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スタートダッシュ失敗を見事に挽回したPS4独占レーシングゲームが最近リリースしたバイク版について開発元が解説した。
『DRIVECLUB』は上々のスタートを切れたゲームではなかった。EvolutionがPS4独占タイトルとして開発を担当していたこのゲームは、PS4のローンチタイトルとして予定されていたにも関わらずリリース予定日が複数回延期されたのち、ようやく2014年10月にリリースされ、サーバーの問題からPlayStation Plusの無料版がPS4のローンチに間に合わなかったことについては、Sonyからも公式に謝罪が発表された。この展開は『DRIVECLUB』にとってはまったく望んでいないものだったが、今や状況は一変している。
ディレクターのPaul Rustchynskyは次のように説明する。「今は良い報告ができるようになっていますね。サーバーに問題を抱えていたのは遠い昔のことですが、当時は厳しかったですね。当時はローンチに十分に間に合うと考えていましたし、2週間ほど早期アクセスもプレイしてもらっていました。すべては順調だったんです」
「ですが、もっと他に注意しなければならない部分があることをあの一件で学ぶことになりました。それ以来、Sonyとは近い距離で仕事を続けていますし、自分たちの教訓がゲーム開発に携わるすべての人たちの間でシェアできるようにしています。特に私たちが使っているようなソーシャルメディアの部分における教訓ですね。私たちにとってもここは新しい領域でしたので。その結果、今は支えてくれたファンが喜んでくれる内容になり、彼らにふさわしいハイクオリティなゲーム体験が提供できていると思っています」
『DRIVECLUB』がこれまでに全世界で200万本以上を売り上げ、PS4のベストレーシングゲームと高く評価されていることを考えれば、ファンがSonyとEvolutionの甚大な努力を快く受け容れているのは簡単に理解できる。Evolutionは『DRIVECLUB」が安定していることに自信を持っており、最近になって車だけではなくバイクも楽しめるDLC/単体起動版をリリースした。
その『DRIVECLUB Bikes』は、スタジオのバイクレースへの愛情から生まれたものだとRustchynskyは笑顔で説明する。「私たちはスピード狂なんですよ。速いものなら何でも好きですが、特に1200ccのスーパーバイクが大好きなんです! 『DRIVECLUB』については普段からこのゲームにどうやってテコ入れができるか、どうやってサプライズを提供できるかについて考えていますが、長期に渡って4輪のDLCを開発してきた今こそ、スーパーバイクへの愛情を表現する良いタイミングだと思えました。そこで今年初めからスーパーバイク版の開発を試してみましたが、すべてが上手くいきました。ゲームエンジンは非常にパワフルですし、スーパーバイクを熟知しているスタッフも多いので、形にするまでにそれほど時間はかかりませんでしたよ」
SEGAの『ハングオン』やPolyphony Digitalの『ツーリスト・トロフィー』などのクラシックが存在するものの、レーシングファンは夢のような高級スポーツカーをドライブするというファンタジーを好む傾向にあるため、スーパーバイクは長年に渡り良い形でゲーム化されてこなかった。しかし、バイクはレーシングゲームにおいてユニークな存在になれるとRustchynskyは感じている。
「強力な加速と圧倒的な敏捷性を誇るバイクは非常に楽しいですよ。バイクでは道路が広く感じられ、スピードも出ているように感じますし、車よりも簡単にオーバーテイクできますので、バイクのマルチプレイヤーモードは最高に面白いですね。今作のプロトタイプをSony側に見せるために、マルチプレイヤーを制作しましたが、すぐにスペシャルなゲームになると実感できました。特にマルチプレイヤーとして優れたゲームになると思えましたね。チームもかなりの好感触を持ってくれました」
Sony Computer Entertainment Worldwide Studiosの代表取締役会長吉田修平が今作を初めてプレイした際、Evolutionは確実な手応えを感じ取った。「ロンドンで吉田サン(原文:Yoshida-san)と私たちを含めた開発チーム数名でマルチプレイヤーモードをプレイしたのですが、吉田サンは初見にも関わらず、私と優勝争いを繰り広げたんです!」
Evolutionを長年知っているファンならば、彼らがバイクを手がけた作品は今作が初めてではないということを知っているだろう。彼らがPS3で手がけてきた『MotorStorm(モーターストーム)』シリーズにはバイクも含む様々なマシンが収録されており、この経験が今作の開発に活かされた。
「『MotorStorm』シリーズで様々なバイクの開発をしたことで、高速バイクのスピード感や躍動感の生み出し方を学びましたし、バイクレースに関する諸々の問題を回避する方法も学んできました。たとえば、ハイレベルなプレイを望んでいるベテランプレイヤーに対して十分な難易度とやりがいを与えつつ、転倒することなく簡単にライディングが楽しめるようなゲームの作り方などです。初心者とベテランの両方が楽しめるバランスを見つけることが何よりも重要です。誰にとっても本格的でエキサイティングなゲームにする必要がありますし、『MotorStorm』と『DRIVECLUB』での10年間の経験が、今回の『DRIVECLUB Bikes』には活かされています」
