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ダンス
【ブレイキン】バトルの戦略を学ぶ
ブレイカーたちはバトルでアドバンテージを得るために様々な戦略を用いている。そのような戦略の中から代表的なものをピックアップして紹介しよう!
1on1のブレイキンバトルは、ブレイカー2人がスキル、ムーブ、キャラクター、スタイル、音楽性で対戦相手を上回ろうとしながら交代でパフォーマンスを披露していき、すべてのラウンドが終わったあと、ジャッジが勝者を決めるという流れになっている。しかし、この流れの中にはB-BoyとB-Girlたちの戦略が存在し、そのような戦略がバトルの結果を決めるときは少なくない。
今回はブレイキンの戦略の中から代表的なものをいくつか紹介しよう!
1分
ブレイキン:バトルタクティクス
Menno、Lilou、Shigekixがバトルの戦略・戦術面について語る(英語音声)
01
先攻・後攻
対戦相手よりも先にパフォーマンスを始めるブレイカー、つまり “先攻” のブレイカーは、先制攻撃を仕掛けることができる。最初のラウンドの最初のパフォーマンスはジャッジたちの判断基準に影響を与えると同時に、バトルの基準を定めることになる。
先攻のブレイカーになれば、バトルの音楽性・パフォーマンス・運動能力・難度のレベル設定ができる。後攻はそのレベルに合わせなければならなくなる。つまり、先攻には後攻がパフォーマンスをする前にそのラウンドを手中にできる可能性があるのだ。
たとえば、先攻のブレイカーがダイナミックなスタイルを備えていて、音楽性とカリスマ性にも富んでいる場合、後攻のブレイカーがこれらの要素で上回るのは難しくなる。このように先攻のブレイカーがリードを得れば、後攻のブレイカーは中盤以降のラウンドでかなり良いパフォーマンスを見せなければならない状況に追い込まれる。
また、自分のために先攻を選ぶブレイカーも存在する。ブレイキンバトルは緊張とアドレナリンに満ちているため、考えすぎて頭がパンクしてしまわないようにあえてパフォーマンスを先に済ませようとするブレイカーがいる。緊張をほぐしてバトルモードに自分を切り替えるのだ。
Victorとのバトルで先攻を選択してラウンドの主導権を握ったUzee Rockのパフォーマンスをチェック!
9分
Quarter-finals: Victor vs Uzee Rock
It's America versus the Ukraine in this quarter-final battle, as Victor takes on Uzee Rock.
一方で、後攻にもアドバンテージが存在する。
まず、後攻のブレイカーは、先攻のブレイカーのパフォーマンスを見て自分のパフォーマンスを決めることができる。また、対戦相手に対抗するあるいは対戦相手を上回るために必要なムーブを選び直す時間も得られる。
さらに、先攻のブレイカーがムーブに失敗した場合、後攻のブレイカーはそのラウンドでリスクを負ってビッグムーブを狙うか、安全策を取ってクリーンなムーブのメイクに徹するかを決めることもできる。
対戦経験がないブレイカーと対戦するときも、後攻を選択すれば対戦相手のムーブやスタイル、キャラクターを先に確認してどのように対抗していけば良いのかを考えることができる。
音楽が先攻・後攻の決定に絡んでくるときもある。DJがプレイするトラックを知らない、または上手く感じ取れないときは、後攻を選択することでその音楽に入り込んだり、リズムパターンを掴んだりする時間を得ることができる。
そして、先攻と同じように、自分のために後攻を選ぶブレイカーも存在する。先攻の方がプレッシャーが大きいと感じるブレイカーは、自分でバトルのレベルを設定できる権利を捨てて、対戦相手の出方を待つことを好んでいる。
どちらのブレイカーも後攻を望んでいると、バトル開始直後が硬直状態になるときがある。例として【Red Bull BC One 2018】のファイナルを挙げておくので、チェックしてみよう。
7分
Lil Zoo vs Luigi – final
The finalists Lil Zoo and Luigi go head-to-head to decide who'll be crowned the Red Bull BC One 2018 champion.
