ブレイクビーツとジャングルのベース成分を組み合わせて流麗でよりテクニカルなフォームで表現したドラムンベースは、1990年代中盤にUKのクラブやパイレーツラジオを中心に勃興し、1997年にはメインストリーム進出を果たした。
アーメンブレイクはTVコマーシャルなどでも流れ、David Bowieなどの大物アーティストもそのサウンドを取り入れた(ジャングルに影響されたBowieのアルバム『Earthling』をチェックしてもらいたい)。また、Roni Size & Reprazentはデビューアルバム『New Forms』でマーキュリー賞を射止めた。
しかしそのシーンの片隅では、アンダーグラウンドなプロデューサーたちがドラムンベースをさらにチャレンジングな領域に推し進めるサウンドを作り出そうしていた。
そのひとりが、1997年にXL Recordingsから『Sawtooth』をリリースしたJonny Lだ。
ドラムンベースのダイナミクスを音数の少ないメカニカルな解釈で表現したそのサウンドは、ある者にとってはスリリングであり、またある者にとっては劣悪なノイズに他ならなかった。
Jonny Lは、当時を振り返って次のように語る。
「あの『Sawtooth』は俺が当時熱中していたサウンドをミックスした作品だった。自分でも何をやっているのか分かってなかった。ただ、サウンドをどう鳴らしたいのかだけは分かっていたから、できる限りそのイメージに近い形で現実にしようとしていた」
「メッセージを伝える気なんて毛頭なかった。俺は生命や宇宙といったトピックに興味があったから、そういうテーマを音楽に込めたのさ」
俺は生命や宇宙といったトピックに興味があったから、そういうテーマを音楽に込めたのさ
今聴き直すと、『Sawtooth』はドラムンベース史の転換期に相当するように感じられる。このアルバムは、ドラムンベースのアイデンティティをアンダーグラウンドに戻そうとしているサウンドに聴こえる。Jonny Lが続ける。
「1997年をドラムンベースのピークと考えている連中は多い。当時は先進的なプロデューサーやアーティストたちが無数にいて、互いに影響を与えながら、トラックからトラックへアイディアをやり取りしていた」
「当時はおそらくアナログテクノロジーのピークでもあった。人間とマシンが一体になってドラムンベースをさらに進化させる方法を見出そうとしていたのさ」
Jonny Lが選んだ10曲のドラムンベースクラシックを、本人のコメントと一緒にチェックしよう。
1:Renegade「Terrorist」
「1990年代中頃は、ロンドンのパイレーツラジオを聴くたびにこのトラックが流れていた。こいつがプレイされれば必ず踊っていたよ」
2:Splash「Babylon」
「ドラムとベースラインのハマりっぷりがヘヴィで攻撃的だ。以降のドラムンベースサウンドの基礎となったプロダクションだ」
3:Nasty Habits「Shadow Boxing」
「マスターピースだね。このトラックがプレイされると、仲間と一緒にクラブの天井に手が届く勢いで跳ねていた」
4:Source Direct「Black Rose」
「ドラムンベースムーブメントをエキサイティングでフレッシュにした1枚だ。初めて聴いた時に『なんだこれは!?』と思ったのを覚えているよ」
5:DJ Krust「Soul In Motion」
「パーフェクトなローラーだ。初めて聴いたのはBlue Noteだった。インスピレーションを与えてくれるトラックだね」
6:Dillinja「Threshold」
「俺に『破れないルールなんて存在しない』と教えてくれたトラックだ。サウンドはハード&ラウドで、フロアでの機能性も持ち合わせていた」
7:Ed Rush & Optical「Sick Note」
「ドラムンベースを再び進化させたトラック。最高級のデジタルファンクだ」
8:Photek「Complex」
「超がつくほどタイト。1988年頃のハウスミュージックを思い起こさせるね。俺の心の琴線に触れるトラックだ」
9:Bukem & The Peshay「19.5」
「当時乗っていたRenault 5 Turboにサブウーファーを取り付けていたんだが、これは一番好きなドライビング・チューンだった」
10:Jonny L「Piper (Grooverider remix)」
「ミニマルなスタイルのアレンジがこのビッグでヒプノティックなベースを際立たせているおかげで、パーフェクトなリズムに仕上がっている。クラシックなリミックスだ」