「ラウドロック」と聞くと、皆さんどんな音楽を思い浮かべるだろうか。
Wikipediaによると、ラウドロックとは「ヘヴィメタルやハードコアなどから派生したロックのジャンルの一種。類似するジャンルのミクスチャー・ロックやモダン・ヘヴィネスなどと同様に和製英語」とのこと。つまり、海外では通用しないジャンル分けということになる。それ以前はヘヴィロックやメタルコア、ニューメタルなんて呼称もあったが、これらもすべてラウドロックに括られるのかもしれない。そう、正直なところラウドロックにはパンクロックやヘヴィメタルほど、明確に区別できるほどのカラーが思い浮かばないのだ。
しかし、これでは当コラムはここで終了してしまう。では、どうしてパンクロックやヘヴィメタルとはどこが違うのか、ここから紐解いてみようと思う。
まず、パンクロックもヘヴィメタルも(特にオールドスクールなものほど)見た目で区別しやすい。パンクロックの場合、特に1970年代後半のロンドンパンクのイメージが強く、敗れたシャツやジーンズ、チェーンや安全ピン、缶バッジなどといったアクセサリー、ショートカットでツンツン立てた髪、もしくはモヒカンなど……きっと誰もが思い浮かべる、パンクファッションのステレオタイプかもしれない。方やヘヴィメタルはというと、長髪にデニム&レザー、スタッドやガンベルト、革のブーツ……このあたりだろうか。
ではラウドロックの場合はというと……ないのだ。むしろパンク、メタルの両方をうまく取り入れたバンドもいれば、普段着に近いファッションのバンドもいる。つまりルックスやファッションでカテゴライズするのは困難と言えるだろう。
次に精神性。1980年代半ばあたりまではパンクやメタルは敵対関係にあった。それはサウンド的にはもちろんのこと、音楽をする上での精神性が大きくことなるところにある。クラシックやブルースロックをルーツに持つヘヴィメタルは唯一無二の世界観を持ち、それらを指して「様式美」と呼ぶことが多い。しかし、こういった従来のロックのスタイルを嫌い、反体制精神であったり「DIY(=Do It Yourself:自分たちでやる)」精神であったり、持てはやされたのがパンクの世界。ここからアンダーグラウンドの世界ではハードコアなどへと派生していく。つまり、メタルよりもパンクのほうがよりストリート寄りと言えるかもしれない。
ところが、80年代後半を境にパンクとメタルはその距離を狭めていくことになる。ひとつはイギリスでのニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタル(NWOBHM)の誕生。1980年前後にイギリスで勃発したこのムーブメントは、「パンク通過後のヘヴィメタル」という点において非常に大きな役割を果たした。今でこそ王道ヘヴィメタルバンドとなったIRON MAIDENも、デビュー当時はパンク的なヤケクソ感とプログレにも通ずる複雑な曲展開、そしてよりストリートに根ざした活動というパンクとメタルのハイブリッド感が見受けられた。さらにアメリカではMETALLICAやSLAYER、ANTHRAXといったスラッシュメタルバンドが台頭し始める。イギリスでのNWOBHMブームが海を越えてアメリカに伝わり、よりパンク/ハードコア色を強めたのがスラッシュメタルだった。のちにMETALLICAやSLAYERは自身が影響を受けたパンクバンドのカバー作品を発表しているが、このあたりも1970年代までのメタルバンドとの大きな違いだろう。
そしてスラッシュメタルの中でもANTHRAXは特にストリートに根ざした音楽活動を展開。ファッション的にはNWOBHMの流れにあったMETALLICAやSLAYERとは異なり、スケーターのようなショートパンツ姿でステージに立った。さらに音楽的にもいち早くラップ/ヒップホップの要素を取り入れ、1987年にはラップナンバー「I'm The Man」を、1991年にはヒップホップグループPUBLIC ENEMYとのコラボナンバー「Bring The Noise」を発表している。
このような変遷を経て、海外では1990年代にはグランジ、ラップメタル、メロディックパンクなどが時代を彩る。その頃ここ日本ではHi-STANDARDの登場により、ロックシーンが大きな変化を遂げることになる。彼らが立ち上げたフェス「AIR JAM」はまさしく音楽とストリートカルチャーが強く結びついたもので、ここに出演したバンドの多くがのちにラウドロックと呼ばれるようになるジャンルの基盤を築き上げた。さらにデビュー当初はパンキッシュなサウンドだったTHE MAD CAPSULE MARKETSは、1990年代後半に進むにつれてそのサウンドを進化させ、現在のラウドロックのお手本と呼べる方向性を確立。実際、マッドは現在のCrossfaithやcoldrainが海外展開をする10数年前に、海外のヘヴィロック系フェス「Ozzfest」や「Download Festival」で日本代表として、その存在感を強くアピールしていたのだ。
もちろんこれ以外にも直接的/間接的に、ラウドロックに影響を与えたジャンル、バンドは存在する。最近ではEDMなどダンスミュージックの要素を積極的に導入するバンドも増えているし、今後もその振り幅はより大きくなっていくことだろう。我々の日常に根ざした活動を行いつつも、文字通り「ラウド」な「ロック」をカッコよく聴かせてくれる、それこそがラウドロックであり、グロウル(デスメタルによく見られるダミ声ボーカル)やブレイクダウン(曲中、急にテンポダウンし、ドラムのリズムに合わせて低音リフを弾くパート)といったお約束的要素がただ入っていればいいというわけではないのだ。
先に挙げたように、現在ではCrossfaithやcoldrainといったバンドたちが、国内のみならず海外でも大活躍している。もしかしたら和製英語だった「Loud Rock」という言葉が、彼らの大躍進を機に世界に浸透する日もそう遠くないのかもしれない。
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