レゲエはジャマイカで生まれた音楽だが、第2の故郷はUKだ。
その理由は、戦後のカリブ諸国からの大量移民と、Bob Marleyのようなアーティストを世界的に有名にしたChris BlackwallのIsland RecordsのようなUKレーベルのキュレーションにある。
かつて、UKがレゲエアーティストたちを本場ジャマイカのレゲエアーティストたちと張り合える存在にするというアイディアは馬鹿げたものに思われていた。
しかし、1970年代中頃になると新世代のミュージシャンとスタジオが多民族国家UKで台頭し、本場ジャマイカのスタイル、サウンド、テーマにUKらしさを加えるようになった。
今回は2018年6月8日・9日にリヴァプールで開催されるPositive Vibration Festival of Reggaeに出演する、映画監督 / ミュージシャンDon Letts、On-U Soundが誇るAdrian Sherwood、BBC 1XTRAのSeani Bの3人をキャッチして、UKレゲエ&ダブの名盤を10枚ピックアップしてもらった。
1:Steel Pulse『Handsworth Revolution』(1978年)
Don Letts:UKレゲエの重要な1枚だ。長年に渡り、UKレゲエのアーティストたちはリスペクトされていなかった。ジャマイカ出身じゃなければ本物じゃないと思われていたんだ。
しかし、Matumbi、Aswad、Steel Pulseが革新的な作品を生み出したことで、UKレゲエは独自の存在として捉えられるようになり、ジャマイカと互角に渡り合えるようになった。
この作品を重要にしているもうひとつの理由は、レゲエが非常に政治的、好戦的で、社会意識が高かった時代に生み出された作品だからだ。このアルバムは当時の英国に住んでいた黒人たちのフィーリングを捉えている。今年起きたウインドラッシュ・スキャンダルを取り巻く政治運動に繋がる非常に悲しいアルバムだ。
リードヴォーカルのDavid Hindsは非常に特徴的な声をしている。私はSteel Pulseのハーモーニーに衝撃を受けた。非常に悲しい音楽をハーモニーが甘く包んでいる。
2:Matumbi『Point of View』(1979年)
Adrian Sherwood :UKのダブパイオニアといえば、Dennis Bovellだ。Dennisはダブマスターだ。自分のバンドMatumbiでの仕事は素晴らしかった。また、他にも数々の重要なダブアルバムをプロデュースした。
Dennisは非常にユニークで、自分のサウンドを持っていた。また、音楽性が豊かだった。彼は非常に優秀なマルチインストゥルメンタリストで、ドラム、ギター、ピアノなどあらゆる楽器を演奏していたが、気付いていない人は多かった。
Dennisは私に大きな影響を与えている。私の最初のレコードのミックスを手掛けてくれた。Creation Rebel『Dub From Creation』だ。このアルバムは今年でリリース40周年を迎えるが、彼に言われたことが今も自分の中に大きく残っている。
彼からは「スタジオに入り、優秀なミュージシャンたちとレコーディングをしたあと、ミックス作業に入るわけだが、ミックスこそ自己表現するタイミングなんだ」と言われた。
3:Aswad『New Chapter of Dub』(1981年)
Adrian Sherwood:このアルバムのオープニングトラックは最高のホーンアンセムだ。Aswadはリズムセクションの基準を生み出したバンドだった。
