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スノーボード
スノーボード:進化の歴史
スキー板を繋ぎ合わせただけのプロトタイプから始まり世界で最も人気のあるウィンタースポーツのひとつまで進化したスノーボードの歴史を簡単に振り返る。
「僕は昔から簡単にできないスポーツに特別な思いを持っていました。スノーボードも特別でした。カナダで最も平坦なエリアに住んでいても関係ありませんでした。一生を通じてこれをやるつもりでした」
マーク・マクモリスのこの言葉は、彼がまだ少年だった2000年代初頭に記録されたものだ。スノーボードは当時から人気だったが、今ほどの人気は獲得していなかった。
驚くことに、スノーボードの歴史は1960年代まで遡れる。このスポーツは、シンプルなプロトタイプのボードからクールなデザインのボードへ、そして世界的な認知度の獲得へと素晴らしい成長を遂げており、1992年にはスロープスタイルも派生した。
今回はスノーボードの歴史を紐解いていこう。
01
黎明期
スノーボードは、ミシガン州在住のエンジニア、シャーマン・ポッペン(Sherman Poppen)がプロトタイプをデザインした1965年にその歴史が始まった。もちろん、他の多くの発明と同じように「初めてデザインしたのは自分だ」と主張する他の人も出てきたが、このことについては後述する。
話を戻すと、ポッペンのプロトタイプは非常にシンプルなデザインで、スキー板2本を繋げたものだった。
このプロトタイプは原始的だったが、ディミトリ・ミロビッチ(Dimitrije Milovich)のような人たちにインスピレーションを与え、そのデザインは瞬く間に進化していった。
1972年、当時コーネル大学の学生だったミロビッチはウィンタースティック(Winterstick)と呼ばれるモデルをデザイン。ミロビッチのこのモデルは「雪上でサーフィンを楽しむためのもの」と謳われていた通り、現在のロングボードに非常に似ている。
結局、ミロビッチは大学を中退してユタ州へ移住し、その後長い時間をかけて自分のボードのリファインとデザインを続けていった。Winterstickはスノーボードブランドとして現存している。
02
1980年代 / 1990年代
1980年代と1990年代はスノーボードの歴史において非常に重要だ。レースとトリックメイクが中心だったプロイベントは1980年代初頭に始まり、1985年の国際スノーボード連盟(ISF)の設立へ繋がった。
また、スノーボードが映画で取り上げられるようになったのもこの頃で、1985年に公開された『007 / 美しき獲物たち』がその好例だ。
さらに1998年にはスノーボードの回転とハーフパイプが冬季オリンピックの正式種目に採用され、1990年代に入ると、スノーボードブランドが大量生産を開始して人気の高まりを後押しした。
この時代のスノーボードの革命に大きく寄与したのが以下の3ブランドだ。
Burton
ニューヨークシティ出身のジェイク・バートン(Jake Burton)は、1970年代後半にバーモント州へ移り、自分のブランドBurton Boardsを設立。その後1990年代に入り、自分だけのデザインを手に入れ、自分のボードが人気を獲得するようになったバートンは、販売を伸ばすためにカタログを制作した。
当時、少なくともスノーボード業界にとっては、このようなカタログは斬新なアイディアだった。こうしてBurton Boardsはスノーボード業界を代表するブランドへと成長した。
SIMS
SIMS Snowboardsは1976年に起業家トム・シムス(Tom Sims)によって立ち上げられた。シムスもまたバートンと同じようにスノーボードの大量生産に踏み切った人物のひとりだ。
子どもの頃はスケートボードとスキーに夢中だったシムスは、中学時代の技術の授業でスノーボードのプロトタイプをデザインした(当然ながら、彼も “自分がスノーボードを最初に考案した人物” と主張している)。
また、シムスは優れたスノーボーダーでもあり、1983年には世界スノーボード選手権で優勝している。残念ながら、シムズは2012年に他界した。
GNU
マイク・オルソン(Mike Olson)とピート・サーリ(Pete Saari)が1977年に創設したのがGNU Snowboardsだ。1980年代、GNUは女性専用スノーボードを初めてデザインしたことで大成功を収めた。最も大きな成功を収めた女性スノーボーダーとして知られるジェイミー・アンダーソンもGNUのスノーボードを使用していた。
彼女をはじめとするGNUのスノーボードを使用している女性スノーボーダーの多くが男性スノーボーダーを上回る成績を残したため、GNUはある意味悪評高いブランドとしても知られている。尚、GNUのスノーボードはすべて米国内のハンドメイドだ。
03
2000年代初頭から現在まで
現在、スノーボードは世界的な人気を獲得しており、毎年何百万人ものスノーボーダーたちがスロープを楽しんでいる。今やスノーボードは独自のカルチャーとして成立しており、世界規模のイベントでは大金が動いている。
この状況は、スノーボーダーたちがこれまで以上に多くのリソースを手にしており、フルタイムでトレーニングに打ち込めるようになっていることを意味している。
