CEO 2015のかずのこ
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Gaming

Casuals:かずのこ

ユン使いのトッププレイヤーで、先日CEO 2015を制したかずのこを紹介する。
Written by Michael Martin
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Zeveronのシャツを着てEVO 2015に参戦したかずのこ

Zeveronのシャツを着てEVO 2015に参戦したかずのこ

© Red Bull eSports

井上涼太は、日本を代表する『ストリートファイター』プロプレイヤーのひとりだ。“かずのこ” として知られる彼はユン使いのトッププレイヤーであり、リスクを負って前に出る積極性とブレの少ない安定感をバランス良く組み合わせたプレイスタイルが特徴だ。かずのこは2014年単年で世界各国のメジャーイベントで計9回トップ8に残っており、しかもそのうち8回はトップ4以内という成績を残している。
かずのこはプレイ前、プレイ中、そしてプレイ後さえもほとんど表情を変えない“サイレントキラー” であり、その無表情ぶりは、EVO 2015のプールを終えた後(9位でフィニッシュ)の今回のインタビューでも同じだった。かずのこがこのシーンに対しどれだけの情熱を持っているのかは本人の表情からは窺えない。しかし、新たにZeveronのスポンサードを受けることになった彼は、『ストリートファイター』のスタープレイヤーとして、更なる飛躍を目指している。
CEO 2015で念願のビッグタイトルを獲得したかずのこ

CEO 2015で念願のビッグタイトルを獲得したかずのこ

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『ストリートファイターIV』の衝撃

米国人である筆者は、(『IV』が衝撃的だったのは)日本のアーケードシーンが下り坂を迎えていたからだと考えてしまうが、それは米国や欧州のシーンほど悪くはなかったのかも知れない。米国のアーケードは一度バーアーケードが新たなファンを獲得する前に、一度完全に消滅しているのだ。とはいえ、『ストリートファイターIII』から『ストリートファイターIV』まではかなりの時間が経過しており、故に日本の『ストリートファイター』のトッププレイヤーたちの多くはその間に姿を消してしまった。しかし、『ストリートファイターIV』がアーケードに登場した時、現Mad Catzのウメハラなどが突如シーンに復帰。これは大きな衝撃だった。
「最初は『ストリートファイターIV』、そんなに面白いゲームとは思っていなくて、ただウメハラさんが復活したっていうのが皆の間で話題になって『ストリートファイターIV』は面白いんだ、と思って復帰したんですよ」
格闘ゲームプレイヤーとしては若い世代に入る現在27歳のかずのこは、『ストリートファイターIV』以前のCapcomのゲームには馴染みがなかった。彼はCapcom系ではなく、SNKの『ザ・キング・オブ・ファイターズ』シリーズをプレイしていたのだ。尚、かずのこはその他にも多種多様な格闘ゲームをプレイしてきており、その経験は『Guilty Gear Xrd Sign』のトッププレイヤーとしての活躍に現れている。そして、かずのこが『ストリートファイターIV』に移行していく中で、ウメハラは彼に再び大きな衝撃を与えることになった。

『最強はユン』

当時のかずのこは『ストリートファイターIV』をプレイするためにアーケードに足繁く通っていたが、『スーパーストリートファイターIV』がリリースされる頃になると、『ストリートファイターIV』は家庭用ゲーム機でリリースされた。その結果、かずのこはアーケードからは距離を置くことになったのだが、『スーパーストリートファイターIV アーケードエディション』のリリースと共に、彼は再びアーケードへ戻った。そして、元々リュウやサガットをメインにしていたかずのこだったが、『アーケードエディション』のリリースと同時にユンに変更。ユンは今に至るまで彼のメインになっている。このキャラクター変更は、かずのこが『ストリートファイター』のプレイを始めたのが比較的遅かったことに起因する。他のプレイヤーたちはリュウやサガットのような人気キャラクターの長所や短所を既に把握していたのだ。地上戦を熟知していた彼らに対し、かずのこは一歩遅れていた。
「昔からカプコンゲームをやっているプレイヤーは地上戦がとてもハイレベルだったんで、地上戦をしないキャラクターの方がお互いの経験の差を埋められると思ったんです。メインを誰にするかを決めたのは、雑誌『アルカディア』を読んだ時ですね。ウメハラさんがその雑誌のインタビューで、『ユンが一番強い』って言っていたんですよ」
かずのこはこのインタビュー記事で確信を持つと、それ以来ユンに拘ってプレイを続けてきた。ユンの長所はスピードと詰めだが、かずのこはその長所を最大限活かしたプレイをしており、雷撃蹴と起き攻めを柱にここまで結果を残してきている。しかし、それでも彼は「宿敵」と称される時も多いももちこと百地雄介のような、より安定した結果を出せるようなプレイヤーになりたいと考えている。

