不世出の天才が生み出した”2つの”Wolfgang”
ハードロックギターの革命児にして20世紀最大のギターヒーロー、エドワード・ヴァン・ヘイレン。彼がメンバーとして名を連ねる伝説のロックバンド、ヴァンヘイレンがシングル「ユー・リアリー・ガット・ミー」にてデビューし、世界に大きな衝撃を与えたのは1978年の1月28日。そう、実に39年前の今日(本稿公開日)なのである。かくゆう筆者もデビューこそリアルタイムではないものの、彼の神懸かり的な演奏がギターを始めるきっかけとなり、そのまま泥沼へと引きずり込まれたクチ。結果、そのロックな生き様を見習い一度も就職をせず、今では立派に駄文を書き散らすロックな人生を送れているのも(ものは言いようである)ひとえに彼の存在があったからのである。そんな筆者を始め、沢山の若者の人生を変えてしまった彼のデビューに敬意を表し、まずは現在の愛機、 Wolfgangを採り上げてみたいと思う。
彼が現在の相棒として愛用している、彼自身がフェンダーと組んで立ち上げたEVHブランドから発売されている Wolfgang。彼自身の息子にして現在のバンドメンバーであるウルフギャング・ヴァン・ヘイレンの名前のそのまま冠したそのモデルにはどんなストーリーが込められているのかを読み解いていこう。もちろんエディについては著名なギターヒーローの中でも1、2を争う程の膨大さで各種出版物、数多のファンウェブにて研究し尽くされ、語り尽くされているのは重々承知。かく言う筆者ももちろん長年の間、それらをむさぼるように読みあさったクチである。その全てに敬意を表して、本稿はあくまでも熱病にうなされ続けている信者の一つの解釈として読み進めて頂ければと思う。
いまやその名を全世界に轟かす『ヴァンヘイレン』のメンバーとして、ロックギターの定礎を根底から作り替えてしまったその男はまた、テクニックだけでなくイクイップメンツ(機材)においても革命家、そして発明家であったのはつとに知られている。例えばマーシャルアンプの電圧を変化させて(当時は昇圧させるとの噂を信じてマーシャルを吹っ飛ばす者多数)圧倒的な“歪み”を実現した「ブラウンサウンド」などはその最たるものであるが、中でも後世への影響力という点ではかの有名な「フランケンストラト」が一番に挙げられるのではないだろうか。フェンダー社が開発した音程を自在に変化させるシンクロナイズドトレモロアーム(のちにフロイトローズへ変更)とギブソンのダブルコイルピックアップ(ハムバッキングPU)の分厚いサウンドを両立させたいがために自らの手で作り出したといわれるあのストラト。幾度ものリニューアルやカスタマイズを経て彼の理想とするイクイップメンツへと変化していったフランケン、その(現時点での)最終進化系と言われるのが現在、EVHから発売されている「Wolfgang(ウルフギャング)」だ。しかし、この世の中にはWolfgangと呼ばれるギターは2つ存在する。それは一体どういうことなのか。
EVH Wolfgang とPEAVEY Wolfgang似て非なる二卵性双生児
Wolfgangという名前、そしてあのデザインとパッケージングの基本形は、そもそも1996年にPEAVEY社から登場したエディシグネイチャーモデルが初出。後にPEAVEY社との契約が切れたのを機にエディがフェンダー社と組んで立ち上げたEVHブランドからも同名、基本デザインは一緒、というカタチで現在のEVH Wolfgangが登場し現在も継続販売中、というのがおおまかな経緯だ。まったく異なる2社から同名の、見た目も瓜二つのギターが発売されること自体、著作権問題やらパクリ炎上やらには厳しい昨今では通常はあり得ない事態。しかも権利関係がやっかいな訴訟大国たる米国で、それでも力づくでねじ伏せて実現にこぎ着けてしまったエディの商…いや情熱たるや我々凡人には計り知れない。
