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Transistor: PS4 での成功を目指す Supergiant の野望
Bastion を作ったスタッフが帰ってきた - そして新作は次世代機へ
昨年夏、ロサンゼルスで開催された E3 で Sony が行ったプレスカンファレンスには、数千人の聴衆が詰めかけた。その様子はインターネットを通じてライブ配信され、さらに多くの人々の目に触れたはずだ。サンノゼにある小さなインディースタジオ Supergiant Games でクリエイティブディレクターを務める Greg Kasavin 氏も、その壇上に立った。
「私たちはゲームに触れながら育ち、ゲームは我々を、数多くの忘れられないような場所へと連れて行ってくれました」「そういう体験を、もっと多くの人に体験してほしいと思います。そのことを念頭に、皆様に自信をもって紹介しましょう。Transistor です」
頭上の巨大なスクリーンに投影されたトレーラーこそ、彼のチームが開発中の美しい近未来アクションRPG、『Transistor』だった。聴衆は、そびえ立つ高層建築や、危機感に満ちたバトル、そして美しいアートワークに魅了された。それが終わると Kasavin 氏は、「ブレードランナー」的な都市の風景や濃密なサウンドトラックを背景に展開する、華麗なクォータービューアクションを実演して見せた。
会場での数分間は、Kasavin 氏にとって忘れられない体験になったことだろう。かつてゲームジャーナリストであった彼は、E3 で基調講演をするよりも講演を記事にするほうが専門だった。そんな彼が Sony の次世代機 PlayStation 4 のために、最も重要なゲームの一つを発表したのである。
「まるで夢のような時間だったよ。E3 には毎年行っているし、ほとんど全てのプレスカンファレンスに立ち会ってる。でもまさか、自分が壇上から見下ろすことになるとは思わなかったね」彼はレッドブルの独占取材にそう語った。「Sony は我々のチームと開発中のゲームに大きな信頼を寄せてくれたし、我々の自由にやらせてくれたんだ」
その信頼も当然だろう。Supergiant Games の第一作として 2011 年にリリースされたアクションRPG『Bastion』は 250 万本のバーチャルコピー(ダウンロード)を売り上げて成功作となり、業界で 100 以上の賞を獲得した。そして現在もなお、Xbox Live Arcade の上位タイトルにとどまっている。『Bastion』のプレイヤーは一人の少年となり、武器と盾を持って、空に浮かぶ鮮烈なファンタジー世界を舞台に、どこかしら古典的な ゼルダ風の冒険を繰り広げる。
一方、Kasavin 氏が Supergiant にたどり着くまでに辿った道のりは、少々変わっている。彼のキャリアはゲーム批評サイト GameSpot の批評家として始まり、その後すべてを投げ打って、友人が結成した小規模なゲーム制作チームに参加したのである。
「子供の頃からゲームを作りたかった。だけど高校生の頃に、ゲームを作るよりも記事を書くほうが向いていることに気がついたんだ」と彼は語る。「それが縁で、気がついたらプロとしてゲームの記事を書いていた。大学時代から 12 年ばかり続いたかな」
しかし彼はそんなキャリアに満足しなかった。となりの芝生――ゲーム開発者の側――が青く見えたのである。
「時が経つのはあっという間だった。だけど、あるときふと気づいたんだ。このままゲームを作らずにいたら、絶対に後悔するってね。だから 2007 年に、10 年勤めた GameSpot をやめて EA に移った」そこで出会ったのが、後に EA を離れて Supergiant を設立することになる Amir Rao 氏と Gavin Simon 氏だ。その後 2K Games でしばし『Spec Ops: The Line』のプロデューサーを務めた Kasavin 氏は、先に挙げた 2 人の後を追った。彼らのチームは現在 7 名のスタッフで構成されている。
「これまで、ゲーム業界を本当にいろいろな角度から見てきたよ」彼はそう振り返る。「批評家の時期に学んだことが、今はゲームに関する知識の基盤になっている。価値のあるゲームを生み出すには、どんな部分の品質を重視すべきかといった感覚も、これまでの経験を通じて育まれてきたものだ」