強烈なライバル関係

South East Asia Majors (SEAM) 2014のグランドファイナルでは、ももちが3-2で勝利してリセットをかけると、2戦目もももちが3-2で勝利して優勝。また今年1月のShadowloo Showdown 6でも、ももちとかずのこはトップ8とグランドファイナルで2度対戦したが、ももちが2勝した。また、SXSW Fighters Internationalのグランドファイナルでもももちがかずのこに3-1で勝利しており、Final Round 18のトップ8での対戦も、ももちが3-1で勝利した。世界屈指のトッププレイヤーによって演出された終わりの見えない黒星の連続。ここ1年、かずのこにとってももちは振り払えない悪魔だった。そしてももちもそれを知っていた。
「テキサスであった招待制の大会(SXSW Fighters International)で、ももちさんがグランドファイナルに進んでいる状態で、僕はルーザーズファイナルでGamerBeeと戦う予定だったんです。」
「その時、ももちさんとちょっと会話をする時間が有った時に、ももちさんがニヤニヤしながら『俺はGamerBeeが苦手だから、上がってこいよ』と言う様な煽りをしてきて。」
「その時は自分の中で、『こいつは許せない』とおもったんですよ。(笑)でも結局その大会も負けちゃって。」
その後もかずのこはももちに勝つべく猛練習を重ねたが、負けが続いた。そして迎えたSouth East Asia Majors 2015で、ようやくかずのこはトップ32で2-0、トップ8で3-2とももち相手に2勝を挙げたのだが、この勝利は本人にとっては納得のいくものではなかった。
「SEAM 2015でようやく勝てました。その時はやっぱり嬉しくて思わずガッツポーズとかもして。ただその時はPlayStation3を使っていて、操作の環境が悪いので勝ったのは嬉しかったんですけど、やっぱりXboxで自分の対策が本当に彼に通用するのかっていうのが気になるのでどこかでまた当たりたいとは思っています。」
CEO 2015のかずのこ

CEO 2015のかずのこ

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米国の追撃

2015年に入ってからのかずのこは、Capcom Cup出場に向けてポイントを重ねつつ、出場権を自動で獲得できるようなビッグトーナメントでのブレイクスルーを狙っていた。そのチャンスが訪れたのがCEO 2015だった。このトーナメントは米国人トッププレイヤーが数多く出場し、米国人プレイヤーの世界進出の足掛かりになるだろうと見られていたが、そこにかずのこが待ったをかけ、Evil GeniusesのRicki Ortiz、レッドブル・アスリートのDarryl “Snake Eyez” Lewis、Bryant “PIE Sumg” Huggins、Gustavo “801 Strider” Romero(2戦2勝)など、米国人プレイヤーを軒並み下して優勝。ももちとの対戦がなく、Capcom Cup出場権も獲得できたこの優勝にかずのこは安堵の表情を見せた。優勝後、かずのこは『ウルトラストリートファイターIV』に関しては米国人プレイヤーの実力は日本人プレイヤーのそれに追いついてきていると感想を残したが、この感想は米国側が意訳したものかも知れない。
「EG PR Barlogは前にツイッターで、レベルは日本が一番高い、という事を言っていたんですけど、それは平均レベルが高いって言うだけの話であって、トップだけを見ると同じぐらいだし、CEO2015のTOP4の内3人はアメリカ人だったし、トッププレイヤーのレベルはそんなに遜色ないと思うんです。レベルはほとんど一緒ぐらいだと思います。」
かずのこは日本人トッププレイヤーと同レベルにある米国人プレイヤーの例として、CEO 2015のトップ4に残った801 Strider、Smug、Eduardo “EG PR Barlog” Perezの名前を挙げた他、Snake EyezとKevin “YOMI Dieminion” Landonの名前も挙げた。
EVO 2015直前にZeveronと契約したかずのこ

EVO 2015直前にZeveronと契約したかずのこ

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スポンサーと築く未来

かずのこはCEO 2015優勝、Zeveronとの契約締結と、好調の波に乗った状態でEVO 2015に臨んだ。ZeveronのCEO Jeff Suddarthによれば、契約の話は今年3月から進められていたようだ。Suddarthは、長年『ストリートファイター』のトッププレイヤーとして活躍してきたLevel Up SeriesのAlex Valleにかずのこを勧められたと語る。
「以前から日本に進出したいと思っていたので、彼との契約はパーフェクトなタイミングだと思いました。かずのこをリサーチした結果、彼のプレイは面白いと思えましたし、ファンとの交流の仕方も気に入りましたね」
「かずのこは自分の周りにいるファンや仲間に対して非常にフレンドリーです。これが契約に至った大きな理由のひとつですね」
長年フリーエージェントとして活躍してきたかずのこは、EVO 2015ではZeveronのパープルのロゴがフロントに、そして自分の名前がバックにプリントされたシャツを身にまとっており、そこにはスポンサーを獲得した誇りと喜びが感じられた。しかし、その喜びは給料支給や旅費支援など表面的なものよりも深い部分から来ている。Zeveronはかずのこが既に獲得していたファンを共有できるメリットを得ることになるが、かずのこが求めていたのは、手を取り合って日本と海外の格闘ゲームコミュニティ作りを進められるチームだった。かずのこにとっては、勝利と同様に自分たちのブランドの拡大も重要だったようだ。

eSportsの中心に

かずのこは普段自分があまり感情を表に出さないことから、世間から物静か、または時として冷血とさえ思われていることを知っている。本人は喜びや幸せを表現するのが難しいと感じているようだ。
「結構勝った時とか、英語がしゃべれないのも有って、海外のプレイヤーとコミュニケーションが取りづらい事もあるんです。本当は試合に勝った時ってとても嬉しいんです。他のプレイヤーはその嬉しさを表現するんですけど、自分はそういうのが出来ないタイプで。本当は勝った時凄く嬉しいのに、自分はすぐ何も言わずアケコン片付けて、っていう(笑)。不愛想に見えてしまっているけど、本当は他の国のプレイヤーとも交流はしたいし、そういうわけじゃないんだよ!と。ただどう出したらいいか分からないだけなんです。」
しかし、Zeveronとの契約がその彼に変化を与え始めたのかも知れない。最近のかずのこはソーシャルメディアでファンとの交流を積極的に行いつつ、ファンのサポートに感謝している。
「自分の価値を見出してくれた人たちが格闘ゲームを盛り上げようとしていたのを今まで見てきてモチベーションに繋がっていたんですが、今はZeveronの為にも格闘ゲームを盛り上げていきたいと思っています」