Hiroto Arai warms up for a surf session at Miyazaki, Japan on August 31th 2012
© Yusuke Kashiwazaki/Red Bull Content Pool
サーフィン

サーフィンの準備:最適なウォームアップ&エクササイズ

サーフィン前の正しい準備について知りたい人のために、スポーツ心理学者が正しいアプローチと具体的なエクササイズを解説してくれた。
Written by Mimi LaMontagne
読み終わるまで:7分Published on
実績のあるスポーツ心理学者・スポーツ科学者グレン・フィリップスが執筆した今回の記事は、サーフィンに最適なウォームアップ方法ウォームアップの重要性がテーマだ。
結局のところ、フットサルにしろ草野球にしろ、我々は多くのスポーツでウォームアップをしている。サーフィンでもウォームアップは当然なのだ。
長年、サーフィンでは正しい準備が重視されていなかった。しかし、グレン・フィリップスはサーフィンはウォームアップが重視されるべきスポーツだと考えている。今回は優れたサーフ・ウォームアップに含まれるべきエクササイズを解説していく。

スポーツを問わずウォームアップの目的は次の2つ:

  • 怪我の予防
  • パフォーマンスをピークに持っていく(ピーキング)
グレンは次のように説明している。
「スポーツを問わず、ウォームアップは心拍数の上昇を促し、筋肉内の血流を循環させることを目的としています」
「固まっている部位をほぐし、各スポーツ特有のムーブに対応できるように筋肉をアクティベートしながら、メンタルも整えていきます」
では、サーフィンの前にはどんなウォームアップが良いのだろうか? 上の2項目別にグレンがアドバイスを送ってくれた。
ジュリアン・ウィルソン

ジュリアン・ウィルソン

© Jimmy Lees

《怪我の予防》

キーワード:

  • 目的に合わせたストレッチをする
  • "短い筋肉は伸ばす"
  • "長い筋肉は強化する"
  • ストレッチした筋肉をストレングスエクササイズでアクティベートする
  • 特定の部位を使い過ぎない
  • 心肺系エクササイズを取り入れる

目的に合わせたストレッチ

一般的なウィークエンドサーファーなら、サーフィンがさらに楽しめるようになればOKなので、ピークパフォーマンスを引き出すメンタルの調整はおそらく必要ないが、パドルアウトした時よりもフィジカルコンディションを崩して家に帰りたい人はいない。
"人間の肉体の入力と出力はイコールの関係" という事実を踏まえ、サーフィンで使う部位をストレッチしたり動かしたりすることを意識しよう。
ストレッチ方法やストレッチと各スポーツの関係については諸説あり、誤解されている部分も多いが、どのストレッチも自分の目的に合わせて行う必要がある。
ラジオ体操のような全身ストレッチは退屈で、それゆえに数多くの意見が出ているが、簡単にまとめると「短い筋肉は伸ばし、長い筋肉は強化する」ことが重要だ。筋肉の縮小・収縮が原因で特定の関節の可動性が悪くなっているなら、その筋肉をほぐすストレッチをしていくのだ。
たとえば、広背筋が固まっていることが原因で肩甲骨を狭めるのが難しく、両腕を上に挙げると背中が極度に引っ張られてしまう(背中が反りすぎてしまう)なら、広背筋をほぐしていく。ここの柔軟性が高まれば、パドリング中の背中肩の痛みが軽減される。
ビーチにはストレッチスペースが沢山ある

ビーチにはストレッチスペースが沢山ある

© Romina Amato/Red Bull Content Pool

筋肉のアクティベート

ストレッチを終えたら、次は筋肉をアクティベート(別名マッスル・アクティベーション:筋肉の起動・活性化)していく。アクティベートする筋肉は以下の2つに分かれる。
  • ストレッチした筋肉と対をなしている筋肉
  • これから刺激が加えられる筋肉
ストレッチで獲得した新たな可動域を無駄にしないために、対をなしている筋肉(例:上腕二頭筋と上腕三頭筋)をアクティベートして、その可動域の限界まで動けるようにする。
たとえば、ハムストリングスをストレッチしたなら、ハムストリングスと裏表の関係にある大腿四頭筋を同時に動かすエクササイズをしなければ、ストレッチで獲得したハムストリングスの可動域をフル活用することはできない。
次に、《これから刺激が加えられる筋肉》のアクティベートを説明しよう。
これは、これから使う筋肉がある程度の負荷に耐えられるように調整しておくことを意味する。たとえば、ロングパドルをする予定なら、上半身を調整しておきたい。また、膝に問題があるなら、臀筋大腿四頭筋を中心としたエクササイズを行っておきたい。
尚、マッスル・アクティベーションは、筋肉を最適なムーブパターンへ導いていくので、トップパフォーマンスに繋がる。サーフィンなら、臀筋をアクティベートしておけば、ビッグムーブのメイク時に発生する衝撃を吸収する助けになる。