「『Bastion』は、自分の周りに世界を作っていくというアクション RPG のアイデアから始まったんだ」と彼は言う。主人公が冒険を進めていくと、卓越したアーティストである Jen Zee 氏の描く浮遊大陸が、次々と浮かび上がってくるのだ。「そういうシンプルな発想から始まっていて、それ以外の要素はみんなコンセプトから生まれた。なにしろ我々はアクション RPG が好きだし、このジャンルはプレイの面でも物語描写の面でも比較的、未開拓だったからね」
Supergiant のスタッフ Logan Cunningham の手で濃密に作り込まれた『Bastion』だが、その成功はチームの誰にとっても予想外だった。
「『Bastion』の人気があれほど長続きしたのは、我々にとっても衝撃だった。シングルプレイヤーのゲームだし、普通のプレイヤーなら週末でクリアできてしまう。まさか 2011 年の夏にリリースされたゲームが、これほど長く支持されるなんて思わなかったよ」と彼は認める。
リリースから 2 年半。現在『Bastion』は、PC、Mac、Linux、果ては iPhone のタッチスクリーンやウェブブラウザでもプレイ可能だ。
「このゲームをできるだけ多くのプラットフォームで提供できるよう、 我々は一つ一つ取り組んでいった。特に iOS 版は最大の作業だったね。タッチデバイス上で快適に動作するよう、多くのゲーム機能を一から作り直したんだ。我々も学ぶことや試行錯誤を続けたかったし、あの作品でどこまでやれるか見てみたかった」と Kasavin 氏は言う。とはいえ当分の間、 Android 版をリリースする予定はないそうだ。
「そろそろ新しいことを始めたくて、うずうずしていたんだ。対応プラットフォームを増やすために、我々にとって子供にも等しい『Bastion』を、他のデベロッパーに託したくもなかったしね。 今後の展開についてはまだ決めていないけれど、うちみたいな小さなチームは目の前のことに集中しなくちゃだめなんだ。だから今は、新作にかかりきりだよ」
また Kasavin 氏は、PC や PS4 以外へのプラットフォーム展開については明言を避けた。「Google Chrome(ブラウザ)版の『Bastion』は、より多くの人々がプレイできるようになった点で素晴らしい展開だった。なにしろ、PC だけでなく Mac や Linux でも動作したからね。正式な Mac 版や Linux 版を開発したのは後になってからだよ。Transistor では、まだそこまで先のことは考えていない」
一見すると Transistor のゲームメカニズムは、ヒットポイントや剣を振るモーションなど Bastion と同じアクション RPG の形式を継承しているかのようだ。しかし Kasavin 氏によると、実際にはまったく別の方向に進化したものだという。
「我々の試作プロセスは非常に順序立ったもので、ゲームのアイデアを一度に形にするのではなく、少しずつ作っていくんだ。開発序盤には、いくつか重要な出来事があったよ。まず、不思議なファンタジー世界を舞台にしていた Bastion へのアンチテーゼとして、我々はだんだん SF 的なテーマに引き寄せられていった。さらに、刻一刻と変化するプレイという意味で、考えが隅々まで行き届いていると思わせるようなゲームを作りたくなった。Bastion のアーケード的な体験とは逆に、もっと緩急のあるプレイを実現したくなったんだ。アートディレクターの Jen 氏はそれを踏まえて、世界観のコンセプトをすぐにビジュアル化してくれた。皆それを見て燃えたよ。プレイの面でも、リアルタイム戦闘と戦略的な思考をシームレスに結ぶ方法を見つけることができたんだ」
そこでカギとなるのが、タイトルにもなっている Transistor(トランジスター)だ。これは知性を持ったブースト機能つきの剣で、主人公である「レッド」が次に行う行動をマップ化して、さまざまな戦術や予測を提供し、ボタン連打による激しい攻撃も行う。
「今にして思えば、世界観のほかに最も大きな変化は、プレイに戦略性を持たせる方法だと思う」と Kasavin 氏は言う。「プレイヤーはいつでも時間を止めて、一連の行動を決定し、それを一気に実行できるんだ」
もちろんゲージが溜まるまでは、残っている敵からの攻撃をかわさなければならない。「これは非常に強力な能力だけど、それだけに登場する敵も素早くて強い。最終ステージで手に入るような究極の武器を 最初から持っているというアイデアは、とにかく気に入ったよ。だから、そこから考え始めたんだ。最強の武器を最初から持っていたら、次はどこに行けばいいか。プレイ体験を面白いものにするには、どうすればいいか、ってね。こうした疑問への答えは、皆さんにも近いうちにお見せできると思う」
