モトクロス

モトクロスの歴史を彩った7人のレジェンドライダー

モトクロスレーシングで幾多の功績と多大なインパクトを残す7人のレジェンドたちの足跡を振り返る。
Written by Lluís Llurba
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モトクロス界の歴史を塗り替え続けるアントニオ・カイローリ

モトクロス界の歴史を塗り替え続けるアントニオ・カイローリ

© Ray Archer/Red Bull Content Pool

ファンにはそれぞれお気に入りのライダーが存在するが、その根拠は数字に残った記録だけではない。今回のようなリストを作成する際の難しさはそこにある。我々はこのリスト作成にあたり、過去の世界選手権参戦ライダーすべての生涯成績を洗い出して研究を重ねた。ここに選んだ7人のライダーは、モトクロス世界選手権の歴史における真のレジェンドと言ってもいいだろう。
他のどのスポーツでもそうだが、モトクロスの過去の歴史にも当然ながら数多くの優れたライダーが存在してきた。しかし、その中でも特に偉大なライダーと呼ぶべき存在はごくひと握りだ。世界選手権64年の歴史を彩ってきた、モトクロスの真のキングたちを紹介しよう。
ジョエル・ロベール
ジョエル・ロベールは生涯通算勝利数に関して言えば、ステファン・エバーツやアントニオ・カイローリほどの数字は挙げていない。にもかかわらず、多くの人々がモトクロス史上において「ロベールこそが最も優れた才能を持つライダー」とこぞって賞賛するのは何故なのか。おそらくその理由は、群を抜いて特別なそのライディングスタイルにあるのだろう。常にコーナーのインサイドを果敢に攻め、どんなにマシンが滑ろうとも自在にコントロールしてしまう彼のライディングは、才能と技術の高次元での融合の産物に他ならない。
このベルギー出身のライダーは、そのキャリア全盛期においてはまさに敵無しの強さを誇った。また、レースの最中に突如マシンをグランドスタンド前に停め、スタンドにいる誰かに向かって投げキッスをするなど、思わず目を疑うような驚異的なパフォーマンスを何度もやってのけた。
モトクロス世界選手権 通算チャンピオン獲得数:6回
250cc(1964年/1968年/1969年 – CZ 1970年/1971年/1972年 – Suzuki)
ロジャー・デコスタ
ロジャー・デコスタが最も得意としていたのはもちろんモトクロスだったが、その他にもトライアルやエンデューロさえ難なくこなしてしまう万能型ライダーとしても知られていた。しかも、彼はISDE(International Six Days Enduro:6日間開催のエンデューロレース大会)において見事優勝し、ゴールドを獲得した経験もある。デコスタは流麗なライディングスタイルを誇り、その姿はマシンが生じるあらゆる挙動をすべてコントロール下に置いているかのようだった。おまけに、彼は驚異的なフィットネスの高さを持っていた。最終ラップまで速いペースを保ち、圧倒的なリードで優勝するというスタイルは彼だからこそ成せる業だったと言ってもいいだろう。モトクロス界で広く尊敬を集めるロジャーは「ザ・マン(男の中の男)」という単純明快なニックネームで親しまれている。
モトクロス世界選手権 通算チャンピオン獲得数:5回
500cc(1971年/1972年/1973年/1975年/1976年 – Suzuki)
エリック・ゲボス
実兄シルヴァン・ゲボスもモトクロス界で活躍するライダーだったため、1970年代に250ccクラスのトップライダーとして活躍した弟エリックは、デビュー当初は「ザ・キッド」というあだ名で親しまれていた。やがて成長したキッドは、史上初の世界選手権3クラス(125cc/250cc/500cc)全制覇という偉業を達成する。彼は自身が制覇した各クラスの排気量を合計して「ミスター875cc」という異名で呼ばれることとなった。
Suzukiでゲボスのチームメイトを務めていたジョルジュ・ジョベも、ゲボスの3クラス制覇という記録に果敢に挑んだが、結局彼は達成することができずにキャリアを終えた。ゲボスは華々しいモトクロス界でのキャリアを終えた後、4輪レースに転向。耐久レースなどに参戦した。
モトクロス世界選手権 通算チャンピオン獲得数:5回
125cc(1982年/1983年 – Suzuki)
250cc(1987年 – Honda)
500cc(1988 年/1990年 – Honda)
ジョルジュ・ジョベ
