01
強力なスタート
1993年、マルケスはスペイン・サルベーラで父フリアと母ロセルの間に生まれた。4歳になる前から両親にバイクをねだっていた彼には、生まれながらにしてバイクの血が流れていたかのように思える。それからというもの、彼は一切後ろを振り返ることはなかった。
2001年、マルケスは7歳でカタルーニャエンデューロ選手権チャンピオンに輝き、その後はオフロードではなくターマックレースの道へ進むことを決意。翌2002年からはサーキットへ活躍の舞台を移した。
10歳を迎えたマルケスはロード初タイトルとなるチャンピオンオープンレース50を獲得し、その後125ccクラスへ進級。ホンダCBR125に乗った彼は参戦2年目でタイトルを獲得し、その翌年もタイトルを防衛した。
2007シーズンのマルケスはスペインスピード選手権カタルーニャ州シリーズに参戦。同シリーズへの参戦はわずか1シーズンのみだったが、KTM 125 RRFを駆った彼は国内選手権レース初優勝をマークし、総合9位に入った。インターナショナルステージへ進み、様々な記録を塗り替えるときがやってきた。
02
ワールドステージを席巻
2008シーズン、KTMレプソルチームに加入したマルケスは、ロードレース世界選手権125ccクラス(現在のMoto3)初表彰台をわずか15歳127日で記録し、同選手権でのスペイン人ライダー最年少表彰台記録を更新した。
小柄な体格ながら重くパワフルなマシンを乗りこなす驚異的な能力を見せたマルケスは、この頃から “ジ・アント・オブ・サルベーラ(The Ant of Cervera / サルベーラの蟻)” と呼ばれるようになった。
125ccクラスでの2シーズン目、マルケスはレッドブルKTM Motorsportチームに所属すると、さらなる表彰台獲得を重ねてポールポジション2回を獲得し、天性のスピードの片鱗を示した。
2010シーズンは、世界がいよいよ本格的にマルケスに注目する1年になった。デルビのファクトリーチームに加入したマルケスはプレシーズンテストから無視できないスピードを見せつける。
瞬く間に125ccクラスタイトル最有力候補のひとりに挙げられるようになったマルケスは、2010シーズンの17戦で10勝(5連勝を含む)を挙げると、ポールポジションも11回記録。初の世界選手権タイトルを獲得したマルケスのMoto2クラス進級への準備が整った。
マルケスはMoto2で2シーズンを過ごした。デビューとなった2011シーズンでMoto2の600ccマシンへの習熟を進めた彼は、翌2012シーズンにMoto2タイトルを獲得。最終戦バレンシアGPでは33番グリッドからスタートしながらオープニングラップだけで20台をごぼう抜きする猛烈な追い上げで優勝をもぎ取り、Moto2卒業レースを締めくくった。これはMoto2史上最も低いグリッド順位からの逆転優勝だった。
03
いよいよ最高峰MotoGPクラスへ
世界最高のライダーたちと渡り合うために必要な資質をコンスタントに示してきたマルケスだったが、最高峰クラスMotoGPデビューは段違いの試練となった。
しかし、開幕戦カタールで表彰台を射止め、サーキット・オブ・ジ・アメリカズ(米国)で開催された第2戦で優勝を飾ったマルケスは、最高峰クラス昇格が運命だったことをすぐに証明してみせた。
MotoGPクラス初優勝を飾ってからのマルケスを止められる者はなく、さらに5勝を重ねるとホルヘ・ロレンソを破ってタイトルを獲得。世界選手権最高峰クラスでルーキーがチャンピオンを獲得したのは1978シーズンのケニー・ロバーツ以来だった。
MotoGPで2シーズン目を迎えたマルケスは易々と快進撃を続け、開幕10連勝を飾るとロッシに67ポイント差をつけてタイトル連覇に成功した。2015シーズンは7勝を挙げたものの、ロレンソ&ロッシを擁するヤマハファクトリー勢を止めるには十分ではなく、マルケスはシーズン総合3位に甘んじる結果となった。
2016シーズンの “ジ・アント” は再びトップへ戻り、通算5度目の世界選手権タイトルとなるチャンピオンを獲得。このシーズンのマルケスは5勝をマークし、3戦を残してタイトルを確定させた。
続く2017シーズンのタイトル争いも制したマルケスは、翌2018シーズンには5回目のMotoGPチャンピオンに輝き、さらに記録を塗り替える。当時弱冠25歳だったマルケスは、世界選手権7冠・最高峰クラス5冠を達成した史上最年少のライダーになった。
オフシーズンに肩の手術を受けたことでパフォーマンスを懸念する声が囁かれる中、マルケスは2019シーズンも圧倒的な強さを見せつける。開幕戦で優勝寸前のライディングを見せて不安説を一蹴したマルケスは、その後19戦12勝をマークし、アンドレア・ドヴィツィオーゾに151ポイント差をつけて最高峰クラス6度目のタイトルを手にした。
04
怪我という挫折
2輪モータースポーツに危険はつきものであり、最低でも数回の怪我を経験することなくキャリアをまっとうできるライダーはほとんどいない。マルケスも例外ではない。
マルケスは2018シーズン終了後に肩の手術を受けなければならなかったが、2019シーズン開幕を迎えるまでに肩の可動域を完全に取り戻すことができた。
2019シーズン開幕に向けたマルケスの復活への道のりを追った驚異的なドキュメンタリー『Unlimited -復活のマルケス -』(日本語字幕付き)をチェック!
