クライミング
ヤンヤ・ガンブレットが世界最強クライマーになれた6つの要因
スロベニア出身のヤンヤ・ガンブレットは世界最強クライマーだ。彼女を特別・最強にしている理由を探る。
2020年、ヤンヤ・ガンブレットはIFSCクライミングワールドカップのボルダリング種目全6戦をすべて制して、同イベント史上初の全勝優勝を記録した。
さらに、2021年には東京2022のスポーツクライミング・複合で初代女王に輝き、2022年には複数の他競技との同時開催にリニューアルされた欧州選手権で、リード・ボルダリング・複合(リード&ボルダリング)の3種目で金メダルを獲得した。
本人は「欧州選手権3冠は素晴らしい響きですが、実際に成し遂げた感覚はもっと素晴らしいですね。トロフィーキャビネットを眺めると “ワオ、こんなに凄いことを私はいつ成し遂げたのだろう?” と思うのです」とコメントしている。
欧州選手権3冠は素晴らしい響きですが、実際に成し遂げた感覚はもっと素晴らしいです
ヤンヤ・ガンブレットのようなクライマーは希少だ。現在22歳ガンブレットは世界中のファンを魅了しながら、ほぼすべてのイベントで勝利を重ねている。2019年の世界選手権でボルダリングとリード、複合の3冠を達成した彼女は、2020年にはワールドカップ6勝を挙げた。
しかし、決定的瞬間は2021年の東京で訪れた。ガンブレットは1年遅れの開催が生み出す大きなプレッシャーを乗り越えて、初代オリンピックチャンピオンに輝いたのだ。今のガンブレットは女子最強クライマーのひとりではない。世界最強クライマーのひとりなのだ。
ガンブレットを世界最強クライマーにしている6つの要因を挙げていく。
Red Bull TVの『Reel Rock -リール・ロック-』でもガンブレットのキャリアに光を当てている。彼女のようなエリートクラスのアスリートに必要な要素、また、大きなプレッシャーがかかるワールドカップで歴史を作るために必要な要素とは何なのだろうか?
ページ最上部と下の動画でヤンヤ・ガンブレットのエピソード前後編をチェック!
23分
第2話: シーズン制覇 後編
第2話あらすじ: ヤンヤ・ガンブレットは順調に勝ち進み、ワールドカップも後半戦に差し掛かる。果たして、シーズン制覇の目標は叶うだろうか?【歴史を創るクライマーたち(シーズン7/日本語字幕)】
要因1:幼い頃からクライマーだった
クライミングはガンブレットの人生そのものだ。彼女は幼い頃に自宅のドアによじ登ることでクライミング人生をスタートさせた。しかし、当然ながら両親はおてんば娘に苦労したため、小学校に上がるタイミングでガンブレットをクライミング教室に通わせることにした。こうしてガンブレットは自宅の家具や庭の木によじ登ることから卒業し、インドアクライミングの世界に飛び込んだのだった。
「子供の頃はすべてでトップに立ちたいと思っていました。学校で一番になりたかったのです。成績で1番、そして運動でも1番を目指していました。とにかくナンバーワンになりたかったのです。そのあと、すべてで1番になるのは難しいということが分かりました。トップに立つためには何かひとつに集中する必要があると。それでクライミングを選びました」
このように語るガンブレットはクライミングを本格的にスタートさせるとすぐにテクニックをマスターしていった。彼女は小学校卒業までにスロベニアユース代表に選出されると、代表デビューを飾った2013シーズンにはヨーロッパジュニアチャンピオンに輝いた。
子供の頃はすべてでトップに立ちたいと思っていました
要因2:チャンピオンの人生を歩んできた
若くしてヨーロッパジュニアチャンピオンに輝いたヤンブレットは、キャリア初期に約24のワールドクラスタイトルを勝ち取った。2014シーズンから2016シーズンにかけて世界ジュニア選手権3連覇を達成した彼女は、2016シーズンのIFSC主催イベントの大半で優勝した。
2017シーズンもガンブレットは好調を維持。ワールドカップのリードと複合で優勝した他、欧州選手権の複合でも優勝し、ワールドカップと欧州選手権のボルダリングで2位に入った。
要因3:メディアからも評価されている
ガンブレットを高く評価しているのはファンとジャッジだけではない。
