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スケートボード

草木ひなのの強さの秘密を6人のローカルライダーたちが証言

2024年の女子パークシーンで最注目のスケーター、草木ひなの。彼女がどれほどすごいスケーターなのかを知るために、つくば市にあるひなのの本拠地で潜入取材を行った!
Written by Tatsuya Matsui / Edit by Hisanori Kato
読み終わるまで:11分公開日:
コンクリートパークを高速で縦横無尽に駆け回り、誰よりも高くエアーでぶっ飛ぶ15歳。
スタイル全振りのいかついライディングで女子パークシーンに乗り込んできたのが、今最注目のライダー“草木ひなの”だ。
一発で彼女のライディングの虜になったライターが、草木ひなのの本拠地であるAXISスケートパークに潜入取材を試みた。
そこで得られたローカルライダーたちの貴重な証言の数々を紹介したい。
01

【証言その1】リンタロー(AXISスタッフ)

しょうもないライディングより、ド派手なスラムがかっこいいんだよ!
ライターが向かったのは茨城県つくば市にあるAXISスケートパーク。
草木ひなののホームパークのAXISは、玄人好みのセクション配置で有名な老舗コンクリートパークで、古くからハードコアなスケーターが集まることで知られる。
恐る恐るパークに潜入すると、午前中にもかかわらず、すでにセクションを激しく攻める大人たちがちらほら。
まずは併設されたスケートショップに入り、スタッフに声をかけた。
  
ー ひなのちゃんの強さの秘密ってなんでしょう?
  
リンタロー:度胸っすね。反骨精神強めのコアなスケーターたちに囲まれて滑ってるんで、環境が削り出したブレないスタイルを持ってるところは間違いなく彼女の強みのひとつですよ。
コンクリートをグラインドして、エアーでぶっ飛ぶっていう、「しょうもないライディングするくらいなら、思い切りぶっ飛んでド派手にスラムした方がかっこいい」って哲学で育ってますから。
彼女の極上のエアーはそういう度胸がないと成立しないものだと思います。小学生の頃から3mオーバーのバーチカルランプで滑ってましたし、古くからのスケートカルチャーに通じてる玄人も唸る、ただ上手いだけじゃない滑りができるのが彼女の魅力です。
02

【証言その2】草木ユリ(お母さん)

誰よりも高い場所からドロップしたがる子供でした
草木ひなのの強さの秘密に迫るさらなる情報をゲットすべくパークをうろついていると一人の女性を発見。声をかけてみると、なんと草木ひなののお母さん!
後から判明したのだが、運良くその日は初心者講習のスペシャルサポートメンバーとして草木ひなのがインストラクターを行う日だったのだ。
このチャンスを逃す手はない! お母さんからも情報を聞き出さねば!
  
ー 誰よりも昔からひなのちゃんを見ているお母さんにお聞きしたいんですが、彼女がここまでスケートにのめり込むきっかけってなんだったんでしょう?
  
草木ユリ:究極の負けず嫌いなんです。
もともと私がスケートしてたんですけど、まず彼女は私に負けたくなかったみたいですね。私ができないことをやりたがる子どもだったのが、いつのまにか誰もできないことをやりたがる子どもになっていった感じです。
誰も挑戦したがらない大きなボウルの一番上からドロップしたがるので、見ていて怖かったですね。テクニックを磨くというよりは、誰よりもスピードを出して高く飛ぼうとしてました。
   
ー そのころひなのちゃんは何歳くらいですか?
  
草木ユリ:小学4、5年生くらい。当時から「無理だからやめよう、意味ないからやめよう」が通用しないスケーターでしたね。
最高の一発を決めるまでノンストップ。パークのみんながセクションをガンガン攻める様子を見て、前向きにひたすら上達してここまできてる感じです。
03

【証言その3】モリケン(ローカルスケーター)

パークは大きければ大きいほど得意
どうやら「ハードコアなスケート環境にどっぷり浸かって育った」というのが、彼女の今のスタイルを形成した大きな要因のようだ。
それならば、彼女と共にAXISで滑り続けてきたローカルスケーターにも聞き込み調査をするしかない。
  
ー ひなのちゃんと一緒にスケートする中で、彼女の強さの秘密ってなんだと思いますか?
  