1 時間20 分
Unlimited -復活のマルケス -
2018シーズン終了後のオフシーズンに手術とリハビリを乗り越え、ついにマルク・マルケスが帰ってくる。MotoGP™連覇・キャリア通算8回目のワールドタイトルを目指して2019シーズンをスタートさせたトップライダーの挑戦を追う。
ライダーにとって、バイクに乗れない時間は辛い。マルケスのチームは回復手段として彼のモトクロスバイクからホイールを取り外して隠し、彼がライディングできないようにしなければならなかった。
しかし、マルケスの怪我は悪化の一途を辿ることになる。マルケスは2020シーズン開幕戦ヘレスでハイサイドを起こし、路面に激しく叩きつけられてグラベルトラップの上を転がったのだ。
この転倒で右上腕骨を骨折し、緊急に手術を行う必要が生じたマルケスは第2戦で再びサーキットへ戻ったが、フリープラクティスに出走したものの、ライディングには痛みが大きすぎたため棄権を発表。2020シーズンの残りすべてを回復に充てることになった。
回復は2021シーズン開幕以降にずれ込み、マルケスは序盤の2戦を欠場。彼はその後14戦に出走してシーズン3勝を挙げたが、右腕は依然として完全回復には至らず、タイトル獲得の可能性が消滅するとシーズン終盤の2戦を欠場した。
迎えた2022シーズン第2戦、マルケスはプラクティス中に3度(レースウィークエンド4度目)のクラッシュを喫してしまう。このクラッシュはまたしても激しいハイサイドによるもので、病院へ緊急搬送された。マルケスに怪我はなかったが、決勝を戦えるフィットネス状態ではないと診断された。
さらに詳しい診断を受けた結果、マルケスが複視(物が二重に見えること)の症状を起こしていることが明らかとなり、これについても手術の必要が生じた。その後、マルケスは再び戦線を離脱し、30°外旋した骨を元に戻すべく右腕に4度目の手術を受けた。
マルケスはシーズン残り6戦でついに復帰し、フィリップアイランドで開催されたオーストラリアGPではキャリア通算100回目の表彰台となる2位を獲得した。
05
記録破りのキャリア
いくつものトロフィーを得てきた成功を踏まえれば驚くことではないが、マルケスは2輪モータースポーツで様々な記録を打ち立てている。
ここにすべての記録をリストアップすれば長くなりすぎてしまうが、マルケスが手にしてきた栄誉には全クラスを通じての歴代最多ポールポジション・デビューシーズン最多勝・1シーズン最多優勝回数・1シーズン最多ポールポジション獲得回数などが含まれている。
また、マルケスは年齢に関連する記録も多く、最年少レースウィナー・最年少表彰台100回獲得記録・最年少MotoGPワールドチャンピオンなどを記録している。
マルクのようにバイクを乗りこなせる人間は他にいない
06
マルケスを支える2つの家族
強力なサポートネットワークなしでは、マルケスのような成功を手にすることはできない。マルケスは「僕には自分を支えてくれる2つの家族がいる。母と父、弟、それに僕のレースチームだ」と折に触れて語っている。
父フリアはすべてのレースに帯同し、ときには母ロセルも姿を見せるが、マルケスにとって最も近い存在が弟のアレックスだ。
現在は同じMotoGPに参戦するアレックス・マルケスだが、彼が2019シーズンにMoto2チャンピオンを獲得したときに最も大きな支えとなったのが兄マルクだ。8度のワールドチャンピオンに輝いたマルクは、トレーニングを共にし、さらに上を目指してお互いを高め合っている弟の存在は非常に重要だと語っている。
また、マルケスにとってはレプソル・ホンダチームも成功に欠かせない存在だ。「マネージャーやトレーナーも含め、チーム内に良好なムードを築いていれば、大きく成長できる」とマルケスは続けている。
07
7回目のMotoGPタイトルを目指して
マルケスは2023シーズンも引き続きレプソル・ホンダと共にRC213Vを駆って参戦する。
2023シーズン開幕前のプレシーズンテストではRC213Vについて「まだトップからは程遠い」とコメントしていたマルケスだが、怪我に悩まされた2シーズンを経てフィジカルはベストまで回復しており、戦う準備は整っていると主張する。
そして、元MotoGPライダーでマルケスのライバルだったカル・クラッチローが語っていたように「マルク・マルケスのようにバイクを乗りこなせる人間は他にいない」。
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