日本のアーケード筐体
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eスポーツ

日本のアーケードシーンはゲームオーバーを迎えたのか?

かつてほどの勢いがなくなったと噂される日本のアーケードシーンを外国人記者が考察する。
Written by Michael Migliacio
読み終わるまで:8分Published on
東京の中心に位置し、目まいがするほど激しく脈動している街、新宿の一画に赤で鮮やかに塗られたビルがある。通りに向かって開放されているその1階には巨大なクレーンゲームが大量に置かれており、点滅するライトとキャッチーな音楽で通行人を惹きつけようとしている。その視覚と聴覚のオーバーロードと呼べるセクションの左側に目を移すと、そこには細く急な階段があり、両側のコンクリートの壁には劣化したイベント告知と古いゲームのポスターが貼られている。
ボタンを押すと、その階段の一番下の階の入り口のドアが開き、その階段に溜まっていたタバコの煙がネオン瞬く新宿の街へ向かって吐き出される。LCDとCRTモニターがその煙の中で何列にもひしめくように並べられており、その空気の中には100円硬貨の投入される音、そしてあの聞き間違えようのないボタンを叩く音が響き渡っている。ここはタイトーステーション新宿南口ゲームワールド店。日本の格闘ゲームシーン最強のプレイヤーたちの練習場として世界的に有名なアーケードとして知られている。
ようこそ。
そう、筆者はそこに辿り着いたのだ。
秋葉原はゲームシーンのメッカだが、『V』のメッカではない

秋葉原はゲームシーンのメッカだが、『V』のメッカではない

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数十年に渡り、日本における格闘ゲームは同国内の豊潤なアーケードシーンを代表するジャンルだった。オンラインプレイが台頭し、家庭用ゲーム機版がアーケードそのもののゲームプレイを提供するようになっても、アーケードは日本の格闘ゲームファンの間で主軸であり続けている。日々多忙なプレイヤーたちが短時間・安価でプレイを楽しめるアーケードは、ハイレベルなトーナメントの開催場所を提供していることでも知られている。東京ではハイレベルなトーナメントが日々開催されているのだ。
しかし、状況は変わりつつある。2016年に久々の新作となる『ストリートファイターV』がリリースされたが、この新作が家庭用ゲーム機版のリリース前にアーケードで稼働されることはなかった。むしろ、このシリーズのプロデューサーを務めるCapcomの小野義徳は、アーケードで一切稼働させない可能性があることも示唆している。ワールドワイドにリリースされ、Capcom Pro Tourも本格的にスタートしている今、Capcomのこの大きな決断は、日本全国に影響を与え始めており、世界各地のコミュニティもそこに気づき始めている。
日本のアーケードシーンにおける『V』のインパクトを語ってもらうのに、アーケードのオーナーで、日英翻訳者でもあるRyan “Fubarduck” Harveyほど適した人物はいないだろう。テキサス州オースティンの格闘ゲームコミュニティで10年以上に渡り活動してきた彼は、日米両国のプロプレイヤーを知っている。Harveyは、『V』が日本の格闘ゲームコミュニティのプレイヤーたちにどのような影響を与えているかをユニークな視点から捉えている。
日本のシーンに詳しいFubarduck

日本のシーンに詳しいFubarduck

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適者生存
Harveyは、日本の熱心な『ストリートファイター』プレイヤーたちには「情報収集・交換用のスポット」が存在しないという状況に適応する必要性が生まれているとしている。これはかつてアーケードが担っていた役割だ。トーナメントシーンが寄り合える場所がなくなったことで、コミュニティは対戦と情報交換を行う小さなグループへ分化していった。これらのグループは基本的に使用するキャラクター別に分かれている。
当然ながら、オンラインプレイもここに大きく関わっており、オンラインプレイは、マッチアップに対する情報を得るために使われている。Harveyが説明する。「日本ではオンラインプレイの回数が増えているんだ。オンラインは、オフラインで中々対戦できないキャラクターと対戦できる唯一の方法になったからね」
この点において、日本のシーンは欧米の分化したコミュニティに似てきている。欧米のシーンは長年に渡り日本のような活気あるアーケードシーン抜きに存在し続けてきた。では、国際舞台で活躍し知名度も高い、『ストリートファイター』で生計を立てている日本のトッププレイヤーたちはどのように対応しているのだろうか? 「彼らの場合は、どんな環境であろうとプレイすることが一番大事です。ですので、これまでと何も変わりません。トップレベルで活躍する仲間の数も揃っていますし、コミュニティとのコネも十分にあります。アーケードシーンの欠落がこれらに影響を与えることはありません」
一方で、彼らのように時間を注ぎ込めない「中位」に位置するプレイヤー、つまり、かつてタイトーステーションの通路で良く見られたサラリーマンのような人たちは、必ずしもトッププレイヤーたちと同じ考えではない。家庭用ゲーム機やPCに対して投資せずに、地元で毎日数百円を使ってきた彼らのようなプレイヤーは姿を消しつつある。『V』がもたらした現実に対する彼らの反応は様々だ。
Harveyは「そのような層に組み込まれる日本人の友人の中には、もちろん『V』の方向性を残念に感じている人がいますよ」とし、トップレベルにあるものの、知名度はそこまでではない『ストリートファイター』のプレイヤーたちは、アーケードに通って『ウルIV』をプレイし続けていると続ける。「彼らにとって、『ウルIV』は近所のアーケードで簡単に手が触れられるという意味で、一番現実的なゲームなんです」
『V』ではなく『ウルIV』をプレイし続けるアーケードファンもいる

