山頂に立つのは素晴らしい体験だが、そのためには何が必要なのだろうか?
登山には、長距離だがテクニカルではないトレイルをひたすら進むエクストリームなバックパッキング、山頂付近でのスクランブリング、険しい稜線でのウォーキング、ほとんど登攀が不可能と思える凍りついた岩壁でのマルチピッチ・クライミングまでが含まれる。
そして、そのスケールは1日で完了できるものから、数カ月を要するものもまで様々だが、スケールを問わず十分なフィットネスとある程度の登山技術のノウハウを揃えている必要がある。また、チャレンジに合った正しいメンタリティを備えておくことが何よりも重要だ。
そのメンタリティを備えていると思うなら、今回紹介する海外登山でのヒントと入門ガイドを読んで、世界各地の山に挑戦してみよう。もちろん、国内で初めて本格的な登山に臨むビギナーにも役立つヒントが含まれている。
1:フィットネスを鍛え、登山技術を磨く
海外、国内を問わず、登山は体力が資本だ。ウォーキングや階段使用を日常生活のルーティンにし、そこにランニングとサイクリングを加えて基礎的なフィットネスを高め、ウエイトで上半身の筋力をアップさせよう。
また、クライミングジムでハーネスの使用法やビレイイング、ロープの結び方などの基本を把握しておこう。
次に、重いリュックサックを背負って地元の山を登ってみよう。複数日に渡るバックパッキングを体験し、スクランブリングを練習する機会を設けて険しい岩山やリッジでの自信をつけておこう。ソロだけではなく、ロープを使ってパートナーとも登っておこう。
最後の仕上げとして、上記の登山技術を冬山でも問題なくこなせるようにしておこう。厳しい寒さの中での登山は少なくない。
2:山を選ぶ
テクニカルなルート、花崗岩の岩壁、氷河で覆われた山々、アイスクライミングやミックスクライミング、あるいはシンプルな登山など、自分が挑んでみたい地形について考えを巡らせ、次に長期的な目標とそのための道筋を計画してみよう。
クライミングでは、その高さ(1,000m単位)と岩石の傾斜度や露出度によるクラス分けによってグレードが決められており、平坦でリスクのない1、傾斜度と障害物が増す2と3、両手両足のスクランブリングが求められる4、ロッククライミングスキルが求められる非常にテクニカルな5となっている(Yosemite Decimal Grade / 米国のグレードシステム。フリークライミングはすべて5以上のため5.10aなどと表現される)。
登山のグレード分けも似ているが国によって異なる。ただし、広く知られているのはIFAS(International French Adjectival System / フランスのグレードシステム)で、最もイージーなF(Facile)から、PD / AD / D / TDを経て最高難度のED(Extrêmement Difficile)まで設定されている。
また、登山では過度の野心は禁物だ。無理をして失望感を得るよりも、達成感を得ることを優先しよう。
3:登山講座を受講する
海外では “山岳バイブル” と称される名著『Freedom of the Hills』の日本語訳は未出版だが、本格的な海外登山に挑戦するつもりなら原書を読んでおく価値はある。
また、登山の基本を教えてくれる友人がいても、登山講座を受講しておくに越したことはない。ガイド同伴で登山しておけば、その場でフィードバックを与えてもらえるだけでなく、必ず役に立つ経験が得られる。
通常、海外での登山講座は1クラス6日間・2〜3ルートで開講され、ルート計画やナビゲーション、安全確保、ロッククライミングなどのハウツーに加え、天候分析や山岳レスキューなどについても学べる。
一部の登山講座では雪や氷を伴う登山をカバーし、セルフアレスト(雪・氷に覆われた斜面での滑落停止方法)や氷河でのハイク方法なども学べる場合もある。このような知識を身につけておけば、山の中で自信を持って決断を下せるようになる。
4:地図の読み方をマスターする
ナビゲーションの経験は豊富であるほど良い。まずは自宅で地図を広げてみて、2地点間のコースを考えてみよう。自分が実際に踏破できるコースを計画し、ナビゲーションの目印となるポイントを見つけておこう。
