1.『レザボア・ドッグス』
暴力描写が生々しいクエンティン・タランティーノ監督の長編デビュー作は、1990年代のサウンドトラックにおけるサクセスストーリーだった。1990年代らしい皮肉が入り交じったこの映画は、同時代のヒップなヒット曲の代わりに、The George Baker SelectionやHarry Nilssonなど、往年のヒット曲の数々が挿入されていた。これらの楽曲群は、不機嫌そうなディスクジョッキーの声、そして映画内の下品なセリフ(ミスター・ブラウンを演じるクエンティン・タランティーノがMadonnaの「Like A Virgin」の本当の意味について語るシーンをチェックすると良いだろう)によって見事にひとつにまとまっている。映画本編を観たあとは、Stealerの「Wheel’s Stuck In The Middle With You」を聴くたびに顔をしかめることになるだろう。
2.『トレインスポッティング』
アーヴィン・ウェルシュの小説をブラックユーモア溢れる形で脚色したダニー・ボイル監督の映画『トレインスポッティング』は、1990年代のヘドニズムを限界以上の形で描き、更にはやがてスターとなるユアン・マクレガーやロバート・カーライルを世に送り出した作品だ。その斬新で独創的なサウンドトラックは、Underworld、Leftfield、BedrockなどのUKテクノ勢と、Blur、Pulp、そしてBlondieの「Atomic」をカバーしたSleeperなどのブリットポップ勢という、全く異なる2つのジャンルを主軸に据えており、更にはドリーミーで幻想的なBrian Enoの「Deep Blue Day」やIggy Popの攻撃的な「Lust For Life」などのワイルドカードも数曲組み込んでいる。このサウンドトラックは映画本編と同様、この時代を象徴する作品と言えるだろう。
3.『ジャッジメント・ナイト』
フレッド・ダーストがニューメタルというジャンルを生み出したばかりの1993年当時にリリースされた映画『ジャッジメント・ナイト』のサウンドトラックは、メタルロックとヒップホップが正面衝突しているような作品だ。全く異なる2ジャンルだが、コラボレーションは非常に納得のいく仕上がりになっている。スラッシュメタル四天王のSlayerとIce-Tが「Disorder」でスパーリングをこなし、アフリカ系米国人ロックバンド、Living Colourは「Me, Myself & My Microphone」でRun DMCに速弾きとファンクをプレゼントしている。また、「Freak Momma」ではグランジの奇才MudhoneyとBaby’s Got BackのラッパーSir Mix-A-Lotのジャムが確認できる。映画本編は忘れ去られてしまったが、サウンドトラックの魅力は色褪せていない。
4.『クルーレス』
ビバリーヒルズで生活する少女の恋の出会いをテーマにした1995年公開のこのコメディ映画は、イメージよりもディープだ。その理由としてまず挙げられるのは、この映画が19世紀のジェーン・オースティンの恋愛小説『エマ』を現代風に翻案しているという点で、ふたつ目として挙げられるのは、サウンドトラックがアリシア・シルヴァーストーン演じる軽薄なヒロイン、シェールよりも格段に中身の詰まった内容を誇っているという点だ。1990年代のオルタナティブロックから見事に選び抜かれた楽曲群には、The MuffsによるKim Wilde「Kids In America」のカバーや、悲しげな雰囲気漂うSmoking Popes「Need You Around」に加え、シェールが「大学や文句ばっかり言っている人って一体何なの?」と自問自答することになる、Radioheadの心震えるアコースティックバージョンの「Fake Plastic Trees」などが含まれている。
5.『クロウ/飛翔伝説』
1994年にワードローブを黒、黒、黒で埋め尽くすためにカラフルな服を捨てる決意をしたティーンエイジャーだった人は、おそらくゴシックアクション映画『クロウ/飛翔伝説』に影響を受けた人だ。カバー曲が詰まっているこの映画のサウンドトラックには、Nine Inch NailsによるJoy Division「Dead Souls」のカバーやRollins BandによるSuicide「Ghost Rider」のカバー、そして感情を押し殺すような雰囲気が漂うThe Cureによるオリジナル曲「Burn」などがフィーチャーされている。全体を通して漂う沈んだムードは、主演のブランドン・リーが、空包が入っているはずの銃に撃たれて撮影中に死亡し、撮影が終わっていなかったシーンを最先端のCGIで補って公開したという、現実世界のアクシデントと重なってくる。
6.『ロミオ+ジュリエット』
シェイクスピアによる悲劇のロマンスをリメイクした、バズ・ラーマン監督が手がけた色鮮やかなこの映画のサウンドトラックには、シェイクスピア本人が音楽として認識できるような楽曲はおそらくひとつも含まれていない。しかし、このサウンドトラックはBillboardチャート2位を記録し、センセーションを巻き起こした。軽快な楽曲が数多く収録されているこのサウンドトラックには、The Cardigans「Lovefool」、Garbage「#1 Crush」、The Wannadie「You And Me Song」などが含まれている。尚、Radioheadのシングル『Street Spirit』のB面に収録されていた隠れた名曲「Talk Show Host」のNellee Hooperによるリミックスバージョンも収録されており、この曲はこのサウンドトラックがきっかけとなってRadioheadファンに愛される存在となった。
7.『シングルス』
映画『シングルス』は、恋に悩む若者たちを描いたストーリーだ。オリジナリティに溢れるテーマとは言い難いが、この映画はその舞台にシアトルが選ばれていたことにより、特別な作品になった。1992年当時、シアトルはグランジの人気爆発により音楽シーンの中心地だったのだ。そして、この映画のサウンドトラックも、Alice In Chains、 Mudhoney、Screaming Trees、Pearl Jamなど良質なグランジをベースとしたコンピレーションで、特にPearl Jamは、彼らのキャリアの中で最高の書き下ろしとして知られる「State Of Love And Trust」を提供している。映画本編には数多くのグランジアーティストがカメオ出演を果たしているが、ひとつトリビアを書いておくと、主演のひとりマット・ディロンは、Pearl JamのベーシストJeff Amentの私服を数多くのシーンで着用している。