ラグビーはスキルとスピードのスポーツで、走力、思考力、冷静さ、戦術眼が必要になる。
そして、このスポーツを一瞬でも見れば分かるはずだが、筋力の戦いでもある。必ずしも巨体でなくてもよいが、筋力がなければ試合中の自分を支えられなくなってしまう。
強靭な筋力を自分のアドバンテージにしているラグビー選手のひとりがジャック・ノーウェルだ。
エクセター・チーフスに所属するこのイングランド代表ウイングは、屈強な肉体と猛烈なスピードを両立させている新世代ウイングのひとりだ。走力が問われるポジションのウイングを務めるノーウェルにとって最も重要なのは脚の筋力だが、彼は上半身を鍛えることも忘れていない。
今回はノーウェルに本人が取り組んでいる上半身ストレングストレーニングを教えてもらった。
ノーウェルは次のように話を始める。
「ラグビー選手にとって一番重要なトレーニング部位は脚だと思う。でも、僅差の2位が上半身なんだ」
「なぜなら、ボールをパワフルに持っていなければならないからさ。相手に簡単にボールを奪われるのはNGだ。また、逆に相手からボールを奪う時にも上半身のパワーが役に立つ」
ラグビーの試合中に上半身の筋力が必要になる局面は他にもある。ノーウェルが続ける。
「タックルを決めるためには強靭な肩と腕が必要になる。ウイングは胸と腕が特に重要だ。ハンドオフをして、相手にタックルされないようにするためにね」
簡単にまとめれば、ラグビー選手にはある程度のフィジカルが重要だということになる。しかし、彼らが取り組んでいる上半身のトレーニングは相手に負けないためのものであると同時に、自分を守るためのものでもある。ノーウェルが続ける。
「僕たちが長時間をジムワークに割いている理由のひとつは、怪我の予防なんだ。たとえば、肩が弱ければ、相手にぶつかったり、ハンドオフをしたりする時に怪我をする確率が高くなってしまう」
「ラグビーでは全身の筋力が重要になる。筋肉の鎧をまとって関節を守るんだよ」
プロのトレーニング
「エクセター・チーフスはウエイトトレーニングが多いことで知られているんだ」
「だから、チームメイトは巨体が多いし、ウエイトトレーニングを好んでいる選手が多い。気分爽快になれるし、試合に向けた身体作りもできるからね。でも、他のクラブは僕たちほどウエイトをやっていないと思うよ」
ここでノーウェルが言っている “僕たちほど” というのは相当な量だ。
「週3~4回の上半身ウエイトトレーニングと、2~3回の脚系ウエイトトレーニングに取り組んでいるよ」と続けるノーウェルの1週間のトレーニングスケジュールは以下のようになる:
- 月:脚・上半身
- 火:上半身
- 水:脚・上半身
- 木:上半身(月~水までのトレーニングの強度と走行距離によって内容が変わってくる。強度はそこまで重視されていない。追加セッション的扱い)
- 金:ウエイトトレーニングなし
- 土:試合
- 日:オフ
「シーズンを通じて複数のトレーニングブロックをこなしていくんだ。プレシーズンではハイパートロフィー(筋肥大)を目標に据えたトレーニングを大量にこなす。“最大重量・8~12レップ” を繰り返してシーズンに向けて筋肉を大きく育てていく」
「そのあとはパワーワーク系に取り組んでいく。重量を少し落として、レップも4~5まで落とすけれど、スピードは最高速を目指す。シーズンが進んでいくと、ストレングス系へ移行する。最大重量・最多3レップのウエイトトレーニングだ」
しかし、このようなジムセッション全体の第一目標は筋肉の育成ではなく、ピッチ上で必要になる筋肉の機能性を高めることにある。ノーウェルが説明する。
「結論から言えば、僕たちはボディビルダーではないってことさ。あくまでラグビーのためのトレーニングだから、伝統的なウエイトトレーニングはそこまで重視していない。ラグビーに役立つウエイトトレーニングに取り組んでいるんだ」
よって、上半身ストレングストレーニングは一般的なメニューよりも専門的なメニューが組まれている。ノーウェルが続ける。
「ベンチプレスもたまにやるけれど(ちなみにノーウェルの1レップ最大重量は155kg)、基本的にはフットボールバー(スイスバー)ベンチプレスだね。両手を縦にすることで、ハンドオフをする時の腕と胸の動きをシミュレートする」
また、プル系エクササイズは瞬発力を重視したメニューが組まれている。
「ラックでボールをもぎる時の動きをシミュレートしようとしているんだ」
通常のストレングストレーニングセッションには以下が含まれている。
「プレス系とバック系、あとは肩と可動性を鍛えるメニューだね」
ここまで読むと、トップレベルのラグビー選手はかなりのトレーニング(他にもピッチ上でのスキルや戦術確認、心肺系フィットネストレーニングもある)をこなしていると思うはずだが、実際、彼らは相当量のトレーニングを積んでいる。しかし、ノーウェルは面倒ではないと強調する。
「上半身ストレングストレーニングはプロラグビー選手という僕の仕事の助けになるし、今の僕は毎日好きなだけジムに通える立場にあるからね」
「結論を言えば、好きなことをやっている限り、それが何であれハードワークには感じないってことだよ」