KLF - Chill Out
© KLF
ミュージック

極上チルアウトトラック ベスト10

ダンスと日光に疲れた夏の体と心に効く、極上のチルアウトトラックを厳選してリストアップ!
Written by Ben Murphy
読み終わるまで:10分Published on
チルアウト” の意味は誰もが知っているはずだ。
しかし、"リラックス" を意味するこの言葉は、1990年代初頭に大きく発展した英国クラブカルチャーの中から生まれた、ある特定の催眠的なダウンビートを伴う電子音楽のことも意味するようになった。
チルアウトは、レイブやクラブでプレイされる狂乱的なビートに対するオルタナティブな存在として扱われ、サブフロアや “チルアウトルーム” と称される小規模なフロアでプレイされた。そこでは踊り疲れた人々がリラックスしたりクールダウンしたりしていた。
それ以前にも、1970年代にBrian Enoが自らの漂うようなサウンドスケープを表現するために生み出したアンビエントというタームが存在していた。
しかし、チルアウトは電子音によるアンビエントにダブヒップホップ的なカット&ペーストマジックを加えた音楽で、その穏やかなリズムはある種の鎮静効果や快楽をもたらしたり、深遠なエモーションをかきたてたりする。
そんな極上のチルアウトトラックをまとめたSpotifyプレイリストをチェックしつつ、特に重要と思われる10トラックの解説を読み進めてもらいたい。
Dr Alex PatersonThe Orbによるエコーを多用した夢遊的なビート、あるいはMixmaster Morrisによる広大な世界観を持つDJセットなどによって特徴付けられた初期チルアウトは、1990年代を通して新たな影響を取り込みながら変容していく新種のアンビエントミュージックとして生まれた。
チルアウトは、クラブから自宅へ戻ってきた時に聴けるものを求めていたクラバーたちの間でまずブームとなり、やがてひとつのジャンルとして成立した。
Café Del Marがイビサ島で最高のチルアウト・クラブとして一世を風靡したあと、2000年代初頭に入ると、チルアウトはメインストリームでも認知されるようになり、チルアウトを謳うコンピレーションが市場に溢れかえった。
しかし、チルアウトは多様かつフレッシュなフォームに形を変えながら今も生き続けている。
1980年代から現代まで、我々が厳選した最高のチルアウトトラックを紹介しよう。

1. Art Of Noise「Moments In Love」(1984年)

実際に “チルアウト” というタグを掲げた最初期のトラック群の中でも、1980年代のスーパープロデューサーTrevor Horn(Buggles、Frankie Goes to Hollywood、Yesなどのメガポップヒッツを生み出した人物として広く知られる)が、当時最先端のエレクトロニック・ミュージックの作り手としての才能だけでなく、浮世離れしたアレンジも生み出せる才能も持っていることを示したこのトラックは、別格の存在感を放っている。
幽玄なシンセクワイア、オーケストラ・スタブ、優美な対位旋律、プロト・ヒップホップ的なビートなどを持つ「Moments In Love」は、意図せずしてチルアウトの先駆け的存在となった。

2. The KLF『Chill Out』(1990年)

厳密にはアルバムだが、この作品抜きにチルアウトは語れない。
1990年代にアンビエントブームのきっかけを作った作品のひとつに数えられる、ファウンド・サウンド(具体音)やアメリカーナ、電子音、Elvisの声や(奇妙にも)ヒツジの鳴き声などの断片を見事にミックスしたこの作品は、のちにチルアウトを標榜するThe Orbをはじめとする後続アーティストたちの音楽の青写真となった。
このアルバムのリリース後、Bill DrummondJimmy Cautyの2人はダンスポップ界への奇妙な乱入を果たすのだが、それはまた別のストーリーだ。

3. The Orb「Little Fluffy Clouds」(1991年)

The Orbはチルアウトの原型を作ったアクトだ。Dr Alex Patersonを中心に、元The KLFのJimmy Cautyや現メンバーのThomas Fehlmannに至るまで、時代ごとにメンバーが入れ替わってきたThe Orbだが、快進撃を続けていた1990年代初期当時の彼らは、いわばアンビエント界のスーパースターだった。
Steve Reich & Pat MethenyElectric Counterpoint」からのサンプリング、Ricki Lee Jonesのアイコニックなモノローグ、泡立つようなシンセなどを巧みに散りばめた「Little Fluffy Clouds」は、ビート構造こそハウスを援用しているが、チルアウトの成立を告げるトラックで、当時の典型的なチルアウトトラックだ。

4. Orbital – Belfast(1991年)

レイブブーム沈静後のぼやけた残光を体現する楽曲があるとしたら、それはOrbitalBelfast」に尽きるだろう。
優美なメロディ、天に昇るクワイアヴォイス、らせんを描き続けるようなアルペジオ、ブレイクビーツをひとつのユニークなパッケージにまとめ上げた「Belfast」は、Hartnoll兄弟が手がけた他のどの作品にも似ていない固有の存在感を放っている。