バイクと車の挙動は大きく異なるが、Rustchynskyは『DRIVECLUB』のゲームエンジンはホイールが何個だろうと、プレイヤーが納得できるゲームプレイを提供できるだけの万能性を誇っていると言う。「ドライブトレインやモーター、ホイールが備わったあらゆるマシンの駆動メカニズムを細かく正確に再現できるエンジンをイチから組み上げたんです。ですので、スーパーバイクをゲームに持ち込み、すべての車種をリアルに仕上げるのは予想以上に簡単でした。難しかったのはシミュレーションとアーケードのバランスを取ることでしたね。特に『DRIVECLUB』にはダイナミックな天候変化がすべてのレーストラックに組み込まれていますし、バイクを限界までプッシュして好タイムを刻むためのハイレベルなスキルやマシンのメカニズムを考慮しながら、プレイしやすくて楽しいゲームに仕上げるのは苦労しましたね」
『DRIVECLUB Bikes』はDLCだが単体起動版もリリースされており、中核となるゲームシステムを介さないでもプレイできるという点がユニークだが、Rustchynskyはその理由について、誰もがプレイできるゲームにしたかったからだと説明する。「誰もが簡単に楽しめるようなゲームにしたかったので、DLCのみに制限するのはどうかなと思ったんですよ」
「バイクファンならば、他の部分を無視して単体起動版をすぐに楽しめるという訳です。一方で、『DRIVECLUB』を既に購入していて、そこにバイクを追加したいというプレイヤーはDLCとして購入できます。『DRIVECLUB』をプレイしてくれているお礼として、DLCは少し価格を下げてあります。このような選択肢をプレイヤー側に与えること、そして両方がパーフェクトに動作することが重要です。ちなみに、チャレンジや特定のイベントの名声ポイントを獲得するためにバイクと車を切り替えてプレイしたいという場合も、シームレスに行えます。『DRIVECLUB』のどのバージョンでも、すぐにすべてのコンテンツに簡単にアクセスできますよ」
『DRIVECLUB Bikes』は単体起動版が用意されてはいるものの、『DRIVECLUB』から完全に切り離されているわけではなく、今作の開発は、『DRIVECLUB』自体をも進化させることになった。「どのDLCも、最新の開発状況を披露しつつ、ゲームの世界を広げるチャンスです。私たちはコミュニティと一緒にゲームを進化させることに大きな誇りを持っていますし、レギュラープレイヤーをリフレッシュしつつ、新規プレイヤーも楽しめるようにしています。『DRIVECLUB Bikes』の開発はこのゲームだけではなく、コミュニティ全体にもメリットを与えていますね。新しいブレーキアシストやプライベートロビーなどがそうです」
このような改良はファンからのフィードバックが活かされたものだが、これはEvolutionがいかにファンを重視しているかを物語っている。「ブレーキアシストは新規プレイヤーがゲームに入り込みやすくするために開発しました。プレイヤーからのフィードバックはもちろん、彼らのプレイスタイルのデータも参考にして開発しました」
「新規プレイヤーはコーナーへの進入が遅くなるので、ブレーキアシストのオプションは、彼らの助けになると思っています。また、プライベートロビーは自分だけのマルチプレイヤーイベントを作成できるので、友人と楽しむためのユニークなイベントが楽しめます。沢山のオプションを与えることで、プレイヤーがレースを自分のプレイスタイルに合わせてリアルにしたり、その逆にしたりすることが可能になります。レーストラック、マシン、天候、時間などの設定の他に、ドリフトやペナルティ、衝突の程度も変更可能です。また、より写実的にするために物理エンジンとグラフィックエンジンも調整しましたし、ダイナミックに変化するシャドウイングやディテールの細かいタイヤの変形モデルも導入したので、どのマシンのホイールもしっかりとレーストラックやレースに合わせて変化します。私たちは常に自分たちのテクノロジーを進化させながら改良を加えていますので、アップデートごとの進化に期待してください」
デベロッパーによっては、このような方向性の大きな変化に対するレーシングゲームファンの反応を怖がるが、Rustchynskyはファンの反応は非常に良いとしている。「Paris Games Weekでのローンチがコミュニティを大いに盛り上げましたね。発表とローンチを同時に行ってサプライズを与えたのも良い方向に働きました。スケール感や収録されるバイク、プラチナトロフィーなど、このゲームの詳細を知った時のファンの反応は見ていてクールでしたね。かなり大きなバズが生まれましたし、それ以来、プレイしたファンから素晴らしいフィードバックをもらっています。彼らがシェアしてくれている映像や画像も楽しんでいますよ。バイクでのレースの面白さに驚いた、すぐにライディングできるようになったなどの感想をよくもらうのですが、面白いですよね。バイクの操作は難しいと心配していたのに、簡単に乗りこなせることに気付くプレイヤーの数が多いんでしょう」
スーパーバイクを制覇した今、『DRIVECLUB』が他のマシンにも進出する予定はあるのだろうか? Rustchynskyは回答する。「もちろん、私たちのテクノロジーがあれば可能ですが、今は『DRIVECLUB』と『DRIVECLUB Bikes』に集中しています。コミュニティと共にゲームを進化させ続ける予定ですので、今後のゲームシステムの進化や人気マシンの追加に期待してください」
また、Evolutionの社内にバイクファンが数多くいるということから、バイクに特化した単体のゲームが開発される可能性もあるのではないだろうか? Rustchynskyは現時点では『DRIVECLUB Bikes』が自分たちの欲求を上手く満たしてくれていると言う。「『DRIVECLUB Bikes』をDLCと単体起動版に分けて出した大きな理由がそこなんです。『DRIVECLUB Bikes』は『DRIVECLUB』を介さずに単体で楽しめますからね。すぐに楽しんでもらいたいんです。この先については分かりません。現行のテクノロジーでできることがまだ沢山ありますからね。とりあえずは、この先数ヶ月のアップデートから目を離さないようにしてください」