ラリー
英国M-Sportへの移籍をアナウンスした4度のWRCチャンピオンが新たなチャレンジとその興奮を語った。
過去4シーズンのチャンピオンシップを完全制圧したVolkswagenの2016シーズン限りでのWRC撤退という決定は、同チームのマシンを駆って4度のドライバーズチャンピオンに輝いたセバスチャン・オジェが2017シーズンにドライブすべきシートを取り上げる結果となってしまった。
2017シーズンに復帰するToyota、またオジェの母国フランスのマニュファクチャラーCitroënが新たな移籍先として噂に上ったものの、オジェが最終的に新天地として選んだのは英国のプライベーター・チームであるM-Sport。2012シーズンまでFord World Rally Teamの実質的な運営を担ってきた名門だ。
2017年WRC開幕戦ラリー・モンテカルロまで残り1ヶ月を切ろうかというタイミングでのこの大型移籍の発表は、オジェにとっては5度目のタイトル防衛に向けた準備時間が非常に限定されることを意味する。新マシンFord Fiesta WRCと共に迎えるシーズン開幕を前に、オジェはキャリアを通じて最もタフになるであろうチャレンジにどう立ち向かおうとしているのだろうか? 我々はオジェにインタビューを試みた。
セバスチャン、2017シーズンに向けた移籍オプションの中からひとつだけを選び出す作業はどれほど困難だったのでしょう?
ひとつの結論を見出すことはいつだって難しい。このタイミングで正しい決断を行うのは特に難しかった。知っての通り、僕たちは目の前にある全てのオプションを検討し、その中から最善の選択を行わなければならないという難しい数週間を過ごした。僕がM-Sport加入を決断した最大の理由は、チームから情熱を感じることができた上に、是非とも僕たちと一緒に戦いたいという彼らの強い熱意があったからさ。彼らからそういう情熱と熱意を感じ取ることができたのは嬉しかったね。また、契約前に彼らの2017年仕様マシンを試走した際、即座にマシンのポテンシャルを感じ取れた事実も大きな後押しになった。もちろん、楽なシーズンになるとは思わない。新しいマシンに習熟するための時間も少ないし、僕の好みに合わせたセッティングに仕上げていくにも時間が足りない。したがって、シーズン開幕直後はやや難しいスタートになることを覚悟している。でも、僕はそのチャレンジ自体にモチベーションを感じているし、全力を尽くすつもりだ。
新たなボスとなるマルコム・ウィルソン(M-Sportチーム代表)、そしてM-Sportとの関係はすでに良好なようですが?
僕たちの関係はまだ始まったばかりさ。まだお互いのことをよく知らないけれど、マルコムにはずっと良い印象を抱いてきたし、彼は強いハートとたくさんの情熱を持ってこの仕事に取り組んでいるので、僕にとっても非常に良いチームボスになるんじゃないかな。このチームに加入したいと思わせてくれた最大の理由のひとつは、彼が持つ情熱だった。マルコムと僕はこれから非常に人間味溢れるアドベンチャーを展開していくはずさ。M-Sportは予算的には最小規模のチームかもしれないけど、この情熱は僕らの強みになり得るし、やがてリザルトにも反映されていくはずさ。僕らにどんなことができるか、まずは見てみよう。僕は新シーズンの始まりに興奮しているし、チームとのディスカッションの内容にも満足している。新チームと組む時、そこに信頼に足る人間がいるかどうかは非常に重要だ。
過去何年も不振にあえいできたこのチームに再び成功をもたらすことは、やりがいのある挑戦だと思う
年明け早々の開幕戦を前に、ニューマシンM-Sport Ford Fiesta WRCを実走テストできる時間はどれほどあるのでしょうか?