ドラマーのAngus GayeはUK産の名盤の数々に参加していた。Burning Spearのリズムセクションとしても活動した。UKレゲエの名盤と呼ばれている作品の大半は、素晴らしいリズムセクションが支えている。USソウル、Tamla Motownのレコードと同じだ。
Aswadのようなバンドを魅力的な存在にしている理由は、バンドメンバーが全員優秀なミュージシャンだったことにある。
彼らは自分たちのアートを生み出したが、彼らには仲間が演奏しているフィーリングがある。魔法が感じられる。プロフェッショナルなスタジオミュージシャンが寄せ集められたリズムセクションのフィーリングとは異なっている。彼らは非常に美しい音楽を生み出せる才能を持っていた。
おそらく、当時のマネージャーから「お前らはラドブローク・グローブ(編注:ロンドン北西部)のいちバンドで終わっていいのか? それとも金を稼ぎたいのか? どっちなんだ?」とでも言われたんだろう(笑)。彼らは後者を選び、よりコマーシャルな方向へ進んでいった。
4:Carroll Thompson『Hopelessly In Love』(1981年)
Seani B:DJを始めた頃はハウスパーティのサウンドシステムに参加していたんだ。バースデイパーティや洗礼式、結婚式、クラブなど、音楽が必要な場所ならどこでもプレイしていた。
一晩中音楽を鳴らすわけだから、色々な音楽をプレイできるセレクターになる必要があった。ハウスパーティなら、朝の4時、5時になると雰囲気が変わって、レアグルーヴやスロージャム、ラヴァーズロックなどが求められた。
ラヴァーズロックは1970年代と1980年代のジャマイカンレゲエのUKバージョンだった。ラヴァーズロックは独自のスターを生み出した。Louisa Mark、Janet Kay、The Investigatorsなどがそうだね。
当時の俺はそこまでラヴァーズロックを揃えていたわけじゃなかったから、このアルバムを頼りにしていた。パーティーの締めくくりにはいつも「I’m So Sorry」をプレイしていたよ。ドヤ顔でね(笑)。
このアルバムのアートワークに使用されている、ファーコートを着て車のボンネットに腰掛けているCarroll Thompsonの姿はスムースだ。UKレゲエを代表するアルバムアートワークのひとつさ。
5:Mad Professor『Beyond The Realms Of Dub (Dub Me Crazy! The Second Chapter)』(1982年)
Adrian Sherwood:私たち全員がリバーブ、ディレイ、フェーダーがずらりと並んでいるスタジオから生み出されるサウンドに魅了されていた。ジャマイカの偉人たちが生み出した音楽にのめり込んでいた。
その一方で、UKはUKで独自のサウンドを見出す必要があった。ジャマイカは本場のサウンドと優秀なミュージシャンを手に入れているから、私たちは私たちの道を行く必要があるぞと感じていた。
Mad Professorは電気技師だった。電気工学を学んでいたので、自分のやり方を手に入れていた。彼の “Dub Me Crazy!” シリーズは全てチェックすべきだ。まずは「Kunte Kinte - The African Warrior」を聴いてもらいたい。非常に重要なUKダブトラックだ。
6:Maxi Priest & Caution『You’re Safe』(1985年)
Seani B:このアルバムは、リリースされた1985年当時、非常に重要な1枚だった。
Maxi Priestはロンドンのサウンドシステム、Saxon Studio Internationalに関わっていた経験を持っていて、その素晴らしいヴォーカルで世界のレゲエシーンで一躍有名になった。甘い声で女性を虜にしたのさ!
