魅力溢れるブレイキンシーンを覗いてみよう。重力を否定するムーブにリズムとスタイルを組み合わせているこのダイナミックなアートフォームは、ユニークなスキルをダンスフロアへ持ち込めるワールドクラスのタレントを何人も輩出してきた。
そこで本記事では、“優秀なブレイカー” のひと言では片付けることが難しい、シーンのゲームチェンジャーとしても認識されているワールドクラスB-Boyを7人集めて紹介する。彼らはダンスフロアを真っ白なカンバスに変え、全身を駆使してそこに複雑なパターンを描きながら、人間の身体能力とクリエイティビティの限界をプッシュし続けている。
世界を代表するB-Boyたちのユニークなキャリアとレガシーを学んでいこう。
01
Lil Zoo
- 所属:El Mouwahidin / Red Bull BC One All Stars
- 出身国:モロッコ
- ブレイキン歴:2008年〜
- 【Red Bull BC One World Final 2018】B-Boyチャンピオン
モロッコ・カサブランカ出身のB-Boy、Lil Zooは世界的な評価を獲得した初めてのモロッコ出身ブレイカーとして歴史にその名を残している。14歳でブレイキンと出会った彼は地元のクルーLhiba KingzooのB-Boy Yoriyasに基本を学んだ。
スピードとパワーを兼ね備えているスタイルで知られるLil Zooは強烈なパワーコンボとダイナミックなフリーズ、大胆なアクロバティックスを組み合わせることでキャリア初期からビッグイベントで活躍を見せ、2012年には【Red Bull BC One 中央・東アフリカ】サイファー優勝などを手にした。
Lil Zooのターニングポイントになったのがオーストリアへの移住で、この生活の変化は彼の視野を広げると同時に彼にさらに多くのチャンスをもたらすことになった。
意図的だったこの移住は、台湾で開催された2018 Battle In Taoyuanやオランダで開催されたWorld Breaking Classic、スイスで開催された【Red Bull BC One World Final】などのビッグイベントでの勝利として結実。また、これらの勝利はモロッコのブレイキンシーンに光を当てることになったが、Lil Zooはこのような形で母国へ恩返しできたことに大きな誇りに感じている。
世界を舞台に幾度となく結果を残してきたにもかかわらずLil Zooは学ぶ姿勢を忘れておらず、今も成長を続けている。ブレイキンが元々備えている “進化し続ける” という特徴とこの特徴が提供する学習機会を彼は楽しんでいるのだ。
ブレイキンのグローバルコミュニティはこの先もLil Zooに注目すべきだろう。この才能溢れるブレイカーは世界各地のステージでその見事なスタイルを披露し続けるはずだ。
02
Menno
- 所属:Hustlekidz / Red Bull BC One All Stars
- 居住国:オランダ
- ブレイキン歴:2001年〜
- 【Red Bull BC One World Final 2014 / 2017 / 2019】B-Boyチャンピオン
Menno(本名:Menno van Gorp)はブレイキンシーンで最も独創的でコンペティティブなB-Boyのひとりで、ほとんどすべてのソロのビッグタイトルを手にしている。
オランダ南西部に位置するティルブルフで生まれ育ったMennoは2001年に12歳でブレイキンを始めた。そして世の中のブレイキン人気と年上の従兄弟に影響を受けた彼はブレイキンをキャリアに変えると、想像さえできなかった高みへと登っていった。
オリジナリティが高く評価されているMennoは、バックロックを時折組み込みながらムーブからムーブへとシームレスに移行できるトランジションで独自のスタイルを確立させており、ブレイキンに対するそのクリエイティブなアプローチとともにソロ部門で数多のタイトルを手にしてきた。
Mennoがこれまで手にしてきたビッグタイトルには2007年と2013年のUK B-Boy Championships、Battle of the Year 2013、Unbreakable Championships 2013、2015 R16、そして2019 WESF World Breaking Championshipsなどが含まれている。
しかし、本人が最も誇りに思っているのはパリ、アムステルダム、ムンバイで手にした【Red Bull BC One World Final】優勝だ。
ユニークなスタイルに支えられた素晴らしいキャリアを手にしているMennoは、ブレイキンのインターナショナルシーンを地元に持ち込むことでコミュニティへ恩を返そうとしている。
Mennoは人生だけではなく、友情とファッションセンスもブレイキンとヒップホップの影響を受けていることからダンスに対して感謝の念を持っており、コミュニティをさらに成長・進化させたいと考えている。
03
Shigekix
- 所属:K.A.K.B / Red Bull BC One All Stars
- 出身国:日本
- ブレイキン歴:2009年〜
- 【Red Bull BC One World Final 2020】B-Boyチャンピオン
Shigekixは世界を舞台に活躍している日本・大阪出身のB-Boyだ。
7歳のときに姉のB-Girl Ayaneからブレイキンを教わったShigekixはすぐにフリースタイルダンスから転向すると高速・高精度のパワームーブとリズム感と安定感に優れているフリーズでワールドクラスのB-Boyへと成長した。本人は自分のスタイルを “音楽性・複雑なパターン・爆発的なパワームーブのブレンド” と表現している。