5. Coldcut「Autumn Leaves(Irresistible Force Mix)」(1993年)

Mixmaster Morrisはおそらく最も広く知られたアンビエントDJで、Irresistible Force名義で手がけたこのリミックスは絶品だ。
Coldcutによるビタースイートなジャズスタンダードを、宇宙の彼方へと響く揺れる森のようなシンセレイヤーへ移植したこのリミックスは、催眠的でありながら極めてエモーショナルだ。

6. Air「All I Need」(1997年)

1990年代後半になると、チルアウトには、さらに多様なサウンドを吸収して新たなアイディアを展開するアクトが登場した。
フランス人デュオのAirがリリースしたマルチプラチナムの大ヒットアルバム『Moon Safari』は、メロウなビートを求めた当時の空気感を反映していたが、彼らの繊細なエレクトロニクスとジェントルなラウンジビート、フォークギター、1970年代ファンク的なタッチが最も如実に反映されていたのが、この内省的なスペースバラッド「All I Need」だ。
Beth Hirschの哀愁を帯びたヴォーカルがこの楽曲の魅力をさらに引き出していた。

7. Talvin Singh「Traveller(Kid Loco’s Once Upon a Time in the East Mix)」(1998年)

エレクトロニック・サウンドとの融合を好むインド系英国人タブラ奏者Talvin Singhとフランスのビート職人Kid Locoという2つの強烈な音楽的個性の出会いが、この極めてクールなリミックスを生み出した。
インド音階で奏でられる幽玄なストリングスとLocoによる催眠的なドラムは、サンセットクラシックとしての地位を確実なものにしている。

8. St Germain「Sure Thing」(2000年)

Kid Locoと同じく、古いジャズやソウルへの造詣が深いSt Germainによるアルバム『Tourist』は、Nina Simoneをはじめとしたジャズ古典からのサンプリングを引用していたが、100% Pure Poisonによるファンクトラック「Windy C」とJohn Lee HookerHarry’s Philosophy」を巧妙に融合した「Sure Thing」は、まるで冷蔵庫からそのまま飛び出してきたかのようなクールなグルーヴが備わっていた。
このトラックが収録されたアルバムがリリースされた当時は、あらゆる場所でヘヴィプレイされた。

9. Midlake「Roscoe(Beyond The Wizard’s Sleeve Remix)」(2007年)

ダウンビート・ミュージックの新鮮な方向性を示したErol AlkanRichard Norrisのプロジェクトによるこのゴージャスなサイケデリックミクスチャーは、Fleetwood Macの影響が強く伺えるインディーロックのオリジナルに、水中で鳴っているかのようなシンセ、リバースしたギターサンプル、ステディでダスティなドラムなどを組み合わせてアップリフティングなカオスを生み出している。

10. Kiasmos「Held」(2014年)

アイスランド出身のデュオ、Kiasmosは現代的なチルアウトの方向を象徴している。
メンバーのひとり、ネオクラシカルアーティストのÓlafur Arnaldsは英国ITV制作のドラマ『ブロードチャーチ〜殺意の街〜』のサウンドトラック制作や数々のソロ作品で知られており、もうひとりのメンバーJanus RasmussenBloodgroupというバンドでも活動している。
ダブステップに影響を受けつつテクノ的要素も兼ね備えた彼らのビートは、時としてより穏やかな側面へと足を踏み入れることもあるが、このメランコリーな「Held」では、透き通ったピアノの音色、歯切れの良いビート、そしてドラマティックなストリングスを同居させている。
クラシックとエレクトロニクスの融合は、複数の意味で新たなチルアウトとなっており、Nils FrahmMax RichterBen Lukas BoysenKiasmosなどがこの流れを牽引している。
惜しくも今回のリストから漏れた以下のチルアウトクラシックもチェックしてもらいたい:
  1. Brian Eno「Deep Blue Day」
  2. FC Kahuna「Hayling」
  3. Bark Psychosis「Pendulum Man」
  4. Global Communication「14.31」
  5. Aphex Twin「Xtal」
  6. Warp 69「Natural High(Global Communication Mix)」
  7. Sabres Of Paradise「Smokebelch II(Beatless Mix)」
  8. Beloved「The Sun Rising」
  9. Gas「Pop」
  10. Doctor Rockit「Café De Flore」
  11. Leftfield「Melt」
  12. Nightmares On Wax「Les Nuits」
  13. William Orbit「Water From A Vine Leaf」
  14. Groove Armada「At The River」
  15. Primal Scream「Higher Than The Sun(A Dub Symphony in Two Parts)」
  16. Max Richter「Dream 3(Kaitlyn Aurelia Smith Remix)」
  17. Biosphere「Kobresia」
  18. Sun Electric「Entrance」
  19. Ryuichi Sakamoto「Merry Christmas Mr Lawrence」
  20. The KLF「3am Eternal(Blue Danube Orbital Mix)」
  21. Moby「Porcelain」