A photograph of a Gauntlet arcade cabinet
© Atari Games (via Wikimedia Commons)
ゲーム

ビデオゲーム温故知新:『ガントレット』がアクションRPGに与えた影響

Atari Gamesが1985年にリリースし、日本でも高い人気を誇った名作ファンタジーアーケードアクションが与えた影響を『セインツ・ロウIV』などを手がけたゲームデザイナーが解説する。
Written by Kevin Wong
読み終わるまで:8分公開日:
1985年、Atari Gamesから『ガントレット / Gauntlet』がリリースされた。
『ガントレット』はトップダウンビューでダンジョンを進むファンタジーアーケードアクションゲームで、プレイヤーはウォリアー / ウィザード / ヴァルキリー / エルフからひとりを選んで操作する。各キャラクターはそれぞれ異なった特徴を持っており、簡単にたとえるなら、ウォリアーは戦士、ヴァルキリーはタンク、ウィザードは僧侶、エルフは盗賊だ。
このようなキャラクタータイプとバラエティはどちらも特に画期的ではなかった。『ガントレット』がリリースされた1980年代中頃、異なる長所・短所を持つ複数のキャラクターから選んでプレイできるアーケードタイトルは少なくなかった。
『ガントレット』を特別な存在にした要因は、複数のキャラクタータイプを協力プレイと組み合わせたところにあった。
1980年代の典型的なマルチプレイヤーアーケードタイトルのキャラクターの違いはルックスだけで、基本的にはどのキャラクターも技、パワー、防御力などの性能は同じだった。
1987年にリリースされた『ダブルドラゴン』がその好例だろう。主人公のビリー・リー・とジミー・リーに能力差は一切なかった。この兄弟の違いは赤と青に色分けされた服だけだった。
この “キャラクターの重複” にはひとつのメリットがあった。それは、カジュアルプレイヤーが好きなタイミングで気楽に途中参加してパーティスタイルでプレイを楽しめるところだ。
1P側と2P側のキャラクター性能が同じなら、プレイヤー同士でコミュニケーションを密に取る必要はない。単純にクリアを目指してお互い好きなようにプレイすれば良い。
マルチプレイヤータイトルの戦略性は、お互いの弱点を補完・補足するようなキャラクター性能が用意されることでより洗練され、より魅力が高まっていく。
たとえば、ひとりのプレイヤーがチョークポイント(敵が密集するエリア)へ飛び込み、もうひとりのプレイヤーが後方から支援するような連携プレイができるようになる。また、お互いのプレイや状況を見ながら、マジックポーションを使う・残すタイミングなども考えるようになる。
このような戦略性は今でこそ当たり前のものだが、1985年当時はエポックメイキングだった。
滑らかなグラフィックスと高い戦略性で世界的人気を獲得した『ガントレット』

滑らかなグラフィックスと高い戦略性で世界的人気を獲得した『ガントレット』

© Atari Games (via YouTube)

