音楽記録媒体、つまり、リスナーがアルバムや曲を聴くための音楽メディアは、トーマス・エジソンによる蓄音機が登場し、20世紀に突入したあと、飛躍的に手に入れやすくなった。音楽記録媒体が進化するたびに、リスナーはより多くの音楽を手にするようになっている。
手動で78回転のシェラック盤を聴いていた時代から随分長い時間が経った。というわけで、音楽記録媒体の歴史をここで簡単に振り返っていこう。
蓄音機
最初の音楽記録媒体は、ロウ管式蓄音機(ワックスシリンダーフォノグラフ)で、1877年にトーマス・エジソンによって実用化された。
リスナーはクランクを回して音が記録されているロウ管(のちにSP盤へ移行)を針でなぞらなければ楽曲を聴けなかった。その後、1920年代に入ると電気録音されたレコードが登場し、再生スピード78回転(1分で78回転)が一般化した。
ヴァイナル
1930年代を通じて、オープンリールや、ビニールテープをカートリッジに収納したドイツ製音楽再生装置Tefifonなどの実用化と一般家庭への普及が何回か試されたが、最終的に割れやすかったシェラック盤の後釜に収まったのは、1940年代後半に登場したヴァイナルだった。ヴァイナルの登場により音楽消費量は急上昇した。
Columbia Recordsが各面22分録音可能な33 ⅓回転の12インチヴァイナルを開発すると、アルバム黄金時代がスタートした。また、彼らのライバルRCA Recordsも対抗して45回転の7インチヴァイナルを開発した。
両タイプは世界的な人気を獲得し、のちにソノシートなど様々なバージョンが生み出されていったヴァイナルは、1980年代後半まで音楽業界を支配した。
カセットテープ
1963年に登場したカセットテープは録音された音楽の用途に変化をもたらした。
リスナーが自分だけのアルバムを作ったり、ライブをレコーディングしたり、友人や恋人のためのミックステープを作ったりするようになったのだ。
そして当然ながら、カセットテープは海賊盤の横行も許すことになり、音楽業界は「Home Taping Is Killing Music / 宅録コピーは音楽を滅ぼす」という名コピーと共に海賊盤廃止キャンペーンを打ち出した。
カセットテープは、1960年代から1970年代にかけて、車内用として一時的に人気を獲得した8トラックに勝負を挑まれたこともあったが、音楽史に今も燦然と輝く功績を残すことになった。
それは、Sony Walkmanの登場によって実現された「音楽をポータブルにした」だ。
CD
ヴァイナル王朝に挑戦状を叩きつけたのが、CDこと、コンパクトディスクだった。直径12cmのこの光ディスクは、それぞれ独自に光ディスクの開発を続けていたSonyとPhilipsが手を組んだことで誕生し、1982年に生産がスタートした。
世界初のミリオンセラーCDは、Dire Straitsが1986年にリリースしたアルバム『Brothers In Arms』で、このメディアの急成長はヴァイナルを隅へ追いやることになった。ピークだった2000年には、全世界で約24億5,500万枚のCDが売れた。
ちなみに、Sonyは1990年代後半にMiniDiscも開発したが、この頃、それよりも遥かに革新的なアイディアが実現されようとしていた…。
MP3
1982年、電気工学を学ぶドイツ人大学生がデジタル電話回線を使って音楽を転送する実験をスタートさせ、1990年代初頭に不可逆圧縮のオーディオファイルを開発。これがやがてMP3と呼ばれるようになった。
1990年代終盤に、オンライン上にデコーディングソフトが登場すると、Napsterのようなファイル共有サイトが人気を得て、再び海賊盤が出回るようになり、音楽業界は再び危機を迎えた。
2001年に発売されたAppleのiPodがMP3とデジタルダウンロードを正式な音楽メディアに押し上げると、2011年にはデジタルダウンロードはフィジカルセールス(物理的媒体のセールス)を上回った。現在は無損失(可逆)フォーマットも存在する。
ストリーミング
便利で革新的に思えたデジタルダウンロードでさえ長くは続かなかった。
PandoraやLast.fmのようなインターネットラジオがストリーミングを始め、2007年にiPhoneが発売されると、そのようなサービスがアプリや他のスマートフォンに提供されるようになり、音楽の消費方法はまた劇的にその姿を変えた。
Tidal、Spotify、Apple Musicのようなストリーミングサービスによって、リスナーは保管場所の心配をすることなく、ほぼ無限に好きな音楽を聴けるようになったが、近年音楽記録媒体にはまた変化が訪れており、ヴァイナルが1991年以来最高の販売数を記録している。
次はCDが復活するのだろうか???