Mohini Dey
© Mohini Dey
ミュージック

フィメールベーシスト界に天才が降臨!? 若くして圧倒的な演奏力を持つ“Mohini Dey”

近年女性(フィメール)ベーシストの台頭が目覚ましい。一昔前であればバンドの中の女性担当といえば鍵盤が定番であったのだが…。女性ならではのしなやかさと繊細さで超絶技巧を繰り出す、大注目の若手女性ベーシストを紹介したい。
Written by 藤川 経雄
読み終わるまで:5分Published on
またしても恒例のいきなり個人的な話で申し訳ないが、初めて筆者がバンドというものを経験したのは高校の軽音楽部であった。その時にベースを担当したのがたまたま同級の女の子であったのだが、その子はいわゆるイケてるグループの女の子で、かたや筆者はというと、まあモテたいからと軽音に入ったという絵に描いたようなイケてないヤツであった。
ご想像の通り、色恋に発展する こともなく学校生活は灰色のままだったわけだが、そんな経験があったからなのかどうかはともかく、その頃からなぜか女性=フィメールベーシストが好きなのである。
古くはスージークアトロ、スマパンのダーシーあたりが思い浮かぶが、特にここ10年で才能あふれるフィメールベーシストがグッと増えた気がするのは気のせいか。
軽く挙げてみるだけでも、ジェフベックなど大物のお気に入り、タル・ウェルケンフィルド(通称タルちゃん)や、ビヨンセのライブで音楽監督も務めたデヴィニティー・ロックス。ファンクの王様ブーツィーお墨付きのファンクスタイルでボーカルも一級品のニック・ウエスト等など。
更に我が国内でもガールズバンドはもちろん、男女混合でもベースボールベア ーの関根嬢など、きりがないほど注目株が粒ぞろい。まさにフィメールベーシスト好きにはイイ時代になったものである。

フィメールベーシストに惹かれる理由とは

もちろん勘違いしてもらいたくないが、ただ単にセクシャルな面で好き、というわけではもちろんない(そういう側面があるのも若干否めないが…)。筆者が思うに、女性の持つしなやかな感覚や特有の繊細で柔らかいタッチは、ベースという楽器にマッチしていると思うのだ。
リズムというのは音符が独立しているように見えて、次の音符に必ず繋がっていくものなので、例えば男性であれば力技に頼り過ぎてブツ切りになってしまうような場面でも、しなやかさでリズムを繋いでいけるあの感覚は女性ならでは。実際、先に挙げたフィメールベーシストはもちろん、ファンクやジャズ系のプレイヤーが多いのも頷ける。
そんな中でもここ1〜2年で筆者が注目していたフィメールベースプレイヤーがいる。それが今回紹介したい“モヒーニ・デイ(Mohini Dey)”。まずは彼女がワールドワイドに知られる存在となったきっかけの(筆者の知る限り)動画をご覧頂きたい。

男女の垣根なぞどこ吹く風。モヒーニ・デイの驚愕の演奏力

一聴して分かるのがその圧倒的な演奏力。およそ2年前に公開されたもので、彼女が20歳前後の頃の動画なのだが、もうこの頃からその凄まじい指さばきは世界でもトップレベルだったといっても過言ではない。実際筆者も初めてこれを見た時は衝撃で開いた口が塞がらなかった。
すぐに彼女のことを調べ始めてみると、出身はインドで、現在もムンバイ在住。3歳の頃にベーシストだった父親からギターの手ほどきを受け、すぐにその才能を発揮したとのこと。11歳の頃には父親とともにステージに上がって演奏している動画も残っているのだが、その頃からすでにその天才ぶりを発揮している。
さて、次にチェックしていただきたいのが、彼女のYouTubeアカウントにアップロードされている動画。4年前のものだが、なんとあのジャコ・パストリアスの「ティーンタウン」をハイティーンにしてものの見事にカバーしている。

天才・ジャコの影響を覗かせるプレイスタイル

ちなみに同時期にあの名曲、ザ・チキンをカバーしていたりもするので、ジャコから相当影響を受けているであろうことはそのプレイスタイルを見ても理解できる。とはいえ10代でジャコの代表曲をほぼ完璧に弾きこなすとは…。
特に素晴らしいのはジャコの演奏をトレースするだけではく、自らのアレンジも加えている点。オリジナリティという意味でももうこの頃から完成されていたといっても過言ではない。筆者がハイティーンの頃などは、たった5音で構成されるペンタトニックスケールですらまだ危うかったというのに…。
そして現在、彼女の存在は世界中のトップミュージシャンが注目しているようで、そりゃ競演依頼なども殺到しているであろうことは容易に想像できる。今年に入ってからも現代エレクトリックギター界稀代の名手、ガスリー・ゴー ヴァンと競演し、更にこの12月、まさについ先日だがプロフェッサー、スティーヴ・ヴァイがインド公演の際に彼女をゲストとしてステージに上げ、競演を果たしたとのこと。もともと2016年のヴァイのアルバム「Modern Primitive」にてヴァイの方からのラブコールが実り客演参加を果たしているので、ステージでのコラボレーションは双方にとって待望の競演となったようだ。

天才は一日にして成らず、を知っているからこそ、天才は天才を知る

この競演に際してヴァイ先生は「彼女こそフェノメナン(天才、逸材の意)だ」と最上級のコメントを残している。先生が言うのであればまったくその通り、異議無しといったところだが、それはもちろん率直な賛辞でもあるだろうし、それに加えて彼女がこれまでに圧倒的な努力をしてきたであろうことも、同じ天才として感じ取ったからこその言葉なのであろう。
そうなのだ、一般的に女性は男性に比べて筋力も弱く、身体も手も小さい。特にモヒーニは女性の中でも小柄だし、手に至っては動画で見ただけでも分かるが相当に小さい。普通であればかなりのハンデとなるはずなのであるが、彼女はきっと様々な工夫と努力であの演奏力をモノにしたわけだ。
男性諸君よ! 握力がないからベース向いてないとか、手が小さいからこんなフレーズ弾けないよ、なんて言い訳を並べている場合ではないのだ。
えっ、そんな言い訳したことない? それはそうでしょう、だってこれは自堕落な筆者の言い訳ですから…。