撮影の為に用意したEVH Wolfgangステルスグレイは、カラーリングや仕様に現在のエディの趣向が十二分に反映されたモデルといって良いだろう。近年お気に入りの様子の赤いキルスイッチこそ装備されてはいないが、エボニー指板といい、ダークなマットカラーといい、あの派手でギラギラしたフランケンの面影はない(もちろん赤白黒カラー仕様も使用しているようだが)。
変わってPEAVEY Wolfgangゴールドトップ(リフィニッシュ)は手前ミソで申し訳ないが筆者所有のものを用意。カラーリングに関してはあまりエディ本人のイメージではないが、この頃のエディは主に木目がバリバリの明るめのカラーリングを好んで使用していたと記憶している。どちらにせよPEAVEYの方はメイプル指板の印象も手伝って、カラッと明るいイメージだ。
エディの一貫したコンセプトとはフェンダーとギブソンの融合
まず最初に言及しておかなければならないのが双方で同形状に見えるボディデザイン。ストラトやムスタング系テイストのダブルカッタウェイはフェンダー系スタイルを思わせるものの、そこにレスポールの如きアーチドトップを組み合わせたような方向性は、カタチこそ違えどフェンダーとギブソンのハイブリッドを目指した初代フランケンのコンセプトと同一のもの。他にも、ボルトオンネックはフェンダーから、ネックの仕込みに角度を付ける辺りはギブソンから、とあらゆるポイントでフェンダーとギブソンの融合を意識したような点が見られるのがWolfgangデザインの最大の特徴であるのは間違いない。
しかしこの2本、一見すると多少アレンジされたヘッド形状以外、まったく同じ様に見えるのだが、今回、実物を比べてみてボディのバランスが違うでは?という疑問が生じた。あくまで筆者の感覚だが、PEAVEYに比べ、EVHの方が少し小振りになり、その分ほんの少し厚みが増しているような印象だ。
とはいえ、ボディバランスが変わっているということが事実だとすればそれはそれで納得なのである。なぜなら、EVHに移行してからのエディの好みがよりギブソン寄りに変化しつつある傾向が見られるからだ。ボディを小さくし厚みを増やしたのであれば、それはよりレスポールにルックス、サウンドを近付けるためであり、フランケンに始まりKRAMER5150、Musicman、PEAVEY Wolfgagと代々メイプル指板を採用してきた中でのEVHでのエボニー指板採用もまた然り。しかもブロックインレイを組み合わせるという、ネックだけ見ればまんまレスポールの如き様相を呈してきている。さらにEVHでは派生モデルとしてミディアムスケール、エスカッション&金属PUカバー、ストップテイルピースともろレスポールを意識したモデルまでリリースしているのを見てもそれは明らか。フェンダーとのタッグを組んだEVHの方が、よりギブソンの遺伝子が強くなっているのは皮肉な話だが。
我々ファンの幻想を全て抱え”Wolfgang”は存在し続ける
実際にレスポール氏(多重録音を広めたと言われるギタリスト。レスポールとは彼のシグネイチャーモデル)のアニバーサリーライブに登場したエディがレスポールを抱えている写真や、それ以外にも若い頃の写真でやはりレスポールを弾いている姿はかなり多く残されている。やはり彼は根本的にはレスポールがお好みなのだろう。しかし、細部まで自らの好みでないと納得しなかったデビュー以前の若きエディには、弾きやすさなど相性の良さに加え、コンポーネントという発想を持ったフェンダー系をカスタムベースとした方が自らの理想を叶えやすかったのではないだろうか。そして“Wolfgang”を生み出した後も自らの理想を追求することを止めなかった結果「自分が100%満足するレスポール」を造り出したかったのではないだろうか。もちろんあくまで想像の範疇だが、この2本の相違点を見て、そんなところにまで想いを馳せてしまうのも、エドワード・ヴァン・ヘイレンというギタリスト、いや不世出の芸術家が如何に後世に影響を与え続けているかの証明なのだ。
【撮影協力】
EVH Wolfgang Stealth Grey (ギター)
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