Remedy Entertainmentという名前は、ゲーミングにどれだけ長く関わってきたかによってイメージが変わってくる。
ベテランプレイヤーたちはすぐにこのフィンランドのデベロッパーをあの伝説の『マックス・ペイン』シリーズと結びつけるかもしれない。『マックス・ペイン』シリーズは、渋面の主人公の『マトリックス』的能力、“バレットタイム” で一躍有名になった。
しかし、若手プレイヤーなら、このデベロッパーの名前をMicrosoftと強く結びつけるだろう。2005年以降、Remedy Entertainmentは『Alan Wake』や『Quantum Break』など、Xbox独占のビッグタイトルのいくつかを手掛けてきた。
Remedy Entertainmentは、以前から独立したデベロッパーだったが、彼らの最新作『Control』は、久々にプラットフォーム独占契約から離れた完全なマルチプラットフォームタイトルで、505 Gamesがパブリッシャーを担当する。
Remedy EntertainmentのコミュニケーションズディレクターThomas Puhaは、ビッグプラットフォーム独占タイトルで得られる保険を捨てた理由は簡単だとしている。
「より大きなオーディエンスが獲得できる可能性があります。理由は以上です。Remedy Entertainmentの経営戦略は、より大きなオーディエンスを獲得し、社名をより広く知らしめることにあります。マルチプラットフォームはそれを実現するためのひとつの手段です」
「プラットフォームホルダーとの連携にはメリットがあります。E3やGamescomで露出が稼げますし、多くのファンに触れることができます。また、エンジニアリングのサポートも分厚いです」
「ですが、逆に様々な部分で制限もあります。それは、より大きなオーディエンスを獲得できる可能性の制限に留まりません」
また、Remedy Entertainmentは、韓国のデベロッパーSmilegateと組んで、Smilegateの最新作『CrossFire 2』の開発も進めている。
以上を踏まえると、1995年から始まったRemedy Entertainmentが、エキサイティングな新章へ向かおうとしているのは明らかだ。
Puhaは、この新しいアプローチには、ポジティブな面だけではなくネガティブな面もあると続ける。
「近年の家庭用ゲーム機はハードウェアとしてはどれも似ているので、移植版の開発は比較的簡単です。ですが、やはり、PS4とXbox One Xの違いはかなり大きいんです」
「ですので、最終的には、結構な数のハードウェアセットアップに対応しなければならないでしょう。ですが、私たちはPCゲームの開発をバックグラウンドに持っているので、ある程度慣れていると思います」
元々は『P7』というタイトルだった『Control』は大胆なコンセプトのプロジェクトで、この作品と共に、Remedy Entertainmentが新たに手に入れた自由を高らかに宣言することになる。
強い女性を主人公に据え、ダークなSFストーリーを用意しているこの作品は、E3 2018の参加者の多くから注目を集めたが、『Control』のナラティブリードを担当しているAnna Megillは概要について次のように説明する。
「この『Control』はジェシー・フェイデンのストーリーです。彼女は悩める若き女性で、幼少時に体験したミステリアスな出来事の答えを探そうとしています。その答えを探す旅が、彼女をオールデスト・ハウスへ導きます」
「ここは、マンハッタンのミッドタウンの上にそびえる、巨大で威圧的な建物です。この建物は、奇妙で謎めいた政府組織、連邦コントロール省(Federal Bureau of Control / FBC)の本部として機能しています」
「ジェシーがこのFBCの入り口にたった瞬間から、全てが間違った方向へと進んでいきます。異次元の生物ヒスが本部を襲撃し、監督官ザカリア・トレンチを殺害します。そして、謎めいた儀式的なプロセスを経て、ジェシーが新監督官に選ばれるのです」
「彼女には、自身に与えられた超能力をマスターして本部の統制を取り戻し、ヒスを殲滅するという任務が与えられます。『Control』は、ジェシーのFBC監督官としての試練と、オールデスト・ハウスの深部へ向かう彼女のアドベンチャーが両軸になっているゲームです」
『Control』はRemedy Entertainmentの過去作品の要素を明確な形ながら組み合わせることで、新鮮な作品を作り出そうとしている。Puhaが説明する。
「誰もが過去作からインスピレーションを得ています。ですので、Remedy Entertainmentも過去作からいくつかの要素を使用しています。自分たちが良いと思った部分から引用するわけですが、新作ゲームには、過去作への "リアクション" という側面もあります」
