アート&デザイン
アイドル展 前期「とりあえずYoutube」・後期「大事なお知らせがあります」
新宿眼科画廊にて“アイドル好きによるアイドルに捧げる展示”アイドル展が開催されました。
【画像】16歳の生誕祭©だつお
アイドルが描きたい、そしてそもそもアイドルってなんなんだ、という思いからはじまったこの展覧会。
展示は前期と後期に分かれており、“アイドル初心者によるライトな入門編”という前期にはアボット奥谷さん、谷口菜津子さん、玉川ノンちゃんさん、松尾モノさん、“アイドル上級者によるちょっとディープな応用編”という後期にはborutanext5さん、だつおさん、はいゆにさん、寳樂圭さんが参加しています。
参加作家は、最近気になっていたわりとファンシーな絵を描くアーティストばかり。そうか、みんなアイドルが好きだったんだ、と納得半分、その不思議を検証したい気持ち半分で会場へ。筆者が訪れた日は、後期が開催されていました。
会場に入ると、入口でかまえるように、等身大サイズの作品が展示されていました。
こちらの作品の作者はだつおさん。
だつおさんには、先日の 都市ソラリス展、 もうひとつの都市ソラリス展、の記事にも登場していただきました。
下のキャンバスには、アイドルと出会ってから最近までの出来事や、アイドルへの思いが綴られています。そこに書かれていたのは、アートとしての表現というよりも、ただただアイドルが好きな女の子の日常。
でも全体としては、やっぱりだつおさんとしかいいようのない表現になっていて、そんなもやっとしたところや、日常性、だつおさんの存在そのものが作品化されているようです。アイドルがアイドルであることと、女の子の身体性はおそらくとても関係があると思うので、だつおさんの作品は今回のアイドル展のある側面を体現しているような気がしました。
下の作品はborutanext5さんの作品。USBからアイドルが飛び出したようなところが描かれています。たしかにビデオや画像、テキストが保存できるUSBは、今やアラジンの魔法のランプのように、魔的な何かが飛び出す存在なのかも。
下は、はいゆにさんの陶器による作品。こちらはぜひ実物を見たいと思っていた作品のひとつだったのですが、実際に見て、その可愛らしさと精緻さに感動しました。2Dと3Dが融合したようなテクスチャーが独特。絶妙な形といいセンスといい、他の作品も観てみたいと思いました。
下は後期唯一の男性作家、寳樂圭さんの作品です。寳樂さんが注目したのは、アイドルファンの“オタク”の人でした。寳樂さんいわく「オタクだって“アイドル”になりたい」とのこと。“アイドル”を好きな女性の気持ちには少なからずきれいなものに同化したい、という気持ちがあると思うけれど、じつはそこに男女の境界はないのかもしれません。
【画像】左:「誰かが言ったヒコトコで 気持ちがガラッとかわる 誰かのためでなく その人自身のために言ったコトバなら より強く。」右:「大切なことは全部、Berryz工房から教わった」
今回の展示を企画した松尾モノさんとだつおさん、そして新宿眼科画廊のディレクターであり、昔から二人のことを知っているたなかちえこさんにお話を聞かせていただきました。
−松尾さんとだつおさんの出会いから聞かせていただけますか?
だつお いつだったんだろう・・?私は pixiv※1でモノさんのことを知っていて、見ていました。
だつお あ、そうかも。pixivでチェックしてコミティアのブースに行ったとかかもしれません。確実に覚えてはいないんですけれど。
松尾 多分、4年ぐらい前ですよね。その後は顔と名前は知りつつも、別に喋ることもなく、ネットで交流することもなく、という感じでしたね。けっこう二人とも、違う畑で活動している感じがありました。
だつお その辺の違いが前期と後期のカラーに表れている感じがあります。
−前半は松尾さん、後半はだつおさんのキュレーションですか?