モリケン:強さというより、かっこいい滑りをするっていうのが最大の特徴じゃないですかね。トップレベルの技は持ってるけど、それ以上に見ていて気持ちのいい滑りなんです。
ここのローカルのスケーターたちは上手いだけじゃ満足しない人が多い。そういう価値観を自然と身につけているんでしょうね。
  
ー ライディングのどんな部分にそれが表れていますか?
  
モリケン:例えば540(※)。普通ガールズスケーターの540って横回転してしゃがんで着地する子が多いじゃないですか。でもひなのは空中で頭が下がるよりハードに攻めた形をしてます。
高さもあるし、立った状態でランディング、そのまま加速して次のセクションにトップスピードで突っ込んでいく。
  • 540(ファイブフォーティ) 空中でボードに乗った状態で、ノーズ側の手を背後に伸ばしてボードを掴むメロングラブの状態で一回転半(540度)スピンさせるトリック。
  
ー パークで目立つのも納得ですね。
  
モリケン:とにかくでかいパークで映えるんです。逆に小さいパークが苦手で、大きいパークの方が得意なんですよ。バーチカルとか3m以上の深いボウルとか。大きいパークの方が本人も楽しそうだし上手い。
本場のプールを滑らせたらかっこいいんでしょうね。今後、テクニカルなトリックも含めて仕上がっていくのが楽しみですよ。男子にも負けない勢いがあるので、その差をどこまで縮められるのかって。
04

【証言その4】ナオ(スタッフ兼ショップライダー)

気がついたら後ろにピッタリくっついてくる子どもがひなのだった!?
証言が集まるにつれて草木ひなののスケート観が徐々にわかってきた気がする。それはシンプルに「とにかく攻める」ってこと。彼女と最も長く一緒に滑っているというライダーがいると聞き、その様子を聞いた。
  
ー 彼女の攻めるスケートスタイルについて少し聞いてもいいですか?
  
ナオ:昔からすごかったですよ。男子スケーターには攻める人もいるんですけど、女子スケーターで常に全力で攻める人って少ないんです。ローカル環境が育てた「せめてなんぼ、くらってなんぼ」の精神を受け継いでますね。エアーが高いって言われても本人が納得しなかったら絶対に満足しないんですよ。
  
ー それって技術が高くないとできないものじゃないんですか?
  
ナオ:技術というより、スピードとかエアーに対しての気持ち。これと決めたら譲らないんですよね。
スピードに関して言えば、AXISにはとんでもなく速いライダーがたくさんいるんです。彼らが高速でパークを飛び回っていると、いきなり乱入して後ろについていく子どもがひなのでした。俺もよく後ろにピッタリついてこられましたね。子どもだから許される行為ですけど(笑)。でもそのおかげであのスピードとパワーが身についた。
  
ー いちスケート仲間として思うことはありますか?
  
ナオ:大会に出始めてから一気に上手くなったと思うんですよ。でもあまりテクニカルになりすぎちゃうのはもったいないと感じてもいる。あの荒削りで力強い滑りを失ってほしくはないですね。
大会が悪いわけじゃなくて、自分の滑りを世界に見せつける手段であってほしいと常に思ってます。
05

【証言その5】冨川蒼太(プロスケーター、コーチ)

文句なしで女子スケート界最高のエアートリックの持ち主!
アグレッシブなライディングのインパクトが強すぎて忘れてかけていたが、彼女はコンペティターでもある。
規格外の540、インディフリップ、豪快なグラインドを武器に世界王座に手をかけようとしている最中なのだ。
なんとしてもコンペティションに関する彼女の情報を聞きだしたい、と思っていたら、今年から草木ひなののコーチとしても活動するプロスケーター、冨川蒼太が松葉杖をつきながら表れた!
  
ー ひなのちゃんのコンペティション事情を知りたいんです。今、どのような調整を進めているんですか?
  
