明るい性格とハードランで一躍ウルトラランニングシーンのアイコンとなったコートニー・ドウォルター
© Courtney Dauwalter
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コートニー・ドウォルター:世界が注目するウルトラランナーの強さ

超人的なフィジカルとメンタルで現在のウルトラランニングシーンを牽引している米国人女子ランナーの圧倒的強さの秘密を探る。
Written by Paddy Maddison
読み終わるまで:9分Published on
2017年10月15日、コートニー・ドウォルターはMoab 240 Endurance Runをいとも “簡単” に “圧勝” した。
この岩の多いユタ州の砂漠地帯で開催されるレースは、ランナーたちにエクストリームな気温と非常にテクニカルな地形を投げつけることで有名で、登りと下りの積算標高は8,901mもある。つまり、距離的にはエベレストをジョギングで往復するのと変わらないのだ。
そのため、このレースを完走するためには普通なら3~5日はかかると言われているのだが、コートニーは2日9時間59分という圧倒的なタイムで優勝した。
また、このタイプのレースで1位と2位の差が1~2時間以上開くことはまずないのだが、コートーニーは2位(男子)に10時間の差をつけてフィニッシュした。
しかし、コートニーのキャリアハイライトはこれだけではない。
ニュージーランドで開催されたTarawera Ultra Runですでに2019年初勝利を挙げている彼女は、24時間で最も長い距離を走った米国人女子ランナーとしてギネスブックに載っている他、2018年は8勝をマークした。
また、現在キャリア通算勝利数を32に延ばしている彼女は、あるレースを攻めすぎ、残り12マイル(約20km)で一時的に視力を失ってしまったにも関わらず、そのまま走り続けて優勝したというハードコアランナーでもある。
今回は、2019年でのさらなる活躍が期待される33歳のスーパーランナーが強さの秘密を教えてくれた。

根っからのレース好き

明るい性格とハードランで一躍ウルトラランニングシーンのアイコンとなったコートニー・ドウォルター

明るい性格とハードランで一躍ウルトラランニングシーンのアイコンとなったコートニー・ドウォルター

© Courtney Dauwalter

コートニーはどこからともなく姿を現した新星ランナーのようなイメージだが、レーストラックトレイルクロスカントリースキーの経験が豊富だ。
謙虚な性格のコートニーが自ら話すことはないが、彼女はウルトラランナーに転身する前も様々なスポーツで様々な偉業を成し遂げており、その証拠に、クロスカントリースキー選手としてデンバー大学奨学金を獲得している。
しかし、本人は昔からランニングが一番好きだったとしている。
「中高時代からクロスカントリーと陸上競技にフォーカスし始めました。レースで自分の限界をプッシュしていくのが楽しくて仕方がないことに気が付いたんです」
「この頃から、ランニングを定期的にこなしています。仕事前に頭をスッキリさせたい時や、友人と話をしたい時も走っています」
高校の化学教師だったコートニーは、2018年にプロランナーに転向するために教職から離れた。当然ながら、今はプロランナーとしての活動にフォーカスしている。

専用ギアに拘らない

ウルトラマラソンイベントに集まったランナーたちの中からコートニーを見つける必要がある時は、200マイルの耐久レースよりはバスケットボール向きのルックスをしている笑顔の女子ランナーを探せば良い。
本人は「(バスケットボール選手のようなルックスを好んでいるのは)快適だからです。わたしは昔から長めのショーツが好きなんですよ。ウルトラマラソンでも長めが好きですね」と語っている。

食事とトレーニングを厳しく管理していない

「食事に関しては厳しいルールをひとつも設けていません。どの食品グループも制限なく食べています。トレーニングプランも用意していません。毎日自分の身体の声に耳を傾けて、そこから何をするかを決めていきます」
「自分が何を欲しているのか、自分の脚とマインドがどういう状態なのかを毎朝確認して、ランニングと食事の内容を決めています」
100マイル初挑戦時は、60マイル地点でリタイアしました。両脚の痛みが酷い状態でメンタルを高める方法を知らなかったのが原因です
コートニー・ドウォルター
「レース前は簡単に食べられるものなら何でもというところです。ですので、ピザでもブリトーでもOKですね」
「レース中は事前にテストしてあるレース用フードを食べます。超ロングレースでない限り、Honey Stingerのワッフルとグミ、Tailwind Nutritionのスナックとマッシュポテトを食べています」
「100マイル(160km)を超えるレースなら、これらにケサディージャやパンケーキ、ヌードルスープ、McDonaldのダブルチーズバーガーを加えます。レース後はビールを飲みます。あとはナチョスです!」