2018年、スロベニアスポーツジャーナリスト協会はガンブレットを年間最優秀アスリートに選出した。しかし、彼女への称賛はこれに留まらなかった。2019年には国際舞台での優秀な成績が評価されて、ブロウク賞(Bloudk Award)を受賞。これはガンブレットの若さを考えると非常に大きな功績だった。
同年、ガンブレットはキャリアベストクラスの活躍を見せ、ワールドカップのボルダリングで6連勝を飾ると、ボルダリングとリードのワールドチャンピオンに輝いた。
クライミングをしているときの私は幸せで一杯です
要因4:オリンピック初代王者に輝いた
COVIDの影響で大幅にスケジュールがずれ込み、最終的に1年遅れで開催された東京2020に参加した全アスリートには “プレッシャー” では表現できない大きな何かが重くのしかかっていた。ガンブレットもそのひとりだった。
スロベニア代表として、そして女子アスリートとしてこのイベントに臨んでいた彼女は、クライミングをオリンピック正式種目として世界に正しくアピールする必要も感じていた。
しかし、もしガンブレットが当日ナーバスだったとしても、私たちが気付くことはなかった。彼女のボルダリングとリードのパフォーマンスは素晴らしく、3課題が用意されていたボルダリングでは他のクライマーがひとつもクリアできない中で2つをクリアした。しかも、それだけでは物足りないと言わんばかりに、彼女はリードでも誰よりも高く登り、勝利を確実にした。
ガンブレットはクライミングについて次のようにコメントしている。「何も考えていないような感覚です。ただ自分を楽しんでいるのです。ウォールにいることを楽しみながら、すべてのムーブを味わっています。自分という存在を楽しんでいるのです。自分自身と自分の好きなことを満喫しているだけです」
要因5:オールラウンダー
ガンブレットは大会だけを意識しているわけではない。実は、世界的に有名な天然ウォールにもできる限り多くトライしたいと考えているのだ。ちなみに彼女は煙突に登ったこともある…。
煙突といっても、クライミングに変わりはない。2020年、ガンブレットは同じスロベニア出身のドメン・スコフィッチとクライミングプロジェクト【360 Ascent】に取り組み、高さ360mの火力発電所の煙突で世界最長人工マルチピッチルートに挑戦した。
6年前からヨーロッパ大陸有数の高さを誇るその煙突に挑み続けていたスコフィッチは、撮影に必要なすべての条件が揃ったあと、このプロジェクトに相応しいパートナーとしてガンブレットを選んだ。
ヤンヤ・ガンブレットとドメン・スコフィッチが世界最長人工マルチピッチルートに挑んだ動画をチェック!
48分
360 Ascent -煙突への登頂-
クライマーのヤンヤ・ガンブレットとドメン・スコフィッチが、ヨーロッパでもっとも高い360mを誇るトルボヴリェ石炭火力発電所の煙突に立ち向かう。山頂にたどり着くことを目的とするアルパインクライミングとは違い、2人が助け合いながら登るマルチピッチクライミングでは、そびえ立つ壁を登ること自体が目的だ。(日本語字幕)
要因6:勝者のメンタリティを備えている
ガンブレットは「ハードトレーニングを積んで、1ヶ月前、3ヶ月間、1年前にできなかったことができるようになるときの感覚より素晴らしいものは存在しません。進歩が私にとって最大のモチベーションなのです」と語っている。
「クライミングがなければ私の人生は陰鬱なものになっていたでしょうね。私がこう断言できるのは、クライミングをしているときの私は幸せで一杯だからです」
しかも、ガンブレットは、クライミングも人生と同じで倒れても起き上がるだけだと悟っている。「私のトレーニングの99%はフォールの練習です。クライミングのトレーニングはフォールの繰り返しなのです」
この悟りがガンブレットの勝者のメンタリティに大きく寄与しているのは確かだ。
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「スポーツクライミングとは何か?」 の基礎知識が学べる記事は【こちら】
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