マウンテンバイク・クロスカントリーという競技を知ったばかりの人にとって、数多くのライダーが同時にスタートしたあと1時間以上周回を重ねながら順位を競うレースの観戦はやや難しく思えるかもしれない。
もちろん、最初にフィニッシュラインを越えたライダーが優勝するということは誰もが理解しているが、【Mercedes-Benz UCI クロスカントリー マウンテンバイク ワールドカップ】のスタートからフィニッシュまでの間には何が起きているのだろうか? スタート順はどのように決められているのだろうか? 1レースで何周しなければならないのだろうか?
MTBクロスカントリー最高峰レースの基礎知識を学んでいこう。
4分
マウンテンバイク・クロスカントリー:XCO / XCC 競技解説
01
“XCO” とは何か?
XCOとは「クロスカントリー・オリンピック」の略で、大半がダートの起伏の多いサーキットコースで周回を重ねるレースフォーマットが採用されている。サーキットは可能な限り自然地形のみで構成されるべきだが、人工フィーチャーが配置されるときもある。
ライダーたちはマススタートで同時に走り出す。レース時間は男女エリートクラスで約1時間20分〜約1時間40分で、U-23とジュニアのレース時間はトップカテゴリーのエリートクラスよりも短い。
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XCOのコース長と典型的なレイアウトは?
XCOのサーキットコースは全長4km〜10kmで、ライダーたちはそこで周回を重ねる。各カテゴリーの周回数はレース時間に応じて変わる(エリートが一番多い)。また、短いサーキットなら周回数が増え、長いサーキットなら周回数が減る。一般的に周回数は5〜7周が設定されている。
XCOのサーキットコースの難易度は様々で、外観とライディングもそれぞれ異なるが、すべてのコースが似たようなレイアウトでなければならない。たとえば、上りセクションと下りセクションがふんだんにあり、舗装路・アスファルトセクションはコース全長の15%を超えてはならない。また、長いシングルトラック(1本道)セクションにはオーバーテイクできるパスセクションが用意されていなければならない。
典型的なコースには、急峻な上りセクション、テクニカルな下りセクション、森林トレイル、ロックガーデン(岩場)、障害物が含まれている。
03
XCOの頂点はワールドカップ
自転車競技の統括団体UCI(Union Cycliste Internationale / 国際自転車競技連合)がワールドカップを世界各地で主催している。そのため、ライダーたちは訪れるロケーションによって異なるコース、地形、天候に対応しなければならない。通常は1シーズン6〜7戦(ラウンド)が設定されるが、2022シーズンは全9戦となっている。
8分
UCI マウンテンバイク ワールドカップ 2022シーズン 開催地ガイド
UCIマウンテンバイク ワールドカップの開催地について、知っておくべき"コト"を紹介。
ワールドカップ優勝は非常に価値がある。賞金は多くないが、それよりも重要なポイントが手に入るからだ。シーズンを通じて獲得したポイントが他のライダーたちよりも多ければ、ワールドカップ総合優勝を手にできる。ワールドカップレースで38位以内に入ればポイントが獲得できるため、ライダーたちはなるべく高い順位を目指すことになる。
5位までに与えられるポイントは以下の通り:
- 優勝:250ポイント
- 2位:200ポイント
- 3位:160ポイント
- 4位:150ポイント
- 5位:140ポイント
レース終了後に総合順位で首位に立ったライダーは、次のレースでシーズンリーダーの証となる特製のホワイトジャージーを着用する。
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スタートが肝心
XCOではポジショニングがカギになってくる。好スタートを切ることが何よりも重要で、スタートゲートでなるべく好位置につければ大きな恩恵を得られる。
クロスカントリーのコースは幅が狭いため、優勝を狙うトップライダーたちは集団に埋もれたくないと考えている。埋もれてしまえば、先行するライバルライダーたちとのタイム差が開いてしまい、その差を埋めるチャンスも得られなくなるからだ。次項でXCOレースのスタート順の決め方を解説する。
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XCOのスタート順の決め方
XCOでは同じカテゴリーの全ライダーが同時にスタートする。スタートラインは幅8mに定められており、通常は1列につきライダー8人が並ぶ。
2018シーズンからは、XCOワールドカップレースのスタート順を決める予選的位置づけのXCC(クロスカントリー・ショートトラック)と呼ばれる新しいレースフォーマットが用意されており、XCOレースでのスタート順位を高めたいライダーはXCCで上位成績を残す必要がある。
XCCでトップ24に入ったライダーはXCOの “フロント3” (最前列から3列目まで)に並ぶことができ、当然ながら、トップ8が “フロントロー”(最前列)に並ぶ。トップ24のスタート順が確定したあとは、その時点でのシーズン総合順位(暫定)上位ライダーが優先され、残りのライダーはくじ引きでスタート順が決められる。
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XCCのレースフォーマットは?
