鍛え上げた筋肉でオスカーが獲れるのなら、メリル・ストリープは筋骨隆々でなければならないはずで、“ロック様” ことドウェイン・ジョンソンも相当数を獲得しているはずだ。
確かに、割れた腹筋にはそれなりのメリットがあるが、ルックスの良さだけでハリウッドで成功を収めるのには限界がある。
その理由は、デビッド・キングスベリーに尋ねてみれば分かる。
自らが主宰するジムPinewood Studiosでハリウッドスターたちのワークアウトを指導してきた彼の業務内容には、「洗濯板のような腹筋の提供」の他に、「演技に必要な機能的な肉体の提供」も含まれている。
つまり、ジェイク・ギレンホールが高所に設置されたワイヤーに吊られて宇宙船のセットで何回も遊泳したり、ジェニファー・ローレンスが飛び蹴りで襲撃者を倒すシーンを何回も繰り返したりできるように、基礎体力の指導もしているのだ。彼の仕事の大半は観客からは見えないものなのだ。
「映画ファンの多くが気づいていないと思いますが、俳優のトレーニングは腹筋を割るためだけのものではありません。あくまでも演技のためのものなのです。一歩も動かない役は非常にレアですからね」とキングスベリーは語る。
以下に、キングスベリーが教えてくれたハリウッド流ワークアウトの6つのポイントを記していこう。自分のワークアウトに取り入れられるヒントがあるかもしれない。
1. ボクシングは非常に効果的
マイケル・ファスベンダーほど私を唸らせた俳優は少ないですね。彼は強い意志と素晴らしい労働倫理を持っていて、『アサシン クリード』の撮影で一緒に仕事をした時も、彼はトレーニングセッションを一度も休みませんでした。
あの作品での私たちのゴールは、総合格闘家のような無駄のない機能的な筋肉を備えた強靭な体型を作り上げることでした。
剣を使うシーンを含め、数多くの格闘シーンがあったので、優れた有酸素運動であると同時に、アクション指導にも非常に有益なボクシングトレーニングを多く取り入れました。
一般的なジムの多くもボクシングクラスを用意していますが、マンツーマンでミットを打ち合ったり、時限セッションに取り組んだり、様々なコンビネーションとその反復に取り組んだりしたらどうでしょう? もしくは、ひとりでサンドバッグに向き合い、45秒間ストレートを打ち込み続けるとしたら?
どれも非常に優れたワークアウトになるはずです。
2. ワイヤーアクションには強い体幹が必要
2016年、私はSFスリラー作品『ライフ』に出演するジェイク・ギレンホール、ライアン・レイノルズ、レベッカ・ファーガソンを指導しました。
無重力の宇宙空間が舞台の作品ですので、彼らは終始ワイヤーに吊られた状態で宇宙船の周囲を遊泳する演技をする必要がありました。ですので、体幹強化と持久力向上に重点的に取り組みました。
彼らには、標準的なウエイトトレーニングとバランスボールを用いた平衡感覚を向上させるエクササイズに取り組んでもらいました。
ですが、体幹強化で最も効果が高かったのはTRXストラップを用いたワークアウトでした。具体的に言えば、“フォールアウト” というエクササイズが素晴らしい効果を見せました。これはハンドルを握って両腕をまっすぐに伸ばすエクササイズです。
フォールアウトでは身体の角度を下げていくほど負荷が高まります。身体の安定性向上に寄与し、ハムストリング、腰・中背部・上背部を含む背筋全体、大臀筋などをストレッチするので、身体の動きに別の次元を加えます。体幹と全身に効果的なエクササイズです。
3. 筋力アップで汎用性を高める
『スノーホワイト / 氷の王国』に出演するジェシカ・チャステインを指導した際、彼女は戦士のように見える演技の実現を目指していました。ですので、数多くのリフト系エクササイズを行いましたが、これらは弓矢を使う演技に役立ちました。
また最近、2019年公開予定のティム・バートン監督作品『ダンボ』でブランコ曲芸師の役を演じるエヴァ・グリーンのトレーニングを指導しました。
当然、彼女には10年間サーカスで訓練を受けてきた経験はないので、短時間でアクロバットらしい動きを身につけるために、ブランコ乗りのトレーニングと共に、伝統的な筋力トレーニングとウエイトトレーニングも行いました。
握力強化には懸垂が特に効果的でしたね。また、懸垂は背筋強化にも役立ちました。
俳優を含め、多くの人が胸や上腕三頭筋など “押すための筋肉” のトレーニングに執心してしまい、背筋のトレーニングをおろそかにしがちです。
4. 低強度ワークアウトは非常に有益
急激な減量・増量が必要な俳優を指導することがあります。『レ・ミゼラブル』に出演したヒュー・ジャックマンを指導した時は、その両方を行いました。
この作品のために彼は減量する必要がありましたが、その直後に『ウルヴァリン:SAMURAI』に向けて体重を戻す必要がありました。
減量期のヒューには、低強度の有酸素トレーニングに取り組んでもらいました。ハードなセッションを行う際に、彼は一般人ほど強い意志を必要としません。彼の冷静な意志は、急激な減量のストレスに晒されている間に体力を温存するのに役立ちました。
たとえ標準的な体重でも、低強度のウエイトセッションをたまに行うのは有益です。ジムに向かうのが億劫に感じている日は、レップ数を減らしつつセット数を増やしていけば効果が得られるでしょう。
ヒューが増量する際は、低強度ワークアウトですでに作り上げていた肉体が大いに役立ちました。
5. カーボサイクル(炭水化物サイクル)は筋肉量アップに役立つ
ヒューが増量に取り組む際は、ワークアウトのレップ数のレンジを8〜12回に設定していました。高負荷のワークアウトを1〜5回のレップ数で行ったあと、レップ数を8〜12回まで増やしていきました。
高負荷のワークアウトを少ないレップで行うことで、レップ数を増やしてもある程度の負荷に耐えられる筋力をつけていったのです。
最も重要なポイントは、撮影中は高タンパク低炭水化物のクリーンな食事、トレーニング日は炭水化物、休息日は低炭水化物と、食事内容を変化させていたことです。
私たちはこれをカーボサイクル(炭水化物サイクル)と呼んでいますが、目標達成に大いに役立ちました(とはいえ、トレーニング後にご褒美として大きなハンバーガーを頬張ることもありました)。
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6. 食事内容が悪ければ良いトレーニングはできない
ロン・ハワード監督作品『白鯨との戦い』でも、減量に取り組む俳優たちを指導しました。
この時の私の目標は、出演者全員(専属トレーナーがついていたクリス・ヘムズワースは別ですが)に安全かつ効率良く減量してもらうことでした。
撮影期間の前半は筋力アップに取り組み、そのあとでカロリー制限ダイエットで体脂肪と筋肉量の低下に取り組んでもらいました。
極端な減量を目指してはいけません。減量中にやや疲労感を感じるようなら、適切なバランスを見出すことが重要です。
カロリー摂取量を極端に減らしてしまうと、体内のエナジーレベルに悪影響が出るので、ダイエットの継続や効率の良いトレーニングが難しくなります。
食事とワークアウトの両面で自分が楽しめるバランスを見つけることがカギになります。こうすることで極端な手段を取らずに、筋力や体力の基準となるレベルを作り出せます。
ありふれた言い方ですが、食事内容が悪ければ良いトレーニングはできません。
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