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タマゴから 3DS のスターへ: ヨッシーの歴史

ルイージの年は終わった: 今をときめく 2 人目の「グリーンな」任天堂マスコット
Written by Damien McFerran
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タマゴから 3DS のスターへ: ヨッシーの歴史

タマゴから 3DS のスターへ: ヨッシーの歴史

© Nintendo

任天堂がこれでもかと強調していたように、2013 年はルイージの年だった。マリオの弟として常に日陰者であった彼が、この時ばかりは兄のぽっちゃりとした影から飛び出し、12 ヶ月にわたって栄光のスポットライトを浴び続けたのである。その間ルイージは『ルイージマンション2』や『New スーパールイージ U』といった高評価のゲームで主役を務め、しかも同年屈指の成功作になった Wii U の『スーパーマリオ 3Dワールド』では、最も使えるキャラクターの一人に数えられた。20 年余りにわたって「永遠の二番手」と呼ばれ続けたルイージは、ついに待ち望んでいた栄光をつかんだのである。
しかしスーパーマリオの世界で「グリーン」なのは、彼だけではない。2013 年に入ってから、おそらく不当に無視され続けていたヨッシーもそうだろう。2014 年の任天堂は、明らかにその償いをしようとしている。このかわいい緑色の恐竜は、ニンテンドー3DS の『Yoshi's New Island』で主役を務めるほか、『大乱闘スマッシュブラザーズ』では待ち受ける任天堂の有名キャラクターたちと激闘を繰り広げ、さらには素晴らしいビジュアルを誇る Wii U の新作ソフト『毛糸のヨッシー』にも登場する予定だ。だがヨッシーとは何者なのだろうか? なぜ今になって、スポットライトを浴びるようになったのだろうか?

卵が孵ったとき

ヨッシーは 1990 年に、 スーパーファミコンのローンチタイトルとして発売された『スーパーマリオワールド』でデビューしたとされている。しかし、シリーズを手がけた宮本茂氏によれば、ヨッシーはもっと早く登場する予定だったという。デベロッパーの手塚卓志氏に言わせると、馬好きの宮本氏はやたらと動物に乗る能力を追加したがる傾向があり、最初に実装を試みたのは 1985 年にファミコンで発売された初代『スーパーマリオブラザーズ』であったという。しかし当時はハードウェアに限界があり実現しなかった。それから 3 年後、宮本氏は『スーパーマリオブラザーズ3』で再びこれに挑戦したが、やはり実現には至らなかった。彼の構想がついに実を結ぶのは、それからさらに 2 年後、スーパーファミコンの登場まで待たねばならなかったのである。
なお単独のキャラクターと見なされがちだが、「ヨッシー」とは、よく伸びる舌と多彩な特殊能力を持った恐竜の種族名だ。『スーパーマリオワールド』には実際にさまざまな色のヨッシーが登場し、それぞれに異なる能力を持っている。シリーズのキャラクターとしては後発であったが、ヨッシーはたちまち人気者となり、ハリウッドの実写映画『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』にも登場している。しかしアニマトロニクスで再現された中途半端にリアルなヨッシーは、ゲームに登場するかわいい恐竜とはかけ離れたものになってしまった。とはいえ、映画自体も大コケしたため目にした人は少ないが、どう見てもかわいらしさのカケラもない新解釈ヨッシーは、映画技術の面では一つの偉業だったのである。制作陣が選んだ手法はゴムの表皮をまとったロボットを 9 人の操演者がコントロールするという大掛かりなもので、ハリウッドが全面的に CG に移行する前に採用された、最後のケーブル式パペットの一つとなった。
スーパーマリオ 魔界帝国の女神

スーパーマリオ 魔界帝国の女神

© Nintendo / Buena Vista Entertainment

当時のヨッシーの人気ぶりは、『スーパーマリオワールド』の続編を見れば明らかだ。1995 年にリリースされた『スーパーマリオ ヨッシーアイランド』でプレイヤーが操作するのは、マリオやルイージではなく、ヨッシーなのである。いつもの配管工 2 人は赤ん坊の姿で登場し、ヨッシーは彼らを背負って、危険でいっぱいのステージを無事に通り抜けなければならない。この作品によって主力マスコットの地位を確立したヨッシーは、その後も堰を切ったかのように活躍を続けた。『キャッチ!タッチ!ヨッシー!』や『ヨッシーのクッキー』、Wii U にて発売予定の『毛糸のヨッシー』といった主演作品だけでなく、『スーパーマリオギャラクシー』、『マリオゴルフ』、『マリオカート』といった任天堂の大作ゲームにおける脇役も含めて、これまでに 90 以上もの作品に出演している。