「ですので、『Control』は、『Quantum Break』を含む過去作品よりもオープンで非直線な作品になっています。これまでよりもチャレンジングになりますし、ビデオゲームファンに気に入ってもらえれば嬉しいですね」
「私たちは、ストーリー、ゲームプレイ、グラフィックス、リプレイバリューなど、全てがパーフェクトに噛み合った最後の作品は『マックス・ペイン2』だったという結論に至りました」
「ですので、その意見を活かしながら、『Alan Wake』で実現できた最高の世界観を再現し、そこに超能力アクションを組み合わせて、新しい作品を生み出したいと思っています」
また、Megillは、『Control』は本やテレビなど、外部からも影響を受けている作品だとしている。
「ナラティブ的には、いわゆる “New Weird / ニュー・ウィアード” 系から一番大きな影響を受けています」
「ニュー・ウィアードは、ジェフ・ヴァンダミアの著作『全滅領域』や、マーク・Z・ダニエレブスキーの著作『紙葉の家』などが代表作として知られている文芸界の潮流ですね」
「Remedy EntertainmentのクリエイティブディレクターSam Lakeは、『ツイン・ピークス』のシーズン3を引き合いに出していますが、開発チームは、あらゆる奇妙で不気味で不安げな作品を参考にしています」
「たとえば、E3 2018でロサンゼルスを訪れたタイミングで、The Museum of Jurassic Technology(ジュラ紀技術博物館)を見学しましたが、奇妙な展示品の数々は刺激的でしたね」
「ゲームデザイン的には、メトロイドヴァニア系からの影響が明確だと思います。また、開発チームにはMMOタイトルの開発経験を持つメンバーがいるので、ミッションやオープンエンドなゲームプレイにMMOの影響を感じることもできると思います」
Remedy Entertainmentは、『Quantum Break』で時間操作を中心に据えていたが、『Control』では、ジェシーのメインウェポンが中心のひとつになっている。Puhaが説明する。
「ジェシーのメインウェポンには "サービスウェポン" という名前が付けられています。ゲームスタート後にジェシーが手に入れるこの武器は変化するのが特徴です」
「また、『アーサー王』に登場するエクスカリバーにも少し似ていて、ジェシーが手に取った瞬間、彼女はFBCの監督官になります」
「ゲームを通じてジェシーが使用するのはこの武器だけですが、ゲームを進めていくと進化していきます。範囲攻撃を可能にする "シャッター" がその一例です。完成版には他にも数種類が収録される予定です」
「また『Control』のゲーミングエクスペリエンスの中心に位置しているのは、ジェシーの超能力と、サービスウェポン、そして状況に反応して変化するエンバイロンメントです。戦闘アプローチや、能力とサービスウェポンのカスタマイズなどは、プレイヤー次第で変化していきます」
このようなユニークな武器のデザインと、これがゲームプレイに与えるインパクトの管理は、簡単なタスクではない。Puhaが続ける。
「開発初期に、ゲームディレクターのMikael Kasurinenと、Remedy Entertainmentとして銃撃戦の楽しさをどう提供したら良いのか、超能力を使う楽しさをどう打ち出せば良いのかについて話し合いを重ねたことを覚えています」
「この2つの実現は非常にチャレンジングです。今回の武器でヘッドショットを決めた時のような爽快感を与えるのは簡単ではありませんが、近づきつつあります」
「今作の戦闘は、非常にフィジカルで変動しやすいものにしたいと思っています。その助けになるのが、優秀な物理演算とエンバイロンメントの破壊ですね」
『Quantum Break』は、Remedy Entertainmentが自社開発したゲームエンジン、Northlight Engineが初採用された作品だった。
Puhaは、今作でも、サードパーティのゲームエンジンを選んで他のデベロッパーを追従するのではなく、自社のゲームエンジンをさらに進化させて使用していることを明らかにしている。
「以前から数々のミドルウェアに自社のテクノロジーを組み合わせて開発してきました。ですので、Unrealのようなサードパーティに切り替えるとするなら、様々な部分を変える必要が出てしまいます」
「それにはかなりの時間がかかりますし、多くのスタッフが学び直さなければなりません。また、現実を言えば、Remedy Entertainmentの優秀なテクノロジースタッフの多くは、自前のテクノロジーを使うことを好んでいます」
「新しいテクノロジーの開発には時間がかかりますが、既存のゲームエンジンを導入すればすぐに問題が解決できるわけでもありません。ゲームテクノロジーとエンジニアリングについては数多くの誤解が存在すると思っています。これがかなり厄介な問題になっていますね」