当時のロンドンで開催されていたSunsplashでのパフォーマンスが、彼をクリーンなラヴァーズロックを代表するアーティストとしての評価を確かなものにした。
このアルバムはPaul RobinsonがプロデュースしてVirgin Recordsからリリースされたけど、Virgin RecordsはMaxiが自分の才能を世界に示すチャンスを与えた。数年後、彼はBillboardにチャートインするほどの存在になったわけだけど、その成功の基礎を築いたのがこのアルバムだったのさ。
世界がひとつのサウンドを生み出すとしたら、それはベースだろう
7:Alpha & Omega『Watch And Pray / Overstanding』(1988年)
Don Letts:このアルバムを初めて聴いた時、私はジャマイカの大御所が手掛けた作品だと思った。聴き逃していたに違いないとね。だから、このアルバムがプリマス出身の白人2人、しかもベースのChristine Woodbridgeが女性だということを知った時はショックだった。
アルバムを聴いたあと、私はすぐにレコードショップに出向いて、この作品の前にリリースされた作品と、そのあとにリリースされた作品を全て買い揃えた。25枚もあった。
彼らは本格派UKダブグループのひとつだ。シリアスなルーツ感と精神性を備えていて、ベースラインはクラシックだ。非常に特徴的なサウンドだ。
周りから「あなたはどうしてベースに拘るんですか?」と訊かれる時があるが、自分でも良く分かっていない。
だが、ベースは同じ考えを持っている人たちを結びつける。最後は全人類を結びつけることになるだろう。世界がひとつのサウンドを生み出すとしたら、それはベースになるだろう。
8:General Levy『Wickedness Increase』(1993年)
Seani B:ジャングルのプロデューサーM-Beatと組んでビッグヒット「Incredible」をレコーディングする前のGeneral Levyは、UKダンスホールを代表するアーティストだった。ノースウエストロンドンの初期サウンドシステムのテープにGeneral Levyのトラックが入っていたから良く聴いていたよ。
でも、彼をUKダンスホールの代名詞にしたのは、Fashion Recordsからリリースされた作品群だった。Fashion RecordsはジャマイカのスタジオのUK版みたいな存在だった。大量のバックカタログがそれを証明している。
このアルバムは当時俺が持っていたヒットトラックが数多く収録されている。「Heat」や「Champagne Body」は今プレイしても問題ない。でも、俺が一番好きなのは「Mad Them」だね。Levyのフロウと共に急展開を見せるこのリディムにはぶっ飛ばされたよ。
9:Mungo’s Hi-Fi『Sound System Champions』(2009年)
Don Letts:Mungo’s Hi-Fiはおそらく私が一番好きなUKサウンドシステムだ。もちろん、他が劣っていると言っているわけじゃないが、私は彼らが一番好きだ。
まず、プロダクションが素晴らしい。非常に特徴的だ。ベースサウンドがユニークで、オールドスクールなバイブスが感じられる。このアルバムは最高だ。
Mungo’s Hi-Fiのリディムの素晴らしいコレクションとして機能していて、ヴォーカリストのラインアップも素晴らしく、新旧織り交ぜた優れたリディムが楽しめる。今最高にホットなMCが誰なのかを知りたければ、このアルバムを買えば間違いないだろう。
Mungo’s Hi-Fiはノンストップで世界を回っていて、自分たちのレーベルScotch Bonnetも抱えている。このレーベルはダブとレゲエに興味を持っている人にオススメだ。
面白いことに、数年前のグラストンベリーで、BBC6 Musicの企画で彼らと一緒にサウンドクラッシュの真似事をやる機会に恵まれた。Mungo’s Hi-Fiには完敗したが、彼らと競い合えたのは楽しかった。彼らと同じ空間にいるだけで盛り上がる。
10:Gappy Ranks『Put The Stereo On』(2010年)
Seani B:オールドスクールな激しいリディムを取り入れている最近のダンスホールアーティストは称賛に値するよ。Gappy RanksはGeneral Levyと同じでノースウエストロンドン出身のアーティストだ。
ノースウエストロンドンはジャマイカのキングストンと同じで、UKのレゲエ・ダンスホールアーティストのホットスポットなんだ。彼はウエストロンドンのレーベルPeckingsと組んでこのモダンクラシックを生み出した。
レーベルの共同経営者Chris Peckingsは、Treasure IslaやCoxsone DoddのStudio Oneなどが生み出したヴィンテージリディムの最高傑作にアクセスできる人物で、このアルバムのタイトルトラックもJackie Mitto「Hot Milk」のGappyバージョンだ。
このアルバムは、俺たちがこの音楽を愛している理由を示してくれているけれど、同時に、お袋が音楽を聴きながら料理していた日曜の晩のことを思い出させてくれる。UKレゲエのカルチャーに関わってきたアーティストやサウンドシステムなどの歴史を学べるんだ。
リリース当時、このアルバムを聴き逃すなんてありえなかった。世界中の新旧ファンを魅了したこのアルバムは、UKレゲエ&ダンスホールの歴史にGappy Ranksを刻み込んだ1枚だ。