競技としてのスノーボードの種目は黎明期のハーフパイプから増加しており、現在ではビッグエア、スノーボードクロス、大回転、スロープスタイルも存在する。これらの競技はどれも冬季オリンピックで男女の正式種目として採用されている。
また、競技の外に目を向けると、近年はフリーライドが大きな人気を獲得しており、雪山のバックカントリーへ向かって未踏のエリアや危険なエリアを探索するスリルが楽しまれている。また、ストリートスノーボードも存在し、プロたちが都市部の様々なフィーチャーを活用したライディングを追求している。
プロスノーボーダーたちにとって冬季オリンピックに次いで大きなイベントが、毎年開催されているWinter X Gamesだ。他にも、フリースタイルイベントの【Red Bull Infinite Lines】や【Natural Selection Tour】などがスノーボードシーンの広がりとスノーボーダーたちの進化を表現している。
スキー板2本を繋げただけだったスノーボードの始まりは地味なものだったのかもしれないが、スポーツとしてのスノーボードは劇的な進化を遂げている。現在はこれまで以上にアクセシビリティも高まっており、世界中の数多のスキーリゾートで楽しめるようになっている。
また、スノーボードの進化は1990年代から見られるようになったスノーボードビデオが助けた部分も大きい。
04
スノーボードビデオの進化
2003年から16作品をプロデュースしているPirate Movie Productionsのプロデューサー兼カメラマンのバスティ・バルザー(Basti Balser)を含むプロダクションチームは、過去20年以上に渡ってスノーボードの革命に大きな影響を与えており、シーンの変化を独自の視点で見てきた。
「私と仲間たちはファミリービデオやVolcomのスケートビデオから影響を受けて、1990年代からスーパー8で撮影をしていました」とバルザーは語る。「当時、小規模なプロダクションではミニDVDや8ミリが使用されていたはずですが、スーパー8は16mmやモノクロと同じように非常に特徴的でした」
2023年は革新的なアクションスポーツフィルムが豊作で、レッドブルとPirate Movie Productionsが共同制作したスノーボード映像作品『Under Black Flag』も公開された。この作品はスーパー8から16mmまでのあらゆる撮影方法を駆使し、アラスカ、スウェーデン、日本を含む様々なロケーションを美しいデジタルフッテージにまとめた2023年を代表するスノーボード映像作品だ。
47分
Under Black Flag
Top Pirate Crew snowboard shots explode into an epic, timeless thrill – Gigi Rüf, Elias Elhardt and more.
『Under Black Flag』の成功は新旧テクノロジーを組み合わせているところにある。クリストファー・ノーラン監督が好んでいることで知られるRED ONEも使用されている他、フィルムを使用したざらつきのあるショット、ヘリショット、ドローンショットなどでギギ・ラフやカッレ・オールソンのようなレジェンドライダーたちを撮影して人間味と斬新さを同時に生み出している。
また、この作品にはまた別の意味で革新的だ。1990年代のスノーボードビデオは手持ちカメラに頼っていたが、バルザーは2人組ドローンとヘリコプターを使用した。バルザーが説明する。
「理論上、ドローンはすべてをスピードアップさせることができますし、自分たちでコントロールできる部分も増えますが、撮影できる場所に関するルールが非常に細かく決められていますので、撮影許可を申請する必要があります」
「しかしながら、ドローンにはヘリコプターで離着陸できないような場所で空撮できるアドバンテージがあります。たとえば、オーストリアではヘリコプターの低空飛行が認められていませんが、ドローンなら可能です。一方で、ヘリコプターでの空撮はドローンよりもスピードが出せますし、高度も上げられます」
正しいバランスが成功のカギというわけだ。また、バルザーは撮影テクニックだけではなく、ソーシャルメディア時代における世の中の意識の変化も理解する必要があった。バルザーが説明を続ける。
「スポンサーの多くは契約しているアスリートにスマートフォンを使用してインスタグラムかTikTokにコンテンツを投稿することを期待しています。こうすることで、スポンサーはフルレングスの映像作品にかかる時間とコストを削減できるのです」
「数年前は、『Under Black Flag』のような映像作品を今の予算で制作するのは不可能でしたが、テクノロジーによって可能になりました。最近は低予算で『ナショナルジオグラフィック』のようなパーフェクトな風景が撮影できるのです」
スノーボーダーとフィルマーたちの優れたセンスが発揮されている『Under Black Flag』は、間違いなく作家性の強いアクションスポーツフィルムのパーフェクトな例になるだろう。
05
レジェンドスノーボーダー
スノーボードの歴史にはバックカントリーからスロープスタイルまで多様なレジェンドたちが存在してきた。その中から特に有名なスノーボーダーたちを紹介しよう。
