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『Halo』シリーズの人気マシニマ『Red vs Blue』の制作者に話を聞いた。
これまでに12シーズンと5つのミニシリーズが展開されている『Halo』シリーズの人気コメディマシニマ『Red vs Blue』(以下RvB)はウェブシリーズとしては最長であり、最高に笑えるマシニマのひとつとして知られている。
しかし、2003年4月に『RvB』が初めて発表された時は、ここまでの成功は保証されていなかった。発表当時はYouTube登場の2年半も前で、視聴者はRooster TeethのサイトからQuickTimeかWindows Media Videoのファイルを直接ダウンロードしなければ映像を楽しむことができなかった。しかし、視聴者はやがて数千となり、すぐに数百万となった。
現在の『RvB』の脚本と監督を務めるMiles Lunaは、「『RvB』の生みの親であるMatt(Hullum)とBurnie(Michael Burns)はここまで人気が出るとは思っていなかった。6エピソード程度で終わりだと予想していたんだよね。僕たちはインターネットジョークとして生き残ったんだ」と説明する。
しかし、『RvB』はただ生き残ってきた訳ではない。彼らはバイラルビデオがまだ存在しない世界で生き残ってきたのだ。『RvB』は発表から1年以内に数十万人のフォロワーを抱えるようになり、親会社であるRooster Teethは同時に5つの作品制作を進行させるアニメーション制作会社にまで成長した(ネットサーフィン中にAchievement Hunterのふざけた映像に出会ったことがあるかも知れないが、それがそうだ)。
「シーズン1からの成長ぶりを振り返ると凄いなと思う。『The Blood Gulch Chronicles』(シーズン5及びミニシリーズ第1弾まで)は7人の仲間がベッドルームで生み出したものなのに、現在は数多くのアニメーター、エディター、ライトアーティスト、サウンドアーティストが各エピソードの制作に携わっているからね」
では、いかにして『RvB』はその規模まで成長したのだろうか? そして彼らはいかにしてマシニマの限界を押し広げ続けているのだろうか? 今回はMiles Lunaとアニメーション部門のリーダー、Gray Haddockに話を聞いた。
現在制作している映像における一番大きな変更は何でしょうか?
Luna:今は戦闘シーンの動きなどを取り入れているんだ。徐々に進化しているよ。シーズン5までは大量のXboxを使用して『Halo』と『Halo 2』だけで制作していたけれど、シーズン6から8まではストーリーが進化して、新キャラクターや敵キャラクター、多少のドラマが盛り込まれた。シーズン8からはMonty Oumと組んで、戦闘シーンのアニメーションや、Xboxのコントローラーだけでは生み出せなかった動きを使った笑いを取り入れた。そしてシーズン9と10では更に進化して、スケールの大きな宇宙戦や、スーパーソルジャー同士の戦闘などの派手な動きを実現した。アニメーターの数は非常に多いし、シーズンの半分はアニメーションで制作しているんだ。アニメーションがクレイジーにカスタマイズされたセットやシーンを可能にしてくれているよ。
台本の読み合わせや専属の脚本家を使った、TV番組的な正統派のアプローチに近づいていますよね。
Luna:アニメーションを使用したパートではそうだね。制作に時間がかかるから。例えばシーズン13の第1話は制作に何ヶ月もかかった。巨大な宇宙刑務所を強襲するストーリーだから当然だよね。だから、かなり前から計画を立てる必要がある。まずはオーディオから始め、絵コンテを描き、絵コンテをエディットしてアニマティックに変えて、すべてのシーンをフレームに落とし込む訳だけれど、残り半分の作業はマシニマで制作するんだ。マシニマではXboxを8台繋げて、大量のコントローラーとバッテリーを用意する。マシニマ部門のリーダー、Josh OrnelasとKyle Taylor、この2人はエピソードの残り半分を制作するのに不可欠な存在なんだけど、彼らがマルチプレイヤーマップをエディットしたり、アーマーやカラーリング、ウェポンを調整したりする。マシニマの良さは、すべてをマシニマで制作すれば、1エピソードを1週間で仕上げられるという点だね。アドリブをしたり、最後にアイディアを思いついたりしても、『Halo 4』のシアターモードなら非常に簡単に制作が行えるから、そういう変更をすぐに取り込める。つまり、僕たちの制作は2つに分けられていると言えるね。正統派な制作を行えるアニメーション、そしてほぼ無限と言える自由度があって、その場で変更が行えるマシニマ。マシニマは素晴らしいね。リフレッシュできるんだ。「ここにミスがあるぞ、すぐに直そう」と思った時も便利だしね。
Haddock:制作方法が進化していくのはクールだよね。でも、僕たちはエピソードのディテールを向上させるために正統派の制作方法をきちんと学ばなければならなかった。現在はアニメーションのパイプラインを管理するテクニカルディレクターから、アニメーター、ライトアーティスト、ヴィジュアルエフェクトチーム、エディターなどで構成される25名以上の素晴らしいチームがいる。本格的なアニメーション制作チームになっているんだ。
特定のシーンの撮影するために使用するテクニックは? 撮影を簡単にしてくれるバグのようなものは存在するのでしょうか?