ヒーローを待ち焦がれて

これまでヨッシーは驚くほど多くの作品に出演してきたが、人々の記憶に残っているのはやはり主演作品だろう。すでに『スーパーマリオ ヨッシーアイランド』については触れたが、それは彼にとって、今日までの長く栄光に満ちたキャリアの始まりにすぎない。
ちなみにこの緑色の恐竜は『ヨッシーアイランド』以前にも 2 つの作品に出演しているが、どちらもアクションゲームではなくパズルゲームだ。 1991 年にファミコンでリリースされた『ヨッシーのたまご』(『Yoshi』や『Mario & Yoshi』の名でも知られる)はテトリスのようなブロック落下型のゲームだったが、評価は今ひとつだった。幸いにもスーパーファミコンで半ば続編的にリリースされた『ヨッシーのクッキー』は、ずっと高い評価を受けている。どちらのパズルゲームも ゲームボーイに移植されたが、ヨッシーは 1993 年に、これまでにない作品、スーパーファミコンの『ヨッシーのロードハンティング』に出演することになった。このゲーム用に指定されていた光線銃こそ、不遇に終わった任天堂の周辺機器「スーパースコープ」(大きなプラスチック製のバズーカ型光線銃)で、その可能性をほとんど発揮することなく歴史の闇に消えた。そしてスーパースコープの販売が芳しくなかった以上、同作も注目を浴びることはなかった。
ヨッシーのロードハンティング

ヨッシーのロードハンティング

© Nintendo

幸いにもヨッシーは、タイル合わせパズルや、安っぽいプラスチックの光線銃を使うシューティングゲームとは異なる運命を辿った。それを象徴するのが 1995 年にリリースされた『スーパーマリオ ヨッシーアイランド』だ。本作はヨッシーにとってブレイクスルーになった作品で、ここに至って任天堂も、ヨッシーがパズルやシューティングよりもアクションに向いていることをはっきりと認識したのである。やがて彼は独創的な 3D アクション『スーパーマリオ64』にゲスト出演(ゲーム内で 120 個のスター全てを集めるという超人的な偉業を成し遂げると、我らの勇敢なる恐竜が城の屋上に現れる)したのち、任天堂の新型 64 ビット機「NINTENDO64」でようやく主人公の座を手にした。
しかしそれは、苦い勝利と言わざるを得なかった。1997 年に発売された『ヨッシーストーリー』は、スーパーファミコンで発売された『ヨッシーアイランド』の続編にあたる作品だったが、当時の評価はおおむね批判的なものだった。本作については多くの批評家が、ゲーム自体やプリレンダリングされた CG が単純すぎること、ゲームのボリュームが少なすぎることを指摘している。IGN が 2007 年に行ったレビューでは、ゲームシステムについて「スーパーファミコン版(ヨッシーアイランド)に存在したアイテム探しの要素が大幅に減ってしまっており、同時にゲームの楽しさも大幅に減じてしまった」と評している。本作は、多くのファンが待ち望んでいた栄光の復活にはなりえなかったのである。
結局、長い舌をもつ我らがヒーローにとって 64 ビット機は暗黒時代となってしまい、任天堂のスポーツゲームで脇役に甘んじるしかなかった。2002 年にゲームキューブでリリースされた『スーパーマリオサンシャイン』は、そんな彼にとって原点回帰的な作品であったのかもしれない。10 年あまり前にリリースされた『スーパーマリオワールド』と同じように、マリオを助ける「乗り物」の役割に戻ったのである。この従属的な立場は『New スーパーマリオブラザーズ Wii』や『スーパーマリオギャラクシー 2』でも続いたが、やがてヨッシーはポータブル機の舞台で、ヒーローの座を取り戻すことになる。
ゲームボーイアドバンスで発売された『ヨッシーの万有引力』は、そのカートリッジに備わった特殊技術で話題を呼んだ。ゲーム機本体を傾けることで操作するアイデアは、今でこそスマートフォンの常識になっているが 2004 年当時は画期的なものだったのである。さらに、2 画面のニンテンドーDS でリリースされた『キャッチ!タッチ!ヨッシー!』や『ヨッシーアイランドDS』では、1995 年の『スーパーマリオ ヨッシーアイランド』に採用されていた手書き風の不思議なビジュアルが復活している。
ヨッシーの歩み

ヨッシーの歩み

© Red Bull/Nintendo

スポーツマンとしてのヨッシー

急速に拡大するスーパーマリオ世界のあらゆるキャラクターたちと同じように、ヨッシーもさまざまなスピンオフ作品に出演している。そのきっかけとなったのがスーパーファミコンの『スーパーマリオカート』だ。任天堂の看板レースゲームとなった本作では、 ドンキーコング、クッパ、キノピオとったキャラクターたちもその才能を発揮した。その後の続作にもヨッシーは必ず登場しており、彼の持久力のほどが伺える。
マリオを他のジャンルに浸透させようとする任天堂の挑戦には、もちろんマリオの親友である恐竜も一役買っている。始まりは、任天堂の黒歴史ことバーチャルボーイで 1995 年にリリースされたテニスゲームで、ヨッシーはその短い指でラケットを握った。その後、ゲームボーイカラー、NINTENDO64、ゲームキューブ、3DS でリリースされた続作でも引き続き登場している。明らかに運動神経抜群のヨッシーは、1999 年にゲームボーイカラーと NINTENDO64 で発売された『マリオゴルフ』でも同様に活躍している。
スポーツマン、ヨッシー