「色々と発言しましたが、UnrealとUnityは好きですよ。最近はUnrealを触れる人が増えているので、Unrealを導入するなら、そのような人たちを雇う方が自分たちで学ぶより簡単かもしれませんね。また、Unrealなら自社のゲームエンジンにはできないことができます」
「要するに、全てに短所と長所があるというわけです」
Remedy Entertainmentが最新作の開発中に気付いた通り、テクノロジーを自社開発するのは、かなりの面倒になる可能性がある。Puhaが説明を続ける。
「この『Control』の開発を始めた頃は、自社でテクノロジーを開発するのはやめようと思っていました。なぜなら、時間がかかるからです。また、費用もかさみますし、その開発期間中はゲームの開発を進めることもできません」
「ですが、結果的に、自社の物理演算システムとアニメーションシステムを変更することになり、昨年の大半を大がかりなオーバーホールに充てなければなりませんでした」
「ですが、今はもう終わりましたので、ゲームの開発は順調に進んでいますよ」
自分たちが苦しむだけの価値はあったようだ。少なくともMegillはそう感じている。
『Control』は非常にユニークな作品に仕上がりつつあり、彼女はこの作品がRemedy Entertainmentの往年のファンにショックを与えることになると予想している。
「今作では、わたしたちがプレイヤーをリードすることはありません。プレイヤーは自由にこの素晴らしい万華鏡のような世界を移動しながら、自分の好きなミッションを選ぶことができます」
「この特徴が、『Alan Wake』や『Quantum Break』など、Remedy Entertainmentの過去作品と今作が大きく異なるところです。ですが、誰もが、このゲーム全体のユニークさに驚くことになると思います」
「わたしたちのゴールは新しくてフレッシュで、常に不安を感じるような作品、他には存在しない作品を作ることですが、そのゴールはクリアできていると感じています」
Remedy Entertainmentは『Control』をPS4、Xbox One、PCでリリースする予定だが、Nintendo Switch版のリリースについてはまだ確約されていない。
Puhaは、任天堂のハイブリッド機と他の家庭用ゲーム機の性能差が大きな障壁になっていることがその理由としているが、『Control』がNintendo Switchでリリースされる可能性はゼロではない。
「Remedy Entertainmentも505 GamesもNintendo Switchのファンですし、Nintendo Switchで得られるゲーミングエクスペリエンスも気に入っています」
「任天堂との関係も良好ですし、Nintendo Switchの成功は全員が理解しています。ですが、現状は多少複雑です」
「ハードウェアの性能だけではなく、他の家庭用ゲーム機との違いもあります。ですので、私たちから言えるのは、『Control』のNintendo Switch版に関しては、任天堂側にその旨を伝えるのが一番だということですね」
505 Gamesとの関係については、Puhaは今後も期待できるものだと自信を見せている。
「今のところ両社の関係は素晴らしいですよ。今後もこの関係が続けばと思っています。ゲーム開発には必ずチャレンジが付きものですが、両社は連携して上手く対応しています」
「このまま協働体制を続けていけば、素晴らしい何かを生み出せると思います。505 Gamesはここ最近力をつけていますし、大きなプロジェクトを手掛けるようになっています。扱っている作品群も非常に幅広いです」
「今作『Control』が両社に成功をもたらしてくれればと思っています。E3 2018も大成功に終わったので、ハッピーですね」
「505 Gamesは私たちの好きなようにやらせてくれていますし、駄洒落ではないですが、ゲームのプレゼンテーションや今後の予定など、様々な部分を私たちに “コントロール” させてくれています。また、IPもRemedy Entertainmentが保有する予定です」
Remedy Entertainmentは熟知していることだが、IPの保有は非常に重要だ。ヒット作ならその重要性はさらに高まる。
『マックス・ペイン』と『Alan Wake』は共にスピンオフを生んだが、『Quantum Break』は単発作品となった。『Control』について彼らはフランチャイズ化を考えているのだろうか?
Puhaは笑いながら次のようにコメントする。
「単発物を想定してこのような作品を開発することはありませんよ。ですので、『Control』はリリース後もサポートを続けていく予定ですし、フランチャイズとして成功を収めることができればと思っています」
「ですが、まずは素晴らしいゲームに仕上げて、オーディエンスの反応を見ることが重要ですね」
『Control』はPS4・Xbox One・PCで2019年にリリース予定。