Thierry Neuville's podium is saved by beer
© WRC
ラリー

WRC:驚きのマシントラブル解決法

岩、ビール、果ては尿まで!? これまでのWRCで目撃された驚愕のマシン修理方法を紹介する。
Written by David Evans
読み終わるまで:7分Published on
ストラップ、スパナ、棒切れ、石… これらは全てラリーカーのトラブル解決で実際に使用されてきたアイテムだ。ラリーというスポーツでは、ステージ途中で発生したトラブルの応急処置を上品でスタイリッシュに行う余裕はない。つまり、即興的なアイディアがものを言うのだが、その試みが徒労に終わってしまうこともある。
故コリン・マクレーは、現役時代を通じて何度もマシンの応急処置を行ってきた。史上最速のラリードライバーだったマクレーは、非常に有能なメカニックでもあり、応急処置の名人だった。その証拠に、これから紹介するWRC史上屈指の奇妙な修理方法のリストにマクレーは3回も登場している - 以下のリストをチェックして、普段慣れ親しんだビールの新しい活用法やラジエター液の代わりになる驚くべき代用品について知ってもらいたい…。

1. ボルト(コリン・マクレー / 1990シーズン RACラリー)

中古車同然に見えるマクレーのSierra

中古車同然に見えるマクレーのSierra

© Getty Images

1990シーズンのRACラリー序盤、コリン・マクレーはFord Sierra RS Cosworth 4x4をチャッツワースの石壁にクラッシュさせてしまうと、クリップストンのステージでも木にクラッシュさせてしまった。上の写真では、クラッシュで閉まらなくなってしまったコ・ドライバー側のドアが確認できるが、その溶接状態をチェックした車検係員たちは、当時マクレーのコ・ドライバーを務めていたデレック・リンガーが事故の際に脱出できなくなる可能性を指摘した(マクレーが再びクラッシュする可能性を見込んでいたのだ…)。その結果、ドアは一旦切り離され、近くにあったゲートのボルトを “借りて” 修理が行われた。幸いにも、このあとにドアのトラブルは発生しなかった。

2. 丸太(コリン・マクレー / 1995シーズン RACラリー)

McRae's 1995 title was saved by a log

McRae's 1995 title was saved by a log

© Subaru

マクレーは1995シーズンのRACラリーでキャリア唯一のWRCワールドチャンピオンを獲得したが、彼のSubaru Impreza 555は右フロントサスペンションを破損しており、実はリタイア寸前の状態だった。マクレーはなんとかホイールを真っすぐに保ちながらM6号線のリエゾン区間を走り、ペンリスのサービスパークまで辿り着いた。しかし、一体どうやって? マクレーは周囲に誰もいないキールダーの森の中で手頃なサイズの丸太を探し出し、それをサスペンションの破損部分にあててホイールを真っすぐの状態に戻したのだ(正確には、真っすぐに近い状態にしただけだったが)。なんとかサービスパークまで帰還したImprezaはそこで本格的な修理を施され、数日後にワールドチャンピオンを獲得した。

3. 岩(コリン・マクレー / 1998シーズン ラリー・アルゼンチン)

1998シーズンのラリー・アルゼンチン、悪名高いエル・コンドルのステージでマクレーはSubaru Impreza WRC 98の右リアを岩にヒットさせ、サスペンションを曲げてしまい、その結果、ホイールがアーチ部分にはまり込んでしまった。マクレーはホイールを外せないままアスファルトのリエゾン区間を走ったが、やがて右リアタイヤがバースト。ここでマクレーはホイールを外して応急処置の方法を考え始めたが、唯一の解決策が岩だった。マクレーがウィッシュボーンを力任せに持ち上げると、コ・ドライバーのニッキー・グリストが岩を使って曲がったサスペンションが真っすぐに戻るまで叩きつけた。サービスパークで本格的な修理を受けたマクレーは、当然ながら次のステージでは最速タイムをマークした。

4. すっきりした?(ロバート・リード / 2003シーズン キプロス・ラリー)

