音楽がカジュアルリスナーやクラバー、ローカルアーティストのマインドに与える影響は、ビッグフェスティバルのヘッドライナーたちのマインドに与える影響よりも随分小さいのかもしれないが、「音楽に触れている」というシンプルな喜びに差はない。
音楽を聴く、体験する、作る、演奏することは、メンタルとフィジカルはもちろん、スピリチュアルな部分にも好影響を与える可能性がある。
そこで我々は音楽が心の健康に与える影響を探るために、瞑想的なサウンドで音楽の秘める治癒効果を研究している女性だけのドローンコーラスグループNYXのメンバーたちに話を聞くことにした。
ロンドンに拠点を置くNYXのメンバーの多くは、ノイズとドローンにおける音楽療法や心理音響を対象にしている研究者たちで、たとえば、このグループのディレクターを担当しているSian O’Gormanは、合唱の瞑想効果を体験できたワークショップ「Like Nobody’s Listening」を立ち上げた人物のひとりとして知られている。
今回は、彼女たちに音楽が心の健康、メンタルヘルスに役立つ6つの理由を解説してもらった。
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1:自分の感情と繋がることができる
まずは、当たり前だが非常に重要なポイントから紹介していこう。音楽は自分の中にある様々な感情、様々な状態と自分を繋げてくれる。
楽しい、悲しい、リラックス… 「ライブコンサートや録音された音楽を聴く」には、自分の感情を様々な方向へ導ける素晴らしい能力が備わっており、世の中には、聴いたら必ず泣いてしまう楽曲や世界の頂点に立ったような高揚感を得られる楽曲などが存在する。
サウンドデザイナー / 作曲家 / NYXの共同作業者Alicia Jane Turnerはこの点について次のようにコメントしている。
「音楽の感情性が最も明確に用いられている例は、コンピレーションCDやプレイリストです。これらに収録されている音楽は “チルアウト” や “作業用” 、 “リラックス” など、感情的な目的別にまとめられています」
また彼女は、音楽が持つこの効果は、音楽の調性やサウンドの種類が心身に影響を与えるという事実をあらためて示しているだけではなく、西洋音楽とその音楽理論の歴史とも深く関わっているとしている。
西洋音楽では、マイナーコードのシーケンスが “悲しみ” 、メジャーコードのシーケンスが “幸せ” など、音楽が特定の感情に紐付けられてきた。
音楽は、快適さや安心感を得られる場所へ自分の気持ちをシフトさせるパワーを秘めています
NYXのヴォーカリストRuth Coreyは、音楽は人間がどう感じているのかを表出させたものだと考えている。
「忙しい日常生活によって鈍化したり、欲望のために無理矢理蓋をしてしまったりすることで、感情表現ができない、または自分たちが今何を感じているのかが分からなくなってしまう時があります」
「音楽を聴く、音楽を作るという行為は、他人の感情を理解したり、自分自身の感情に気付いたりする助けになります」
同じくNYXのヴォーカリストBinky Hyndeは、このような気付きや理解がメンタルヘルスの問題に役立つことについて次のように述べている。
「私はうつと不安神経症に悩まされてきましたが、これらの病気の大きな問題のひとつは、物事の捉え方の基準点が変わってしまうところにあります」
「私にとって音楽とは、その基準点を瞬時に変えてくれる客観的視座を持つ数少ないもののひとつです。音楽は、たとえ一瞬でも、快適さや安心感を得られる場所へ自分の気持ちをシフトさせるパワーを秘めています」
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2:音楽の演奏や練習は精神を浄化してくれる
音楽を聴くだけではなく、ソロ、デュオ、バンド、DJを問わず、音楽の演奏や練習でも感情を解放できる。
O’Gormanは、そのような解放を得られるパフォーマンスの中でベストなのは、昔から存在する “シンガロング”、つまり音楽に合わせて歌うことだと考えている。
「お風呂に入りながらでも良いですし、ひとりの時でも良いですし、公園にいる時でも、車の中でラジオに合わせてでも構いません」
「ひとりでシンガロングをしていると、周りから “大丈夫?” と思われるかもしれませんが、瞬間的にカタルシスをもたらしてくれるので精神が浄化されます。大人になってからの真面目な生活では得られない、童心に返ったような感覚が得られるのです」
シンガロングの生化学反応は、我々をより原始的な状態へと戻していく。他人とのハーモニーを行った時は、その効果がさらに高まる。O’Gormanは次のように説明している。
「歌うと分泌されるオキシトシンが信頼と連帯感を私たちに与えますので、他人と一緒に歌えば、受容と愛の感情が大幅に高まるのです」
「他人と共同作業をしながら、有機的で巨大なサウンドの一部となることで、より高次元な状態に突入することができます。自分よりも大きな存在の一部になれている感覚が得られるのです」
