© Nahoko Suzuki
フィックスギア
伝統を重んじつつ前衛的な物作りに挑む鶴岡レーシング|自転車パーツ連載Vol.6
第6回目には、BROTURES(ブローチャーズ)の代表、福井雄大氏が登場。 ようこそ、バイシクルシーンに精通する重要人物が、今も手放せない“とっておきの日本製プロダクト”の魅力を紐解く連載【Made In Japan】の世界へ!
※本稿は2018年5月にインタビュー&執筆されたものです
本連載ではバイシクルシーンに精通する重要人物の元を訪ね、彼らに今も手放せない“とっておきのMADE IN JAPAN”を紹介してもらい、そのストーリーとともにプロダクトの魅力を紐解く。
今回登場するのは、西海岸発のスタイリッシュなスポーツバイクとして世界各国で人気を博すリーダーバイクの日本正規取扱店でもある、自転車ブティック、BROTURES(ブローチャーズ)を経営する福井雄大氏だ。
現在29歳の福井氏は、大学在学中の20歳で同店を立ち上げ、今では原宿・大阪・横浜・吉祥寺、そしてアメリカのサンディエゴに実店舗を展開する若き実業家。
若き日にアメリカンカルチャーの魅力に魅せられ、日本でアメリカのストリートバイクの展開・普及に努めるそんな彼が、“日本が世界に誇るべきプロダクト”、“自身が最も愛したパーツ”として選んだのは、
鶴岡レーシング
が手がける
フレームブランド《BomberPro》のプロダクト
だった。
“選手兼ビルダー” 異色の経歴を持つ強者のブランド
鶴岡レーシングとは、1988年にビルダーの鶴岡篤人氏が“埼玉県ふじみの市”で始めたバイシクルショップ。1991年にNJS認定を取得し、そこから20年以上、トップクラスの競輪選手へ競技用自転車を提供してきた老舗なのだ。今回福井氏が提案したBomberProとは、そんな鶴岡レーシングが手がけるNJS認定のスチームフレームブランドだ。
ちなみにオフィシャルHPによれば、BomberProには“競輪界に新風を起こす起爆剤となる”といったコンセプトが込められているそう。
まずは、福井氏と同メーカーとの出会いから聞くと、
「ブローチャーズではリーダーバイクの販売だけでなく、国内外様々な自転車の販売やメンテナンスを行っています。元々、自転車好きが講じて始めたお店ですが、スタート当初はまだまだ分からないことが多く失敗の連続でした。そんなある時、とある縁で鶴岡レーシングと出会ったんです。それ以来、代表の鶴岡さん(鶴岡篤人氏)をはじめスタッフの皆さんには、技術やら製品についてなど、自転車に関わる様々なことのレクチャーを受けています」
今でも困ったことがあればすぐに連絡をする関係で、いわば、福井氏やブローチャーズにとっての頼れる兄貴分的な存在で良き理解者なのだとか。
ならば、そんな同メーカーの魅力はどこにあるのだろうか。尋ねてみると、
「いま現在、NJS認定のフレームを作る会社は、大手も含めれば約30社近くあるそうです。日本にはビルダーの道を極められている素晴らしい職人の方々が沢山いらっしゃるんですよね。そんな数多いる日本の職人さんの中でも、この鶴岡レーシングさんが他と違うのは、代表の鶴岡篤人さんが80年代に活躍した競輪選手だってことなんです。選手兼ビルダーといったキャリアを持つ人は、僕が知る限りですと鶴岡さんを入れてたった2人だけ」
それだからこそ、鶴岡レーシングのプロダクトには、プレイヤーならではの視点を熟知しているからこそ分かる“独自の職人芸”が宿っているのだと福井氏は語る。
さらに続けて、「先ず断っておきたいのが、どのビルダーさんも本当に素晴らしい手仕事をされている」と前置きしながら、
「特に鶴岡レーシングさんは、細部の処理がとにかく繊細で美しいところが凄みだと思います。よく本人が『トラックの中では70キロ以上のスピードが出ることもある。何よりも大切なことは絶対に事故にならないように配慮しなければいけない。フレーム作りに大切なことは、軽量化を意識することよりも強度を高めることなんです』と仰っています。細部にまで一切の妥協を許さないのは、そういった元プレイヤーとしての経験が色濃くあるからなんだと僕は思います」
