Capcom Cup 2017の優勝賞金は25万ドル(約2,625万円)という、人生を一変させる金額だった。このトーナメントのトップ8がスタートする前、各プレイヤーが優勝賞金の使い道についてコメントするシーンが放送されたが、その使い道はおふざけから賢明なものまで様々だった。
Justin Wong(Echo Fox)は馬を買うことを約束し、Luffy(Red Bull)とももち(Echo Fox)は犬を飼いたいとしていた一方、もっとシリアスで現実的な使い道について語ったプレイヤーも見られ、どぐら(CYCLOPS)は子供のために使いたいとし、ガチくんは結婚式の費用に充てたいとしていた。しかしその中で、自分を育ててくれたシーンのために使いたいと回答した2人のプレイヤーがいた。
ウメハラ(Hyper X / Cygames / Red Bull)がそのひとりだった。ウメハラは「今年は賞金をどうしようかと思ってまして。もし取れたら、まぁ、何位でもいいんですけど、格闘ゲームの映画、『9road』っていうのがあるんですが、その資金が足りないみたいなので、賞金は全部それに使おうかなと思っています」とコメントしていた。
そして、MenaRD(RISE)も似たようなコメントを残していた。「ローカルシーンを育てたい。僕の地元にはまともに集まれる場所がない。"ドージョー" は一応あるけれど、とても小さいんだ。だからそういう部分に投資してシーンを大きくして、ドミニカ共和国で格闘ゲームを学ぶ人を増やしたい」
ローカルシーンを育てたい
MenaRDの1年を通じたハードワークと献身は実を結んだ。グランドファイナルに進出したMenaRDは、ときど(Echo Fox)にリセットされたが、リセット後は3-1でときどを抑えて見事に優勝した。優勝が決まると、ステージ上に駆け上がった同志たちとMenaRDによってエモーショナルな祝福の輪が作られ、ドミニカ共和国にとって歴史的な瞬間が生まれた。
優勝したMenaRDは約1,229万ドミニカペソに相当する大金を手にし、あとは、ローカルシーンを格闘ゲームコミュニティ(以下FGC)屈指の強豪に育てたいという自分の夢を叶えるための基礎工事を始めるだけとなった。
王の改革
ドミニカのFGCはMenaRDのキャリアを支え続けてきた。だからこそ、彼は恩返しをしたいと思っている。MenaRDはドミニカ共和国内のesportsの成長に期待しており、プロ志望のプレイヤーたちを正しい方向に導くためのアンバサダー役を担っている。
「ローカルコミュニティがあったから僕は僕になれたんだ。彼らは僕が素晴らしい人生を送れるように力を貸してくれた。だから、僕もコミュニティの成長に全力を尽くす。次の世代がより簡単にプロプレイヤーになれるようにね。ローカルコミュニティは僕にとって第2の家族だ。僕が行けば手厚くもてなしてくれる。また、コミュニティ内の競争意識も強い。大好きだよ」
ローカルコミュニティがあったから僕は僕になれた
MenaRDは、自分のチームSanto Domingo Tigersを発足させ、2018年2月にTwitterアカウントも立ち上げた。「僕の国では "Tiger" はクールな人物を指す言葉なんだ。だから、チーム名にTigerを組み込んで、マスコットにも使ったんだ」と説明しているMenaRDは、チームを用意することで所属プレイヤーを世界各地のメジャートーナメントに送り込み、ドミニカ共和国のシーンの強さをアピールしながら、所属プレイヤーのキャリアを築き上げたいと考えている。
「もっと多くのプレイヤーが定期的に国外を転戦できるようになればと常々思っていた。でも、そのためにはスポンサーが必要だ。僕なら彼らの力になれると思っている。世界に僕たちの実力を示しながら、コンテンツ制作能力やオーガナイズ能力も育てていきたい」