スポーツマン、ヨッシー

© Nintendo

ヨッシーはまた、さまざまなスポーツに進出したマリオを補佐するため数多くの作品で汗を流している。『マリオバスケ3on3』ではバスケットボールコートに連れ出され、『スーパーマリオスタジアム ミラクルベースボール』や『スーパーマリオスタジアム ファミリーベースボール』では変化球にバット一本で立ち向かい、『スーパーマリオストライカーズ』や『マリオストライカーズ チャージド』では素晴らしいゴールを決めた。そして何より、一連のオリンピック競技シリーズへの参加も忘れてはならない。ヨッシーは 2007 年の Wii 版から今年のソチ冬季オリンピックと提携した Wii U 版まで、すべての作品に出演している。

他人とは違う道をゆく

ヨッシーのカメオ出演は、主演作品と同じぐらい多い。このことは、彼がプレイヤーだけでなくデベロッパーにも愛されていることを示している。ゲームボーイの『ゼルダの伝説 夢をみる島』にオモチャとして紛れ込んだヨッシーは、その 10 年後にも『 METAL GEAR SOLID THE TWIN SNAKES』にデスクトイとして登場し、銃弾が当たった際にあの特徴的な鳴き声を出した。メタルギアシリーズでは、のちに 3DS でリメイクされた『METAL GEAR SOLID 3 : SNAKE EATER』にも登場し、オリジナル版では「カエルのケロタン」と呼ばれていたオモチャと入れ替わって、ゲーム内のあちこちに隠された収集アイテムとなっている。
ヨッシーアイランド

ヨッシーアイランド

© Nintendo

ボキャブラリーの少ない恐竜として絵によるコミュニケーションの必要性を感じたヨッシーは、1992 年にはスーパーファミコンの『マリオペイント』にも姿を現した。また彼は『Mario is Missing』や『Mario's Time Machine』といった悪名高いエデュテインメント(教育ゲームソフト)でも重要な役割を果たしているが、実際にプレイした不運なプレイヤーに本当に教育的な効果をもたらしたかどうかは、今もって謎のままである。もっと軽い役割で言えば、ヨッシーは長寿シリーズ『マリオパーティ』の常連でもある。彼は全 12 作品すべてに登場しており、他の恐竜キャラクターたちと同じぐらい、くつろいだスタイルを楽しんでいるようだ。
これまで数多くの作品に出演してきたヨッシーだが、世に出なかった作品があったことにも触れておこう。『Yoshi 3D』は、NINTENDO64 時代に彼をスポットライトの下に引き戻すはずだった企画で、イギリスの開発スタジオ Argonaut(初代『スターフォックス』を駆動したスーパー FX チップを任天堂と共同開発) が試作まで行った。残念ながら任天堂はこの企画を取り下げてしまい、開発中だったゲーム自体は 1997 年に Sony の PlayStationでリリースされた『クロック!パウパウアイランド』に転用された。
ヨッシーは、そのカラフルで可愛らしい姿からゲームの外でも活躍しており、なかでも関連商品の売り上げは伝説となった。ヨッシーのぬいぐるみは熱心な任天堂ファンのベッドルームに欠かせないアイテムになったし、何年か前に『マリオカート』のラジコンが発売されたのも必然と言えるだろう。ヨッシーがさまざまなプラスチックトイとして世に出る幸運に恵まれたことは、もはや疑問の余地がない。マリオやルイージは別としても、グッズの需要という面ではシリーズの登場キャラクターで屈指の人気を誇っている。実際に彼は、任天堂のゲームブック (鉛筆と紙でプレイする)のほか、任天堂公式のチェスセットにもナイトとして登場している。

ヨッシーの未来

すでに触れたように、2014 年はヨッシーにとって当たり年になるかもしれない。『YOSHI'S NEW ISLAND』は今後 12 ヶ月で最も注目される 3DS ソフトになりつつある。赤ちゃんのマリオやルイージを背負ったヨッシーが、ユニークなアートスタイルで描かれる一連のステージをクリアしていくというシステムは、『スーパーマリオ ヨッシーアイランド』から受け継いだものだ。1995 年のスーパーファミコン版から正当な続編を待ち望んでいたファンにとっては、まさに待望の作品になるだろう。
Wii U の『毛糸のヨッシー』関しては、2010 年の Wii 作品『毛糸のカービィ』を手がけた Good-Feel が開発を担当していることにも注目したい。ヨッシーが単独で主役を務めるのは今作で 2 回目(1997 年の『ヨッシーストーリー』以来)となるが、ビジュアル的には『毛糸のカービィ』に似たスタイルを踏襲しており、世界は布地や織物で描かれている。任天堂が頑なにリリース時期を公表しないため年内にリリースされるかどうかは分からないが、ソフトウェア不足に悩む Wii U の現状を考えると、2014 年のクリスマス辺りにリリースされなければおかしいだろう。そう考えると、マリオの誠実でチャーミングな相棒と過ごす、この上なく素晴らしい祭日になるはずだ。
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