02
心理戦
ブレイキンの戦略のひとつに「対戦相手の集中を切らす」がある。集中が切れてしまえば、自分のスキルやパフォーマンス能力に疑念が生じるようになる。対戦相手をこの状態に持ち込めれば、勝利が近づく。
対戦相手の集中を切らす方法はいくつか存在する:
① 対戦相手が上手くパフォーマンスできていないことを特定のジェスチャーで伝える:
- フロアを叩くことで対戦相手がムーブを失敗したことを伝える。
- 指で数える仕草をすることで、観客とジャッジに対戦相手が同じムーブを繰り返していることをアピールする。ブレイキンのバトルではムーブの繰り返しは「やってはいけないこと」のひとつに含まれる。
- 音楽のビートから少しずらして手を叩くと対戦相手のパフォーマンスがリズムに合っていない、のれていないことを伝えられる。
- 自分の耳を指差すことでも対戦相手が音楽とシンクロできていないことを伝えることができる。
- ノートにメモをする真似をすることで、対戦相手が音楽に合わせてアドリブでパフォーマンスする代わりに、事前に用意したパフォーマンスを繰り返していることをアピールする。
② ブレイキンのバトルではトラッシュトークも見られる(上記のジェスチャーや後述するバーン / Burnより使用頻度は低い):
トラッシュトークでは、対戦相手に音楽のリズムからずれていること(オフビート)やムーブを繰り返していることを直接伝えたり、ルーティンを “ワック(wack / ダサい・いけてない)” と評価したり、ミスやクラッシュ(ムーブの失敗)をわざと取り上げたりするのだが、批判がその目的ではない。
トラッシュトークの目的は、対戦相手の自信を揺るがして集中を切り、メンタルで優位に立つことにある。
バーン(Burn)はちょっとした行為ややり取りを意味し、対戦相手の自信を損なうまたは対戦相手に恥をかかせることを目的としている。
ブレイキンのバーンには様々な種類が存在するが、対戦相手に握手を求めて歩み寄ったあと、対戦相手が応じて手を差し伸べてきたときにすっと手を引いて握手を拒否する行為がシンプルなバーンの例だ。また、対戦相手のパフォーマンスをふざけて真似するのもバーンに含まれる。
このような心理戦は対戦相手をゾーンから引きずり出し、パフォーマンスレベルを下げるために用いられる。自分のスキルが対戦相手に敵うレベルではないのに心理戦を仕掛ければ、逆に自信過剰に思われてしまい、ジャッジと観客の印象が悪くなってしまう。
03
全力かセーブか
一部のブレイカーは、対戦相手を問わず最初からベストムーブをメイクしていくプランでイベントに臨んでいる。このようなブレイカーは、対戦相手が簡単に勝利できるブレイカーだということが分かっていても、全力を出してくる。
この戦略を用いているブレイカーは「負ければ次はないので、目の前のバトルに集中するだけ」というマインドセットを備えているが、イベント後半で “ネタ切れ” になってしまい、ムーブの繰り返しやフリースタイル、または実戦で用いたことがないムーブの使用を強いられるリスクを抱えている。
この戦略の真逆が「イベント後半のトップブレイカーとの対戦までベストムーブを残す」だ。こうすることで、ファイナルやトップブレイカーとのバトルでもベストムーブを披露して勝利を引き寄せることができる。
しかし、こちらにも、イベント前半に対戦するブレイカーを過小評価してしまい、早々に敗退してしまうリスクが含まれている。ベストムーブを出し惜しみして、凡庸なムーブだけをメイクしていれば、予選を突破できない可能性もある。
04
対戦相手の弱点を攻める
マスターしているムーブの数とバラエティが多いブレイカーは、対戦相手がメイクできないムーブをメイクしてジャッジにアピールしようとするときがある。対戦相手の弱点、またはスタイルの欠点を突こうとするのだ。
たとえば、対戦相手が音楽性やフットワークなどを無視してパワームーブを多用してきた場合、パワームーブで対抗したあとでフットワークやフリーズをメイクしたり、音楽性をアピールしたりすれば、対戦相手が “しなかったこと” を強調できる。
BartとMonkey Kingのバトルをチェック!
3分
【Red Bull BC One World Final 2019】:Bart vs. Monkey King
また、対戦相手がトップロックやフットワークだけのルーティンを用意している場合は、トップロックやフットワークで対抗したあと、パワームーブやトリック、トランジション、フリーズで対戦相手の弱点を攻めることができる。
対戦相手よりもバラエティに富んでいてハイクオリティなパフォーマンスを披露できるブレイカーの方がバトルに勝利できる確率が高いと言えるだろう。
2024年は夏のパリに続き、12月には【Red Bull BC One World Final 2024】もリオデジャネイロで開催されるため、“ブレイキンイヤー” と言えるだろう。過去に開催された【Red Bull BC One World Final】のハイライトを視聴して、トップブレイカーたちの戦略を学んでおけば、バトルの観戦がさらに楽しくなるはずだ!
Red Bull BC One World Final
『Red Bull BC One World Final』が、ヒップホップ・ブレイキンの聖地「ニューヨーク」で開催決定!!世界中から各国内大会のチャンピオンたちが集結し、1 on 1形式の直接対決を繰り広げる。世界最高レベルのスキルを持つ猛者たちを制し、ブレイキンの歴史に名を刻む真の王者に輝くのは一体誰だ!?
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