Luna:ああ。色々なテクニックがあるよ。『Halo』は新作ごとに新しい可能性を提供してくれると同時に、学んで試さなければならない難しい技術も提供してくれているからね。
Haddock:Microsoftと343 IndustriesはRooster Teethのマシニマのニーズに応えようと骨を折ってくれている。彼らはタイトルごとにMiles Lunaをはじめとするチームに連絡をくれて、最新バージョンがどうだったか、そして向上させるためにできることはないかをチェックしてくれるんだ。
Luna:『Halo 4』ではクロマキーが可能になったしね。まさに天の賜物さ。とにかく僕たちは長年をかけて大量のテクニックを学んできたし、くだらないものも沢山学んできた。例えば、『Halo 3』のCarolineのローグヘルメットは、マシニマ向きのヘルメットだから気に入っているんだ。このヘルメットは感情を上手く引き出せるからね。バイザーを装着したヘルメットだと感情を描くのが非常に難しいけれど、アニメ版バットマンの目や、ミュータント・タートルズの三角目のキャラクターのようなバイザーデザインだから、頭を下げた彼女を見下ろすようなアングルで撮影すれば、本当に怒っているように見えるし、逆に頭を上げた彼女を下のアングルから撮影すれば、悲しそうな表情に見える。
マシニマやアニメーションでは解決できないような問題に直面したことはありますか?
Haddock:何かマズい状況になった時は、オフィスのどこかで叫び声が聞こえるんだ。最近はワイルドで複雑な撮影や、キャラクターやアイテムを使った撮影をしているからね。例えばグレネードが間違ったタイミングで爆発したり、誰かが崖から間違って落ちてしまったりすれば、シーン全体をリセットしなければならない。これはいつも楽しいけどね。
マシニマで解決不可能な一番厄介な問題は、『Halo 4』のキャラクターが動かすたびに奇妙な動きをしてしまう点だね。銃を下げていても、動かすと必ず銃を上げてしまう。だからゆっくり歩くようなシーンが入れられないんだ。何故なら突然誰かを撃つようなポーズを取ってしまうからね。だから、例えば湖畔で誰かに向かってゆっくりと歩いていくような感動的なシーンも、その誰かの後頭部を撃とうとして忍び寄るように見えてしまうんだ。マシニマではこの手のシーンは実現不可能だね。
オーディオのレコーディングと撮影のどちらを先に行いますか?
Haddock:まずMiles Lunaが脚本を書いて、そのあとで可能な場合は読み合わせをするんだけど、10年以上に渡ってRooster Teethに関わってきた俳優の数はすごく多くて、しかも世界各地とは言わずとも、全米に散らばっているから、全員を集めるのが難しいんだ。できて1年に1回だね。だけど、彼らは自分たちのパートを理解しているから、Milesの指示があれば、すぐにブースに入って演技をしてくれるんだ。
そのあとで、Milesが撮影シーンのリストと絵コンテを担当するカメラ・レイアウト部門と密接に作業を進めていく。そしてエディット部門が絵コンテとオーディオを使って、僕たちがアニマティックと呼んでいるエピソードの暫定版を制作するんだ。それを今度はアニメーションチームとマシニマチームが絵コンテに沿って実際に形にして、それをレンダリングしたら、ポストプロダクションチームがサウンドエフェクトやヴィジュアルエフェクトを加える。これでエピソードが完成する。
Luna:オーディオがエピソードの時間軸をコントロールしているんだ。『RvB』はラジオ番組のような形で制作しているんだよ。だから、まずオーディオをレコーディングする。そしてそのオーディオのタイミングで、マシニマのキャラクターが頷いたり、動き回ったりする。当然、アニメーションもオーディオのタイミングで制作されるよ。特定のタイミングで、アニメーターから「この動きを取り入れるには、あと10フレーム必要だ」と言われる時がある。そういう場合はエディットチームを含めて話し合ったあとに、「よし、10フレーム加えてくれ」と指示を出すんだ。マシニマの場合も同じだね。
マシニマの撮影にはどのようなセットアップを使用していますか? 大量のXboxを繋げていたと言いましたが、今も同じですか?
