Motoring

時速1600kmを目指す地上最速マシン

1マイル(約1.6km)を僅か3.6秒で駆け抜けてしまう13万5000馬力の地上最高速マシンの全貌を公開。
Written by Binoy Parikh
読み終わるまで:5分Published on
地上最速記録に挑戦するBloodhound SSC

地上最速記録に挑戦するBloodhound SSC

© Stefan Marjoram

自動車が辿ってきた長い歴史の陰には、地上最速の車を作ろうとする人間たちの半ば狂気じみた競争が常にあった。地上最速記録更新を誰よりも切望する2人の男性の存在こそ、このBloodhound SSCプロジェクトを推し進める原動力だ。現時点での地上最速記録保持者のアンディ・グリーンと、グリーンに破られるまで記録を保持していたリチャード・ノーブルの2人は、彼ら自身こそが時速1000マイル(約1609.344km/h)の壁を破るマシンを生み出す秘訣を心得ていると信じてやまない。
これまでの地上最速記録への挑戦の歴史

これまでの地上最速記録への挑戦の歴史

© Flock and Siemens

Bloodhound SSCとは

プロジェクト・マネージャーを務めるリチャード・ノーブルとドライバーのアンディ・グリーンは地上最速記録史上、最も大幅な更新を目指している。現在の最速記録は1997年にグリーンがThrust SSCで記録した時速763マイル(約1227.929km/h)だが、Bloodhound SSCの開発チームはこの記録を約33%上回ることができるはずだと自信を持っている。実際にそれが達成されると、時速1000マイル(約1609.344km/h)の壁を破ることになる。
この目標を達成するため、彼らはBloodhound SSCにジェット戦闘機Eurofighter Typhoonのエンジンを移植し、その恐ろしいほどの熱発生量対策を克服した末に最大出力13万5000馬力を実現。1マイル(約1.6km)を僅か3.6秒で駆け抜けてしまうこの超音速マシンは、地上最速記録更新という目標達成以前に、このプロジェクトは様々な面で最も技術的に進化したスポーツカーとなった。

エンジン

Bloodhound SSCには3種類のエンジンが搭載されている。ジェット戦闘機Eurofighter Typhoonに搭載されているものと同形のEurojet Turbo社製EJ200型ジェットエンジンは、時速200マイル(約321.868km/h)までの第一加速に使用され、そこから先は3基のNammo社製ロケットエンジンが作動して13万5000馬力を出力する。この爆発的なパワーがBloodhound SSCを音速の壁のさらに向こう側、つまり超音速の領域まで突き進ませることになる。残る1種類のエンジンは、Jaguar F-type Rから転用した5.0リッターV8レシプロエンジンで、これはロケットエンジンに燃料を送り込むポンプの駆動エンジンとして使われる。

コックピット

アンディ・グリーンが座るシートは彼の体型にぴったり合わせて成形されており、彼が握るステアリングホイールもまた彼の手にぴったりとフィットするべく粉末チタニウムを使用して、3Dプリンターで造形されている。ダッシュボードシステムの制御は完全電子化されているが、フェイルセーフとして、手動で操作できる燃料ポンプをシャットダウンするためのレバー2本とパラシュート作動のためのレバー1本が用意されている。コックピット周辺はすべてカーボンファイバー製のモノコック構造だ。
Bloodhound SSC’s cockpit

Bloodhound SSC’s cockpit

© Stefan Marjoram

車輪

時速1000マイル(約1,609.344km/h)に達すると、Bloodhound SSCの車輪は毎分1万200回転することになる。これはもはや通常のラバータイヤでは耐えきれない数値であるため、チームは鍛造アルミニウム製の車輪を採用している。鍛造アルミニウムはその強度というメリットの他に、超音速突入時に発生する5万グラムの圧力に耐えられるというメリットもある。また、ラバータイヤと違いパンクの心配がないのも大きなメリットだ。

減速と停止

4つの車輪に備えられた通常のブレーキシステムの他に、Bloodhound SSCではパラシュートとエアブレーキも用いられる。時速1000マイル(約1,609.344km/h)の速度から停止状態に持ち込むためには、まずロケットエンジンを停止させる。それから空気抵抗を利用したエアブレーキが作動し、さらにパラシュートが開く。それでも減速が十分ではない場合、もうひとつのパラシュートが開くようになっている。そして、速度が時速250マイル(約402.336km/h)以下になると各車輪のブレーキシステムが作動し始め、ようやくBloodhound SSCは停止状態へ近づく。

安全を念頭に

時速1000マイル(約1,609.344km/h)の超音速で疾走するマシンのドライブは常にリスクと背中合わせだ。しかし、Bloodhound SSCは過去に地上最速記録に挑んできたどのマシンよりも明らかに安全性は高い。CFD(数値流体力学)やその他シミュレーション技術の進化によって、開発チームは様々な走行環境で発生する負荷など、あらゆる詳細データを収集し、それらをマシンの設計において正確に反映することができる。更には、Bloodhound SSC開発チームは1997年に地上最速記録を更新したThrust SSCのあらゆる走行データをコンピューター上で完全シミュレートし、当時Thrust SSCが直面したあらゆる性能限界の検証も行った。
Bloodhound SSCに関する諸データをインフォグラフィックで解説

Bloodhound SSCに関する諸データをインフォグラフィックで解説

© Flock and Siemens

レギュレーションの遵守

Guinness World Land Speed RecordはFIA(国際自動車連盟)公認のもと行われる有人自動車速度記録チャレンジだが、そのレギュレーションやルールはさほど制限の多いものではない。大まかには、2つの大前提を覚えておくと良いだろう。ひとつは、常に4輪が接地した状態で走行しなければならないこと。もうひとつは、走路を往復し、往路と復路の速度を平均したものが最終的なFIA公認記録となるということだ。この往復ルールは、路面の勾配や風向きなどによって有利または不利が発生することを避けるために設けられた。