放物線の飛行経路が生む無重力状態に備える
© NASA
探検

【超過酷!?】宇宙飛行士に待ち受ける試練 8選

宇宙飛行士として宇宙空間に飛び立つためには、その前に過酷きわまりない訓練の数々が待ち構えている。
Written by Will Gray
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宇宙飛行士はこの遠心シミュレーター装置で訓練を重ねる

宇宙飛行士はこの遠心シミュレーター装置で訓練を重ねる

© NASA

宇宙飛行士として宇宙空間を体験するためには、多岐の項目に渡る厳しい適性審査をパスするだけではなく、宇宙という特殊な環境で生活し作業を行うための訓練を少なくとも2年間積み重ねなければならない。それでもなお、宇宙飛行士の約75%が宇宙酔いと呼ばれる身体症状に悩まされ、地球への帰還後もほとんどが、微少重力が三半規管に与える影響による幻視症状を経験すると言われている。
以上を踏まえれば、宇宙飛行士の訓練プログラムが過酷な試練ばかりで占められているのも納得だ。その訓練のいくつかを紹介する。
01

ロケット打ち上げ訓練(写真上)

目的:ロケット打ち上げ時の推進力による垂直Gに耐える
正しい訓練なしでは、通常の人間はロケット打ち上げ時の強烈な垂直Gに耐えきれず失神してしまうだろう(G-LOC状態とも呼ばれる)。まず眼への血流が減少してグレイアウトと呼ばれる色知覚の喪失状態となり、視野狭窄(トンネル・ヴィジョン)が生じる。そしてついには、失神状態となってしまう。
通常の人間が耐え得る重力は4Gから6Gとされているが、このマシンでは否応無く回転速度を高めていくことで9Gという強烈な重力状態にまで耐えられる感覚を養成する。
大気圏再突入はまさに髪の毛が逆立つような体験だ

大気圏再突入はまさに髪の毛が逆立つような体験だ

© Huntsville Space Camp

02

大気圏再突入時の対処

目的コントロール不能状態への対処を学ぶ
このマシンは、搭乗者をランダムにあらゆる方向へ回転させることで、大気圏再突入時に水平きりもみ状態になることによって生じる失見当識障害をシミュレートする。
過去のミッションでは、このマシンは失見当識障害への対処訓練や、コントロール不能状態の宇宙船をジョイスティック操作で復帰させる操縦訓練のために使用されていた。現在では、アラバマ州ハンツビルにある NASA合衆国ロケットセンター内で行われているスペースキャンプ(訳注:U.S.ロケット&スペース財団が主催する青少年向けの体験学習プログラム)の一部として一般体験が可能だ。
放物線の飛行経路が生む無重力状態に備える

放物線の飛行経路が生む無重力状態に備える

© NASA

03

「嘔吐彗星」に耐える

目的:無重力状態に慣れる
「嘔吐彗星」とは、NASAが軽減重力研究に使う航空機の愛称だ。この航空機は、引き起こし45度から通常飛行を経て30度降下するという放物線状の飛行経路を取ることで、重力が軽減された状態を作り出せる。引き起こしから通常飛行に移行するまでの25秒で無重力状態を作り出せるという訳だ。宇宙飛行士は1回のフライトでこのプロセスを最高60回まで繰り返すため、乗り物酔いによる吐き気を催す場合が多い。これが嘔吐彗星と呼ばれる所以だ。
フロリダ州サラソタにあるIncredible Adventuresというエンターテイメント施設では、Aurora Aerospace社製の航空機Rockwell Commanderを使用してこの嘔吐彗星を一般体験できる。
水中で無重力状態を再現する

水中で無重力状態を再現する

© NASA

04

無重力状態での作業

目的:極限状態での作業を習熟する
NASAの無重力環境訓練施設(NBL)は世界最大の屋内プールで、宇宙飛行士はこのプールで10時間にも及ぶ無重力環境下での作業訓練を行う。
完全装備を身につけ、クレーンに吊られたまま40フィート(約12メートル)もの深さに沈められた宇宙飛行士は、宇宙船の模型周辺で作業訓練を行う。しかし、プール内では水圧が生じるため、完全な無重力状態の宇宙空間とは厳密には環境が異なる。
VRヘッドセットを身につける宇宙飛行士

VRヘッドセットを身につける宇宙飛行士

© NASA

05

仮想月面での移動訓練

目的:宇宙空間での歩行を学ぶ
ヒューストンのNASAジョンソン宇宙センターにあるヴァーチャル・リアリティ研究施設で、宇宙飛行士は没入体験が可能なVRヘッドセットを身につけ、実際の宇宙空間で行う様々な任務のシミュレーションを行う。
モーショングローブやボディセンサー類を身につけるだけで、実際に宇宙に上がることなく月面歩行や未知の装備設定など宇宙空間に必要な技術の習熟ができるというこのハイテク体験は、アポロ計画の時代からはまさに隔世の感がある。
宇宙空間では食事も試練となる

宇宙空間では食事も試練となる

© NASA

06

バランスの取れた食事

目的:宇宙食に慣れる
トレイの上にベルクロテープで留められた素っ気ない銀色のパッケージたちはお世辞にもご馳走には見えないが、少なくとも必要な栄養素は補給できる。栄養管理士が宇宙飛行士との相談を経て、各自に合わせた食事メニューを考案する。機内には多少の生鮮食品が持ち込めるとはいえ、宇宙空間におけるメニューの大半は殺菌済みの常温のものか、水分を取り除いた乾燥食品ばかりだ。
宇宙空間における食事の主な問題は、紫外線不足によるビタミンDの欠乏や血液が薄くなることによって生じる鉄分過多、カルシウムの吸収率低下によって生じる1%~2%の骨密度減少(1ヶ月あたり)などが挙げられる。
厳冬期のサバイバル・トレーニングは過酷そのもの

厳冬期のサバイバル・トレーニングは過酷そのもの

© State Organization "Gagarin Research & Test Cosmonaut Training Center"

07

極限状態でのサバイバル

目的:僻地でのサバイバル術を学ぶ
地球への帰還時の軌道は緻密にコントロールされているものの、何か不測の事態が起きれば、海に着水するか厳冬の北極圏でひたすら救助を待つ羽目になってしまう可能性がある。このような状況下でのサバイバル術を学ぶため、宇宙飛行士は文明から遠く離れた僻地へスペースポッドと共に送り込まれる。
極限環境に適応する

極限環境に適応する

© NASA

08

小惑星への着陸

目的:新たなるフロンティアとの遭遇に備える
これは「アクエリアス」と呼ばれる、世界にひとつしかないNASAの海底研究室だ。ここでは、極限環境ミッション運用(NEEMO)チームが1回につき最長3週間に及ぶ訓練生活を送る。
室内が与圧されているこの海底研究室は、フロリダ州キー・ラーゴ沖の海底約59フィート(約18メートル)に位置しており、NEEMOに参加する宇宙飛行士たちが、火星探査などの長期プロジェクトや小惑星への着陸に向けたトレーニング、クルーが事故に遭った際の緊急救助訓練などを行っている。