ミュージック

夢は英国のエレクトロニック・ミュージック旗手

Floating Pointsこと音楽プロデューサーのサム・シェパードがブラジル音楽、クラブなどについて語った。
Written by Ben Murphy
読み終わるまで:6分Published on
サム・シェパードは多忙だ。どうやってすべてをこなしているのか理解するのは難しい。 Floating Points名義で制作をこなしながら、世界中でDJとしてプレイし、 レーベルEgloを共同運営しながら、ラジオ番組のホストも務めているこのマンチェスター出身の29歳は、それでも最新のアートの発展を学んだり、料理したり、博士号を取得した脳科学の情報を集める時間も獲得している。
Floating Points

Floating Points

© [unknown]

 エレクトロニクスを用いたクラシックが僕の音楽の聴き方を大きく変えた。サウンドの捉え方も変わった。線路の上を走る列車の音を聞いただけで、「音楽だ!」って思うようになったんだ
このような様々な活動は、酩酊したようなディスコからアブストラクトなテクノまでを横断する、彼独特の暖かく感情豊かな作品群に詰め込まれている。彼のデビューアルバム『Elaenia』はシラギクタイランチョウの意味で、瑞々しい色彩と、ヴィンテージシンセ、そして様々なゲストミュージシャンによって奏でられる、ブラジル音楽に触発されたジャズオーケストレーションが聴ける。シェパードの機材のテクニックと音楽のバックグラウンドがパーフェクトに融合した作品だ。
今回はRed Bull Music Academy Parisに出演したばかりのFloating Pointsが自らの言葉で様々なテーマについて語った。
クラブで一番重要なのは、木製のフロア、優秀なスピーカー、最高の音楽、素晴らしいオーディエンスだよ。これらが最終的には人々をひとつにまとめていくんだ。
僕はUKのあらゆるパーティでDJをしているけれど、最高だね。UKのダンサーたちはワイルドだからさ。リーズ、マンチェスター、グラスゴー、ブリストルは最高の時間が楽しめる。小洒落た感じは一切ないね。ロンドンはちょっと違う。良いクラブはあるんだけど、「最高のサウンドシステムを作るぞ」っていう気概に欠けている。Plastic Peopleはそれを体現していたけれど、もうなくなってしまったからね。
南米に向かった渡り鳥の1羽が、群れとはぐれて森に辿り着く夢を見た。基本的に夢は記憶しないんだけど、この夢は憶えているんだ。その森は鳥を迎え入れてくれた。そして冬が来ると、その森が小さくまとまって、その鳥を囲んで命を守ってくれた。そこで夢は終わった。目を覚ました僕は「今のは良い夢だったな。永遠の命についてのメッセージだ」と思ったんだ。それでスタジオに向かって、音楽を作ろうとした。こういう夢をもっと見たいね!
7歳か8歳からピアノを弾いている。別に上手くはないけど、下手でもないよ。習っていた頃はまずまずだったと思う。でも、そのあとで、自分で勝手に弾き始めて、その時に基礎を学べば、ルールを壊せるってことが分かった。それでジャズにのめり込んだんだ。ジャズはそういう音楽だったからさ。
ブラジル人シンガーの中で今でも一番好きなのは ガル・コスタ(Gal Costa)だね。彼女の1970年代、1960年代の作品は本当に素晴らしいよ。DJでブラジルに行った時は、大量のレコードを買って帰ってきた。それ以来何回も訪れていて、沢山の人に出会っているんだ。レコードショップやレコードディーラーのような、自分を助けてくれる人と知り合えるのが最高だね。彼らを通じてアーサー・ヴェロカイ(Arthur Verocai)やヘアトン・サルヴァニーニ(Hareton Salvanini)を知ったんだよ。
僕が受けた音楽教育は大半がクラシックで、ロマン派やバロック、ルネサンス音楽を学んだ。でも、20世紀のクラシックはちょっとごちゃごちゃしている。 ストラヴィンスキーショスタコーヴィチがいて、その後でウィリアム・フィッシャー、 モートン・サボトニックシュトックハウゼンもいたからね。僕は彼らのエレクトロニックな作品に最初に興味を持ったけれど、そこには音色の土台と言えるものがなかった。ただのノイズの塊に思えたんだ。これが僕の音楽の聴き方を大きく変えた。サウンドの捉え方も変わった。線路の上を走る列車の音を耳にしただけで、「音楽だ!」って思うようになったんだ。僕の脳がオープンになったんだ。こういう音楽を初めて聴いたのは14歳が15歳だったね。
食べ物にすごく興味がある。自分で言うのもなんだけど、僕は料理が上手いと思うよ。複数のタイマーが常にしかけてある研究所で、最初は正確に研究に取り組んで、それからあとは自分のリズム乗って研究を進めていく感じは、料理と同じなんだ。だから僕にとって料理はすごく自然なことさ。感覚が共有できる。料理をすると、研究所にいるのに一番近い感覚が得られるね。
僕は薬理学と神経科学を学んだ。最後の年に神経薬理学を専門にしたんだ。それでウェルカム・トラスト(訳注:英国の医学研究支援団体)から博士号の資金を獲得した。財的支援を受けられたのはラッキーだったし、博士課程は素晴らしい4年間だったよ。科学のことだけじゃなく、系統的なリサーチ方法など、沢山のことを学べたよ。
音楽と科学には系統的かつクリエイティブに進めていくという共通点がある。科学は、仮定を立てる段階が凄くクリエイティブな作業なんだ。一方で、音楽の場合は99%がクリエイティブな作業だけど、僕の音楽はスタジオに籠もって沢山の機材やテープマシンを扱いながら、試行錯誤していくから、そういう意味では科学と同じで、系統的に進めなければならない部分がある。僕は自分の好きなサウンドを理解しているし、それをトライ&エラーで学んでいるってところだね。
ロンドンのホワイトキューブ(White Cube)で開催されているセリス・ウィン・エバンス(Cerith Wyn Evans)のエキシビションが見たい(訳注:11月15日に終了)。蛍光灯を使った作品が展示されていて、サウンドインスタレーションも用意されている。曲げられたガラスチューブがタービンに接続されていて、バルブがランダムに開閉して音が鳴るようになっているんだ。バルブの中には長時間開くものもあって、それがコード的なサウンドを鳴らすようになっているんだけど、ホワイトキューブは広いから、そのサウンドが空間にたゆたっている。色んなエキシビションにしょっちゅう顔を出しているよ。