それほど多くはない。先週スウェーデンで2日間の最初のテストを済ませてきたばかりで、今は2週間の休暇中の身さ。長いシーズンを終えた後では休息も必要だし、みんなと同じようにバッテリーを再充電して家族と共に良い時間を過ごしたいからね。1月にはモンテカルロの開幕前にもう1度テストの機会があるけれど、それにしたって通常の2日間だけのテストになるから、マシンの中で過ごせる時間はそれほどたっぷりあるわけじゃない。
なるべく早くフィーリングが戻ってくれば良いけれど、僕らの前には大きなチャレンジが待ち受けていると言った理由はここにある。僕らがどの辺りのポジションまで行けるかを予想するにはまだ少し早いね。僕はここ4年間で多くの実績を残してきたし、今は失うものは何もない立場にいると感じている。自分の能力はすでに余すところなく証明してわけだから、今度は自分のベストを尽くすよう努めるだけさ。過去何年間も不振にあえいできたこのチームに再び成功をもたらすことは、やりがいのある挑戦だと思う。
来たるべき2017シーズン、あなたにとって最大のライバルとなるのは誰でしょう?
現時点では、自分が一体どんなポジションにいるか計り知ることはできない。たくさんの不確定要素が待ち受ける新しいチャレンジを前にしているので、現時点では自分がチャンピオン候補なのかさえ分からないよ。現時点で予想を立てるにはあまりに早計すぎると思う。とにかく、僕は自分がやるべきことにフォーカスして、できる限り最善のフィーリングを見出すだけさ。来シーズンにおける僕の真の目標について現時点で言っておきたいのは、もちろん最高のパーフォマンスを見せたいということだけど、これが現実的な目標なのかどうかについても判断できない状況なんだ。
現時点では自分がチャンピオン候補なのかさえ分からないよ
2017シーズン、あなたのチームメイトはオット・タナックになります。彼が2016シーズンに見せたパフォーマンスはどう評価していますか? チームメイトとして彼とどんな関係を築いてきたいですか?
オットは間違いなく才能あるドライバーだし、2016シーズンは何度か光るパフォーマンスを見せていたから、興味深いパートナーシップになると思うよ。彼は初優勝こそまだだけど、たとえば、2016年のポーランドなどでは優勝が見える走りをしていた。彼のことはまだ良く知らないけれど、ナイスガイという第一印象を抱いているし、彼と共に同じチームで仕事できることを楽しみにしているよ。彼と一緒に協力して、チームをトップの座まで押し上げていきたいね。
愛息ティムの誕生は、あなたのラリーへの姿勢においてどんな変化をもたらしたのでしょう? イベントやテストのために家を離れなければならないのはさぞ辛いことだろうと推測しますが…
これまで以上に家を離れづらくなったのは確かだよね。もちろん、父親になったことで僕の人生は変わった。これまでとは違う考え方、違う角度で自分の人生を考えるようになったというか。僕は、数年間レーシングのことしか考えていない時期があった。もちろん、今でもラリーに対してプロフェッショナルに全力で取り組んでいるけれど… 今は家族と一緒にいる時間を楽しみたいという気持ちがあるのも確かだ。僕は良き父親になりたいし、それは僕の今の目標のひとつだね。今でも後ろ髪を引かれる思いで家を出てきているけれど、これから息子が成長して自分で喋れるようになればもっと辛くなるかもしれない。彼の母親、つまり僕の妻が息子に最初に教える言葉は “Dad stay home(父さん家にいてよ)!” だろうね。僕たち家族は今年すでに良い時間をたくさん過ごせてきているし、今はこの上なく幸せだよ。
10年前に望んでいたよりも多くを成し遂げることができた
最後の質問になりますが、2016年であなたはちょうどラリー・キャリア10年目の節目を迎えました。ラリーを始めた当初のあなたは、10年間で4回もWRCチャンピオンを獲得できると思っていましたか?
あっという間の10年間だったよ。常に前を見て進むべきだと思うけれど、たまには自分の足跡を振り返ってみるのも悪くはないね。まるでひとっ飛びのような10年間だったけれど、10年前に望んでいたよりも多くを成し遂げることができた。ラリーを始めた当初は、いつかWRCに参戦したいと夢見ていたし、中でもワールドチャンピオンは究極の夢だった。でも、僕たちは1度どころか4度もワールドチャンピオンになれた。この10年間は素晴らしいアドベンチャーだったと言えると思うけど、まだまだ終わりじゃない。これから先の未来にどんなストーリーが待ち受けているか、乞うご期待さ。