「このような一体感が、集団として生活する生き物という自分たちのルーツに立ち返らせるのです。歌や音楽は、社会的繋がりを生み出すための非常に重要なツールでした。より密接な繋がった集団を作り上げる助けとなっていたののです。繋がりが強ければ強いほど、生存確率が高まったのです」
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3:マインドフルネスに組み込める
Oxford Mindfulness Centreの元ディレクターMark Williamsは、マインドフルネスについて「肉体と精神を再接続するための訓練です。その瞬間に自分が何を考え、何を感じているのかを意識するのです」と説明している。
全員に当てはまるわけではないが、思考や感情、感覚の動きを記録するこのような総合的な肉体と精神の訓練は、メンタルヘルスの管理に大きく役立つ。Hyndeは、マインドフルネスの簡単な練習方法について「音楽を集中して聴く時間を毎日設けることです。ひとりで意識的に聴いてみるのが良いでしょう」とアドバイスを送っている。
O’Gormanが説明を続ける。
「言い換えれば、アクティブ・ディープ・リスニングということになります。自分の周囲にあるサウンドを、批判することなく、細部まで集中して聴き込んでいくのです。対象は、音楽でも、部屋の音でも、呼吸の音でも構いません。集中して深く聴いていくと、自分の内側から浮かび上がってくる反応に気付くはずです」
「そのような反応は、個人やその日の体調などによって、肉体的な時もありますし、感情的な時もありますが、反応が浮かび上がってきても、状況を冷静に観察してください。耳に入ってくる音や自分の反応について考えたり、批判したりしないようにしてください」
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4:定期的なライブコンサートは心の健康に良い
Coreyは、英国のゴールドスミス・カレッジの准講師Patrick FaganとO2(ロンドン最大の音楽ヴェニューのひとつ)によって行われた研究を引き合いに出している。
この研究は、ライブコンサートが人間の心の健康や幸福感にどう影響するのかを調べるために行われた。被験者に心拍数モニターを装着してもらい、ヨガや犬の散歩、ライブコンサートなどの様々なアクティビティを終えた段階での数値を集計した。
Coreyは「研究チームは、音楽が心の健康を20%以上高めるという結果を出しました。また、定期的にコンサートへ通っている人たちは、自尊心が25%高まり、他人との親近感が25%増し、気持ちの高まりが75%向上したという報告をしています」と語っている。
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2022年4月2日
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5:治療の一部に組み込むことができる
クリエイティブディレクターのPhilippa Neelsは、音楽療法には、音響心理や周囲の聴覚的環境を利用して参加者の意識に変化を与える「受動型」と、参加者にツールやスペース、権利を与え、自由に自己表現してもらう「参加型」の2種類が存在するとしている。
音楽は認識力と記憶力の向上に重要なツールだということが分かってきています
Turnerは、受動型音楽療法で見られる非常にエキサイティングな発見は音楽と記憶の関係性で、この関係性は認知症に悩む人たちにケアとサポートを提供できるとしている。彼女は次のように説明している。
「脳神経学の進歩と共に、音楽が記憶喪失の助けになることが明らかになってきています。記憶喪失は認知症の主な症状のひとつです」
「また、音楽は認識力と記憶力の向上に重要なツールだということも分かってきていますので、生まれついての解離行動など、深刻なメンタルヘルスの問題を抱えている人たちの治療に役立つツールとして利用できる可能性が出てきています」
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6:深層意識の変化が得られる
Neelsは、NYXのユニークな合唱自体にポジティブな効果があると考えている。
「ドローンとアンビエントに取り組んでいることで、時間と空間を操作して深いリラクゼーション効果を生み出すことができていますし、人々に深層意識の変化をもたらすことができています」
「私たちの音楽はとても人間的で、とても深いのです。私たちの音楽は呼吸のようなもので、自分たちのエナジーを吐き出すことができます。また、破れることのない、声で編んだネットのようなものでもあります」
「ドローンは同調の理論に基づいている音楽です。突き詰めて言えば、シンクロの音楽と言えます。私たち人間の肉体は、反復されているものを聴くと自然にその反復にシンクロしていきます」
「ドローンは持続的で陶酔的なミニマリズムです。意識的に聴くのではなく、無意識に近いディープリスニングを通じて、パフォーマーとオーディエンスが呼吸と心拍を共有できます。私たちの活動には非常に大きな治癒効果と人々を繋げる力が備わっていますが、誰にでもできる活動です」
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