冨川:やっぱり彼女の持ち味を生かした方向に伸ばしていきたいんですよ。
ひなののスケートって、スピードが速くて、迫力があって、体が大きいわけではないのにとにかく目立つって感じだと思うんです。エアートリックなんて女子では世界一だと思います。
  
ー そこにさらなる強みを加えたいと。
  
冨川:ド派手なインパクトはピカイチなんで、細かく見てもかっこいい技術を向上させようとしていますね。主にリップトリックを強化してルーティンとしての完成度を高めようという最中です。面白いのは、一般的な女子スケート選手だったら使わないようなトリックが、彼女のスピードだったら可能だったりすることです。
今まで積み重ねてきた経験が彼女の世界観を作っているっていうのは大会でも武器になります。このままルーティンが仕上がったら無敵なんじゃないかとさえ思いますね。
06

【証言その6】マサニイ(AXIS店長、パークビルダー)

「世界一上手い」ではなく、「世界一かっこいい」スケーターになって欲しい
コンペティションで勝つということ、スケーターとして成長していくということ。技術より大事なものがあると思いつつ、大会で勝ち上がるための練習をすること。そんな微妙な心の葛藤はないのだろうか、なんてぼんやり考えているとAXISスケートパークの店長、マサニイさんがふらっとパークに現れた。
草木ひなのを見続けた男の目には彼女の姿がどう映っているのか聞いてみた。
  
ー 彼女のスケートを長年見続けていると思いますが、ひなのちゃんはどんな子でしたか?
  
マサニイ:楽しいっていう理由でひたすらスケートする子だったね。それがいつしか「あのスケーターみたいになりたい」に変わっていった。誰にでも話しかけて教えてもらおうとするからあっという間に上達した印象がありますよ。
スケート初心者にもガンガン話しかけてパークに連れ出すっていう姿勢にも感心させられたね。
  
ー コミュニケーション上手なんですね。
  
マサニイ:そうだね。でも「教えて教えて」ばかりの時期があってね。みんなから「自分でもちょっとは考えろ」って怒られたんだよ。自分のスケートを自分で見つめ直して分析して、それで「ここがわからないからコツを教えて」と言えるようになってからはすごかった。
ただでさえ上達が早かったのにそれから2倍くらいのスピードで上達していってね。周りのローカルスケーターも次々に「あれやってみろ、これやってみろ」って言うもんだから、トリック覚える順序なんてお構いなしにガンガン滑れるようになった。
  
ー そんな子が今コンペティションで成績を残していることについてどう感じますか?
  
マサニイ:彼女のすごいところはね、「上手いけどダサいのは嫌だ」っていう価値観を持っているところだと思う。
彼女から「世界一上手いスケーターじゃなくて、世界一かっこいいスケーターになりたい」って聞いたことがあるんですよ。大会に出場するから勝つための努力はします、でも、その向こうにもっと大きな目標があるんですっていう心意気を持ってるんです。
大会は世のスケートファンに自分の滑りを見せつけるチャンスでもありますからね。
  
ー コンペティションはAXISのハードコアなスタイルとは相反するイメージでした。
  
マサニイ:ここに集まる人たちの世代的にコンペティションを好きじゃない人はやっぱり多いですけどね。やっぱり彼女に習い事の延長のようなスケートはしてほしくないなって思うこともあります。でもね、彼女は今挑戦してるわけでしょう。それなら僕らですら全力で応援したくなる。そう思わせてくれるスケーターなんですよ。
  

【まとめ】

今回、草木ひなのの強さの秘密を探るべくホームパークに潜入取材したわけだが、証言の数々から分かったことは、彼女を支えているのは「環境が育てたブレないスケート美学」にあるのかもしれないってこと。
そして彼女を応援、バックアップしてくれる仲間がいるってこと。世界の舞台を猛スピードで駆け抜けて、エアーでぶっ飛ぶ様子を早く見たい、そう強く思わされる潜入取材だった。
機会があればみんなもぜひ一度足を運んでほしい最高に気持ちのいいパークでした! 運が良ければ草木ひなの本人のライディングを見れたり、彼女のスクールに参加できるかも?

パーク情報

AXIS Skateboard Park & Shop
  • 住所:茨城県つくば市大船戸191-91
  • HP: http://www.axis-mbm.com/
  • Instagram: https://www.instagram.com/axis.boardshop/
  • 毎月第1・第3土曜日に予約制スクールあり
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