— Red Bull 64Bars、挑戦してみてどうでしたか?
BOSS「64小節キックすること自体は、それくらいの長さをいつもキックしてるので特別感はなかったですね。でもこうやって一発勝負でレコーディングするのは、気持ち的に全然違います。プレッシャーも感じながら、スリルある仕事でしたね。
リリックには、この1〜2ヶ月くらいで俺が思ってたことを反映してます。いま世界でどういうことが起こっていて、自分的にどう感じているかっていうことを入れたかった」
— 世界で起こっていることに対してBOSSさん自身の心情を綴った部分では、『慈悲』という言葉が特に印象的でした。
BOSS「いまの世の中って、『慈悲』みたいなフィーリングと、それを壊そうとする『憎悪』みたいなフィーリングが、対立するものとしてふたつあると思ってて。しかも割と『慈悲』のほうが押されてるような感覚があるんですよね。壊す方が簡単だし。
ヒップホップというもの自体、既存のものを壊してそこからなにかが生まれていくような強さがあるものだけど、でもそうじゃなくて、たとえばなにかを分け合ったり、修復したりとか、そういうマインドから生まれるものもあるんじゃないかなって。そんなことを正々堂々キックするラッパーがいてもいいと思う。
俺はいま52歳で、キャリアとしては折り返し地点くらいにしか思ってないけど、それなりには続けてきて、『慈悲』なんて一見バカバカしいような、いっそ壊してしまったほうが早いと思えてしまうような世の中なんだけど、でももう一回みんなでつくっていくとか、もう一回ひとりひとりができることやっていくんだ、っていうような気持ちがいま強くて」
— そう思うのは、BOSSさんがベテランとして言うべきことというか、役割みたいなものを感じているからですか?
BOSS「役割は全く感じてないですね。64小節っていう限られたバースのなかで、たとえば全てセルフボースティングでやる人だってもちろんいるだろうし、全部誰かへのディスでやろうと思えばできるわけだし、俺の場合はそこで、そういうフィーリングっていうのを入れたかったっていうだけです。シーンにおいての役割なんて意識は全くなくて、自分の個人的な思いです」
— BOSSさんは長くキャリアを重ねてきたなかで、価値観や考え方が大きく変わったことはありますか?
BOSS「最初はただ有名になりたいとか、金持ちになりたいとか、俺が一番かっこいいとか、俺の街が一番ヤバいみたいな、ほんとそれしかなかったです。誰にも負けたくねえって気持ちで札幌から出てきたけど、いま若い人たちも含めておもしろい人たちはたくさんいるのは事実で、そこも楽しんでます。俺と全然違う生い立ちで出てきた人とか、『こんなこと言っちゃうんだ』って思う人とか。最初の頃は『俺が全部持ってる』って感覚だったけど、俺が持ってないものを持ってるラッパーはたくさんいるんだって気付いて。『じゃあ俺しか持ってないものは何だ』みたいな、そういうふうにだんだん変わっていったのが一番大きい変化ですね」
BOSS「しかもその『持ってない自分』を別に卑下することなく、『俺にはこれがあるじゃないか』って思えることがそれなりに自分の身についてきているのも事実なんで、その道中にいるって感じですね。すげえラッパーを見てやられつつも、でも俺にはこれがある、って思ってもう一歩踏み出すみたいな」
— 世代に関係なくみんなと同じ気持ちで続けているというのがBOSSさんの感覚だと思いますが、ベテランになったからこそやるべきこと、みたいな感覚では動いていない?
BOSS「まったくないです。昔は自分たちの地元を離れないで自主でビジネスを展開するとかってことですら新しい時代だった、俺たちが駆け出しの頃は。でもいまはそんなの日本中の人がやってて、俺たちなんかよりもっと大きいことやってる人もいる。たしかに俺は長距離走者ではあるんだけど、みんなからインスピレーションを受けることはたくさんあるし、みんなすごい頭働かせて仲間たちと汗かいてやってるから、そういう人達との勝負がずっと続いてるっていう感じです」
BOSS「シーンにおいてのベテランの役割みたいなことは、音楽を続けるスタミナが切れたようなやつらが言い出すセリフだと俺は思ってるんで。俺は現役のラッパーなんで、曲書いて、キックして…それをお客さんの前で演って『BOSSは昔は良かった』って言われたり、『やっぱりBOSSだな』って言われたり。それを365日ずっと繰り返してるだけだから、ベテランだからとかそんなことは全く考えてないですね」
— 今回Red Bull 64 Barsに出てもらうにあたって、ほかの若手ラッパーたちと同じ土俵に上がってきてくれるのは、嬉しくもあり、すごみも感じたんですが、BOSSさん本人の感覚としては自然なことだったんですね。
BOSS「そうですね。ただ、せっかくの機会なので、64 Barsっていう土俵に上がって、自分がどんなラッパーでどんなヒップホップをやってるかっていうのを、ちゃんと公の場所に出て見せるべきだって思いました。
あとは純粋にOMSBとOlive Oilの64 Barsがすごい良くて。『俺も次やる!』みたいな、そういう感じです」
— ではBOSSさんはこれからどんなラッパーになっていきたいですか?
BOSS「50代とかそれ以上になって現役でバリバリやってるラッパーって世界じゅう見てもあんまり知らないんです。昔すごかった人は山ほどいるけど、いま実際俺と同じような時間ライブして、俺と同じだけの仕事量で作品を出してる人をあまり知らないから、俺自身これから先どういう道が待ってるかっていうのもわからない。未開の地を行くって感じで、楽しみですね」
— いままでもこれからも、まわりから受けた刺激によって自分が変化していくこと自体に対してはどう思っていますか?
BOSS「全然いいと思ってます。俺自身、アルバムごとに変化していると思ってます。長く続けていると、自分のなかで変わるものと変わらないものっていうのがはっきりと見えてくるです。その『変わらないもの』を保つために変わり続けてるって感覚があって、自分の芯は変わらないけど、もっとこうしたほうがいいんじゃないかと思ったら、全然余裕で変われます。
BOSS「昔の曲と今の曲を聴けば、声も全然違うし、言ってることも、欲しがってるものも全く違います。俺の曲を聴いてくれる人たちのなかには『あいつは変わったな』って言って離れていく人もいっぱいいたんですけど、でもいま残ってくれてる人たちとか、帰ってきた人たちも含めてみんな、『でもここが変わってないよな、BOSSは』っていうのを感じてくれてると思うし、だからこそサポートしてくれたり信用してくれたりしてると俺は思ってます」
— ではいま現在のBOSSさんが考える、ラッパーの理想像をひとことで言うと?
BOSS「正直、俺は俺だから、俺が理想像だと思ってます。自分で頭働かせて地元に住みつつも各地の仲間となにかおもしろいことできないかって考えて、それで日本中回って、誰よりも長くライブやって、毎回ちゃんと笑ってステージを降りられてる、そういう俺が理想っしょ、って思ってますね」