松尾 そうですね。お互いに呼びたいと言っていた作家が大体4人ずつだったので、そのまま分かれて。前期の人はイラストとマンガ界隈の人たち、後期はアート界隈の人たちという感じになりました。
−ギャラリーで発表する時に、アートとして発表するという意識はあったりしたのでしょうか。
だつお それは全然ないですね。
田中 私もそこに垣根はないです。面白い企画があったら提示したいというスタンスで、それをどういう文脈でとらえるかは、観る人が決めてくださればいいかなと思っています。現代美術って、けっこう狭いところでまとまってしまって、あまり社会との接点がないというところがあると思うんですけれど、もう少し広がりがあってもいいんじゃないかな、と思うので、ここでは色んな人が出入りできる展示をやっていけたらと思っています。
松尾 単純にネットでアイドルを描いていて、それを見た方が「普通に展示でも見たいです」といってくれたので、やりたいなという気持ちになって。それで去年の春ぐらいにツイッターで「アイドルイラスト展やりたい。」とつぶやいたら、だつおさんと寳樂さんがそれに瞬時に反応してくれて。それでやりましょう、ということになったんですよね。
−ツイッターで何かやろう、と盛り上がることってよくありますけど、その時は結構リアリティがあったんでしょうか。
だつお この時は結構やりたかったです。
松尾 私も普通にやると思っていましたね。ただ、みんななかなか会う機会もないし、連絡をよこさない人たちだったので、その後すぐには何も進まなかったんですけれど、去年私が「 帰ってきた! もしもし展-肖像自画展-」という展示をやった時にだつおさんと「たぶん眼科画廊だったら展示させてくれる気がする・・」とか話していて。
田中 あはは(笑)。
松尾 その後に眼科画廊で谷口菜津子展があった時に田中さんにお話して、やることが決まったんです。
−今回の企画のコンセプトってどんなことだったのでしょうか。
だつお 「アイドルを描きたい」。
田中 そうですね、アイドルへの溢れでる愛ですよね。
松尾 一回まとめてみたかった、という。
田中 描いている人が「アイドルを好き」ということが観る人にも伝わってきて、ツイッターでたくさんの人が感想を書いてくれたりして、それを見てまた感動したりしていました。
−実在のアイドルの方がモデルになっているんですか?
だつお 私の絵のモデルは AKB48のまゆゆ(渡辺麻友)です。毎年3月にまゆゆの誕生日を祝う生誕祭というのがあって、その時にファンが結成した実行委員会でつくっているメッセージカードというのがあるんです。そのカードのイラストを毎年担当しています。今回展示した作品は、そのカードに使用したデータを絵の具で描いたものです。
田中 ファンの方にどういう風に受けとめられるのかわからなかったんですが、批判みたいな意見は全然なくて、自分が好きなアイドルのことをこんな風に描いてくれて嬉しい、という声が多かったですね。本当に好きで描いているから、好意的に受け入れられたんだなあ、と思いました。
−本物のアイドルの方も見に来られたそうですね。
田中 夢眠ねむさん(でんぱ組.)と寺嶋由芙さん(元BiS)が来て下さいました。ねむさんは多摩美術大学の出身で、谷口菜津子さんの先輩なんです。それで谷口菜津子展にも参加したりしていて、作家の皆さんも結構身近な存在という風に感じています。でも、やっぱりアイドルは、近くにいるけど遠い存在でもあるような気がします。
松尾 ねむさんは私の中でやや偶像的な存在というか、実際に街中で会ってしまったら「あっ、やばい」みたいな。ちょっと隠れてしまいたい、という感じです。だから、今回はねむさんに会えなくて良かったのかなという気がしています。
−やっぱり神聖な存在という感じなのでしょうか。
松尾 小さい頃「セーラー・ムーン」や「カードキャプターさくら」に憧れたとか、そういう感覚に近いような気がします。私はわりとねむさんに「カードキャプターさくら」のイメージを重ね合わせて、わけのわからない感情をもっていたりしますね。
−それが作品にも表れているんですね。
だつお それは思いました。飛んでる感じとかが。
松尾 やっぱり、立体というよりかは、二次元ぽい感じで考えているので。
だつお 2.5次元。
松尾 まゆゆもそんな感じがしますよね。
だつお そう!まゆゆはずっとCGと言われてて。今でも大好きです。
−だつおさんがツイッターでもっと色んな人が描いたアイドルの絵を見たい、とつぶやいていたのが印象的でした。
だつお 見たいです!
