Yoggscast シリーズで知られるある英国人ユーザーは、YouTube チャンネルのフォロワーが 550 万人もいる。iTunes の購読者数を除いてこの数字なのだから凄い。
さて、Mojang 社の新たな一手はどんなものなんだろう?『Minecraft』はファンから愛され続け、注目度もまだまだ高く、アップデートだって継続中だ。おまけに Microsoft 社は次世代機 Xbox One 向けに新エディションを出すとも言っている。
実は Persson 氏(実は氏は独立前、『 Candy Crush Saga』の King.com で 4 年間働いていた経歴があったりする)は最近、雑務を離れて次作の開発に注力しているらしい。新作『0x10c』は、宇宙版『Minecraft』のようなタイトルで、レーザーやコンピューターが登場するのだとか。「まだ凄く面白いってわけじゃあ無いんだけど、面白くなりそうな雰囲気はあるんだよね。何もすることがないっていうのがいいのかな」と最近のインタビューで語ってくれたノッチ氏。それってもしかして『Minecraft』の面白さのヒミツなのでは…。
そういえば宇宙といえば、Rovio 社は『Angry Birds: Star Wars』を手掛けてるわけで、彼らとそう遠くないアプローチといえるかもしれない(?)。Rovio 社がそれで成功しているなら、世界最高のサンドボックスゲームを発明した Mojang 社でもうまくいくのかもしれない!?