そう話しながら見せてくれたのが、現在愛用するBomberProのNJSフレームだ。
そしてパーツの一部を指差しながら、こんな話を教えてくれた。
「分かりやすいところだと、パイプとパイプの接合部にラグ(継ぎ手)と呼ばれるパーツを使ってロウ付けする作業です。写真を見てもらえれば一目瞭然ですが、寸分の狂いがなく美しい。日本のロウ付け作業の美しさは“世界的に見ても随一”と言われているそうですが、その中でも特に素晴らしい完成度だと思います」
そしてもう一つ教えてくれたのは、自転車塗装への強いこだわりだった。
「手がけるなら独自性を追求できる究極の1台を、そんな思いで塗装工場を自社で構えたんです。だから設計から溶接だけでなく、塗装まで自社で完結させてしまうんですよ。そんな行動力と情熱には、自分もイチ経営者のひとりとして、刺激を受けるものがあります」
福井氏曰く、予約をすればどなたでも会社見学にいけるそう。とにかく一度、鶴岡レーシングの手仕事を見れば、狂おしいまでの情熱が伝わって、その熱さに圧巻されるのだとか。
鶴岡さんの面白い取り組みに吸引され 若い人材がどんどんと集まってくる
そんな鶴岡レーシングの魅力をさらによく理解できるプロダクトがBomberProの“emperor”というモデルだと福井氏は話す。
「これは、空気抵抗を最小限に抑えるエアロ形状のフレームです。日本の競輪業界では、古くからの伝統を重んじているので、丸パイプしか使えない決まりがあります。なのでこれはNJS認定のフレームではありません。ただ、海外のトラックレースなどでは、こういったエアロフレームが結構スタンダードだったりするんですよ」
そんな“emperor”の見所はというと、「80年代頃は、日本製の自転車に使われるパイプは国産でしたが、残念ながら、いまある自転車に使用されるパイプは、生産背景の理由から、一部メーカーのハイエンドモデルを除くとほとんどが台湾製。そんな中、どうせなら完全国産の究極の1台を作りたい、といった鶴岡さんの強い思いから、全国各地に残っているデットストックの日本製チューブをかき集めて構成されたフレームなんです。正直、自転車ショップを経営している身からすると、“何もそこまでこだわらなくても”って思ったりもします(笑)。ただ、その飽くなき探究心というか情熱に男心をくすぐられるというかグッとこみあげてくるものがあります」
さらにこのフレームのエアロ形状についてもこんな意見が、「これまでにアルミ製のエアロ形状はよく見るんですが、クロモリのエアロ形状はかなり稀。この他にもカーボンやチタンと、既存の価値観からすると“ちょっとありえない”って思うような様々な素材に挑戦してるんですよ。歴史ある老舗なんですが、伝統を継承するだけでなく、こういった面白い挑戦をし続けてるところが凄いですよね」
最後に福井氏はこう締めくくる、「これは決して自転車の世界に限った話ではないと思うんですが、日本には素晴らしい手仕事が山ほどある。なのに古くから受け継がれてきた“職人芸”を中々継承できていないことが現代の、そしてこれからの問題点だと思います。それを打破するきっかけは、“次の世代を惹きつけるような革新的なアイディア”なのではないでしょうか。鶴岡さんのように面白い取り組みにドンドンとチャレンジすることは、そんな後継者育成の大きな足がかりになると僕は考えています。
少しおこがましいですが、これからも僕たちブローチャーズは、“自転車界に新風を起こす起爆剤”となる鶴岡レーシング並びにBomberProを全力でバックアップしていきたいですね」
◆Information
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