松尾 やっぱりアイドルってみんなのものというか、そもそも今回も「版権」を描いてるというイメージで。二次創作している感じといいますか。完全なオリジナルではないから、みんなも描いていて当然だと思っていますね。
−今回の展示から、また二次創作的に広がっていくかもしれないですね。
松尾 そうですね。みんな普通に描いていければいいんじゃないかな、と思います。
以上、三人のインタビューをお届けしました。
今回参加された作家さんたちは、インターネットで面白い活動している方が多く、ネットでの出会いからネット上のアートの話をお聞きし、その土壌の豊かさなどとても興味深いと思いました。
最初のアウトプットやアイデアの発火点はデジタルメディアで、そこからアナログの線が描き起こされ、それに絵の具なり、クレヨンなりといったメディウムを塗るという行為。旧来の発信方法とは逆の課程をたどっていたりするわけですが、そんなアーティストたちのポップで透明な表現には、はかなさと強さが同居している。そんな魅力に気づかされた展示でした。
※1 pixiv(ピクシブ):2007年に公開された、ピクシブ株式会社が運営するイラスト投稿・閲覧サイト / ソーシャルネットワーキングサービス。イラストレーターやアニメーターによる投稿が多い。ユーザが絵を投稿すると、閲覧者はその絵に評価、ブックマーク、コメントすることができる。
※2 コミティア:1984年からつづく、コミティア実行委員会が運営する自主制作漫画誌展示即売会。一般的な「漫画同人誌」はいわゆるパロディ・二次創作と呼ばれるファンフィクションが主流だが、コミティアは「創作物の発表の場」としてオリジナル作品のみに限定しており、漫画のほかにイラスト、小説、評論、音楽、グッズなども販売できる。現在では東京、大阪、名古屋、新潟の4都市で開催されている。
アイドル展・前期「とりあえずYoutube」
会期:2014年4月4日 ~ 2014年4月9日
参加作家:アボット奥谷、谷口菜津子、玉川ノンちゃん、松尾モノ
アイドル展・後期「大事なお知らせがあります」
会期:2014年4月11日 ~ 2014年4月16日
参加作家:borutanext5、だつお、はいゆに、寳樂圭
会場:新宿眼科画廊
住所:東京都新宿区新宿5-18-11
電話:03-5285-8822
松尾モノ / MATSUO Mono
2013「ドブの中からこんにちは」(新宿眼科画廊 / 東京)
「帰ってきた!もしもし展」(Gallery Conceal / 東京)
「谷口菜津子展」(新宿眼科画廊 / 東京)
「おらたち、あまちゃんが止まらねぇ!!展」(新宿眼科画廊 / 東京)
「マナブとユタカ展」(gallery commune / 東京)
2012「もしもし展」(Gallery Conceal / 東京)
2011「ウホウホ方法」(Hidari Zingaro / 東京)
「土星3号発刊記念展 地方都市」(ペーターズギャラリー / 東京)
HERBEST展」(Hidari Zingaro / 東京)
だつお / datsuo
2001年インターネット上で誕生。
MAXとSPEEDが好きでダンス部を作り、モーニング娘。を学童で踊る。メンバーになりきる交換ノートなどをしてたのしむ。 その後、Berryz工房の1stアルバムをはいゆにに借りて感動する。2007年AKB48のダンスを踊ることになる。秋葉原なら行くしかないと調査を兼ねて行った所、チームB壁掛け写真を見て一番最後のまゆゆこと渡辺麻友を見て一目惚れ。初めての劇場公演で現存するまゆゆに出会う。足繁く劇場に通い、毎回ドンキホーテでポストカードを買ってびっしり手紙を描きプリクラを貼って運営に渡した。公演が完全抽選制になり、当たりづらくなってだんだんと遠くなっていった。2010年まゆゆ生誕祭実行委員にメッセージカードを頼まれ、イラストを描く。以降、ほぼ毎年描くこととなった。
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宮越 裕生(Yu Miyakoshi)
ライター。執筆範囲はメディアアート、ファインアート、写真、旅、猫。大学時代に絵画を勉強し、近ごろ境界領域の表現可能性、メディアアートと写真に出会いまた新たにアートに目覚める。CBCNET、HITSPAPER、greenzなどのHPを中心に執筆しています。今ここを伝える文体を研究中。