『Ghost of Tsushima』:黒澤映画のような雰囲気を演出(クリック&拡大推奨)
© The Fourth Focus - Ghost of Tsushima
ゲーム

『Ghost of Tsushima』:アートディレクターが解説するビジュアルとフォトモード

美しく描かれた風景が高く評価されている日本・対馬を舞台にしたアクションアドベンチャータイトルのアートディレクターが、意図やテクニック、フォトモードなどについて解説した。
Written by Nadia Oxford
読み終わるまで:9分Published on
2020年にリリースされた『Ghost of Tsushima / ゴースト オブ ツシマ』(以下、『Ghost of Tsushima』)はPS4用オープンワールド・アクションアドベンチャーゲームだ。プレイヤーは13世紀の元朝による日本侵攻から故郷を守ることを誓う侍 “境井仁” として対馬を巡ることになる。
『Ghost of Tsushima』はメディアから絶賛され、日本の対馬を非常に美しく描写したことが特に高く評価されて数多くの賞を受賞した。このゲームをプレイして、馬の背に乗って延々と続く森を抜け、桜の花びらが舞う中で敵と対決すれば、すぐにこの緑豊かな島に心を奪われることになる。をなでるのも忘れてはいけない。今作をプレイした多くのプレイヤーがこの狐に恋をしている
『Ghost of Tsushima』の狐は、この作品のためにSucker PunchのアートディレクターJason Connellと彼のチームが作り出した奥深いインタラクティブワールドのほんの一部に過ぎない。
Connellは、アートチームは開発初日から『Ghost of Tsushima』を「心底美しく目を見張る世界」にするためのプランニングを進めていったとし、黒澤明が監督した時代劇映画作品群に大きな影響を受けたと明かしている。そして、Connellたちの仕事は『Ghost of Tsushima』の枠を飛び越える大きな影響を与えることになり、2021年3月には彼とクリエイティブディレクターNate Fox対馬永久アンバサダーに任命された。
境井仁の任務は一刻を争うものだが、『Ghost of Tsushima』は、道を外れて彷徨い、美しい色鮮やかな木々と植物に囲まれながら寄り道をすることをプレイヤーに勧めてくる。立ち止まってそのような美しい風景を写真に収めたいと思うのはごく自然な成り行きなのだ。
Connellは、『Ghost of Tsushima』のビジュアルは、プレイヤーが美しい見ず知らずの地(実在するが)を訪れたような感覚を得られるようにデザインしたと語っている。普通の村の生活と普通の風景が豊かな色彩で描かれており、このコンビネーションはインゲームフォトグラフィにパーフェクトだ。以下にJason Connellのインタビューを紹介する。
− 『Ghost of Tsushima』の対馬を移動していると、小さな農場や村、建物に遭遇しますが、これらの存在が世界に命を吹き込んでいます。必ずしもストーリーとは関係なく、ただこの作品の世界とゲーミングエクスペリエンスの没入感を高めるためだけに存在しています。このようにデザインした理由を教えてもらえますか? 開発チームは何を目指していたのでしょうか?
このゲームの世界で確認できる小さなアート群、農場や漁業用の小屋、たき火などはプレイヤーが「何があるんだろう?」と思って立ち寄るためのものです。対馬は人口が少ないので、活気に溢れている大きな町は配置したくないと思っていました。この島が漁業と農業で成り立っていることを表現したかったのです。
馬に乗って森を抜けていくと、漁師小屋が見えてきますが、プレイヤーの興味をそそるようになっています。「中はどうなっているのだろう?」と思うわけです。私たちにとっては、そのように興味を持って中を覗いたプレイヤーに報酬を与えるチャンスとして機能しています。ちょっとしたストーリーを知ることができたり、コレクティブルを集めたりできる場所として使用できるのです。
ですが、対馬の人気(ひとけ)のなさ、辺鄙さを表現することを最優先しました。また、このような小屋が数多く確認できるエリアがあれば、漁業よりも農業が盛んなエリアもあります。島内は複数のテーマによって分けられています。
吾作の鎧

吾作の鎧

© Ghost of Tsushima

− あなたならどこをインゲームフォトのロケーションに選びますか?
Sucker Punchの直近2作品(『inFamous Second Son』と『Ghost of Tsushima』)の《フォトモード》は楽しみながら開発できました。開発を進めていく中で数万枚を撮影したのですが、「最高だ!」と思える写真や少し手を加えてさらに美しくできる写真が何枚も手に入ったのが楽しめた理由でした。
私たちの《フォトモード》は、ライティングとシネマトグラフィーを用意することでシネマトグラファーの "遊び場" 的なものに仕上がっています。私たちの《フォトモード》は、シネマトグラファーが普段使っているツールをプレイヤーに与え、シネマトグラフィーの世界を体験してもらうことが目的です。
いくつかの撮影ヒントを差し上げましょう。まずは、色鮮やかな場所を背景に選びましょう。そのような場所は比較的簡単に見つけることができます。今思い浮かぶのは彼岸花畑でしょうか。赤く美しい彼岸花に囲まれている場所です。あとは、シロガネヨシの草原ですね。
美しくて色鮮やかな場所を背景に選び、アイコニックな1枚を撮影してみましょう。海辺でも構いませんし、白い木々に囲まれている場所でも構いません。北部の青い空の雪景色でも良いでしょう。興味深くて美しい場所を探してみましょう。
城岳山周辺

