2022年7月、米国MLSのニューヨーク・レッドブルズとオースティンFCの試合で、アウェイのレッドブルズがホームのオースティンに勝利することを予想した評論家は少なかった。しかし、この試合の先制ゴールを決めた17歳のセルジュ・ンゴマを含む数人がティーンエイジャーだったにもかかわらず、レッドブルズは4-3でオースティンを下して番狂わせを演じたのだった。
試合後、レッドブルズのMFドリュー・イヤーウッドは「彼らのホームスタジアムでここまで彼らを追い込んだチームはいませんでした。僕たちのように彼らに立ち向かったチームはいません。僕たちには恐れ知らずのメンタリティが備わっているのです」と振り返った。
平均年齢22歳のこの若きチームが躍進しているスポーツ “サッカー” は、地球で最も長い歴史を持つスポーツのひとつだ。プロサッカーは1800年代のイングランドで誕生したと言われているが、アステカがゴムボールで楽しんでいたものを起源とする意見もある他、紀元前3世紀の中国で似たようなスポーツが楽しまれていたという意見もある。
ひとつ分かっているのは、サッカーがいつどの大陸で生まれたのかについて絶対的な正解を得ることはないということだ。しかし、このスポーツとラグビーが分岐し、さらには地球で最も人気の高いスポーツになるまでの歴史を簡単に振り返ることはできる。
01
サッカーの歴史
12世紀、サッカーの “骨格” と呼べるものが英国イングランドの草原で楽しまれていた。この初期バージョンは “フォークボール(Folkball)” という名称で、現在のサッカーとはほとんど共通点がなかった。
というのも、当時は拳でボールを叩き、対戦相手に激しいタックルを見舞わせていたのだ。ボールを蹴ることに主軸が置かれていたという点は共通していたものの、フォークボールはあまりにも暴力的だった。
そして英国政府がフォークボールを全面禁止して数世紀が経ったあと、このスポーツは1800年代にかなり安全なルールが用意されたウインタースポーツとして再出発し、イートン、ウィンチェスター、チャーターハウスのようなイングランドのパブリックスクール(全寮制私立学校)で試合が行われるようになった。
しかし、ひとつ問題があった。各学校が独自のルールを用意していたのだ。一部の学校はラグビーのように一時的にボールを手で扱うことを許可しており、別の一部の学校はボールを手で扱うことを完全に禁止していた。
この結果、学校同士の対抗戦が難しくなってしまったのだが、1848年にケンブリッジ・ルールが統一ルールとして採用された。ケンブリッジ・ルールはイングランド全土で適用された最初のサッカールールだったが、ボールを手で扱っても良いのかどうかについては明確に定められていなかった。
その後、1863年にフットボール・アソシエーション(FA:英国サッカー協会)がロンドンに設立され、サッカーに関するルールを標準化した。ここで初めてサッカーとラグビーが明確に異なる2つのスポーツとして扱われるようになり、サッカーではボールを手で扱うことが正式に禁止された。
02
サッカークラブの誕生
サッカーは産業革命に大きな影響を受けた。学生たちだけではなく工場労働者たちもサッカーを楽しむようになり、彼らによる社会人チームが設立されるようになった。サッカーは、終業後に楽しむソーシャル・アスレティック・アクティビティになったのだ。
また、鉄道網の発達に伴って他のサッカーチームの元を訪れて対戦できるようになると、このような対戦が初期サッカーリーグへと繋がっていった。さらに、この頃になるとサッカーが上手い人物に契約金を払って加入してもらうチームが登場し、そのスター選手の活躍を見るための観戦チケットも販売されるようになった。
このような発展によってサッカーが素人の遊びからプロスポーツへ変わっていくと、シェフィールドからイングランド初のサッカークラブが誕生した。
冬の間も身体を動かしていたかったシェフィールドのクリケットチームが有志を集めてサッカーをするようになると、やがてこのグループが公式なサッカークラブとなり、1857年に最古のサッカークラブ、シェフィールドFCが誕生した。彼らは独自のルールを用意していたが、ライバルクラブやFAとの長年に及ぶ対立を経て、最終的にFAのルールを取り入れるようになった。
