Arai's driving technic
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WRC

【WRC基準】奥深き「左足」テクの真実

人気YouTuberのンダホ君を恐怖に陥れた日本最高峰のラリースト新井敏弘選手。脅威のドライビングを切り取ったスピンオフムービーで、世界クラスのドラテクをマルチ画面でチェック!
Written by 渡邊大輔
読み終わるまで:4分Updated on
Red Bull TVでWRC全戦放送を記念して制作した スペシャルムービーで、日本のトップラリースト新井敏弘選手にその神技級ドライビングテクニックを披露してもらったのは記憶にも新しい。そんな撮影の際に、新井ドライブでちょっと気になったのが“左足ブレーキ”の妙技。
普段からドライブを楽しむオーナーやちょっとしたクルマ好きなら「いやいや、ブレーキペダルを左足で踏むなんて、AT限定の素人がやることでしょ」なんて考えてしまうだろう。もう少しレベルが上がった人なら「アクセルとブレーキを同時に操作するならヒール・アンド・トゥでしょ」としたり顔でつぶやくはず。
しかし、WRC参戦経験もある日本のトップドライバーが行うなら、その行為には必ず理由があるはず。かなりの頻度で行われる左足でのブレーキペダル操作は、いったいどんな狙いがあるのか。直接新井さんに聞いてみることにした。
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左足を制する者が世界を制する

「左足でブレーキペダルを踏むこと自体は、WRCでもごく当たり前の操作なんですよね。特にダートや今回のような雪道など路面のミューが低いステージでは、左足ブレーキができることは基本といってもいいくらい。というのも、アクセルを踏み込むとクルマの姿勢は前上りになってしまうよね。そうなるとフロントタイヤに荷重が乗らないため、ハンドルによる操舵が甘くなってしまう。
要するに思った方向にクルマを進めることができなくなるというわけ。そこでブレーキをかけることで、フロント側を沈めて荷重を載せる動作が必要になる。前に進むためにアクセルを踏みつつ、荷重や姿勢をコントロールするためにブレーキも操作しなければならない。そこで活用するのが左足ということなんですよ」
ちなみにヒール・アンド・トゥもアクセルとブレーキを同時に操作するテクのひとつ。しかし、ヒール・アンド・トゥは減速時にシフトチェンジのため回転数を合わせるためのテクニック。
あくまでも減速を目的としているが、左足ブレーキの場合は荷重移動を行うためのきっかけ作りや姿勢制御が目的。そのため強さや長さと言ったブレーキペダルの踏み方自体が変わってくる。このテクニックが身についていてこそ、グリップの低い路面で自由自在のドリフトアングルが狙えるというわけなのだ。
ちなみに日本のラリーストでも正確に左足ブレーキを使い分けられるのはほんのひと握りだとか。まさに“左足を制する者が世界を制する”なのである。

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体が覚えているからこそ神技

「もちろん常にブレーキペダルの操作が左足というわけではありません。減速を目的としたメインブレーキ時は右足でペダルを踏みますし、逆にグリップ力の高い舗装路でも通常と同様に右足でブレーキ操作を行っています。
ちなみに左足でブレーキペダルを踏むと、クラッチペダルはどうするの?と考えるかもしれませんよね。しかし、左足でブレーキペダルを踏むのはあくまでもパーシャルで走行している(ギアチェンジが必要ない)時です。映像ではギアダウン時にも左足はブレーキに行っていますが、このクルマはドグミッションを搭載しているため、アクセルを踏んでエンジンの回転数を合わせれば普通にシフトダウンはできるんです。
そういった意味では、搭載するミッションの種類などクルマに合わせた乗り方が必要な時は、それぞれに合わせた足の使い方を行っているのは当然ですが。まぁ、この辺りは体が慣れてしまっているため、特に意識しているわけではありませんけどね」
意識しなくても勝手に体が反応するのはもはや職人の領域に達しているからこそ。全編笑顔でドライブしている映像からも、新井さんにとってこのテクニックが特別な物ではないことがわかるはず。ンダホ君大絶叫のドライブも、実は新井さんにとっては鼻歌交じりのクルーズだったりもする。実際に、本番のレースではさらに激しいペダルワーク&ハンドル捌き、シフトチェンジで右へ左へとさらにハードな走りを行っているという。そんなエナジー全開の走りをされたら、コドライバーとして搭乗していたンダホ君がさらに大変なことになっていたのは間違いない。