シーンのジェンダー問題について明確な意見を持っている

ウルトラランニングシーンでは、フィジカルとメンタルの両方でより多くの負荷がかかる長距離イベントから女子ランナーを外した方が良いのではないかという意見が存在する。
しかし、男子よりも好成績を残すことが多いコートーニーはこの意見に懐疑的だ。
「ウルトラランニングシーンはクールな時代を迎えています。女子ランナーたちがあらゆる限界をプッシュして、男子と互角の勝負をしています。わたしはこのようなシーンに参加できていることに幸運を感じています」
「ですが、“女子を外した方が良い” という意見が正しいかどうかは分かりません。レースの距離が長くなればスタミナとメンタルの勝負になっていくということは理解していますが」
アイダホ州立大学運動生理学教授で、ポッドキャスト『Science of Ultra』のホストを務めるショーン・ビアーデン教授も同意見だ。
「個人の最大運動許容量を点を使ってグラフ表示していけば、男女の点分布は2つの異なるショットガンの弾道のようになり、男子の平均値は女子をやや上回ります」
「ですが、特定のレースに参加登録している男女ランナーを対象にして、レースに向けたトレーニング、レース当日の判断力やモチベーションなど、レースに影響する可変要素をすべて含めてシミュレーションすると、女子が勝てる可能性は十分に考えられます」
ウルトラランニングは男子ランナーより女子ランナーの方が強いというわけではない。
しかし、ビアーデン教授は、 "遅筋繊維量が多い" "中枢疲労に強い" など、女子にはランニングに適している身体的特徴が複数あるとし、「このような特徴が女子を短距離よりも長距離向きにしているはずです」と説明している。

メンタルを維持する方法を知っている

コートニーは次のように見解を述べている。
「ウルトラランニングではメンタルが非常に重要です。ここがウルトラランニングの興味深い部分ですね」
「100マイル初挑戦時は、60マイル地点でリタイアしました。両脚の痛みが酷い状態でメンタルを高める方法を知らなかったのが原因です」
「ですが今は、フィジカルが辛くなった時(その瞬間は必ずやってきます)は、タフでいるように言い聞かせることができています。諦めずにプッシュを続けろと自分に言い続けています。こうすることで、フィジカルの辛さを乗り越えられるんです」

意識するのはその瞬間だけ

強いメンタルのカギになるのが、冷静な姿勢ステップバイステップのアプローチだ。
「基本的にはその瞬間のことしか考えていません。今自分が走っているマイルに集中して、フィニッシュラインについて考えないようにすることが重要です」
「捕らぬ狸の皮算用をするのは好きではないので、良くやったと自分を褒めてあげるのは、実際にフィニッシュラインを越えてからですね」
フィジカルとメンタルがかなり厳しく追い込まれた時は、集中してマントラを唱え続けるとしている。「 “大丈夫、わたしは大丈夫” というシンプルな言葉を繰り返すだけの時もありますね」と説明するコートニーは次のように続ける。
人間の肉体と脳のコンビネーションは最高に面白いんです。ウルトラマラソンのような超長距離を走れる人間の能力にわたしはいつも驚かされています。それゆえにわたしは走り続けているんです」
「人間は他にどんなことができるのだろう? どこまで走れるのだろう? メンタルを鍛えればフィジカルの痛みにどこまで耐えられるようになるんだろう? と次から次へ疑問が湧いてくるんです」

幻覚も味方につけている

食事もろくに摂らず睡眠時間を削りながらぶっ続けで数百マイルを走るウルトラランニングは、その場に存在しないものを見たい人に最適なスポーツだ。
コートニーは、幻覚が見えるようになるのはメンタルが疲労してくる夜が多く、見え始めたらその事実を認識するようにしているとしている。
「幻覚を見始めた頃は、コロラド州の山の中でキリン空飛ぶウナギが見えていました。あれにはかなり驚かされましたね」
「頭上を飛んでいくウナギを避けるために屈んだり、遠くを歩いているキリンをじっと眺めたりしていました」
「ですが、今は幻覚を見ていることを認識できていますし、幻覚たちと仲良くやっています! ハンモックに寝ているレオパードや、チェロ奏者、植民地時代の女子、投げ縄を振り回している身長4メートルのカウボーイ、路上に寝転がっている大量の猫、氷の城、トレイル脇に立っている農夫などに出会ってきました」

夫から優れたサポートを得ている

コートニーの夫、ケビン・シュミットは彼女ほどのランナーではなかったが、今は彼女にとって非常に重要な存在だ。
ケビンはコートニーのレース用ロジスティックをすべて管理しており、彼女が望んでいるスピードが得られるようにトレイル上でペースランナーを務める時もある。
「ケビンも今や立派なランナーです! デートしたての頃は5マイル(約8km)が彼の最長距離でしたが、今は100マイルレースを完走できるんですよ。スケジュールが合う時は、週3~4マイル(5~6km)を一緒に走っていますね」

ウルトラマラソンの必要条件を明確に理解している

「必要なのは我慢忍耐、そして完走するという強い気持ちですね。自分のために走ってくれる人はいません。ですが、努力を惜しまず、無理をしないでトレーニングを積んでいけば、ウルトラマラソン完走は可能です。

コートニー・ドウォルターの2019年レーススケジュール

  • 2月:Tarawera Ultra Run(優勝)
  • 6月:ウエスタンステイ・エンデュランスラン
  • 7月:ハードロック100
  • 8月:UTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)
  • 10月:IAU 24時間走世界選手権