XCCは全長1km〜1.5kmのサーキットコースで開催される。レース時間は20分〜25分で、通常、周回数は6〜8周が設定される。1周は約2〜3分。XCCのサーキットコースは、XCOのスタート/フィニッシュラインとコースの一部を使用するときと、完全に別のコースを使用するときがある。
3分
マウンテンバイク・クロスカントリー:XCC 競技解説
XCCはワールドカップのレースウィークエンドの金曜日に開催される(XCOは日曜日に開催)。前述した通り、XCCはXCOのフロント3のスタート順が決まるレースのため、ほぼすべてのトップライダーたちが参加することになる。
また、XCCで活躍すればXCOの総合順位に影響するポイントも獲得できる。これは、XCOライダーたちがXCCに参加するもうひとつの理由になっている。XCCでは、優勝80ポイント、2位80ポイント、3位50ポイントなど、上位40人にXCOポイントが与えられる。
XCOの総合順位に反映できるこのポイント数は2021シーズンよりも幾分削減されている。なぜなら、2022シーズンからXCC独自のワールドカップが開催されているからだ。今シーズンからライダーたちはXCCの総合タイトルとトロフィーを獲得できるようになっている。
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XCCワールドカップの総合順位
XCCの成功を受けて、UCIはXCC独自のワールドカップシリーズとタイトルを用意すべきだと判断した。そのため、2022シーズンからXCCのレース結果はXCOのスタート順とポイントだけではなく、XCC単体の総合順位にも影響を与える。
XCCで獲得できるXCCポイント(トップ5)は以下の通り:
- 優勝:250ポイント
- 2位:200ポイント
- 3位:160ポイント
- 4位:150ポイント
- 5位:140ポイント
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XCCとXCOのレース戦略
XCCに出場するライダーは好ポジションを獲得するために短時間で全力を出し切ることになる。リカバリーできるタイミングはほとんどなく、ライダーたちの心拍数はスタート直後から最大値に近くなる。通常のレースでは、最終周までこのような全力ライディングが続き、最終周では少しでもスピード能力(スプリント能力)に優れているライダーがアドバンテージを得ることになる。
一方、XCOでは、ライダーたちが激しいポジション争いを繰り広げる1周目(オープニングラップ)はカオスになる可能性が高い。そのあと、レース中盤は “自分との戦い” になる傾向が強い。ライダーたちは終盤に向けたエナジーキープに苦心することになる。
XCOのレースが大きく動くのがラスト2周だ。ライダーたちがお互いを牽制しながらアタックを仕掛け合い、タイム差の拡大やポジションアップを狙う。XCOでは心理戦が常に展開されている。ワールドカップレースは激しさがさらに増す。
XCOがエキサイティングとされ、多くの観客を引きつけているのは上記が理由だ。また、XCOとXCCのフィニッシュライン直前のスプリント勝負もファンたちを大いに盛り上げている。
11分
The best XCO sprints ever
Sit back and enjoy as we look back on some top XCO sprint finishes in recent UCI MTB World Cup history.
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XCOマウンテンバイクの仕様
最近のXCO用マウンテンバイクは、最大パワーをペダルにもれなく伝えられるようにライダーがクランクの真上に座るアグレッシブなジオメトリーになっている。フレームとコンポーネントは効率性を重視して軽量化されており、ホイールはあらゆる地形でのスピードを高めるために大型の29インチが採用されている。
平均的な車重は8.5kg〜9kgで、プロライダーの大半がデュアルサスペンションを採用している。レース会場によってはハードテイル(フロントのみサスペンションを採用)もまだ見かけるが、いずれにせよXCOマウンテンバイクは非常に軽量でなければならない。
当然ながら、UCIはワールドカップに出場するXCOマウンテンバイクのレギュレーションを定めている。たとえば、XCCとXCOで同じバイクを使用しなければならないため、レースウィークエンドを通じてハードテイルとデュアルサスペンションのどちらを選ぶのかが重要なポイントになる。
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XCOトップライダーの条件とは? ワールドカップで注目すべきトップライダーは?
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UCI マウンテンバイク クロスカントリー 2022シーズン 見所解説
XCOに参戦している全ライダーの共通点は、細身で体重が軽いことだ。彼らのライディングパワーは強大な脚力によって生み出されている。
XCOの女子エリートは、近年非常に熾烈な戦いが展開されているカテゴリーとして広く知られている。その理由は、才能豊かなライダーたちがひしめき合っているからだ。
ポーリーヌ・フェラン=プレヴォ、ケイト・コートニー、ジェニー・リスヴェッズ、イーヴィー・リチャーズ、ヨランダ・ネフは、女子エリートのレース展開を予想不可能にしている代表格だ。また、新世代ライダーたちの成長も著しく、モナ・ミッターヴァルナー、ローラ・シュティガー、ロルナ・レコンテなどが台頭している。
XCOの男子エリートは、ニノ・シューターが永遠に支配している印象だ。スイス出身のシューターはどのレースでも優勝最有力候補に数えられている。
シューターの高齢化に伴い、マチュー・ファン・デル・プールがシューターの後継者として注目されているが、このオランダ人ライダーは、所属トレードチーム のアルペシン=フェニックスと今夏はロードレースに出場する契約を結んでいるため、XCOの出場数が減る可能性がある。
エンリケ・アヴァンシーニとマティアス・フルッキガーも近年のワールドカップで目覚ましい活躍を見せており、後者は2021シーズンのXCOワールドカップ総合優勝を手にしている。しかし、エキサイティングなタレントと言えば、やはりトム・ピドコックだろう。東京2020のXCOを制し、シクロクロス世界選手権王者でもある彼は、XCO世界選手権優勝を次の目標に定めている。
ヴラド・ダスカルも2022シーズンのワールドカップレースで優勝する可能性が高い若手ライダーだ。ルーマニア出身のダスカルは、今シーズンからトップトレードチームTrek Factory Racingへ移籍している。
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