Shigekixのキャリアはいくつもの勝利と歴史的瞬間によって成長を続けているが、最初のターニングポイントになったのがフランスで開催されたChelles Battle Pro 2014のU-12 Baby Battle(12歳以下部門)での優勝だった。
2012年の同イベントでのバトルで敗れており、雪辱を期していた米国出身のLil Demonを破って悲願だったこのビッグタイトルを獲得したShigekixは、続く2016年にも1on1 Nothing2Looz World Final KidsとHustle and Freeze Solo、Marseille Battle Pro 1on1 Kidsを制した。
その後、Shigekixはアムステルダムで開催された【Red Bull BC One World Final】に15歳で出場して同イベント最年少出場記録を更新すると、2018年のユースオリンピックで初めて競技に採用されたブレイキンにも出場し、銅メダルを獲得した。
現在、Red Bull BC One All Starsのメンバーとして活動しているShigekixはワールドワイドな活躍を見せているが、本人が最も誇りに感じているのは【Red Bull BC One World Final 2020】優勝だ。
また、Shigekixはブレイキン以外でもクリエイティブな才能を発揮しており、イラストや3Dアート、写真も楽しんでいる。最も大きな影響を受けた姉Ayaneに導かれて独自のキャリアを築いてきた彼は2024年のパリとより大きな舞台での活躍に照準を定めている。
04
Amir
- 所属:Predatorz / PDVL
- 出身国:カザフスタン
- ブレイキン歴:2009年〜
- 【Red Bull BC One World Final 2021】B-Boyチャンピオン
カザフスタン出身のB-Boy Amirは2021年にブレイキンシーンで大活躍を見せた。
同年にポーランド・グダニスクで開催された【Red Bull BC One World Final 2021】で優勝した彼は【Red Bull BC One World Final】を制した初のカザフスタン人ブレイカーになると同時に現地最終予選(Last Chance Cypher)からチャンピオンになった初めてのブレイカーにもなったのだ。
カザフスタンで生まれ育ち、16歳でロシアへ移ったAmirは2009年にブレイキンを始めるとPredatorzおよびPDVLのメンバーと交流するようになった。しかし、Amirのキャリアは順風満帆ではなく、地元にはブレイキンを学べる場所や人はおらず、食費を犠牲にして活動を続けなければならなかった。
Amirがブレイクスルーを果たしたのはチェコ・プラハで開催されたLegit Blastソロ部門を制した2020年だった。そして2021年も好調は続き、Unbreakable Championshipを制した他、【Red Bull BC One】のカザフスタンサイファーでもそれまで絶対的な強さを見せていたKilla Kolyaを破って優勝した。
ブレイキンとの静かな出会いのあと経済的苦境を乗り越え、さらにはカザフスタンからヨーロッパへの長旅も経験したAmirは断固たる意志と確かな才能によってトップまで駆け登った。
ブレイキンシーンのレベルが高いことで知られるロシアでの経験とLegits Blast優勝がAmirに自信を与え、成功への情熱を育んでいたため、ポーランド・グダニスクで開催された【Red Bull BC One World Final 2021】に出場した彼は優勝しかイメージしていなかった。
しかし、Amirは見事にそのイメージを現実に変え、インターナショナルシーンでの注目すべきB-Boyのひとりという評価を確実にした。
05
Victor
- 所属:Squadron / MF Kidz / Red Bull BC One All Stars
- 出身国:米国
- ブレイキン歴:2005年〜
- 【Red Bull BC One World Final 2015 / 2022】B-Boyチャンピオン
B-Boy Victor(Victor Montalvo)はブレイキンシーンを代表するブレイカーのひとりだ。フロリダ州キシミー出身のVictorは6歳のときに元B-Boyの父親からブレイキンの存在を教わったが、本格的にブレイキンの練習を始めたのは11歳で、従兄弟に対する競争心がきっかけだった。
現在、Squadron / MF Kidz / Red Bull BC One All Starsに所属しているVictorのスタイルは基本ムーブのイノベーティブなブレンドと呼べるもので、複数のムーブをいとも簡単に流れるようにメイクしていく。ワンハンドスピンのSuper Montalvoやバックフリップからフレアコンボなどが彼のシグネチャーだ。
Victorは14歳でイベントデビューを飾ると、2011年にフロリダ州タンパで開催された【Red Bull BC One 2011】サイファーで優勝して初のビッグタイトルを手にした。この優勝によって注目を集めるようになったVictorは世界各地のイベントに招待されるようになり、インターナショナルブレイカーとしてのキャリアを築いていくことになった。