心肺系エクササイズで全身を温める

さて、フルパワーを出せる状態まで全身の筋肉を温めていなければ、他の部分の筋肉を使い過ぎてしまう。たとえば、膝に余計な負荷がかかるようになる。
ここで重要になるのが心肺系エクササイズだ。普通のサーファーなら、ビーチまでの徒歩やジョギング、パドルアウトでこのエクササイズは十分カバーできる。しかし、いきなりではなく、ゆっくりと負荷を大きくしていくことが肝要だ。
大会であっと言わせたいと思っていても、正しい準備をしていなければそれは不可能だ。心肺系エクササイズで全身を十分に温めておくことが無駄な疲労を防ぎつつ、筋肉の正しい調整に繋がる。
基礎心肺能力が落ちているサーファーや、怪我からの復帰を目指しているサーファーにとって、これは特に重要なウォームアップと言えるだろう。
ビーチでトレーニングするミック・ファニング

ビーチでトレーニングするミック・ファニング

© Mark Watson/Red Bull Content Pool

《パフォーマンスのピーキング》

キーワード

  • スポーツ特有のムーブをウォームアップに取り入れる
  • 水陸で行う
  • ストレッチの直後にエクササイズをする
  • サーフィンのムーブをなぞるエクササイズをする
  • メンタルを整える
  • ヴィジュアライゼーション(視覚化)で波をキャッチした瞬間をイメージする

スポーツ特有のムーブを取り入れたエクササイズ

自分が取り組んでいるスポーツ特有のムーブをウォームアップのエクササイズに取り入れれば、ストレッチとマッスル・アクティベーションを終えた身体をフル活用してピークパフォーマンスを導き出すことができる。サーフィンでは、ビーチからこのようなウォームアップを行うことを強く意識したい。
ストレッチ、マッサージ、その他の筋膜リリース系エクササイズは筋肉の可動範囲を広げる。直後にエクササイズをすれば、脳が「今日はいつもより可動範囲が広い」という情報を処理できている状態で身体を動かすことになるので、ストレッチで新たに獲得した可動範囲の限界まで動かせるようになる。
一般的なウィークエンドサーファーならストレッチのあとにこのようなエクササイズを熱心に行う必要はないかもしれない。しかし、大会に出場しているなら、このようなエクササイズを取り入れよう。
最適化されたムーブができるようになり、さらには海に入ったあともムーブを簡単に再現できるようになる。
このようなエクササイズは、クレバー&クリエイティブなアプローチで正しく行う必要がある。
Jordy Smith performs and aerial while surfing at Duranbah Beach on the Gold Coast of Australia.

2019年にオーストラリアでサーフィンを楽しむジョーディ・スミス

© Trevor Moran

メンタルの調整

メンタルの準備は、自信の増幅怪我からの復帰ゲームプランの維持など目的によって変わってくるが、共通で重要になるのがイメージとヴィジュアライゼーション(視覚化)だ。
サーフィンなら、特定のムーブや波をキャッチした瞬間を頭でイメージしてみよう。イメージとヴィジュアライゼーションは自分がそれまで取り組んできたすべてをサーフィンに応用するカギになる。メンタルの力をフル活用したいなら、専門家の助けを借りるのがベストだ。

まとめ

ベストウォームアップとは “自分に合ったもの” だ。今回紹介した項目を意識しながらひとりで行っても良いし、サーフィンやエクササイズに詳しい誰かの力を借りても良い。いずれにせよ、自分に合っていれば、怪我が予防できる上にパフォーマンスを高めることができる
スナッパーロックスの五十嵐カノア

スナッパーロックスの五十嵐カノア

© Trevor Moran

(了)
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