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ミュージック

モッシュ/ダイブの歴史を探る【後篇】

ラウドロックシーンで見かけるモッシュ、クラウドサーフ、ウォール・オブ・デスといった観客のアクションを、それらが生まれた歴史を振り返りながら紐解いていく。(後篇)
Written by 西廣智一
読み終わるまで:6分Published on
早くも8月中旬、夏フェスシーズン真っただ中の昨今、各会場でモッシュやクラウドサーフなどを眼にする機会も増えたことだろう。先日 「モッシュ/ダイブの歴史を探る【前篇】」というコラムを執筆した際、モッシュやダイブ、クラウドサーフの説明およびその起源について説明したが、今回は一般的なモッシュ、ダイブ、クラウドサーフから一歩進んで、そのバリエーションの中から代表的なものについて語っていきたい。
特にパンク、ハードコア、ラウドロックバンドのライブや野外フェス会場で、下記2つの行為を目にすることは多くないだろうか。
<サークルモッシュ>
Live on the road-Mosh Dive 2-01

Live on the road-Mosh Dive 2-01

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ライブ会場で観客が円を描くようにグルグルと走り回る、ストームなどとも呼ばれる行為。その回転方向を指して「左回り」と呼ばれることもある。会場の規模、ライブの盛り上がりにより、フロアにいくつものサークルモッシュが発生することもある。このサークルのことを「サークルピット」と呼ぶ。
<ウォール・オブ・デス>
Live on the road-Mosh Dive 2-02

Live on the road-Mosh Dive 2-02

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ライブ会場で観客が左右に分かれることで、間にモーセが海を割ったかのような空間が生じる。そしてバンドの演奏がクライマックスを迎える瞬間、もしくはフロントマンの合図によって左右に分かれた観客が中央に向かって衝突する行為を指す。
サークルモッシュは会場の大小問わず、今ではよく目にするアクションのひとつだ。フェスのような大会場でのライブとなると、曲の盛り上がりにあわせてステージに近いフロア前方でサークルが発生して驚いたというライブ初心者もいるのではないだろうか。自分がサークルで走るつもりがなかったのに、気がついたら輪に加わって一緒に走っていた、なんて話もたまに耳にする。しかし、ああやって一緒に走り回ったり他の観客とぶつかり合うことで「自分もライブに参加しているんだ」という一体感を味わいたいという人もいるのではないかと、個人的には感じている。
とはいえ、この行為にも危険は常につきもの。特にサークルモッシュに慣れない初心者が加わることで、走っている途中転んでしまうアクシデントが発生することもある。私自身もサークルモッシュの途中でスニーカーの靴紐がほどけ、その紐を自分で踏んだか近くにいた人に踏まれたかで転んでしまった経験がある。しかしそういうときでも近くにいる仲間たちは瞬時に手を差し伸べてくれたり、シャツを掴んで起こそうとしてくれたりして、大きな事故になるのを未然に防いでくれた。あの瞬間にこそ、一体感をより強く感じると思う人も多いのではないだろうか。
そしてウォール・オブ・デスも、最近はラウドロック系のライブで目にする機会が増えている。もともとはニューヨーク出身のハードコアバンドSICK OF IT ALLのライブが起源と言われており、2000年代に入ってからはLAMB OF GODなどのライブで多く目にするようになる。ここ日本でも特に2010年代に入ってからハードコア、ラウドロックバンドのライブで目撃したというファンも多いことだろう。最近ではCrossfaithやSiMからBABYMETALまで、さまざまな場面で遭遇する。
もちろんこのウォール・オブ・デスも一歩間違えば大事故につながる行為であることは、頭の片隅に入れておいてほしい。特に会場の規模が大きくなれば大きくなるほど、そこに参加する観客の数も増えることになり、それだけ大勢の人間がものすごい勢いで衝突すればどうなるのか、参加したことがない人でも想像に難しくはないだろう。慣れない人ほどこういった行為に憧れを抱き、軽い気持ちで参加してみようと思うのかもしれないが、モッシュやダイブ、クラウドサーフといったアクションには常に「危険」と「自己責任」が伴うものであることだけは忘れないでほしい。
さて、二度にわたるコラムで何度も「常に危険が伴う行為」だと訴えかけてきたが、それには理由がある。モッシュやダイブが黙認されているライブ、イベントは数多くあるが、現時点でそれらの行為が禁止されているライブやフェスも存在する。前回のコラムで触れた「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」では「ダイブ等の危険行為」は禁止されており、実際に行った者に対しては退場などの厳重措置が取られている。
また国内のライブでは、こういったモッシュが原因で重傷事故、さらには死亡事故も起きている。こういったトラブルが発生すれば当事者であるバンドの今後の活動に大きな影響を及ぼすだろうし、イベント自体も存続が問われることになる。前回、70〜80年代に国内のロックコンサートで起こった悲劇について触れたが、そういった事故が発生すればその後何年にもわたって規制が生じる。さらにはようやく国内に定着したフェス文化にも多大な影響を与えることになるはずだ。
最後にこれだけは触れておきたいのだが……ライブの楽しみ方は人それぞれ。同じ会場の中には日頃の鬱憤を晴らすかのように暴れたい人もいれば、憧れのアーティストをじっくり眺めたい人、バンドが奏でる最高の音楽に浸りたい人もいる。モッシュやダイブは強制的なものではないし、「ライブに来たら必ずやらなければいけない」行為ではないのだ。慣れない人が無理して参加しれば事故の原因にもなりかねないし、そうなってしまったらライブ自体に影響を及ぼすことにもなる。だからといって絶対に参加すべきではない、とも言いたくはない。そこに加わりたいという気持ちも痛いほど理解できるからだ。
モッシュやダイブはときと場合によって危険を伴う行為だということを、常に意識しておいてほしい。自分さえ楽しければいい、自分さえ暴れられたらいいというものではなく、周りの協力があってこそ成立するものなのだ。だからこそ、近くで困っている人がいたら必ず手を差し伸べて、助けてあげることは大前提。また、そういった輪に加わろうとして無理をしてもいけない。心のどこかで「あ、ちょっとヤバイかも?」とちょっとでも感じたら、身を引く勇気も必要だ。そうすることでライブ終了後に誰も怪我することなく、笑顔で「楽しかった!」と言い合えたのなら、きっとそれが「最高のライブ」になるはずだから。
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