音楽のトレンドは、ファッションのトレンドとほぼ同じスピードで移り変わっているが、この事実を他のどこよりも明確に確認できるのがレイブシーンだ。レイブのエントランスに並んでいる人たちの服装は、彼らが聴いている音楽と同じくらい重要な意味合いを持っている。
1990年代後半、シェフィールズのトランス系スーパークラブGatecrasherに出入りしていたクラバー、クラッシャーキッズ(Crasher Kids)は、近未来風ネオンカラーとファーブーツに身を包み、首からおしゃぶりをぶら下げていた。しかし、ドイツ・ベルリンのクラブBerghainにそのファッションで向かえば、Sven Marquardt率いるドアマンたちに入店を許可されないだろう。独立広場革命を経て経済が苦しいキエフでも、CXEMAに通うパーティファンは古着屋を漁って、自分たちのファッションがこのレイブに合うように工夫している。ロンドンのグライムのレイブに出向けば、普通のジャージを着ている人を見かけるが、彼らがファッションに気を遣っていないわけではない。ダンスフロアは汚れているかもしれないが、薄汚れたスニーカーが許されるわけではない。
今回はヨーロッパレイブファッションの25年の歴史を振り返っていく。
ヨーロッパレイブ(ベルリン):1990年代初頭
1990年代初頭の中央ヨーロッパのレイブは、ミニマリズムの死を意味していた。当時の英国のレイブシーンは、アシッドハウスやハードコアテクノ、違法パーティの影響がまだ色濃く残っており、パーティファンはダボダボのジーンズやパファージャケット、どこにでもあるTシャツを着ていた。しかし、中央ヨーロッパ、ベルリンのテクノ&エレクトロシーンのファッションはそれらを軽々と超越していた。このシーンでは金属やポリエチレンなど様々な素材を組み合わせた非常に自由なアンサンブルが好まれ、目立たないが大胆な性的アピールも取り入れられていた。
クラッシャーキッズ(シェフィールズ):1990年代後半
シェフィールズのトランス系スーパークラブGatecrasherは、五感への暴力だった。しかし、それは音楽だけの話ではなかった。このクラブに集まるレイバーたちのファッションセンスも “いいね!” からはかけ離れていた。ネオンカラー、ビキニ、蛍光色のプラスティック製ジュエリー、ペット用首輪、スパイキーヘア、そしてファーブーツ。アシッドを数滴摂取するのと同レベルのヴィジュアルショックを打ち出していたこのファッションは、カートゥーンの世界そのものだった。
Berghain(ベルリン):2004年以降
Berghainは、Lady Gagaがアルバムリリースパーティを開き、ベルリン国立バレエ団もパフォーマンスをしたことで知られているが、ベルリンで最も尊敬されているこのクラブは決して “高級” ではない。むしろ、このクラブのファッションは「意図的な無関心」とカテゴライズすることができるものだ。このクラブで見かける、カジュアルでグランジーな、着の身着のまま的ファッションは、実は全て練りに練られたものだ。
グライム(ロンドン):2010年頃
本格的かつ現実的で、ストリート感覚に溢れているグライム最大の特徴のひとつは、パフォーマーとクラウドのファッションに差がないということだ。ジャージ、ベースボールキャップ、スニーカー(Nike Air Max 110かNike Air Force 1)が両者の定番ファッションだ。この過剰を拒否するファッションが、グライムを同じルーツを持つが派手でファッショナブルなUKガラージとの大きな違いを生み出している。
CXEMA(キエフ):2014年以降
グライムの現実的でパンキッシュなDIY精神にBerghainの意図的なカジュアルファッションを組み合わせれば、Slava Lepsheevがキエフで展開しているレイブシリーズCXEMAで好まれているファッションが完成する。このレイブを楽しんでいるパーティファンは、1990年代のスポーツジャケット、古着の毛皮、スニーカー、フラットブーツに身を包んでおり、そのルックスはロンドンのウエストエンドの派手なファッションからはほど遠い。