ベテランゲームデザイナーのDavid Abzugは次のように話を始める。
「あの『ガントレット』は、私がイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の1年生だった時にリリースされました」
「大学から1ブロック先にあったアーケード、Space Portでプレイしました。友人たちと一緒にSpace Portへ行った時にこのゲームに出会ったんです。“ちょっと待てよ。このゲームはみんなで一緒にプレイできるみたいだぞ。やった!”と言ったのを覚えています」
「1on1の対戦を楽しんでいた私たちは、このゲームで4人のco-opプレイを楽しめるようになったんです。また、『ガントレット』はPCではなくアーケードタイトルだったので、多くのオーディエンスを惹きつけました」
David AbzugはDeep Silver Volitionでの仕事などが知られているゲームデザイナーだ。AbzugはDeep Silver Volition時代に『Rad Faction』シリーズ『セインツ・ロウIV』の開発に携わったが、Deep Silver Volition以前もMicrosoft『Mech』シリーズに関わっていた。
さらに言えば、Abzugはコーディングより先に紙とペンを使ってゲームをデザインしていた。彼は12歳で『ダンジョンズ&ドラゴンズ』デビューを果たしていた。
このような経験を持つAbzugは、『ガントレット』をモダンアクションRPGの先駆けと位置づけている。
黎明期のRPGはターン制だったが、その後徐々にリアルタイムストラテジーの要素が取り入れられ、『ガントレット』が世界に広めた「異なった能力を持つキャラクターを組み合わせたチームワーク」が求められるようになっていった。
また、『ガントレット』は “メタゲーム” 、つまり、「画面外でのプレイヤー同士によるコミュニケーションや駆け引き」を発展させることにもなった。
近年のマルチプレイヤータイトルの中にはチームワークの必要性をできる限り削除し、シングルプレイと変わらないゲームプレイを実現しようとしているものがある。泡に入ったまま仲間がステージをクリアするのを眺めることができる『New スーパーマリオブラザーズ U デラックス』がその好例と言えるだろう。
『New スーパーマリオブラザーズ U デラックス』はアクセシビリティを高めるために難度を犠牲にしているわけだが、これはファミリータイトルとして売るためには必要な策だ。
しかし、『ガントレット』がアクセシビリティを気にする必要はなかった。このゲームの本質的な目的は「プレイヤーに硬貨をつぎ込ませる」だったからだ。
『ガントレット』の魅力は実況動画を観るだけでは理解できない。実際にプレイしてもシングルプレイなら理解できない。さらに言えば、マルチプレイでさえも、攻撃を組み立てるのではなく、目に入った順に敵を攻撃してしまう赤の他人と一緒なら理解できない。
アクションRPGと同じで、『ガントレット』の魅力は、自分と同レベルの真剣さでこのゲームをプレイする友人仲間たちと大声でコミュニケーションを取り合いながらプレイしなければ理解できないのだ。
Abzugが話を続ける。
「戦略について友人たちと話し合いましたね。彼らが壁の間を狙うショットを撃ってくれなかったので、僕はエルフを選んでいました」
「また、ショットを当てると壊れてしまうアイテム(Food)がたまに出現するので、射線を調整しながら誰がそれを拾うのかについて話し合うこともありました。友人のヘルスが自分より少なくても、常に最前線に立っている自分に権利があると主張したこともありましたね」
「視線、プレイヤーの動きを邪魔する壁の配置、敵の動かし方など、ゲームデザインの多くを『ガントレット』のようなゲームから学びました」
『ガントレット』にはまるで “Zerg Rush” (Googleで検索)のように押し寄せてくる敵やタレットのように弾を撃ってくる敵などが大量に用意されている。
Abzugはこのような要素を自分のゲームデザインに頻繁に採用していき、やがてそれが自分のゲームデザインの特徴として評価されるようになった。
「『Mech Warrior 4』には小さなメックの大軍と戦うミッションがありました。これは『ガントレット』から直接インスピレーションを得たゲームデザインです。また、『セインツ・ロウIV』には開けると大量の敵が出てくる壁が用意してあります。これも『ガントレット』から引用したデザインです」
「ゲームデザインでは、プレイヤーから両極端の感情を引き出そうとします。たとえば、丘の上に待つ敵の大軍がいるとすると、まずプレイヤーは “この状況をどう切り抜ければ良いのだろう” と圧倒されます。ですが、その大軍を倒して自分が丘の頂上に立つと、今度は成功やパワーを感じるわけです」
「ですが、ゲームデザイナーはその敵の二次攻撃を用意しています。スクリプトに “プレイヤーの体力がXになったら敵が出現する” や “敵の数がYまで減ったら新しく敵が出現する” などと書き込むわけです。こうやって感情のジェットコースターを作り出すのです」
Dave Azbug

Dave Azbug

© Dave Abzug

現在、Abzugはイリノイ州ピオリアに位置するブラッドレイ大学の非常勤教授として学生にゲームデザインなどを教えている。
Abzugは次世代のゲームデザイナーにゲームデザインを教える際に、『ガントレット』を例として使用している。なぜなら、ゲームデザインの基本は今も昔も変わらないからだ。グラフィックスが綺麗になり、システムが細かく複雑になってもゲームデザインのベースは同じだ。
「実は『ガントレット』でキャラクターの違いの作り方を教えています。このゲームに登場する全キャラクターがそれぞれ異なるルックス、近接攻撃、遠距離攻撃、魔法攻撃、体力、行動速度を備えています。逆に言えば、この6項目だけで4種類のユニークなキャラクターをデザインできたのです
「『Diablo 3』のような最近のゲームにも異なる性能を持つキャラクターが用意されていますが、キャラクター間の違いを作り出すために500以上の項目が用意されています」
「また、『ガントレット』はベーシックなレベルデザインを教える際にも使用しています。このゲームには破壊できる壁と破壊できない壁が存在します。また、床には宝箱、食べ物、ポーション、カギ、出口が配置されており、モンスターとジェネレーター(モンスターが出てくる巣のようなもの)がいます。それくらいです」
「このゲームのデベロッパーは限られたリソースとツールだけで非常に興味深いレベルをデザインしました。『ガントレット』は昔からあるものを新しい形で使ったという意味で不朽の名作です」
「生徒にはいつも “複雑さを追加してシステムの問題を解決しないように”、また、“難度を上げてエンカウントの問題を解決しないように” と教えています」
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