城岳山周辺

© Ghost of Tsushima

2つ目の撮影ヒントですが、今作の《フォトモード》は後半に進むほど没入感が増していきます。なぜなら、キャラクターの外見を変えられるようになるからです。つまり、ゲームを進めていけば、自分も色鮮やかになっていくのです。たとえば、彼岸花畑のような場所を訪れたら、赤系の防具に変更します。こうすることで赤に統一された世界を作り上げることができます。
3つ目のヒントは、《フォトモード》のカラースケールとアスペクト比の活用ですね。まず、広角レンズで背景を大きく取り入れた色彩の海にキャラクターが放り込まれているようなワイドショットと、キャラクターの内面に迫るようなクローズアップショットのどちらが欲しいのか考えてみましょう。
欲しいショットが分かったら、それに必要なレンズを選び、被写界深度を調整しましょう。どちらでもない中途半端なショットにしてしまうと、不満が残ってしまいます。私はクローズアップショットで、被写体が醸し出すフィーリングを表現するのが好きですね。キャラクターのアクションでも、何かが映り込んでいるキャラクターの瞳でも、防具の装飾でも構いません。F値を小さくして、被写界深度を浅くしたショットが好みです。
焦点をしっかり合わせた被写界深度の浅いショットを試してみましょう。もちろん、背景で被写体を包み込むような広角のショットもグッドアイディアです。被写体は馬でもキャラクターでも構いません。

1分

『Ghost of Tsushima』焦点距離比較

− 『Ghost of Tsushima』のビジュアルはどこが他とは違うと思いますか?
『Ghost of Tsushima』のビジュアルをユニークにしている理由は2つほどあると思いますが、個人的に誇りに思っているのは、「リアリズムの徹底追求」をしなかったことです。私たちはディテールをそこまで意識していませんでした。色、生物、植物の種類をどれだけ用意するか、岩影に何を置くかなどには拘りませんでした。そのようなリアリズムの追求から一歩下がりながら、彼岸花畑をどのように表現すべきなのかについて考えていきました。彼岸花畑は滅多に見られるものではありませんが、実在します。ですので、フォトモードで撮影をしようとしたプレイヤーが「こんな場所が本当にあるなんて! すごく綺麗だ!」と思えるようにしました。ゲームを通じてこのようなフィーリングを得てもらいたいと思っていました。
ゲームの開発、特に封建時代の日本へのオマージュとして機能する叙情的なゲームの開発では、実在する場所をただ再現するのではなく、自分たちのスタイルをもう少しプッシュして、その場所を少し誇張してさらに色鮮やかにすることが重要です。ですので、今作では、そのような場所は色鮮やかに描かれています。
たとえば、この地球上に本当の意味での “黄金の森” はほとんど存在しません。実在する "黄金の森" がそう名付けられているのは、おそらく茶系に色づく落葉樹が多いからでしょう。葉の色には赤や緑も含まれているはずですが、おそらく大部分が黄色と茶色のはずです。
ですが、『Ghost of Tsushima』の “黄金の森” は黄色一面です。パーフェクトな “黄金の森” にしたのです。フォトグラファーにとっての理想を用意したのです。その次に、実際に島に存在していた可能性がある植物種を組み合わせていきました。プレイヤーを騙していると言えなくもないですが、「素晴らしい場所だ」と思ってもらうためのテクニックなのです。
また、今作ではひとつの場所の植物は10種もありません。たとえば、シダの森にはシダがひたすら生い茂っています。現実世界のようにシダ、藪、低木が組み合わさっているわけではないのです。私たちは「まずはシダでできる限り埋めてしまおう。それが大きな魅力になるはずだ」と考えました。
今作にはシロガネヨシ、シダ、イチョウ、彼岸花、松などが存在しますが、この考えに何回も立ち返りました。この植物種の数を減らすアイディアと先ほど説明した色の使い方が『Ghost of Tsushima』のビジュアルが他とは大きく異なる最大の理由だと思います。
『Ghost of Tsushima』

『Ghost of Tsushima』

© The Fourth Focus - Ghost of Tsushima

風の使い方もユニークですね。『Ghost of Tsushima』では風がいつも吹いています。島を旅するためのナビゲーションとして活用したり、ショットをドラマティックに演出するための小道具として使用したりすることもできます。風は今作のビジュアルに大きな影響を与えましたね。すべてのシーンにも動きを加えることができました。
風をこのように使っている映画は山ほどありますが、ビデオゲームはこれまでほとんど存在しなかったと思います。この演出は大きな誇りですね。
以上がこの作品のビジュアルがユニークな理由です。あとは史実に基づいたデザインも挙げられるかもしれません。当時の建物の建築方法を調査して、できる限り当時の建物に見えるようにデザインするというのも今作のディレクションのひとつでした。
− プレイヤーが撮影したショットはチェックしましたか?
フォトグラファーになりきって撮影したんだなと思える作品がいくつもありますね。私たちが用意したツールを最大限活用している作品は大きな励みになります。
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