GPSやコンパス、高度計、地形図、三角測量図、方位、風景写真などあらゆるツールを駆使してみるべきだ。地図の読み方に自信が持てるようになったあとは、迷った時に元のルートへ戻るシミュレーションをしておこう。
自分のペースをシミュレートしておくことも肝心だ。ペースが決まっていれば、日程が予定以上に延びたり、無駄に疲労したりするのを防げる。
シミュレートは正確に行おう。自宅周辺に同じ距離を用意して、ペースを算出してみよう。また丘陵地帯でも試しておこう。標高が高くなって傾斜がきつくなったり、疲労が蓄積したりしてきた時のペース変化を把握できる。
5:正しい登山用具を揃える
複数のレイヤーを用意しよう。メリノウール製のソックスとリムーバブル式のソフトなインナーを備えた堅牢なブーツを揃えておけば足元の気持ち悪さを回避できる。基本的な用具をしっかり収納できる軽量のバックパックも購入しておきたい。
登山にクライミングが含まれるなら、ハーネスやヘルメット、適切な長さのロープなど適正なクライミング用具一式も必要だ。また、氷を攻めるなら12ポイントのセミリジッド・クランポンとカーブの緩やかなアイスアックス(長さ60cm〜90cm)を揃えよう。
登山は早朝スタートが多く、暗闇の中でルートを見失うのは絶対に避けたいので、ヘッドランプは必携だ。また、安価なテントで妥協するのはNGだ。出費を惜しめば、風速120km/hの強風や氷雪に見舞われた時に後悔するだろう。緊急事態に備えてビビィバッグやファーストエイドキットも用意しておこう。
6:標高に慣れる
3,000m級以上の山では標高の影響を受けることになるが、甘く見るのはNGだ。軽度の高山病でも不眠症や食欲減退、嘔吐感などを引き起こす場合があり、これらはモチベーションやフィットネスに悪影響を及ぼす。
最悪、肺に水がたまる肺水腫を引き起こしたり、命の危険に晒されたりすることもある。
高山病を防ぐには、アクリマタイズ(順応)が必須だ。ゆっくりと登山したあと、麓でキャンプして身体を慣らしていこう。飲食したい気持ちでない時でも水分と栄養は必ず補給しよう。
トレイルでは加圧呼吸法で血中に酸素を送り込み、ペースを落とし、一定のリズムで歩くようにしよう。目まいがしたり咳き込むようなら、速やかに下山しよう。
7:計画は綿密に
最初は情報が多くルートが明確な山から始めよう。ペースを念頭に置いて日程を計画し、あまり無理のないようにしたい。
急激・急峻な登りは地図上ではイージーに見えても、1日中重いバックパックを背負ったあとでは非常にタフになる。標高が高いエリアならそのタフさはさらに増す。天候変化を踏まえ、常にバックアッププランを用意しておこう。
入山許可や海外渡航のためのビザ取得など、ロジスティックス面についても綿密な計画が必要で、当然言語の壁も立ちはだかる。
登山当日は、夜明け前に出発して午後の早い時間帯に下山するようにしたい。特に氷の多い地域では、太陽の熱で氷が溶けるので日中は落石が増えることもある。
常に柔軟に対応することが基本原則だ。標高の高いエリアで不測のビバークを強いられるような状況に自分を追い込まないようにしよう。
8:時間をかけてスキルを磨く
ステップバイステップでスキルアップしよう。初のビッグトリップで無理をするのは禁物だ。安全な環境でスキルアップして、そのスキルを実際に使う前に自信をつけておこう。
このようなスキルアップは山でなくても行える。クレバス脱出は自宅でも練習可能で、アイスアックスを使ったセルフアレストはぬかるんだ土手でも問題ない。
コンディションを読む感覚を身につけるには登山を重ねる必要がある。また、パートナーと協力しながら安全かつ効率的に行動し、ピッチクライミングとショートロープ・ハイキングの見極めができるようになるまでも時間がかかる。
最後に、海外登山で難しさを感じたら、恥ずかしがらずにガイドを頼もう。ガイドはむしろ登山家としての自分をネクストレベルへ引き上げる助けになる。自分ひとりよりもエキスパートと一緒の方が安全にスキルを高められる。