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発掘! 『おでかけタコりん ちょいがえ』がヘンテコで愛おしい

タコりん? 何それ? ワンコインで体験できる、小さなポジティブサプライズ。
Written by Riko kushida
読み終わるまで:6分Published on
『おでかけタコりん ちょいがえ』

『おでかけタコりん ちょいがえ』

© 2014-2016 MECHANIC ARMS

スマホアプリをはじめ、パッケージのない"配信専用"のゲームタイトルが充実してきている。実は、約6100万台もの販売を誇るニンテンドー3DS用にも、国内外で数多くのダウンロード専用ソフトが配信されているのだが、知名度はいまひとつといったところ。そこで、もっともっと注目されるべき佳作をピックアップしたい。今回ご紹介するのは、甲南電機製作所(MECHANIC ARMS)の『おでかけタコりん ちょいがえ』(500円[税込])だ。

2016年、個人的に最も心に残った作品

筆者は仕事上、多くの新作ゲームを試遊する機会に恵まれている。2016年はPlayStation VR対応作品からインディー系まで約200タイトルをプレイできたが、最も心に残った1本が、この『おでかけタコりん ちょいがえ』だった。ちなみに、"ちょいがえ"とは"改"とか"Ver2.0"みたいな意味合いのようで、過去に別のサービスで配信された『おでかけタコりん』という作品がベースとなっている。
では、『おでかけタコりん ちょいがえ』とは、どんなゲームなのか。クリアー後に頭に浮かんできたのは、こどもの頃に繰り返し「読んで〜」とせがみ、親に「またぁ?」と呆れられた、お気に入りの絵本たちのことだった(具体的には、かこさとしの絵本。『だるまちゃんとてんぐちゃん』とか)。同時に、RPG巨編のエンディングも頭をよぎった(具体的には、『ドラゴンクエストIII』だ!)。しかし、写真からなんとな〜くお分かりいただけるように、『おでかけタコりん ちょいがえ』は、知育ソフトでもノベルゲームでもRPG巨編でも、そのいずれでもない。愛嬌たっぷりの"タコりん"をお出かけさせて、そのようすや結果をまったり楽しむ作品だ。とぼけたサウンドとともに。
『おでかけタコりん ちょいがえ』

『おでかけタコりん ちょいがえ』

© 2014-2016 MECHANIC ARMS

プレイヤーがすることと言えば、おうちにいるタコりんにお出かけ先を指示して、あとは見守るだけ。延々とその繰り返しだ。お出かけには実際に時間がかかり、近所とおぼしき場所ならほんの数分で、「え、それどこ!?」という非現実的な空間へは十数分かけてたどり着くことになる。その間は放置でもいいし、タッチペンでタコりんを急がせてもいい(タコりんはいろんなアクションで応えてくれる)。一見、ムダにも思えるこの時間を積み重ねるうちに、画面の向こうの世界のスケールや時間の流れを、そして遠い道のりを何度も行くタコりんのがんばりを、筆者はじわじわと実感していった(のだと、クリアー後に悟った)。
『おでかけタコりん ちょいがえ』

『おでかけタコりん ちょいがえ』

© 2014-2016 MECHANIC ARMS

お出かけ先に着いたタコりんは、アイテムを拾ったり、アルバイトを見つけたりして、おうちに帰ってくる。ときには、仲間と出会ったり、新たなお出かけ先を発見することも。こうした小さな変化はお出かけのたびに起こり、最初は何も持たずにひとりで庭に出ることしかできなかったタコりんが、アイテムを身に着け、仲間を連れて、街へ、海へ、彼方へと行動範囲を広げていく。次はどんな発見があるかとワクワクさせてくれるこの仕掛けは、エンディングを迎えるまで途切れることがない。要素だけを書き出すと、まるでRPGの流れのようだが、実際にはもっと単純な作業を繰り返しているだけ。なのに、飽きることのないこのゲーム性は、むしろ「続きはどんなだろう?」と絵本のページをめくっていくのに似ている。
『おでかけタコりん ちょいがえ』

『おでかけタコりん ちょいがえ』

© 2014-2016 MECHANIC ARMS

絵本との共通点は、イマジネーションを広げる余地のある、ヘンテコでほのかな物語性にも感じ取れた。お出かけ先のようすやできごとは、基本的に文字で報告されるのみで、時折、アルバムに貼られる写真や、写真に添えられた短い解説などを通じてうかがい知ることができるだけ。多くは語られず、解説も第三者がタコりんのようすを見て絵本に綴ったような語り口で、本当のところはよくわからない。とくに、各お出かけ先にはタコりんが住み着く個別エンディングが用意されていて、タコりんの謎めいた暮らしぶりがビジュアルで紹介され、想像力を刺激する。こどもの頃、母と絵本を眺めて、「だるまちゃん、何やってるのかな」、「おかしいね」などと一緒に笑っていたあの幸福な時間が、唐突に思い出された。
『おでかけタコりん ちょいがえ』

『おでかけタコりん ちょいがえ』

© 2014-2016 MECHANIC ARMS

 "イロモノ"だと思っていたら"泣けるSF"だった!?

さて、クリアーしてからも、プレイヤーの心を捉えて離さないのが、『おでかけタコりん ちょいがえ』のスゴいところだ。といっても、やり込み要素のことではない。アイテム収集をコンプリートし、やることがすっかりなくなってしまったあとも、お気に入りの絵本を何度も読み返したくなるのに似た気分で、そしてタコりんに会いたくって、ニンテンドー3DSを起動してしまう。それは筆者にとって、『おでかけタコりん ちょいがえ』を終えてしまった喪失感……"タコロス"を解消する方法でもあった。
すると、タコりんはあいかわらずおうちにいてくれて、おうちのなかにはオープニングからエンディングに至るまでのタコりんのお出かけ物語を、楽しく振り返ることのできる仕掛けがいくつも用意されている。お出かけ先の写真を貼ったアルバムや、アルバイト歴の記録や……。
『おでかけタコりん ちょいがえ』

『おでかけタコりん ちょいがえ』

© 2014-2016 MECHANIC ARMS

この、ゲームを読み返すという体験は、絵本とはまた違って、大きく心を揺さぶられるものだった。アルバムの1ページ1ページを見るにつけ、タコりんへの深い共感と、いつのまにかプレイヤー自身のものとして染みついていたお出かけの思い出が、ブワーッと呼び覚まされる。それは、実際に時間をかけてタコりんとお出かけを繰り返した、あのインタラクティブな体験によって培われた感覚だった。作業的には見守っていただけなのに、まるでRPG巨編をクリアーし、スタッフロールに挿入される名場面を見ながら大冒険を思い返すのと同様のタイプ&スケールの読後感なのだ。
さらに、クリアー後には各シーンをタコりんの視点で振り返ることができるようになり、謎めいた行動の裏に隠されていた本当の意味が明かされることになる。第一印象は"イロモノ"だったこのゲームも、ここへ来て"泣けるSF"に分類されることとなった。といっても、タコりんが妙ちくりんで笑えることに、ぜんぜん変わりはないのだが。
そう、よくわからない"イロモノ"を思い切って試せるのも、その結果、思いがけずこんなに愛おしい作品に出会えるのも、低価格で気軽に購入できるダウンロードソフトならでは。ヘンテコなタコりんのことが気になったなら、おかしくって小さなハッピーが次々と見つかる、この体験を共有してほしい。
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