『V』ではなく『ウルIV』をプレイし続けるアーケードファンもいる

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新世代
Harveyは『V』を「トーナメント向きの格闘ゲームとして、これまで以上にないレベルでしっかりと考えられているゲーム」と高く評価している。『V』はシリーズを完全にリセットし、新規プレイヤーが参入できる新しい入り口を提供している。ローカルコミュニティでは高いスキルを誇るプレイヤーたちが数多く生まれてきており、国際舞台で活躍するプレイヤーたちも増えている。アーケードシーンは、自分の実力を示したいと考えている本気のプレイヤーたちの絶対条件ではなくなったのだ。
Capcomの格闘ゲームシリーズの中で、同じく家庭用ゲーム機のみのリリースに変更された『Ultimate Marvel vs. Capcom 3』も、オンラインプレイから素晴らしい日本人プレイヤーを輩出した。Harveyは「れいちゃんマンとコンドルミサイルはオンライン専門のプレイヤーで、日本では最強の『UMvC3』プレイヤーとして考えられています。この新世代はアーケードに足を踏み入れたことがない可能性もありますね」と説明する。また、プロプレイヤーでさえも、“World Warriors” の新世代の育成に力を注ぎ始めており、たとえば、共にEvil Geniusesに所属するももち&チョコ夫婦が設立した企業「忍ism」は世界で活躍できる『ストリートファイター』プレイヤー育成プログラムを展開している(2016年5月23日現在、応募は締め切られている)。
Harveyは「ここ数年で新しい才能が日本から生まれてくれば良いなと思っています。ウメハラなどは、格闘ゲームの知識を共有して新しいプレイヤーをシーンに引き込むことが重要だと声を大にして発言しています」と続ける。
消えゆくアーケード
では、日本のアーケードはどうなっていくのだろうか? Harveyは「欧米で伝えられている日本のアーケードが消えつつあるという話は、100%正確ではありません。大型チェーン店は今でも元気があります」としているが、オンラインプレイへのシフトによる犠牲がなかったわけではない。小規模なアーケードには明らかにダメージを受けており、金デヴ、ももち、チョコなどを生み出した小規模だが魅力的だった大須ゲームスカイ(名古屋・大須観音)が昨冬に閉店し、その後も東京・秋葉原や、大阪・でんでんタウンのアーケードやゲームショップの閉店のニュースが続いている。
日本では『V』と『IV』が併存する

日本では『V』と『IV』が併存する

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未来への戦い
プロプレイヤーと格闘ゲームコミュニティは、EVOが更なる高みへ向かいつつあることを喜んでいるが、Harveyは「日本の格闘ゲームコミュニティには、コミュニティに新規に参加しているプレイヤーの数が非常に少ないという統一見解が存在しています。ゲームを真面目に考えている人は既にプレイしているということです」と説明する。Capcomがアーケードの稼働を見送ったことで、ハードウェアを用意できないプレイヤーが締め出され、新規プレイヤーになる可能性があるより幅広い層への露出度も限定されている。とはいえ、望みがなくなったわけではなく、Harveyは「CapcomとSonyの独占契約が終われば、アーケードでリリースされるだろうとかなり多くの人たちが言っています」と補足する。しかし、それがいつになるのか、実際にそうなるのかは分からない。現時点での大きな問題は、プロプレイヤーたちがレベルアップする場所を見つけることよりは、コアなファン以外に興味を持ってもらうことだろう。
今の日本で『V』をプレイしたいという人は、PS4かPCを手に入れ、ローカルコミュニティに参加するしかない。しかし、少なくともここしばらくの間は、タイトーステーションを訪れれば、まばゆい照明と大音量のサウンド、そして世界で類を見ないハイレベルな対戦が出迎えてくれるだろう。そこに出入りするプレイヤーたちにとって、ゲームオーバーはまだまだ先の話のようだ。