Gaming
近年、ビデオゲームはアートフォームとして認められるようになっているが、それに伴ってサウンドトラックの再評価もされるようになっている。最近のビデオゲームのサウンドトラックはクリエイティビティと共に大きな進化を遂げているのだ。
実際、ビデオゲームのサウンドトラックを手がけるミュージシャンたちはハリウッド映画も手がけるようになっており(Disasterpeaceが手がけたホラー映画『イット・フォローズ』の16ビット的なサウンドトラックは、この映画の恐怖感を大きく高めることに成功している)、オーケストラによるコンサートホールでの演奏も頻繁に開催されている(『ゼルダの伝説』シリーズなど)。また、SEGAのクラシックタイトル『ベア・ナックル』シリーズや『シェンムー』シリーズのサウンドトラックはアナログレコード化されている。
レコードショップに出向いてサウンドトラックセクションをチェックすれば、クエンティン・タランティーノの映画作品のサウンドトラックの横に、最新のビデオゲームのサウンドトラックが並んでいるのが確認できるようになっている。今回は、そのようなサウンドトラックの中から必聴と呼べる5作品を紹介しよう。
1:『No Man’s Sky』
音楽:65daysofstatic
このSFタイトルはゲーマーからの評価もメディアからの評価も割れているが、サウンドトラックに起用されているアトモスフェリックなエレクトロニカは文句なしのクオリティだ。シェフィールドのバンド、65daysofstaticが、まるで宇宙人が弾いているかのような奇妙なギターサウンドに、どこか掴みどころのないピアノとRadioheadの『Hail To The Thief』で聴けるような性急なドラムを組み合わせたユニークなサウンドを展開している。
2:『THUMPER リズム・バイオレンスゲーム』
音楽:Brian Gibson
ロードアイランド出身のBrian Gibsonは、インディーノイズバンドLightning Boltのベーシストとしての活動が最も良く知られているが、ビデオゲームのサウンドトラックをネクストレベルに進化させたミュージシャンでもある。『THUMPER リズム・バイオレンスゲーム』はリズミカルにボタンを叩きながらスペースビートルになってミステリアスな銀河を飛び抜けていくリズムアクションゲームで、『2001年宇宙の旅』のあのトリッピーなシーン、「木星 そして無限の宇宙の彼方へ」のようなグラフィックスが楽しめる。Gibsonのサウンドトラックは非常に強烈だが魅力的で、このゲームをまるでアシッド漬けの『Guitar Hero』のようにしている。
3:『Hyper Light Drifter』
音楽:Disasterpeace
このアクションRPGは、『ゼルダの伝説』シリーズから大きな影響を受けている作品だが、サウンドトラックはオリジナリティに溢れている。DisasterpeaceことRichard Vreelandは、ディストピアを牧歌的に描いているこのゲームに儚いシンセサウンドを提供しつつ、歪んでいてグリッチーなトラック群で、あらゆるプレイヤーの感覚を不安にさせる。Vreelandがのちにハリウッドのホラー映画の音楽を手がけるようになったのは納得の話だ。
4:『Rain World』
音楽:James Primate
『Rain World』は奇妙なプラットフォーマーだ。プレイヤーは猫とナメクジをかけ合わせたようなキャラクターを操作し、土星のスクラップ工場のような廃れた世界で槍を片手にサバイバルする。このゲームのサウンドトラックはローファイなサイレンと不気味なインダストリアルサウンドに満ちあふれており、キャラクターの感情に沿って変化する構成になっている。James Primateは缶や車のエンジンなど、日常の中に存在する物をドラムのように叩いて演奏しており、本人はこれアプローチが『Rain World』特有の “ジャンク” 感を生み出していると説明している。機械油まみれになって制作しただけあり、聴き応えのあるサウンドトラックになっている。
5:『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』
音楽:片岡真央 / 岩田恭明
任天堂はビデオゲームカルチャーにおけるディズニーであり、オープンワールドを初採用したこの『ゼルダの伝説』シリーズ最新作のサウンドトラックも、その評価にふさわしいクオリティを維持している。『ブレス オブ ザ ワイルド』のサウンドトラックは “美” そのものだ。主人公リンクがハイラルの美しい草原や様々な村を移動する間に、ピュアなメロディがフェードイン / アウトを繰り返していく。また、ガーディアンとの戦闘シーンの音楽は緊張感を煽るピアノのフレーズとエレクトロニカを絶妙なバランスで組み合わせており、サウンドトラックのハイライトのひとつになっている。また祠の中も、バグパイプとストリングスがプレイヤーに畏敬の念を与えることに成功しており、今作がNINTENDO64時代のような一本道ではなく、自由に動き回れる広大な世界なのだということを改めて認識させる。
『ブレス オブ ザ ワイルド』にも『ゼルダの伝説』お馴染みのオリエンタルなフルートやクラシカルなストリングスが登場するが、これまでの『ゼルダの伝説』シリーズよりもエレクトロニックなアプローチが取られている。任天堂は過去の栄光だけではなく、今回のリストに挙げているような最近のインディーゲームのサウンドトラックも参考にしているようだ。