『Bastion』と同様に、『Transistor』のプレイヤーは物語の断片を少しずつ繋ぎ合わせることになる。主人公の「レッド」は巨大都市「クラウドバンク」で人気上昇中のスターだったが、それはある夜、彼女が暗殺者の一団に命を狙われるまでの話だった。彼らは暗殺に失敗し、レッドは謎の Transistor と共に取り残される。レッドはさまざまな謎に対する答えを求めて旅立ち、暗殺者たちは始末をつけるべく彼女をつけ狙う。
「主人公レッドの前に立ちふさがるのは、『プロセス』という敵勢力だ。彼らは生物と機械の奇妙な融合体で、なりふり構わず Transistor を回収するため、レッドの元に暗殺者を送り込んだらしい。彼らには奇妙な特性がある。まず基本的に不死身で、レッドが Transistor で吸収してしまうまで何度でも復活する。詳しいことはゲームを進めていくうちに分かってくるよ」
Kasavin 氏によると、チームは当初、先方からの申し出を断ったのだという。だが PS4 における自社パブリッシング(インディースタジオにとっては非常に重要な要素だ)に対する Sony のオープンな姿勢が、彼らの意見を変えた。Microsoft が Xbox One に同様なポリシーを導入したのは、もっと後になってからだ。「当初は『そりゃすごい! でも遠慮するよ!』といった感じだった。そもそも E3 は昔から大手スタジオのためのイベントだしね。でも PS4 について詳しく調べていくにつれて、Sony が我々のような小規模チームに対しても非常にオープンな姿勢をとっていることが分かって感心したよ」
とはいえ、Kasavin 氏は他のプラットフォームでの展開を閉ざしたわけではない。「 Steam を通じて PC でも配信するし、特定のプラットフォームに固執するつもりはない。展開は今のところ 2 つのプラットフォームに留めるつもりだけど、今後のことはまだ分からないよ」
Transistor は PS4 独自の機能を使うのだろうか? 「そもそも Transistor は一人でのプレイに特化したゲームだし、ゲーム機にどんな機能が備わっていようと必要のないものは実装しない。PS4 のゲームでは共有機能が標準になっているけれど、それよりも我々は、あの機体ならではの機能がうまく利用できそうだと気づいたんだ。一番の例が、ゲーム内の武器 Transistor から声が聞こえたときに、コントローラーのライトバーが連動して光る機能だね。それだけかと言われるかもしれないけど、我々のテストでは、連動していることに気づいたプレイヤーに強い印象を与えることが分かっている」
Kasavin 氏によると現時点で Transistor の機能はすべて実装されており、あとは問題を潰していくだけだという。「つまり、音声クオリティ向上のために行う再収録から、さまざまな Transistor 技能が持っている固有の感覚やバランスの調整まで、とにかくプレイヤーの感覚とうまく同調するように何度もテストを行っている。確かに忙しいけど、楽しい時期でもあるね。1 日か 2 日おきに、素晴らしいものがゲームに備わっていくんだから」
Kasavin 氏によると今のところ正確なリリース日は決まっていないそうだが、今年中には完成版のゲームを見ることが出来るという。「『Transister』のリリース日はまだ発表していないけど、今年のいずれかの時点で PS4 版と PC 版をリリースする予定だ。リリース日が確定しだい発表するよ」
その後はどうなるのだろう? Supergiant は『Transistor』の DLC や新作を予定しているのだろうか? もしかすると『Bastion 2』の開発もありうるのだろうか? その疑問に Kasavin 氏は正直に答えてくれた。「いやいや、そこまで先のことは考えていないよ。今は Transistor がどうなるかで頭がいっぱいだ。最初のゲームがそうだったように、我々としては完成された作品を作りたいからね」
それは簡単なことではない。チームは大手パブリッシャーの豊富な資金をあてにせず、Bastion を自費で開発し、Transistor も独力で一から開発している。必然的に、開発はいつも全力投球となる。
「作ったゲームがあれほど長く愛されているのを見ると、我々もしっかり団結して、末永くやっていきたいと思うんだ」と Kasavin 氏は語る。彼らのこれまでの歩みを見ている限り、きっとそうなるだろう。
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