トラヴィス・ライス
米国出身のトラヴィス・ライスは、『The Art of Flight』や『First Descent』などスノーボードを再定義する先駆的な映像作品を次々と生み出してきたビッグマウンテン・フリーライドのレジェンドライダーだ。
1 時間17 分
The Art of Flight -アート・オブ・フライト-
オールラウンドスノーボーダー、トラビス・ライスと映像作家のカート・モーガンが手を組み、新時代のスノーボードムービーを作り上げた。北はアラスカから南はチリまで、アメリカ大陸の雪山をフリースタイルで縦断し、パフォーマンスと映像の見事な融合を見せてくれる。
ケイティ・オーメロッド
英国・ウェストヨークシャー出身のオーメロッドは2020年にスノーボードスロープスタイルのワールドカップ総合優勝を勝ち取り、初のクリスタルグローブ獲得英国人女性スノーボーダーとなった。その後、2022年の冬季オリンピックのスロープスタイルおよびビッグエアでオリンピックデビューを飾った。
マーク・マクモリス
スロープスタイルとビッグエアを専門とするカナダ人スノーボーダーのマクモリスは、すでに冬季オリンピックで銅メダル3個を手にしている。2011年に世界初のバックサイドトリプルコーク1440をメイクしたことでも良く知られているマクモリスのドキュメンタリー『Unbroken』がRed Bull TVで視聴できる。
45分
Unbroken -マクモリスの物語-
マーク・マクモリスの人生とマインドにフォーカスを当てるミニドキュメンタリー。カナダが生んだスロープスタイルのアイコンが、地元サスカチュワンや他のアクションスポーツへの情熱など、様々なインスピレーションの源について語る。
マディ・マストロ
マディ・マストロはスノーボードシーンの新世代を牽引するライダーのひとりに数えられる。ハーフパイプを専門とする米国出身のマストロは18歳で出場した2018年のX Gamesで3位に入ると、同年の冬季オリンピックは12位に入った。2023年にアスペンで開催されたX Gamesで2位に入った彼女の今後の活躍に注目したい。
アンナ・ガッサー
オーストリア出身のガッサーは、北京で開催された冬季オリンピックのビッグエアでの金メダルに続くメダルを狙っている。スノーボードを始めた年齢が比較的遅かったが、その遅れはすでに十分取り返しているガッサーのドキュメンタリー『The Spark Within』がRed Bull TVで視聴できる。
1 時間1 分
The Spark Within -秘めたる才能-
限界を超え数々の功績を残してきた女子スノーボード界の女王アンナ・ガッサー。本作品では、マーク・マクモリスやジュリア・マリノなど、名だたるライダーたちもゲストに招き、彼女の10年間を余すことなくディープにまとめている。スノーボードへの純粋な情熱と愛情が生んだ彼女の軌跡をご覧あれ。(日本語字幕)
カッレ・オールソン
現役を引退したスウェーデン出身のカッレ・オールソンは、現在はバックカントリーから父親業へとフィールドを変えている。7年分のビデオパートが収録されている『Under Black Flag』はプロライダー時代最後の作品に相応しい。
ジェレミー・ジョーンズ
2012年に『ナショナル・ジオグラフィック』のアドベンチャラー・オブ・ザ・イヤーにノミネートされた米国人フリーライダーのジョーンズはレースから転向してビッグマウンテンライディングのパイオニアになったことで広く知られている。Protect Our Winters(POW)の創設者でもある彼は、寒冷地における天候危機の影響を緩和する努力を続けている。
ヴァレンティノ・グセリ
2022-2023シーズン、オーストラリア出身のヴァレンティノ・グセリはFISスノーボードワールドカップ史上初となるスロープスタイル、ハーフパイプ、ビッグエアの3種目で同一シーズン総合トップ3に入ったライダーとなった。グセリの非凡な才能は下の動画から確認できる。
6分
Val Guseli – snowboarding's worst-kept secret
Teenage halfpipe sensation Val Guseli made a huge impact at Laax 2021 – watch out for him at Laax in 2022.
ギギ・ラフ
オーストリア出身のクリスチャン・“ギギ”・ラフはPirate Movie Productionsの作品を含む数々の印象的な映像作品で知られており、スノーボード史上最もスタイリッシュで万能でクリエイティブなスノーボーダーのひとりと評価されている。
ヘイリー・ラングランド
6歳からプロライダーとして活動しているヘイリー・ラングランドはまさにスノーボードの申し子だ。14歳でワールドカップ初優勝を記録した彼女は、その2年後にX Gamesビッグエアに出場すると、同イベント史上女性初となる特大のキャブダブルコーク1080をメイクして金メダルを獲得した。その後、17歳でビッグエアとスロープスタイルでオリンピックデビューも飾っている。
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