2018年2月現在、Santo Domingo Tigersには2人のプレイヤーが所属している。豪鬼使いのJochyとダルシム使いのLuiman20だ。MenaRDは、今シーズンはこの2人を数多くのトーナメントで目にするはずだとしている。自分のチームとドミニカ共和国のesportsシーンの未来に何を求めているのかについて、MenaRDは「成功」というひと言にまとめている。
広い視野に立って
MenaRDは、ドミニカ共和国のFGCがメジャートーナメント参戦よりも前に考えなくてはならない問題、「高額の旅費」に取り組みながら、ビギナーとベテランの差を狭める努力もしている。
「プレイヤーが集まってスキルを磨ける場所、新規プレイヤーが気軽に訪れて好きなゲームについて学べる場所を用意したいと思っている。あとは、米国のような良質なトーナメントも開催したい。国外に出なくても世界に自分たちの才能をアピールできるようなトーナメントをね」と説明しているMenaRDは、当然ながら移動の難しさを良く理解している。
以前、MenaRDは、国外のトーナメントに参加したい場合は未成年という理由からその都度ドミニカ共和国政府から許可を得なければならなかったとコメントしていた。そして、米国ドルがドミニカ共和国の経済インフレに大きな影響を与えているため、飛行機代もプレイヤーたちの大きなハードルになっている。
MenaRDは、複数のジャンルでの対戦ゲーミングシーンの成長を考えている。チームのメインフォーカスは現時点では格闘ゲームだけだが、MenaRDは他のジャンルへの進出も考えている。「ドミニカ共和国で最も大きいシーンは格闘ゲームだけど、国内の他のesportsタイトルにも力を貸したい。将来的な可能性はゼロじゃない」
繋ぎ役
MenaRDはSanto Domingo Tigers以外にも、スポンサーがついていないプレイヤーをCapcom Pro Tourに送り込むシステムを用意している。
「The Next Dream:Road To EVOっていう名前のローカルサーキットを展開しているんだ。毎月対戦して、ポイントを積み重ねていく。優勝者にはEVO 2018の出場費用全額負担をプレゼントするんだ。あとは、Capcom Pro Tourに組み込まれているGame Over TournamentやFighting Festのような、国内の他のトーナメントも全てサポートしていくつもりだよ」
MenaRDのこのような強い帰属意識は、昨年のCapcom Pro Tourに参加した自分を無私無欲で支えてくれたローカルコミュニティへ恩返ししたいという思いから来ている。
「彼らが支えてくれたことが僕のパフォーマンスを大きく高めてくれた。自分をサポートしてくれる仲間が近くにいれば、僕はもっと強くなれる。だから僕も彼らを強くするために力を貸す。これが僕たちのやり方なんだ。義務感からやっているんじゃない。単純にそうしたいんだ。自国のプレイヤーは僕と同じくらい才能があるし、僕と同じチャンスを得るに相応しいと思っている」
サポートしてくれる仲間が近くにいれば、僕はもっと強くなれる。だから僕も彼らを強くするために力を貸す。これが僕たちのやり方だ
Capcom Cup 2017のグランドファイナルでときどを下したMenaRDは、一瞬信じられないという顔をしたあと、仲間たちの喜びの輪に加わった。彼を応援するためだけに遠路はるばるアナハイムまでやってきていたドミニカ共和国のFGCは、万雷の拍手の中、連帯の強さをエモーショナルに表現しながら仲間の優勝を祝っていた。
コミュニティはどの格闘ゲームシーンでも非常に重要な存在だ。そして、MenaRDも同じ考えを持っている。ファミリー愛を強く打ち出すことで、ドミニカ共和国のFGCの幹を強く太くしたいと思っている彼の言葉は口約束ではない。2018年2月25日には早速Road to EVOの第1回が開催され、Jochyが優勝した。
MenRDは自分をトッププレイヤーに育ててくれた仲間に恩返しをしようとしており、その行動はすでに世界各地で大きな話題になっている。
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