そしてイングランド全体でサッカー人気が急騰し、強豪クラブ同士の対戦も行われるようになったことを受けて、1888年にイングリッシュ・フットボールリーグ(EFL)が設立された。また、サッカーはアイルランド、スコットランド、ウェールズでも人気を獲得しており、1890年にはこの4カ国がそれぞれ独自のリーグを設立し、お互いに対戦するようになった。
03
世界への広がり
長年に渡りサッカーは英国のスポーツだったが、このスポーツは徐々に中央ヨーロッパをはじめとする海外へ広がっていった。1889年にはデンマークとオランダで英国に次ぐサッカー協会が設立され、1891年にはニュージーランド、1893年にはアルゼンチン、1895年にはベルギーで同じくサッカー協会が設立された。
サッカーの世界的な人気は1904年のFIFA(国際サッカー連盟:Fédération Internationale de Football Association)設立に繋がった。この団体は国際試合および各国のサッカー協会のための共通ルールを設定し、異なる国のチーム同士が公平に戦えるようにした。
尚、FIFAはフランスで設立されたが、ベルギー、デンマーク、スペイン、オランダ、スウェーデンも設立メンバーに含まれていた。2022年現在、FIFAには世界211カ国が加盟しており、世界で最も重要なスポーツ団体のひとつに数えられている。
1900年代初頭、最も重要な国際サッカー大会は夏季オリンピックの一部として開催されていたオリンピック・フットボール・トーナメント(Olympic Football Tournament)だった。男子サッカーは1900年からほぼすべての夏季オリンピックの正式種目に含まれており、女子サッカーは1996年のアトランタ五輪から正式種目として採用された。
しかし、現在において最も重要な国際サッカー大会は、1930年から4年に1回開催されているFIFAワールドカップだ。その人気上昇に伴い、参加国は1930年大会の13から2022年の32まで増えている。
04
アジア・アフリカ・北米
1966年、アジアとアフリカを含む21カ国がFIFAに加盟し、新ルールの設定と一体性の強化のために新たな連盟が設立された。結果、現在のFIFAは、アフリカサッカー連盟(CAF)、アジアサッカー連盟(AFC)、ヨーロッパサッカー連盟(UEFA)、北中米カリブ海サッカー連盟(CONCACAF)、オセアニアサッカー連盟(OFC)、南米サッカー連盟(CONMEBOL)という6つのサッカー連盟で構成されている。
北米では、1994年のFIFAワールドカップ米国大会をきっかけにサッカー人気が上昇したが、これに合わせて米国サッカー協会はトップリーグ “MLS(Major League Soccer:メジャーリーグサッカー)を設立した。その後、デビッド・ベッカムやティエリ・アンリなどのスター選手を積極的に獲得していった結果、現在同リーグはトップリーグの仲間入りを果たしている。
05
現在
現在、サッカーは世界最多の視聴者数を誇るスポーツのひとつに数えられている。
特にMLSの人気は目を見張るものがあり、毎節平均200万人がテレビ観戦を楽しんでいる。MLSは人気獲得のためにいくつかの施策を行っており、その中にはサッカー専用スタジアムの設立や特別指定選手制度(スター選手を引き込むために、サラリーキャップの範囲外で最大3人まで獲得できるルール)の導入などが含まれる。
このような努力は確実に実を結んでおり、現在MLSはNHL(アイスホッケー)を抜いて全米4位の人気スポーツとなっている(トップ3はアメフト、バスケットボール、野球)。
06
まとめ
サッカーの歴史と伝統は非常に奥が深く、そのルーツはかなり古くまで遡ることができる。このスポーツは時間とともに変化してきたが、時代性を失うことはなく、常に高い人気を維持しており、今も世界各地のスタジアムを満員御礼にすると同時にテレビ中継で高視聴率を記録している。
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