eスポーツ
成長を続けるeSportsシーンにプレイヤーの権利を守る “選手会” は必要なのか? 関係者たちの意見を交えながら考察していく。
ここ数年、eSportsは飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けている。賞金総額は跳ね上がり、トーナメントやチーム、そしてビデオゲームをプレイして生計を立てるプロプレイヤーの数は増え続けている。しかし、すべてが順風満帆という訳ではない。eSportsはまだ立ち位置を模索しているあやふやな状態で、また賞金総額とプレイヤーの増加もある。これまでよりも組織だった運営が求められているのだ。
数ヶ月前、複数のチームが協力してある種の労働組合を組織し、自分たちが参加するトーナメントやイベントに対する具体的な要求を示した。しかし、この組合はプレイヤーに対してはあまり意味があるものではなく、プレイヤーの多くは賛同する態度を示さなかった。『Dota 2』のプロチームDigital ChaosのオーナーShannon “SUNSfan” Scottenはこの動きを「完全なジョーク」とし、「選手会に相当するものではない」と批判した。
果たしてeSportsには選手会が必要なのだろうか? また、必要な場合はどうやって公正な選手会を組織すれば良いのだろうか? eSportsの重要人物たちに意見を求めてみた。
LGB eSportsの『CS: GO』女子チームのプレイヤー、Hege “Hedje” Botnenは、「『CS: GO』は成長を続けているし、3年以内にはもっと大きくなると思うから、プレイヤーを守ってくれるような組織が必要になると思うわ。正式な選手会、つまりプレイヤーの権利を守ってくれる組織と人員が必要ね」とコメントしている。
今回取材した多くの選手たちはBotnenの意見に賛同しており、プロプレイヤーの福祉や選手とチームの交渉にアドバイスをしてくれるような経験豊かな人物が必要だとしている。多くのプレイヤーたちは、契約を含めた法的問題を苦手としており、そこに手を貸してくれる存在は助けになるとしている。
『League of Legends』のプロプレイヤーで、チームOrigenの創設者でもあるEnrique “xPeke” Cedeño Martínezも選手会の可能性については同意見だ。「ベテランプレイヤーじゃなくて、これからプロとしてちゃんとやっていこうとする若手プレイヤーが問題を抱える場合が多いんだ。彼らは酷い契約内容に困ってしまう場合があるのさ」
しかし、Martínezは選手会を作るという基本的なアイディアには賛成するとしながらも、そのタイミングについては疑問が残るとしている。「今がそのタイミングなのかは分からないね。結局は誰が面倒を見るかによって変わってくるし、今選手会が組織されるのであれば、正しい理由で正しい人物によってまとめられるべきだよ」
プレイヤーの権利を向上させるために定期的に働きかける選手会を組織するというアイディアは最近生まれたものではなく、プレイヤー側からは助けが必要だという声は挙がっていた。ただし、チームやイベント側は選手会の必要性についてそこまで急を要するものではないと考えている。例えば、米国のNBA、NHL、MLB、NFLと言ったプロスポーツにおいて選手会は必要不可欠な存在だ。各リーグは選手たちのストライキによってシーズンが短縮された苦い経験があり、このようなストライキは選手会とリーグ側の話し合いによって解決されてきたという過去がある。eSportsではプレイヤー数こそ増えてはいるものの、その数はこれらの4大スポーツと比較するレベルではなく、そのような問題は現時点ではまず起きない。また、運営側との意見の食い違いがない限り、選手会は必要ないのだろうか? eSportsを専門とする弁護士Bryce Blumは「恐らくイエスだ」としている。
「今のeSportsシーンに正式な選手会が必要かどうかは何とも言えません。現状、シーンには暫定的な判断でペンディングされている問題もありますが、いわゆる一般的なプロスポーツの歴史を振り返ってみると、ルールの改正や労働条件などの共通の問題のために複数の選手たちが自主的にグループを作って解決に取り組んだというケースが沢山あります。交渉をするために最初から大きな団体を用意する必要はないんです」
「組織だった行動で解決される問題の多くは、選手会レベルまで行かない組織でも十分に取り組めるのです」
こう考えると、トーナメント運営側と選手側の問題を解決するために正式な選手会を組織するというアクションは現時点ではまだ必要ないのかも知れないが、Smiteを開発したHi-Rez Studiosの代表を務めるStew Chisamはもっとシンプルな形で選手会と同レベルの恩恵をプレイヤーに授けられる可能性があるとしている。「Smiteの中に、『選手権利法』と呼ばれるものを作ってみるのはどうかと話し合ったことがあります。これはプレイヤーが持つべき権利を示しつつ、その権利が満たされなかった場合の修正方法を記したものです」しかし、同時にChisamはこのアイディアについて、すべてのeSports、特にHi-Rez Studiosのように開発側が深く関わっていないeSportsの場合には当てはめられない可能性があると注意している。
俯瞰して眺めてみると、多くのプレイヤーたちが「選手会」に賛同している一方、プレイヤー以外の人たちの多くがその存在意義を疑問視しているように思えてくるが、チーム側はどう感じているのだろうか? 現時点でプロプレイヤーを管理し、彼らの捧げた時間と努力に対して報酬を支払っているのはチームだ。
Digital ChaosのオーナーScottenに選手会がチームにどのような影響を与えるか訊ねてみると、彼は次のように回答している。「正直に言えば、選手会からの影響はまったく受けないと思いますね。というのも、プレイヤーはチームの成功から恩恵を受け、チームもプレイヤーの成功から恩恵を受けるというシステムが既に成立していますからね。チームとプレイヤーはお互いに恩恵を受けるパートナーシップのような関係なんですよ」
この点についてはOrigenの創設者Martínezも同意見だ。「選手会はそこまでチームに影響を与えないと思う。僕たちのチームはプレイヤーたちを最大限ケアしていると自負しているしね」
このようにチーム側は選手会から受ける影響はほとんどないと考えているようだが、eSportsを専門とする弁護士Blumは正反対の意見を持っている。「(選手会がチームに与える)影響は大きいですよ。ひと言で説明するのは難しいくらいですね。選手会はいつの日か組織されると思います。ですが、そのためにはシーンの人たちの多くにとって想像もつかないような金額がかかりますし、複雑な手順が必要です」
まとめてみると、eSportsがこのまま成長を続ければ、いずれは選手会が組織されるというのが共通見解のようだが、チームオーナーとデベロッパーは現状に満足しており、現在生まれている問題の多くも、デベロッパー、チーム、プレイヤー、トーナメントオーガナイザーの間で潤滑なコミュニケーションが行われれば、選手会を作るまでもなく解決できそうだ。選手会はいずれ組織されるのだろう。しかし、それは今ではないというのが現時点での結論だ。