この他にも2015年と2018年のSilverback Open優勝、【Red Bull BC One World Final 2015】優勝、2015年と2017年のUndisputed World B-Boy Series優勝、2017年と2019年のOutbreak Europe優勝、World Urban Games 2019優勝、2021 WDSF World Breaking Championships、そしてニューヨークで開催された【Red Bull BC One World Final 2022】優勝などを手にしてきたVictorは、【Red Bull BC One World Final】優勝3回を記録しているトップブレイカー5人のうちのひとりだ。
生ける伝説になることと2024年のパリでのメダル獲得を目標に掲げているVictorはスポーツマンシップと謙虚さを重視しており、この2つの要素を次世代ブレイカーたちに伝えたいと考えている。
06
Phil Wizard
- 所属:United Rivals / 7 Commandoz / Red Bull BC One All Stars
- 出身国:カナダ
- ブレイキン歴:2009年〜
- 【Red Bull BC One World Final 2021】準優勝
カナダ・トロント生まれの韓国系カナダ人でバンクーバーに拠点を置いているPhil Wizardのブレイカーとしてのキャリアは12歳のときに始まった。バンクーバーのストリートで活動していたクルーN.O.N.のパフォーマンスに触発されたPhilはYouTubeを活用してブレイキンをさらに深く学びながら、このアートへの情熱を大きく育てていった。
Philにとっての最初のメンターはN.O.N.だったが、Soul FelonsのJBugzとReflexからもインスピレーションとアドバイスをもらっている。また、Hong 10、Wing、Victor、IsseiのようなワールドクラスブレイカーとYouTubeもPhilに大きな影響を与えてきた。
現在はUnited Rivals / 7 Commandoz / Red Bull BC One All Starsに所属しているPhilはユニークでクリエイティブ、複雑だがスムーズなフロウで知られており、そのスタイルは厳しいトレーニング、ブレイキンへの愛、そしてトレーニングを共にしてきた仲間たちによって育まれたものだ。
Philの才能と献身は彼をワールドクラスのブレイカーのひとりへと押し上げており、これまでに【Red Bull BC One 2017】ロサンゼルスサイファー、【Red Bull BC One 2018】カナダサイファー、モロッコで開催された2018 Undisputed World B-Boy Series、そして2018年と2019年にオランダで開催されたIBEソロ部門など数々のタイトルを手にしている。
Philにとってブレイキンはダンス以上の存在であり、自分にアイデンティティを与えてくれたもの、また人生に対する視野を広げてくれたものとして捉えている。
ブレイキンを通じて、継続、努力、感謝の大切さを学んできた彼は、ブレイキンで成功するための条件として個性と誠実さを挙げている。結果のために自分のスタイルを犠牲にするべきではないと考えている彼は、自分らしいダンスに快適さを感じられるようになることが重要だと強調している。
07
Lee
- 所属:The Ruggeds / Red Bull BC One All Stars
- 出身国:オランダ
- ブレイキン歴:2003年〜
- 【Red Bull BC One World Final 202】B-Boy準優勝
オランダ人ブレイカーの新世代を牽引するLeeはアムステルダムで生まれ育った。
B-Girlの母親からインスピレーションを得てわずか2歳でブレイキンをスタートさせたLeeは小さな頃から母親と一緒にブレイキンイベントに顔を出していたことでカルチャーへの愛情を持つようになり、自分もブレイカーになるという思いを強くしていった。
Leeのスキルは5年に渡って近くで見守りながらアイディアを授けてくれたIllusionary Rockers所属のShailesh Bahoranによって磨かれた。その後、2010年にThe Ruggedsに参加したLeeは、ここで家族のような関係性を築いていった。
LeeはThe Ruggedsでのトレーニングを通じてダイナミックな柔軟性と流れるようなムーブ、予測不可能なシーケンスで知られるユニークなスタイルを構築したが、そのイノベーティブなスタイルを現しているのが個性的なスライディングとウインドミルだ。特にウインドミルはシグネチャーとして知られており、1回転ごとにエルボースライドを組み込むことでステージ上を移動する。
このようなスタイルを備えているLeeは、Crashfest 2020、【Red Bull BC One E-Battle 2021】、Dutch Breaking 2022 Soloなど様々なタイトルを手にしてきた。また、ベルギーで開催された2022 LCB 2v2をPhil Wizardと組んで制した他、2022 World Breaking Classic 2v2もB-Boy Linkと組んで制している。
現在、Red Bull BC One All Starsのメンバーとしても活動しているLeeは、ブレイキンの情熱を世界とシェアするという自分のビジョンを共有できる仲間たちと活動を続けていくという新たな目標を得たことで、モチベーションを一層高く保っている。
【Red Bull BC One World Final 2022】のLeeとVictorのバトルをチェック!(3時間47分23秒〜)
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