オリガ・ハルランが世界から注目されるきっかけとなったのは、10代でフェンシング・ウクライナ代表として出場して金メダルを獲得した北京オリンピックだった。それから約13年で同大会合計4個のメダル、世界選手権個人優勝4回などを手にしてきた彼女は、30歳となった2021年、もう一度世界の頂点に立とうとしている。
今回は、フェンシング・サーブルの女王が、フェンシングが高速のチェスと喩えられる理由、フェンシングの発展に必要な条件、意外な趣味などについて語ってくれた。
1:フェンシングは時速200kmのチェス
ハルランは自分の人生を形作ったフェンシングを “高速チェス” と喩えるのは間違っていないとし、次のように説明する。「フェンシングでは非常にハイレベルな戦術が必要になります。サーブルではスピードが特に問われます。考える時間はないに等しいですね。秒単位で判断する必要があります」
長丁場の大会で疲れが出てきた時にも高速の判断ができるようにするために、ハルランとトレーニングパートナーたちは、ハードなトレーニングを終えたあとに、「お互いの頭上に小石を積み上げる」など、コーチが用意する様々なメンタルチャレンジに取り組んでいる。
2:フェンシングはこれからのスポーツ
ハルランは、フェンシングの将来を多少楽観視しすぎている自分がいることを認めつつ、このスポーツが近年人気を集めるようになっていると信じている。当然ながら、その背景には国際フェンシング連盟の努力があるが、映画やミュージックビデオにおけるフェンシングの登場回数の増加も人気上昇に貢献している。
しかし、彼女はフェンシングに困惑してしまう人たちがいるとし、次のように説明している。「フェンシングは簡単なスポーツではないですし、私たちがなぜ叫んでいるのか、なぜ刺し合っているのかが理解できない人たちがいます。ですがその一方で、彼らは宇宙服のようなユニフォームをクールだと思っているんですよ(笑)」
3:フェンシングの未来
ハルランは2021年以降も現役を続けるか現時点では分からないとしているが、フェンシングへの情熱は失われていないため、引退後もこのスポーツにかかわり続ける可能性は高い。実際、彼女はフェンシングのさらなる発展のためのアイディアをすでにいくつか用意している。
「まずはテニスやサッカーのように、より多くの人が楽しめるようになるための道筋を作りたいですね。フェンシングの人気を更に高め、学校でもっと気軽にできるようにしたいです。そうなれば、競技人口が増えますからね。フェンシングはテレビやYouTubeで以前よりも楽しまれるようになっています」
「たとえば、イタリアでは2004年のオリンピックで優勝したアスリートがクリスティアーノ・ロナウドのような人気を誇っています。彼が色々なプロジェクトやテレビ番組にかかわった結果、イタリアではフェンシングの認知度が高まっているんです」
4:フェンシングはダンス
ハルランはダンスの経験が自分をより優れたフェンサーにしたと考えており、実際、彼女のオリンピック初出場に向けたトレーニングにはダンスが組み込まれていた。また、彼女はフェンシングとダンスにはいくつかの共通点があるとしている。
「音楽のリズムとフェンシングのリズムは似ているんです。ダンスパートナーのリズムをつかむのと同じように、フェンシングでは対戦相手のリズムをつかんでいきます。ダンスのようなムーブを見せるフェンサーもいますね」
学校でもっと気軽にフェンシングを楽しめるようにしたいです。そうなれば競技人口が増えます
5:最初の優勝賞金は母親にプレゼント
ハルランは14歳から家計を助けている。優勝賞金を家族に譲ることで、家族は借金の一部を返済し、さらにはテレビも購入できた。
初めての優勝賞金が入金された日のことを彼女は次のように思い返している。「ATMヘ行って金額を確認した時はとても驚きましたね。引き出して母親に渡したのを覚えています。あの日から新しい人生が始まりました。私の夢は大きな家にラブラドールと一緒に住むことでしたが、今は両親がラブラドールと家に住んでいます(笑)」
6:趣味はスノーボード
可能ならば、ハルランは時折フェンシングの代わりにスノーボードを楽しみたいと考えている。しかし、コーチは彼女のスノーボードへの情熱を前向きに受け止めていないようだ。ハルランは次のように説明している。
「コーチから怪我の可能性を示唆されています。ですので、スノーボードを楽しめる回数は少ないのですが、大好きなんです。膝を使ってバランスを取るのはフェンシングにも良いですしね。ですが、スノーボードをする時は細心の注意を払っていますよ!」