Luna:マシニマのセットアップはほとんど変わってないね。だけど、シーズン11からコントローラーホルダーを導入した。これは大きかったよ。以前はテーブルの上に約20台のコントローラーをごちゃっと置いていたのに、今はテーブルの下に置けるからね。
セットアップにはキャプチャーとコンピューターに接続した監督用Xboxが1台ある。これはRedチーム用XboxとBlueチーム用Xbox、あとはエキストラ用Xboxとリンクしている。各Xboxには専用モニターが用意されているよ。シーズン11ではマシニマの同じセットアップを追加して2つにしたから、すべてのXboxを占領することなく、同時にまったく別のエピソードに取りかかれるようになった。だけど、シーズン13は植民地側と反乱軍の大規模な戦争を描いたストーリーのフィナーレになるから、大量のコントローラーとキャラクター、そしてエキストラが必要になる。
今の『RvB』のメインキャラクターの数は、『Halo 4』の画面に登場可能な数よりも多いんだ。『Halo 4』は最大16人が登場可能だけど、そのうちひとりはカメラマンになるから、実際は15人だ。でも、僕たちのメインキャラクターは悪役や大尉を含めて現在20人程度いる。全員が同時に画面に登場することはまずありないけどね。この作品の成長と共にキャラクターの数がどれだけ増えたかを考えるとクレイジーだよ。でも、マシニマは数人と大量のコントローラーだけで制作しているんだ。
制作スタジオの平均的な1日を教えてください。
Luna:今はピチピチのスーツを着てモーションキャプチャーをやっているよ。
Haddock:これが僕たちの良いところなんだ。Rooster Teeth、というか『RvB』はキャラクターの動作の表現にオフィスのメンバーを起用している。だから、Milesは基本的に脚本や監督が担当だけど、悪役のひとりも演じているんだよ。僕もアニメーション部門のリーダーとして働いていて、他の作品も数多く担当しているけれど、ここ3年は『RvB』のMilesのパートナー役も演じている。こういう作業はクリエイティブな意味でリフレッシュになるからいいね。アニメーション部門で様々な作品を進行させながら、その合間を縫ってブースに入り、1時間ほど別の誰かを演じるんだ。あとは、サウンドセクションの中にモーションキャプチャーセクションが出来たから、他のアニメーターがキャラクターの動きの参考に使えるように、ドットが沢山ついたスーツを着て、様々な動きをすることもできる。画面に登場するどのキャラクターの動きも、3人から6人程度が担当したものなんだ。画面に映っているものはすべてチームの努力の結晶だよ。
シーズン13も折り返しですが、後半で期待できる部分があれば教えてもらえますか?
Luna:シーズン13の前半でびっくりしたなら、後半に何が起きるかは予想できないだろうな。
Haddock:イウォークが登場するよ。
Luna:(笑)。イウォークは登場しないって。大規模な戦闘、クレイジーなアクション、馬鹿げたコメディは期待してOKだよ。これまで以上の内容を期待してもらって構わない。シーズンが終わるまでに多くの人たちに「これは面白い」と思ってもらえれば、自分たちの役目は果たしたということになるね。
『Halo 5』がシリーズに与える影響は?
Luna:実は数週間前にじっくりひとりで体験する機会があったんだけど、『Halo 5』はマシニマできる部分が多いからすごく楽しみだ。マシニマチームをハッピーにしてくれるものが大量に盛り込まれているよ。