バーンズ「ロバート、出すのはそっちの棒じゃない!」

バーンズ「ロバート、出すのはそっちの棒じゃない!」

© Peugeot

2003シーズンのキプロス・ラリーでフォイ二・ステージを終えてリマゾルのサービスパークまで戻る途中、リチャード・バーンズにはひとつの心配があった。6月の地中海の灼けつくような太陽の下、彼のPeugeot 206 WRCのエンジン温度計が不安げに上昇していたからだ。バーンズとコ・ドライバーのロバート・リードは彼らが持っていたドリンクボトルの中身を全てラジエターに注いだが、1km強走るとマシンは再び止まってしまった。手元に液体が何もない状況に置かれていたロバート・リードは(文字通り)自ら問題の解決に当たった。なんと、ラジエターに自分の尿を注ぎ始めたのだ。炎天下でラジエターがどれほど熱くなるかを、彼は最悪の形で思い出すことになった。さらに最悪なことに、それから100mを走ったところで彼らはリタイアに追いやられた。

5. 正解はビール(ティエリー・ヌービル / 2014シーズン ラリー・メキシコ)

Beer saves!

Beer saves!

© Colin Clark via Twitter

2014シーズンのラリー・メキシコで前段のバーンズ&リードと同様のトラブルに見舞われたティエリー・ヌービルは、オーバーヒートに悩むHyundaiへの最適解を見出した。ラリーの冠スポンサーを喜ばせるために(そしておそらくは飲酒運転撲滅メッセージの発信を犠牲にして)、最終ステージの走行を終えた全クルーにビール瓶が手渡されていたことを思い出したのだ(編注:ラリー・メキシコの冠スポンサーは地元メキシコの有名ビールメーカー)。かくして、ラジエターにたっぷりとビールを注がれたi20 WRCは、オーバーヒートを克服してサービスパークに帰還し、Hyundaiにとって初となるWRC表彰台を祝った。

6. 極寒の一撃(ヘニング・ソルベルグ / 2006シーズン ラリー・スウェーデン)

2006シーズンのラリー・スウェーデンでPeugeot 307 WRCを横転させてしまったヘニング・ソルベルグは、なんとかコースに復帰しようとしていた。しかし、横転で激しくダメージを受けたフロントウインドウではドライブが不可能だった。そこで、ソルベルグとコ・ドライバーのキャト・メンケルッドはフロントウインドウを蹴って取り外すことにした。しかし、不運なことに、続くサンズヨン・ステージで彼らは再びクラッシュを喫し、その際に大量の雪がマシン内部になだれ込んできた。マイナス15℃の外から風が吹き込む中、彼らの鼻やまつげはもちろん、オーバーオールやつま先まで凍りつきそうになってしまった。生命に危険が及ぶほどの寒さの中、なんとかサービスパークまで帰還した彼らには、ヒーローへの惜しみない拍手が待っていた。

7. しっかり掴まれ(セバスチャン・ローブ / 2005シーズン アクロポリス・ラリー)

2005シーズンのアクロポリス・ラリー、土曜日の最終ステージでパンクに見舞われたセバスチャン・ローブは頭を抱えていた。まともに使える交換用のスペアタイヤはなく、アテネにあるサービスパークまで帰還できるかどうか疑わしい状態に追い込まれていたのだ。やがてリエゾン区間走行中にタイヤは完全に壊れてしまったが、コ・ドライバーのダニエル・エレナがウインドウの外に体を乗り出し、ダメージを受けたホイールにかかる荷重を無理やり逃しながら走行を続けた。彼らはようやくサービスパークまで辿り着き、エレナは口の中に入った虫を吐き出した。しかし、地元警察はエレナがシートベルトを装着していなかったことを問題視し(リエゾン区間では当該開催国の交通法遵守が求められる)、結果として、FIAはその翌年から3輪状態での走行を禁止することになった。

8. まさに応急処置(エルフィン・エバンス / 2015シーズン ラリー・フィンランド)

Note the spanner holding the suspension together

Note the spanner holding the suspension together

© Elfyn Evans

2015シーズンのフィンランド・ラリー、オウニンポウヤの左高速コーナーにさしかかったエルフィン・エバンスはコーナー出口でややワイドに膨らんでしまい、彼のFord Fiesta RS WRCの右リアがラリー・フィンランド名物の巨大な岩に衝突してしまった。
「他のドライバーもあの岩にぶつかっているから、きっとあの岩はラリーが好きなんだね」とエバンスは語る。「とにかく、その衝撃でスピンして、サスペンションを壊してしまったんだ。何か修理に使えるものはないかとマシンの中を探してみると、ジュビリークリップ(ホースクリップ)数個と1本のスパナが見つかったので、それを使って修理してみることにした。サービスが設定されていない日もあるので、こうやって応急処置をしなきゃならないこともある。手際は悪かったけれど、なんとか修理に成功したよ」

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