サッカー選手としての華々しい前途を嘱望されながら、ジョルジュ・ジョベは16歳でモトクロスの世界に身を投じた。モトクロス界で歴史を作り上げたこのベルギー人ライダーは5回のチャンピオン獲得を成し遂げたが、史上初めてダブルジャンプを成功させたライダーとしても知られている。それは1984年のイギリスGPでの出来事だった。ジョベは彼の最大のライバルのひとりだったアンドレ・マルエルベの頭上をジャンプして追い抜いていったのだ。この瞬間を捉えた写真家、ニック・ハスケルの写真はモトクロスを象徴する1枚として広く知られるようになった。
モトクロス世界選手権 通算チャンピオン獲得数:5回
250cc(1980年/1983年 – Suzuki)
500cc(1987年/1991年/1992年 – Honda)
ジョエル・スメッツ
かのジョエル・ロベールから「フレミッシュのライオン」(訳注:フレミッシュは「フランドル地方の方言または出身者」の総称)というニックネームを授かったジョエル・スメッツ。そもそも、ジョエルという名前自体もロベールの大ファンだったスメッツの両親が付けた名前だった。彼がモトクロスを始めたのは17歳とやや遅かったものの、すぐに頭角を現し、スターの誕生を印象づけた。
とはいえ、幸運の女神は決してスメッツに対して常に優しいわけではなかったようだ。スメッツは2005年にドイツで行われたゲイルドルフGPにおいて膝に重傷を追うと、引退に追い込まれた。しかし、キャリア通算57勝という記録はステファン・エバーツ(101勝)、アントニオ・カイローリ(75勝)に次ぐ歴代3位の記録として今もモトクロス史に燦然と輝いている。
モトクロス世界選手権 通算チャンピオン獲得数:5回
500cc(1995年/1997年/1998年 – Husaberg; 2000年 – KTM)
650cc(2003年 – KTM)
ステファン・エバーツ
4度の世界チャンピオンに輝いた経歴を持つハリー・エバーツを父に持つステファンは、常に完ぺきなスタイルを見せつけながらモトクロス史を鮮やかに塗り替えていった。バイク上での彼が見せる驚異的なテクニックには誰もが憧れを抱き、どのライバルよりも頻繁にスタンディングを多用するライディングスタイルは、日本のモトクロスファンの間でも「エバーツ乗り」と呼ばれて親しまれた。彼は誰も真似できないようなマシンコントロールを見せつけ、そのパフォーマンスレベルはキャリアを通して驚くべき一貫性を保ち続けた。そこには間違いなく彼の経験と才能が裏打ちされていたと言ってもいいだろう。2003年フランスで行われたエルネGPにおいて、ステファンは1日で3クラス制覇を達成(125cc、MXGPおよび650cc)するという前人未到の偉業を成し遂げた。彼は2006シーズンに全15戦中14勝するという圧勝ぶりを見せつけながら、鮮やかにそのキャリアに幕を引いた。
モトクロス世界選手権 通算チャンピオン獲得数:10回
125cc(1991年 – Suzuki RM 125)
250cc(1995年 – Kawasaki KX 250; 1996年/1997年 – Honda CR 250)
500cc(2001年/2002年 – Yamaha YZF 450)
MX1(2003年/2004年/2005年/2006年 – Yamaha YZF 450)
アントニオ・カイローリ
”トニー”・カイローリはわずか7歳でモトクロスを始め、以降一度も後ろを振り返ることなくチャンピオン街道をひた走っている。世界選手権トップクラスで彼ほど多くのタイトルを獲得しているライダーは他に存在しない。彼の成功を支える要素のひとつは、クラウディオ・デ・カルリが率いるRed Bull Factory Racing Teamであることに間違いはないだろう。優れたチームにカイローリのような傑出した才能を持つライダーを組み合わせれば、これほどまでの成功を収めることができるのだ。カイローリの意志の強さ、そしてこのスポーツに対する愛にかけては右に出るライダーはいないだろう。
このイタリア人ライダーは自身に寄せられるファンからの声援、レースの雰囲気、そこから生まれる感情など、モトクロスというスポーツにまつわるすべてのものを常に楽しんでいる。
モトクロス世界選手権 通算チャンピオン獲得数:8回
MX2(2005年/2007 – Yamaha YZ 250F)
MX1(2009年 – Yamaha YZ 450F; 2010年/2011年/2012年/2013年 – KTM SXF 350)
MXGP(2014年 – KTM SXF 350)