大胆不敵なチャレンジャー、ヤーン・ルースがこれまで誰も成し遂げていなかったことに挑んだ。シチリア島とイタリア本土の間に横たわるメッシーナ海峡をわずか1.9cmの細いスラックラインで横断しようというのだ。
この偉業達成のために、32歳のルースは3.6km以上の距離をカバーしなければならなかった。このチャレンジの過程で、彼はそれまでのスラックライン最長距離(2,710m)を更新したが、フィニッシュラインまでたった数メートルで滑落したため、世界新記録達成にはわずかに及ばなかった。
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ヤーン・ルース:スラックラインでメッシーナ海峡を横断!
エストニア人スラックライナーのヤーン・ルースはメッシーナ海峡をスラックラインで横断した世界初の人物となった。
ルースはスキル、集中力とバランスを3時間に渡って圧倒的なレベルで維持し続けて前人未到の偉業をやってのけた。カラブリア州サン・トラダからスタートしてシチリア島トッレ・ファロを目指すこの横断は壮大なアドベンチャーとなった。
長大な距離、トリッキーな天候、そして環境的なハードルもこのチャレンジに追加された。スラックラインは高さが異なる古い送電塔の間に張られ、寸分の狂いもない正確性が要求された。
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メッシーナ海峡とは
メッシーナ海峡は、イタリア本土のカラブリア州とシシリー島の間に位置する細い海峡だ。
何世紀にも渡り、この海峡を横断するというアイディアは、ホメロスの『オデュッセイア』に登場する “海の怪物によって作り出された危険な渦” というこの海峡にまつわる伝説と同じように非現実的なものとして扱われていた。
しかし、ルースはメッシーナの送電塔の間にスラックラインを張り、その上を通過することでこの神話に近い夢を現実に変えようとした。
本人は「この海峡には歴史的・文化的に重要な意味があり、何千年も遡ることができます。多様な天候コンディションと速い潮流が、スラックラインの限界をプッシュできるユニークでやり甲斐のあるチャンスを提供してくれました」と振り返っている。
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スラックラインの設営
スラックラインは高さが異なる古い送電塔の間に張られ、寸分の狂いもない正確性が要求された。ヤーンを含む8人で構成されるチームが細部までチェックしながらスラックラインを設営した。
その設営には、ヘリコプターによるスラックラインの設置位置を示すためのガイドロープの輸送も含まれており、このスラックラインの長さは世界最長記録を更新することになった。
その後、スラックラインはカスタムメイドのウィンチシステムで張られた。
本番当日、ルースはイタリア本土側の全高265mの送電塔を登り、そこから水面からわずか100mの最低地点に到達するまでスラックラインを下っていった。そこからルースはスラックラインで標高差130mを上り、ゴールに設定されていたシシリー島側のトッレ・ファロを目指した。
世界記録更新にならなかった理由
ゴールからわずか80m手前でヤーンはスラックラインから落下してしまった。その地点までの移動距離はそれまでの世界記録2,710mを越えていたが、世界記録に認められるためには「一度も落下することなく横断を成功させること」が条件に含まれていた。そのため、最終盤で落下した今回は公式世界記録にはならなかった。
03
真のスラックラインレジェンド
ルースの功績は、スポーツ上のマイルストーンだけに留まらない。粘り強さと決意の象徴でもある。
ルースは約3時間歩き続けたあと世界記録更新寸前でスラックラインから滑落したが、彼はその後も歩き続ける強靭なメンタルを持ち合わせていた。スラックライン上で小休止したあと、彼はバックパックを背負って再び立ち上がると送電塔まで歩き続け、メッシーナ海峡をスラックラインで横断した世界初の人物となった。
「“ヤーンタスティック” な気分です! 非常に嬉しいですが、少し疲れましたね」とルースはフィニッシュで語り、さらに続ける。
「歴史を作りました。メッシーナ海峡を3.6kmに渡って横断したんです! スタートからフィニッシュまで驚きに満ちていた長い道のりでした。いくつか困難にも遭遇しましたが、天候は良好でしたね。もっと風が強くなると予測していました」
スタートからフィニッシュまで驚きに満ちていた長い道のりでした
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ヤーン・ルースとは?
エストニア出身のヤーン・ルースは、スラックラインのワールドチャンピオンに3度輝いており、スラックラインでダブルバックフリップをメイクした世界初・唯一のアスリートとして知られている。また、彼はスラックラインにおける多数の世界記録と世界初を保持している。
彼の才能は『アサシン クリード』をはじめとするハリウッド映画でのスタント出演へ繋がっており、Madonnaの『MDNA World Tour』にも出演した。
コンペ出場と並行して、ルースは世界中を旅してその驚異的なタレントを披露することを愛している。
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極限の集中力
ルースはハイパーフォーカスを活かしてスラックラインで集中を維持している。ライン上の彼は完全に没入しているため、自動車や工場、風などの周囲の雑音をシャットアウトして、バランスと集中を維持できている。
しかし、この張り詰めた集中状態は、周辺環境を常に認識しておくことが欠かせないハイライニング(高所でのスラックライニング)では不利になることを彼は認識している。
ルースは、ラインに対して完全に集中してしまうのは危険だと説明する。なぜなら、近くのドローンや鳥などの重要な手がかりを逃してしまうおそれがあるからだ。
これに対処するために、彼は注意の対象を移行させながらラインと周辺環境の両方に集中している。チャレンジングな状況では、彼は自分自身を落ち着かせて集中力を高めるために呼吸法を活用している。
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